この時、彼女、
普段はアメリカで教鞭を執る彼女だが、時々休暇を得ては日本に来て、悠々自適に過ごしていた。
そして今日は、欲しいものがあって東京に来てホテルに泊まっていた。その欲しい物は入手出来て、後はどうしようかと考えながら、パソコンのメールを開いた。
すると、二通来ていることに気付いた。
ひとつは、以前から度々来ていたあるプロジェクトへの参加要請。その送り主は、以前に少し世話になった人物。
その参加要請に、どうしようかと悩みながら、もう1つのメールの送り主を見て
「この人物は……」
と思わず呟いた。
その人物、明日奈とは一応面識があった。
それは、綿季の病気が治った頃まで遡る。実は凛子は、綿季が使っていた機械、メデュキボイドを考案・開発した人物なのだ。
それを和人が調べあげ、和人が会いたいと連絡してきて、凛子はそれを承諾した。
何故ならば、凛子は以前から和人や明日奈、明久達に会って謝罪したいと思っていたからだ。
その理由は、凛子がSAO事件の首謀者。茅場晶彦の恋人だったからだ。
SAO事件が起きて少しすると、凛子は茅場を殺そうと茅場が秘密裏に持っていた別荘に向かった。
そして、凛子を見た茅場は一言
『しょうがない人だな』
と困ったように呟いた。
この時点で、凛子は茅場を殺せなくなっていた。
その後凛子は、長時間ダイブし続ける茅場を支えていた。その間に、どんどん死んでいく人々が出ているとニュースで知りながら。
なお茅場は、凛子が茅場に無理矢理従わされているという体にするために、凛子の胸元に爆弾を入れた。
確かに、その爆弾は本物で、起爆すれば確実に凛子の命を奪う威力を有していた。
しかし、絶対に起爆しない爆弾。
それにより、凛子は被害者として無罪となった。
しかしそれが、凛子に罪悪感を覚えさせて、逃げるように日本から離れたのだ。
そして和人から連絡が来た時、凛子は会うべきだと思い、日本に帰国し、和人、明日奈、明久と出会った。
あまりの罪悪感に、凛子は押し潰されそうになりながらも、自分の気持ちを全て話した。
凛子の気持ちを聞いて、三人は
『確かに、怒りはあります。けど同時に運命だったとも思ってます』
『あの世界が無ければ、私は和人君や明久君達とは出会えませんでした』
『それに何より……あの世界での生活があったから、今の僕達が居ます』
と言い、それを聞いた凛子はほんの少しだが、救われた気がした。
そして凛子は、明日奈からのメールを開き
「……これは……」
と呟いた。
その頃、ヨシアキは
「いや、リヒトは本当に筋がいいね……」
「そうかな……?」
リヒトに剣技を教えていた。
ヨシアキからしたら、リヒトは剣の才能があった。ヨシアキが教えた基本的な動きは既に覚え、今は応用に入ったところだった。
使っているのは、ヨシアキが作った木の剣と槍だ。
リヒトのレベルでは、あの槍はまだ使えないために作ったのだ。勿論、岩砕きと並行しながらなので、本当に少しずつになるが、リヒトは着々と腕を上げつつあった。
そしてある日
「さて……岩砕きするか」
「そうだね」
と二人は、岩砕きをするためにツルハシを持った。
そしてリヒトが構えた時、リヒトの持っていたツルハシが青く光った。
「まさか!?」
とヨシアキが驚いていると、リヒトはその一撃。
メイス用下位ソードスキル、サイレントブロウ。
それを放った本人のリヒトも、驚いた様子で
「ヨシアキ、今のって……」
とヨシアキに視線を向けた。
「アインクラッド流の初期奥義の1つだよ……サイレントブロウ……」
「今のが、初期奥義……アインクラッド流って凄いんだね……」
ヨシアキの説明を聞いて、リヒトは素直にそう呟いた。
これが、二人の剣士としての始まりだった。