ソードアート・オンライン 黄昏の剣士   作:京勇樹

14 / 201
久しぶりの更新です

仕事が忙しくって、書く暇がないんです

ですが、読んでくれる人たちが居る限り、書き続けます!!


デュエル! そして………

翌日

 

場所 75層主街区

 

「「な、なんじゃこりゃー!」」

 

多くの人々の喧騒の中

 

ヨシアキとキリトの叫び声が響き渡った

 

まず、なぜ75層が賑やかなのか

 

それは、新しく攻略された時の恒例行事である

 

ここ、アインクラッドでは娯楽が非常に少ない

 

だったら、層が攻略される度にお祭り騒ぎになるのは必然だろう

 

ヨシアキとキリトとしては、それは構わなかった

 

むしろ、二人も息抜きしようと考えた程だ

 

だが、問題は別にあった

 

それは…………

 

「さあさあ、もうすぐ始まるよ! <黒の剣士>キリト&<黄昏の剣士>ヨシアキ対<神聖剣>ヒースクリフのデュエル! 見なきゃ損だ!」

 

自分達のデュエルが、見世物になっていたからだ

 

「おい! あそこでチケット売ってるのKOBの団員だろ!」

 

と、キリトが指差した先では

 

確かに、KOBの団員がチケットを売っていた

 

「あ、アハハハハ………多分、ダイゼンさんの仕業だね……」

 

さすがに、アスナも苦笑いしか出来ないようだ

 

ダイゼンというのは、KOBの経理担当の男性プレイヤーで、ヨシアキは会った時

 

<これほどKOBの団服が似合わない人も居ない>

 

と思った

 

すると

 

「いやー、ヨシアキはんにキリトはん。あんがとうな」

 

と、関西弁を話す太った男性が走ってきた

 

その男を見たキリトは

 

(団服がこれほど似合わない奴は、初めて見た)

 

と、ヨシアキと同じことを思った

 

「いやー、これでKOBの財布は暖まりましたわ。どうでしょ? 定期的にやりません?」

 

という、ダイゼンの言葉に

 

「「やらない!」」

 

二人は同時に拒否した

 

そして、内心

 

((誰が、客寄せパンダになるか!))

 

と思っていた

 

「それは残念。おっと、それよりお二人さん。こちらですわ、試合会場にご案内します」

 

と歩きだしたダイゼンの後を、ヨシアキとキリト。そして、アスナは着いて行った

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

そして、着いたのは主街区内のコロシアムだった

 

キリトとヨシアキの二人は小さな控え室に通されて、椅子に座っていた

 

すると、アスナがキリトの手をギュっと握って

 

「……たとえワンヒット勝負でも、強攻撃をクリティカルヒットでもらうと危ないんだからね。特に、団長の剣技は未知数なところがあるし。危険だと思ったら、すぐにリザインするのよ。こないだみたいな真似したら、絶対許さないからね!」

 

そう言ってるアスナの表情は懇願してるようで、以前のボスモンスター<グリーム・アイズ>と戦った時のことを思い出してるのだろうことは、容易にわかった

 

「俺よりも、ヒースクリフの心配をしろよ」

 

キリトは不敵に笑いながら、アスナの両肩をポンと叩いた

 

すると、遠雷に似た歓声が控え室に響いて聞こえ、試合開始のファンファーレも聞こえた

 

どうやら、試合開始時間らしい

 

キリトは立ち上がると、ドアに向かった

 

「んじゃ、先に戦ってくるぜ。ヨシアキ」

 

「うん、がんばってね。キリト」

 

ここに来た時に話し合って、第一試合がキリト。そして、20分置いてヨシアキと決められた

 

そしてキリトは、背中に交差して吊っていた二本の剣を少し抜いて、チンと音を立てて鞘に収めた

 

円形の闘技場を囲む観客席はぎっしりと埋まっていて、まさしく、満員御礼状態だった

 

最前列にはエギルやクラインの姿もあり、「殺せー!」や「斬れー!」などと、物騒な歓声を上げている

 

キリトは闘技場の中央付近で立ち止まった

 

すると、その直後に反対側の入り口からヒースクリフが現れて、歓声が一際大きくなった

 

ヒースクリフは通常の血盟騎士団制服が白地に赤の模様に対して、赤字に白という逆の配色のサーコートを羽織っていた

 

鎧の類はキリトと同じく最低限だが、左手に持っている巨大な純白の十字楯が眼を引いた

 

どうやら、剣は楯の裏側に装備されているらしく、楯の頂点から十字を象った柄が見えた

 

キリトの目の前まで歩いてきたヒースクリフは、周囲の大観衆に目を向けると

 

「すまなかったな、キリト君。こんなことになっているとは知らなかった」

 

「あんた主導じゃないんだな。けど、ギャラは貰いますよ」

 

「……いや、君は試合後から我がギルドの団員だ。任務扱いにさせてもらおう」

 

そうヒースクリフが宣言した直後、顔から笑みが消えて、裂帛の気合が発せられた

 

その気迫にキリトは圧されて、思わず半歩後退してしまった

 

現実だとキリトとヒースクリフはかなりの距離が離れており、データのやり取りしかないはずなのに、殺気としか表現できなかった

 

ヒースクリフは視線を外すと、右手を振って、ウィンドウを操作した

 

すると、キリトの前に

 

<ヒースクリフからデュエルを申し込まれました>

 

と表示されていた

 

キリトは数あるモードの中から

 

<初撃決着モード>

 

を選択した

 

カウントダウンが始まった

 

そこから二人は無言になっていた

 

そして、カウントが0に近づくほど、キリトの感覚は研ぎ澄まされていた

 

途中から、カウントが遅く感じていたほどだった

 

そして、0になった瞬間

 

二人はお互いに向けて、突撃していた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

結果を陳べると、キリトの負けだった

 

「あれだけ啖呵切ったのに、負けてやんの」

 

「うっせぇ!」

 

ヨシアキのからかうような言葉に、キリトが反発すると

 

「だけど、最後の瞬間のヒースクリフの速さは……」

 

「ヨシアキも気付いたか」

 

キリトとヒースクリフのデュエル

 

その最後の瞬間だった

 

ヨシアキは闘技場の選手入り口から見守っていたのだが、キリトが発動した剣技<スターバースト・ストリーム>

 

その最後の一撃が直撃しそうになった瞬間、横に弾かれていた楯がブレて、キリトの最後の攻撃を受け止めたのだ

 

その速度はシステムアシストを超えていたように思えたのだ

 

その速度の速さに、体を構成しているポリゴンすら一瞬ブレた

 

そして、大技を防がれて技後硬直していた隙に一撃食らって負けたのだ

 

「あの速度はなんなんだろう………」

 

「さあな……って、そろそろじゃね?」

 

と、キリトが言った瞬間、再びファンファーレが聞こえた

 

「あ、次は僕だね」

 

と、ヨシアキは立ち上がると、入り口に向かった

 

闘技場に入ると、中央には既にヒースクリフが立っていた

 

観客席の方向に視線を向けると、そこには黄昏の風のメンバーが居て

 

「勝てー!」や「気合じゃー!」等々、先ほどのクラインやエギルに比べると普通の応援をしていた

 

ヨシアキはそれを笑いながら聞いて歩いて、中央に着くと

 

「お待たせしました」

 

「いやいや、大丈夫だよ。ヨシアキ君」

 

ヒースクリフがうなずいたのを確認すると

 

「ちょっと提案なんですが」

 

「なにかね?」

 

「僕は一ギルドを率いる身なので、そちらのギルドに所属する。というのは無理なんです」

 

「……ふむ、確かに」

 

ヨシアキの言葉に、ヒースクリフは顎に手を当てて、唸った

 

「それでなんですが……僕が負けたら、そちらのギルドと協力姿勢を取り、尚且つ、そちらからの依頼や要請を最優先で請け負う。というのはどうでしょうか? それならば、こちらとしても可能です」

 

ヨシアキの提案を聞いたヒースクリフは、しばらく黙考すると

 

「………ふむ、いいだろう。こちらとしても異論はない」

 

と、頷きながら、ウィンドウを操作した

 

すると、キリトの時と同じように

 

<ヒースクリフからデュエルを申し込まれました>

 

というウィンドウが表示された

 

ヨシアキは数あるモードの中から<初撃決着モード>を選択した

 

すると、ウィンドウが消えて、代わりにカウントダウンが始まった

 

ヒースクリフは剣を抜いて構えた

 

それに合わせて、ヨシアキも武器を構えた

 

ヨシアキの腰両側面には、片手用直剣が一本ずつ

 

背中には槍が一本

 

両足の太股には、投剣がベルトで10本ずつ

 

それぞれ装備されている

 

これは普段の二倍以上の装備で、剣聖としてのフル装備だ

 

そして、カウントダウンが進むたびに、ヨシアキの神経は研ぎ澄まされていき

 

0になった

 

その瞬間

 

ヨシアキは地面を踏み抜かんばかりに、ダッシュした

 

その勢いに、土煙が上がったほどだ

 

ヨシアキはSTR優先のAGI型だ

 

故に、このくらいの装備でも速度が落ちることはない

 

そして、左手の愛剣<レイアース>と投げ剣でのソードスキル

 

剣聖流重突撃スキル<パンツァー・シュピーゲル>が炸裂した

 

まずは、右手で投げ剣を指に挟むようにして、3本投擲

 

その直後に、体を回転させながら剣を袈裟切りに振り下ろした

 

しかし、ヒースクリフはこれを楯で難なく防いだ

 

(防ぐのは予想通り! これは挨拶がわりだ!)

 

ヨシアキはそう思いながら、大きくジャンプ

 

そして、右手で背中の槍を持つと、大きく振りかぶった

 

「グン・グニール!」

 

槍は黄色いエフェクトフラッシュを伴いながら、高速でヒースクリフに迫った

 

 

「ふん!」

 

ヒースクリフはそれを剣で叩き落とした

 

ヨシアキは驚いた

 

槍の軌道は確かに直線的とはいえ、かなり速い

 

それなのにヒースクリフは、楯ではなく剣で弾いた

 

(一歩間違えれば、直撃なのに! まるで、軌道を知ってるみたいだ!)

 

ヨシアキがそう思いながら着地した

 

それと同時に、ヒースクリフが突撃してきた

 

ヒースクリフは突撃と同時に、剣で切り掛かってきた

 

ヨシアキはそれを剣で防いだ

 

その瞬間、ヒースクリフが楯を突き出してきた

 

が、ヨシアキはそれをしゃがんで避けて、足払いを出した

 

ヒースクリフは足払いを避けようとしたが、楯を突き出した体勢故に、避けきれずバランスを崩した

 

ヨシアキはそれを見逃さず、足払いした勢いのまま、左手の剣を振り上げた

 

が、ヒースクリフはそれを剣で防いだ

 

その衝撃を利用して、ヒースクリフは後ろに跳んだ

 

それにより、ヒースクリフとヨシアキの間に5m近い距離が生まれた

 

その瞬間

 

「「「「「オオオォォォォォォォ!!」」」」」

 

大歓声が巻き起こった

 

二人の息も吐かぬ攻防戦に興奮したのだろう

 

「ふむ、なかなかやるね。ヨシアキ君」

 

「いえ、まだまだですよ」

 

ヨシアキが言い終わると同時に、二人は突撃した

 

そこから、二人の戦いは加速していった

 

ヒースクリフの剣を右手の剣で防いで、左手で<ヴォーパルストライク>を放った

 

それは楯で防がれたが、ようやく、HPが僅かに減った

 

(まだだ! ここからだ!)

 

そこから、ヨシアキの猛攻が始まった

 

「ツイスター・ロンド!」

 

それは、まるで嵐のようだった

 

右手の剣が突き出されたと思ったら、左手の槍でなぎ払われて

 

その次には、右手の剣が振り下ろされて、左手の剣が胴を凪いだ

 

「むぐっ………!」

 

さすがのヒースクリフも防戦一方で、楯で防ぐのがやっとだった

 

そして、ヨシアキの猛攻で、ヒースクリフのHPが徐々に減っていく

 

が、ヒースクリフもヤラれてばかりではなかった

 

「ぬあっ!」

 

ヒースクリフはヨシアキの最後の攻撃が当たった瞬間、大きく楯を前に出して弾いた

 

「おっと!?」

 

ヨシアキはそれで大きくバランスを崩して、後退した

 

そして、ヒースクリフほどの男がその隙を見逃すはずもなかった

 

ヒースクリフの剣がヨシアキの胸部を大きく切って、ヨシアキのHPが大きく削れた

 

そこから、ヒースクリフの連撃が決まって、お互いのHPが同じ域に入った

 

それは、後一撃で終わる

 

それがわかっているからか、二人は静かに武器を構えていた

 

そして、数瞬後

 

「「っ!」」

 

二人は同時に駆け出して

 

お互いの体が交差した

 

その結果

 

頭上に

 

<デュエル終了 勝者 ヒースクリフ>

 

と、紫色の文字が表示された

 

その瞬間、大歓声が巻き起こった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

数日後

 

「な、なんじゃこりゃーーー!?」

 

ギルド<黄昏の風>の2階

 

その一室から、キリトの悲鳴が響き渡った

 

「なにって、見たとおりよ。さ、早く立って!」

 

そうアスナに急かされて、キリトは渋々といった様子で立ち上がった

 

「…じ、地味な奴って頼まなかったっけ?」

 

そうキリトが指差したのは、普段の黒い装備ではなく、白地に赤い十字架の模様が目立つ血盟騎士団の制服だった

 

「これでも、地味な奴だって。うん! 似合う似合う!」

 

「てか、なんでヨシアキの服装が変わってないんだよ!」

 

キリトが指差した先には、普段のオレンジ色の装備のヨシアキが居た

 

「僕は交渉したからね。でも、協力関係の証に、コレを付けてるよ」

 

と、ヨシアキは左襟の辺りを指差した

 

そこには、血盟騎士団のマークのバッチが付けられていた

 

どうやら、それが協力関係の証らしい

 

「それじゃあ、改めまして……これからはギルド仲間として、よろしくね。キリト君」

 

アスナが突然、頭を下げたのでキリトは慌てて背筋を伸ばし

 

「よ、よろしく……と言っても、俺はヒラでアスナは副団長様だからな」

 

キリトはそう言いながら歩くと、アスナの背後に回り

 

「こんなことも、出来なくなるわけだ」

 

と、右手の人差し指でアスナの背筋をつーっと撫でた

 

「ひゃあっ!」

 

アスナは飛び上がりながら悲鳴をあげて、すぐさまキリトの頭を叩いて頬を膨らませながら椅子に座った

 

晩秋の昼下がり、太陽に照らされた部屋の中、しばらくの間、静寂が訪れた

 

ヒースクリフとのデュエルが終わってから、二日が経っていた

 

「ギルド…か……」

 

キリトの呟きが聞こえたようで、アスナとヨシアキの視線がキリトに集中した

 

「……なんだか、すっかり巻き込んじゃったね……」

 

「いや、いい機会だったよ。ソロ攻略にも限界が来てたし……」

 

「そう言ってもらえると助かるけど……ねえ、キリト君」

 

アスナのしばみ色の瞳がキリトに向けられた

 

「教えてほしいな。なんでギルドを……人を避けるのか……ベータ版テスターだから、ユニークスキル使いだからってだけじゃないよね。キリト君、優しいもん」

 

アスナの言葉にキリトは視線を伏せて、唇を噛んだ

 

すると、ヨシアキが立ち上がって

 

「キリト……もう、いいんじゃないかな?」

 

と、優しそうな口調で告げた

 

「ヨシアキ……」

 

ヨシアキに向けられたキリトの眼は、様々な感情に揺れていた

 

「そろそろ話したら? アスナちゃんなら、大丈夫だよ」

 

ヨシアキの言葉を聞いたキリトは視線を上に向けると、揺り椅子に深く腰掛けて大きく深呼吸すると

 

「………もう、随分昔……一年以上前かな。一度だけ、ギルドに所属したことがある……」

 

ポツリポツリと、キリトは語りだした

 

「迷宮で偶然、助太刀した縁で誘われたんだ……俺を入れても六人しか居ない小さなギルドで、名前は《月夜の黒猫団》って言ってな。傑作だろ?」

 

キリトが冗談めかして言うと、アスナもフフっと微笑んだ

 

「リーダーがいい奴だった……何につけてもメンバーのことを第一に考える男で、信頼されてた。ケイタって名前の両手棍《スタッフ》使いだった。メンバーは両手遠距離用武器使いが多くって、フォワードを探してるって言われた……正直、メンバー全員のレベルは俺よりもかなり低かった…いや、俺が無闇に上げすぎたと言うべきか……俺が自分のレベルを正直に言えば、ケイタは遠慮して引き下がっただろうな……でも、その時の俺は、単独で迷宮区に潜り続ける毎日に疲れてたのか、《黒猫団》のアットホームな雰囲気が眩しいものに見えたんだ」

 

キリトはそこまで言うと、額を組んだ手の上に置いた

 

「彼らは全員、現実世界《リアル》でも友人同士だったらしくってな、ネットゲーム特有の距離感がない遣り取りに、俺は強く惹きつけられたんだ………俺には、人の温もりを求める資格なんか無かったんだ……ソロプレイヤーとして……利己的なレベルアップに邁進すると決めた時、その資格を失ったんだ。俺は耳の奥から聞こえてきたその声を抑え込んで……ベータテスターだったのと本当のレベルを隠して、ギルドに所属したんだ………」

 

そう言ってるキリトはまるで、懺悔しているようだった

 

「ケイタは俺に、ギルドに二人居る槍使いのうち片方の片手剣使いへの転向を指導してやってくれないかと言ってきた。そうすれば、前衛三人の後衛三人のバランスの良いパーティーになるってな……預けられたのはサチだった……」

 

「サチさん……? あれ? サチさんって……」

 

「うん。僕のギルドに所属してる子だよ。この前会ってるよ」

 

アスナはヨシアキの説明で納得したが、首をかしげた

 

(あれ? その子がなんで、黄昏の風に?)

 

アスナが疑問に思っていると、キリトが再び口を開いた

 

「サチは初対面の時、ネットゲーム暦は長いけど、性格のせいでなかなか友達が作れなかったって、恥ずかしそうに言ってた。俺はギルド活動が無い日でも大抵サチに付き合って、片手剣の手ほどきをした三点…俺とサチは色んな意味で似てた。自分の周囲に壁を作るクセ、言葉足らずで、それでいて寂しがり屋な所までな……ある時、サチは俺に、唐突に内心を吐露したんだ…死ぬのが怖い。このゲームが怖くてたまらない。本当はフィールドに出たくないってな……」

 

キリトは、そこで一旦深呼吸をした

 

「俺はその告白に対して、君は死なない、としか言えなかった……本当のレベルを隠してた俺には、それ以上のことを言うことなんて出来なかった……サチはそれを聞いて、少し泣いて、そして笑ったんだ………しばらく経ったある日、俺達は迷宮区に潜ることになったんだ。既に攻略された迷宮区だったし、そこで戦えば、新しいギルドホームを買える資金が集まるからって、ケイタの考えで入ったんだ。攻略されたからとはいえ、未踏破部分が残っていた。資金も貯まったし、そろそろ帰ろうとした時、メンバーの一人がトレジャーボックスを見つけたんだ。俺は手出ししないことを主張したんだ。最前線近くでモンスターのレベルも高かったし、メンバーの罠解除スキルが心許なかったから。だけど、反対したのは俺とサチだけで、賛成多数で押し切られたんだ………」

 

キリトはそこで一旦区切った

 

すると、思い出すのが辛いのか、唇を噛んでいた

 

「……罠は……数多ある種類の中でも最悪に近いアラームトラップだった……けたたましい警報音が鳴り響いて、部屋の全ての入り口から無数のモンスターが湧き出してきた………俺達はクリスタルで緊急脱出しようとした……けど……そこは……結晶無効化空間だったんだ………」

 

「ッ!」

 

キリトの言葉を聞いたアスナは眼を見開いて、口元を手で覆った

 

「ケイタが指揮してなんとか血路を開こうとしたんだけど……そのケイタが死んだ瞬間に他のメンバーがパニックになって逃げ惑ったんだ……俺はそれまでメンバーのレベルに合わせて使ってなかった上位剣技を使って、なんとか血路を開こうとしたけど………一人、また一人と死んでいった……」

 

そう言ってるキリトの声は震えていた

 

「サチのHPも危険域になった……その時だったんだ……ヨシアキ達が現れたのは……」

 

キリトの言葉を聞いたアスナの視線が、ヨシアキに向けられた

 

「その日は依頼で迷宮区に潜ってたんだ。あるアイテムを回収する任務でね………その帰り道だったんだ。悲鳴が聞こえたから、急行したんだ………」

 

そう言ってるヨシアキの表情も暗かった

 

「ヨシアキ達のおかげで、サチは助けられた………だけど、ヨシアキ達が来てくれなかったら、サチは死んでた………」

 

キリトはそこまで言うと、しばらくの間、口を閉じた

 

そして、再び口を開いたのは数分後だった

 

「そして、迷宮区を出てから俺はサチに、ベータ版テスターだったことと本当のレベルを告げて、サチをヨシアキに任せて、その場から逃げだしたんだ………俺が本当のレベルとベータ版テスターだったことを告げてれば、あんなことに………ギルドが壊滅するなんて状況にならなかったかもしれない………やっぱり、ビーターには……俺にはギルドに所属する資格なんてなかったんだ………」

 

そこまで言うとキリトは、体を震わせて泣いていた

 

すると不意に、アスナは立ち上がり

 

「大丈夫。わたしは死なないよ………」

 

と言いながら、キリトを優しく抱きしめた

 

「だって、わたしは……わたしはキリトくんを守るほうだもん……」

 

まるで聖母のように、アスナは優しく。しかし、はっきりと告げた

 

気付けば、ヨシアキの姿は部屋からは消えていて、廊下にあった

 

「キリト………君はもう、助かってもいいんだ………」

 

ヨシアキはそう言いながら、視線を上に向けていた


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