ソードアート・オンライン 黄昏の剣士   作:京勇樹

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壁でのやりとり

「あ、危なかったぁ……!」

 

庭園から落下したヨシアキは、何とかライカの片手を掴み、剣をカセドラルの壁に突き立てて、落下を止めることに成功した。とはいえ、現状を考えるとかなり前途多難だ。

 

「……なぜ、助けたのですか……お前と私は、敵同士だった筈です」

 

「頼むから、暴れないでね……人を助けるのに、理由が必要かな?」

 

ライカの問い掛けに、ヨシアキはそう答えた。本当に、そう思っているのだ。

 

「だったらさ、提案なんだけど……この窮地を脱するまででいいから、停戦しない? この状況じゃあ、戦うも何も無いでしょ?」

 

「……わかりました、乗りましょう」

 

「だったら、この後持ち上げるから、そっぢも壁に剣を突き立てて、自重を支えて……ちょっと、キツくなってきたから……」

 

「わかりました……」

 

ライカが頷いたのを見たヨシアキは、歯を食い縛りながらライカを持ち上げ、ある高さに来たのを確認したライカは、剣を壁に突き立てた。それを確認したヨシアキは、両手で剣を掴み、自身の体を持ち上げて、柄に足を掛ける体勢になった。少しでも、腕の負担を減らすためにだ。

 

「さて、どれくらい落ちたか分からないけど……さっきの空中庭園に戻らないといけないな……」

 

「それは無理です。このカセドラルの外壁には、自己修復術式が付与されていて、壊れても直ぐに直るようになっています」

 

「ってことは……どこまで昇るんだ?」

 

「95階層に、飛竜達の発着場がありますから、そこになります」

 

「更に昇る必要があるのかぁ……」

 

ライカの説明を聞いたヨシアキは、途方に暮れながらもカセドラルを見上げた。そしてライカとヨシアキは、協力しながら95階層を目指した。

そして途中まで昇った時、日が陰ってきたのでちょうど出っ張ってる所だったのもあって、休憩を取ることにした。

 

「だぁ……腕が……」

 

「流石に、これは少々堪えました……」

 

ヨシアキとライカは、汗だくになりながらも壁に背中を預けた。余談だが、ライカの纏っていた鎧の籠手や脚甲が無くなっている。実は、ライカがそれらを術で楔に形成し、それを壁に打ち込んで足場にして現在地まで昇ってきたのだ。

そして休憩しながら周囲を見たヨシアキは

 

「ねえ、あの石像はなに? 趣味悪いね」

 

と言って、ある方向を指差した。

 

「石像?」

 

ヨシアキの言葉を聞いたライカは、ヨシアキが指差した方向を見て、目を見開いた。その先に居たのは、巨大なナメクジに手足と悪魔を彷彿させる翼が付いた存在で、本来はこの場に居る筈が無い存在だったからだ。

 

「み、ミニオン!? なぜカセドラルに!?」

 

「ミニオン?」

 

ヨシアキが首を傾げた直後、そのミニオンが大口を開けながら飛び掛かってきた。その直後、ヨシアキは両袖の中から数本の投剣を取り出すと、指の間に挟んで一斉に投げた。目にも止まらぬ速度で投げられた投剣は、まるで飛燕のような速度でミニオンに次々と直撃。しかも数本はミニオンの翼の付け根に直撃し、翼を絶っていた。

それにより、ミニオンは今居る場所の、少し離れた場所に落下。その隙を見逃さずに、ライカが一撃を叩き込んで撃破した。

 

「あれ……土になった……」

 

「はい……ミニオンというのは、暗黒術師達が粘土を使って編み出した使い魔のようなものです……本当ならば、このカセドラルに居る訳が無いのですが……」

 

風化して風で飛んでいく土を見ながら、ライカは何やら考え始めた。

 

「ふむ……鋼素で作った投剣は、使えるね……けどやっぱり、短時間で消えるのが難点か」

 

そしてヨシアキは、消えていく投剣を見ながらそう呟いていた。実はその投剣は、壁を昇るために楔を作ろうとしていた時、ヨシアキが代替にと作ったが、壁に刺さらなかったので、仕舞っていた代物だった。

 

「……お前、多芸ですね。剣だけでなく、投擲術まで……」

 

「昔取った杵柄ってね……さて、もう日が沈むな……」

 

そう言いながらヨシアキは、武器庫で見つけた自身の雑嚢の中から、色々と取り出していく。

 

「……何を入れてるんですか」

 

「いやぁ、キリトって結構忘れ物とかあるからね? 僕かユージオがフォローしててね? 気付いたら、こんなことになってた」

 

ヨシアキはそう言いながら、光素で灯りを形成。そして、雑嚢の中から取り出した布で汗を拭き始めた。そして、一枚をライカに差し出し、次に

 

「用意してて良かった、パンと」

 

と堅焼きだが、パンを二つ取り出した。

 

「……もう何も言いません」

 

「ん、そう?」

 

ヨシアキは然り気無く、ライカにも堅焼きパンを差し出した。そして二人は、徐々に昇り始めている月を見ながら、パンを食べていた。

すると、ライカが

 

「……聞きたいことがあります」

 

「ん? まあ、僕に言えることなら……」

 

ライカの問い掛けに、ヨシアキは視線を向けた。するとライカは、その紅い目をヨシアキに向けて、真剣な表情で

 

「あのリヒトという者にとって、私は……ライカという存在は、なんなのですか?」

 

と問い掛けた。


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