100階に到着したキリトとヨシアキは、いよいよアドミニストレータと対面した。その二人の背後には、アリスとライカの姿もある。
するとヨシアキは、何故か右手に持っていた長い杖。ハァシリアンの杖を放り投げて
「あのハァシリアンって人、大したことなかったよ。まあ、修剣学院の友人を操ってきたのは驚いたけど」
操られた友人というのは、二等爵家の令嬢。メディナ・オルティナノスという少女だった。短く切り揃えられた赤い髪が特徴の少女で、ヨシアキとリヒトは修剣学院に入ってから知り合ったが、キリトとユージオの二人はその前から知り合いだったらしい。
ハァシリアンはそのメディナを戦わせ、自身は後ろでメディナ諸とも神聖術で攻撃しようとした。しかしヨシアキは、即座にメディナを無力化。突破すると、ホリゾンタルを放った。
それはハァシリアン曰く、心意の盾とやらで防がれた。確かに最初は驚いたヨシアキだったが、即座に意識を切り替えて、ハァシリアンに次々と攻撃を仕掛けた。
確かに心意の盾は非常に堅く、簡単には割れなかった。だがヨシアキは、諦めずに攻撃を繰り出し、そして、心意の盾を砕いた。
まさか割られるとは思わず、ハァシリアンは目を見開いて固まった。その隙を突いて、ヨシアキはハァシリアンの胸部に片手剣上位ソードスキル、ヴォーパルストライクを繰り出し、倒したのだ。
そしてチュデルキンは、ハァシリアンが倒された拍子に動揺したのか、キリトの剣の一撃を受けた。
二人はそれでチュデルキンを倒したと思ったが、突如として二人の視界を煙が覆った。
そして二人が見たのは、煙を突破して出てきた細いチュデルキンだった。太っていると思っていたチュデルキンだったが、実は特殊な煙を充満させた服を着て、そう見せていただけだったのだ。
ヨシアキとキリトの二人は、反射的に逃げ始めたチュデルキンを追い掛け、その後を僅かに遅れてアリスとライカも追い掛け、この100階に来るための昇降板を見つけたのだ。
「さあ、アドミニストレータ……あんたの統治はここまでだ」
「あんたが行ってきたことの罪……ここで償わせてやる」
ヨシアキとキリトはそう言って、剣をアドミニストレータに突き付けた。だが、そんな二人の横をアリスとライカが通り過ぎて
「最高司祭様……お聞かせ願いたい……」
「我等に施したシンセサイズの秘儀……それによって埋め込まれた、敬神モジュール……それらの意図を!」
とアドミニストレータに問い掛けた。するとアドミニストレータは、ニヤリと厭らしい笑みを浮かべて
「それが、私の愛だからよ」
と宣った。
「は……?」
「愛……?」
「そう……愛は欲望。そして、私の欲望は支配すること……この世界の支配……それこそが、我が愛……」
つまりは、支配するために敬神モジュールを埋め込んだということ。それが理解出来ず、アリスとライカは固まった。
「分からない? 愛というのは、縛り付けること……相手を自分のものにする……それを、支配と呼ばずになんと呼ぶ?」
「アドミニストレータ様……!」
「貴女は……!!」
アドミニストレータの言葉に、アリスとライカは激昂して一歩前に出た。だがそれを、キリトとヨシアキが制止して
「それ以上喋るな、アドミニストレータ……」
「アンタは、人間のことを何も分かってない……アンタがやってるのは、ただ自分の欲を満たしてるだけだ!」
と告げて、剣を再度突き付けた。そこに、チュデルキンが割り込み
「最高司祭倪下! この不届き者共は、小生にお任せくださいませ!」
と頭を下げた。
「やれるのかしら? チュデルキン?」
「元はと言えば、人形共に任せた小生の不始末! なれば、小生が後始末をします!」
アドミニストレータの問い掛けに、チュデルキンは土下座しながら告げる。それを聞いたアドミニストレータは、少し間を置いてから
「いいでしょう……もしこいつらを始末出来たら、口付けしてあげましょう」
「ほっほー!! その御言葉を頂き、小生は万倍の力を発揮出来そうですぞー!! 後はお任せくださいませ!」
チュデルキンはそう言って、跳ねるように振り返った。そして、頭で逆立ちし
「ジェネレート・サーマルエレメント!!」
なんと、両手両足の指先に熱素を生成した。
「来るぞ!!」
キリトのその短い言葉を合図に、チュデルキンとの戦いが始まった。