その日の夜。ライカの部屋に数人の少女とヨシアキが居た。ヨシアキはベッドで寝ており、それを部屋の主たるライカ、フィリア、シノン、アシュリー、リリアナは、絨毯に座っている。
「まったく……本当に、誰かのために無茶するんだから……ヨシアキは……」
フィリアはそう言いながら、眠っているヨシアキの頭を撫でている。その隣にいるシノンも、同意するように頷いている。
すると、ライカが
「いい加減に、貴女方とヨシアキの関係を話してもらいましょうか?」
と少しばかり、敵愾心を滲ませながら問い掛けた。ライカからしたら、フィリアもシノンもまだ味方とは見れなかったからだ。もしかしたら、ヨシアキの命を奪うために味方のフリをしているのでは? とも考えていたほどだ。
「整合騎士様……彼女達の表情と言葉からは、嘘は感じられません……間違いなく、ヨシアキの知り合いかと思いますが……」
そんなライカに、アシュリーが進言してきた。
「アルスコット嬢……」
「彼女達の目にあるのは、大事な人に向けるそれと同じです……信じても大丈夫かと思われます」
アシュリーの進言を聞いたライカは、改めてシノンとフィリアを見た。確かに、二人の目に有るのは敵愾心などではなく、純粋な光だった。
「……分かりました……しかし、貴女方とヨシアキの関係を知りたいのは事実……話してもらっても?」
「まあ、それ位なら」
「構わないわ」
ライカの改めての問い掛けに、フィリアとシノンは頷いた。そして二人は、自分達とヨシアキの出会いを少しボカしながらも説明した。
ヨシアキに命を救われ、日常を取り戻した。だから今度は、私達がヨシアキを助ける番だ、と説明した。
それを聞いて、アシュリーはフフっと笑みを溢し
「ああ、確かにヨシアキらしいな……常に、誰かのために走り回るこいつらしい……」
そう言いながら、ヨシアキの頭を優しく撫でた。アシュリーの記憶でも、ヨシアキは誰かのために走り回っていた。キリトから請われて、メディナを一緒に探したり、修剣士学園に野菜の納入に来た農家を手伝ったり、鳥に大事な宝石が取られた生徒の為に木に登ったりしていた。
「……それで、お前が傷付いて……こんな姿になって……悲しまない訳が無いだろう……バカ者……」
アシュリーは眠っているヨシアキの頬に手を添えると、泣きそうな表情をしながら小さくそう口にした。
その言葉に、フィリアとシノンは同意した。
今回は、相棒と言えたリヒトの願いの為に、剣を執って戦った。
命を懸けて、剣を振り続けた。その結果、その相棒は死んでしまい、片腕も失った。
肉体だけでなく、魂も傷付きながら戦った。その結果が、自我の喪失。
「頑張り過ぎだよ、ヨシアキ……」
「本来よね……」
フィリアの呟きに、シノンは同意した。普段から誰かのために全力で挑む彼だが、今回はリヒトのために全身全霊で挑んだ。
その理由は、シノンとフィリアにも分かった。
人工フラクトライト、つまりは仮初めの魂。人工AI。
だからどうした、まだ短い時間だが接してみて分かった。この世界の人々は、紛れもなく人間だ。
自分達の意思で考えて、実行する。だからこそ、ヨシアキ、そしてキリトは全力で戦った。
この世界のために。
(だったら)
(私達も)
((この世界のために戦う!))
フィリアとシノンは、目を合わせて頷いた。
不思議と、二人の意思は同じだった。
それはやはり、好きになった少年が命懸けで頑張った影響かもしれない。だが、間違いなく自分の意思だった。
そして、フィリアとシノンはアシュリーに顔を向けて
「それで、貴女とヨシアキの関係は?」
「話してもらえるかしら?」
と問い掛けた。
「そうですね。一方的に話してもらっては、不公平……話しますが、長いと思いますよ? 一年は一緒に居ましたから」
「構いませんよ」
「夜は、まだまだだしね」
アシュリーの言葉を聞いて、フィリアとシノンは頷いて
「……だったら、私も話さない訳にはいかないですね……付き合いは、非常に短いですが」
とライカもため息交じりに言った。その言葉に、フィリアとシノンは頷いた。
そこに、リリアナは小さく
「……私の先輩ですもん……」
と呟き、抗議した。
そうして、少女達の夜は更けていく。