第100階に、その女は居た。
公理教会最高司祭、アドミニストレーター。見た目は二十代の女性だが、実際は二百年以上生きる化け物の類だ。
普段は寝ているが、ユージオとリヒトが入った時は珍しく起きていた。
二人は揃って片膝を突き
『最高司祭様……ただ今帰参しました』
と事務的に報告した。その声音に、感情は感じられない。しかし、アドミニストレーターは気にした様子もなく
「お帰りなさい、二人共……言い渡した命令は、一応は果たしたようね」
アドミニストレーターが二人に下した命令というのは、ヨシアキとキリトの迎撃だ。倒してはいないが、記憶解放術で二人の行動を制限した。動けなければ、いくら剣の腕が良くとも意味が無い。
「それに、新型の
『は……リリース・コアプロテクション』
二人が揃ってその式句を唱えると、二人の額から三角柱状の結晶。敬神モジュールが出てきた。しかも、その敬神モジュールは今居る整合騎士達に挿入されている敬神モジュールより、その効果を強めた新型だった。
そして二人が唱えた式句は、自身の
アドミニストレーターは巧みな話術と精神に働き掛ける神聖術で、二人にその式句を唱えさせて整合騎士に仕立てあげたのだ。
アリスとライカが整合騎士になるのに時間が掛かったのは、その精神系神聖術に抗ったからだ。
それは、幼いながらに悟ったのかもしれない。受け入れてしまったら、自分が変わってしまうと。しかし、数日間に渡って行われた結果、アリスとライカは疲弊から受け入れてしまい、整合騎士にされた。大事な記憶を奪われて。
そして、アドミニストレーターが順番に二人から敬神モジュールを抜き取った。その直後、二人の腕が動いた。
二人は素早く剣と槍を掴み、アドミニストレーターに対して振るった。不意打ち気味の一撃だったが、その一撃はアドミニストレーターが張った障壁により防がれて、アドミニストレーターは素早く後退した。
そして、二人を見て
「なんのつもりかしら?」
アドミニストレーターが首を傾げると、二人は立ち上がり
「思い出したんだ……僕達が、このセントラル・カセドラルに来た理由を……」
「だから、アドミニストレーター……お前を、ここで倒す……!」
二人はそう告げ、一気に駆け出した。そこから即興的にだが、二人の連携が始まった。
先に仕掛けたのは、リヒトだった。槍のリーチと槍使いの要たる脚の早さを活かして次々と攻撃を繰り出した。
そして、一部の例外を除いてアインクラッド流槍技の中に、単発技は無い。
「はあぁぁぁぁぁ!!」
リヒトは気合いの声を上げながら、スキルコネクトを多用し、次々と技を繰り出す。しかしアドミニストレーターは、その尽くを防ぎ、後退していく。そこに
「逃がさない!! 僕達で、終わらせる!」
ユージオが踏み込んだ。ユージオは突進系ソードスキル、ソニックリープで斬り込むが、その一撃は神聖術で防がれる。しかし、その程度は織り込み済み。ユージオはそこから、ホリゾンタル・スクエアに繋げた。逃げ場の無い広範囲ソードスキル。それに対して、アドミニストレーターは
「小賢しい!!」
と怒声を挙げ、神聖術で防ぎきり、即座に反撃に出た。発動したのは、炎の広範囲神聖術。それを見た二人は、即座に後退。回避した。
「流石は、最高司祭なだけある……!」
「神聖術の威力が、桁外れだ……直撃を受けたら、ひとたまりもない……」
ユージオとリヒトは、アドミニストレーターが発動した神聖術の威力に、冷や汗を流していた。直撃した壁が、赤熱化している。いくら鎧を纏っていようが、所詮は人間。石ですら赤熱化しているのだから、最悪は骨すら残らない。
そう二人は察し、改めて剣と槍を構えた。その時
「さ、さささ、最高司祭倪下ぁぁ!!」
とチュデルキンが現れた。そしてチュデルキンは、ユージオとリヒトの二人を見て
「き、貴様ら! なにを最高司祭倪下に、武器を向けているのですか! 人形の分際で!!」
と怒声を張り上げた。しかし、アドミニストレーターはチュデルキンに視線を向けて
「チュデルキン、何があったのかしら? ハァシリアンは?」
と問い掛けた。それを聞いたチュデルキンは、まるで思い出したかのように
「そ、そうでした! アドミニストレーター様! あの反逆者共が、登ってきます! ハァシリアンは、奴等に殺されました! お早く、昇降機の封印を!」
と床の一ヶ所を指差した。その直後、チュデルキンが指差した床が光輝き、二人が現れた。
ヨシアキとキリトの二人が。
「初めましてかな、アドミニストレーターさん」
「あんたの好き勝手も、ここまでだ」
ヨシアキとキリトはそう言うと、剣を突き付けた。