時は少し遡り、ヨシアキとキリトの二人が学園で過ごしていた時、現実世界でも異変が起きていた。
「なに? ながとが離れた?」
「はっ。交替の予定までまだ間があるのですが、突如離れました。こちらからの呼び掛けにも、応答無しです」
部下からの報告に、菊岡は腕組みした。
プロジェクト・アリシゼーションの本拠地たるオーシャンタートルは自走機能こそ有しているが、自衛機能は皆無なので、海上自衛隊の護衛艦がその防衛に就いていて、常に一定の距離を保っていて、いざという時は海兵隊が駆け付ける算段になっていた。
しかし、今護衛に就いている護衛艦のながとが、勝手に離れたという。
「……嫌な予感がする。最下層潜水艦収容ドッグのハッチを含めて、最外縁の全隔壁を閉鎖。更に、非戦闘員を中央区画に避難。全戦闘要員に兵装を持たせるんだ」
「しかし、その許可は防衛省が……」
「今からでは、間に合わない可能性が高すぎる。全ての責任は、僕が取る! 急げ!」
と菊岡が命令し、部下は復唱すると中央管制室から走り去った。その部下と入れ替わる形で、重村教授、凛子、明日奈、琴音、詩乃がやってきて
「菊岡くん、一体何が起きているんだね?」
と重村が菊岡に問い掛けた。
すると菊岡が
「……どうにも、キナ臭い事態になってきました。重村教授達は、今から指定する場所まで移動を……」
とそこまで言った時、爆発音が聞こえて、管制室内に警報音が鳴り響いた。
「何事だ!?」
『潜水艦用ドッグから、侵入者です! 目視で8名! 銃器で武装しています!』
菊岡がマイクに怒鳴るように問い掛けると、先程とは違う部下の声がスピーカーから聞こえてきた。
「比嘉くん!」
「今……映します!」
菊岡の意図を察して、比嘉は正面のメインモニターに対象区画の映像を映させた。そこには、揃いの装備を纏った者達が様々な武器で激しく銃撃していた。
その侵入者達に対して、自衛隊員達も果敢に反撃しているが、火力が違い過ぎた。
自衛隊員達は拳銃で、侵入者達はマシンガンや小銃を撃ってきている。
「非常事態を発令する! 非戦闘員は速やかに中央シェルター区画に避難!
菊岡はそう指示を下すと、中央管制室に居たスタッフ達に
「君たちは、この中央管制官の全権限を副管制室に委譲後に避難しなさい。急ぎなさい!」
と指示を下した。
その指示を受けて、スタッフ達は速やかに動き始めた。それを見つつ、菊岡は
「君たちは一足先に、アッパーシャフトの副管制室に避難しなさい。僕達は、時間を稼ぐ」
と言って、部下の一人が持ってきたマシンガンを手に持った。どうやら、直接指揮を執るつもりのようだ。そこに
「不味いっす、菊さん! 奴らの動きが速い! 既に最下層から第三層まで侵入を許してるっす!」
と比嘉が、サブモニターのひとつに、侵入者の動きを表示させた。それを見た菊岡は
「仕方ない……最下層に居る戦闘要員は、大至急第五層まで後退! その後、第五層より下の全隔壁を完全閉鎖し充填封鎖! 少しでも時間を稼ぐ!」
と新たな指示を下した。
その指示を復唱し、部下達は中央管制室から去っていった。そして菊岡は二人の部下に
「君たちは、彼女達の護衛を! 安全にアッパーシャフトの副管制室まで連れていきなさい!」
「はっ! 神代博士、皆様、こちらに」
菊岡の指示に従い、四人の避難誘導を始めた。
明日奈達は、避難を始めながら中央管制室の窓から見える和人と明久を見た。その傍には、走り回る看護師の姿が見える。その直後、和人と明久の二人が居た場所が上に動き始めた。どうやらエレベーターになっているらしく、それで直接避難するようだ。
オーシャンタートルは、所属不明の敵に襲撃された。