「それにしても、本当に堅いね、この岩……何で出来てるのさ」
「さあ、それは僕にも分からないね……」
ヨシアキの呟きに、リヒトはそう答えてからツルハシを岩に叩き込んだ。
その音を聞いたヨシアキが
「んー、今のは、僅かに芯を外したね。惜しい」
と呟いた。
「まだまだ。今日は僕のほうが、叩けてる数は多いよ」
「言ったな? すぐに抜いてやる」
ヨシアキがこの世界に来てから、約1ヶ月少々。今では、リヒトと行動を共にすることが大半だった。
大半と言った理由は、時々村の女性達と一緒に料理したり、たまに迷い混んでくる熊を村の腕に自信のある男性総出で狩ったりと、様々なことをやっているからだ。
それにより、ヨシアキは何者だったのか。という議論が交わされていたりするが、ヨシアキは知らない。
「よし! 20回当たった!」
「む……中々にやるね」
ヨシアキのドヤ顔に、若干イラッとしながらも、リヒトは素直に称賛し、自分のツルハシを持って立ち上がった。
そこに
「リヒトさん! ヨシアキさん! お昼持ってきました!!」
と元気な声が、森に響いた。
声が聞こえた方向を見れば、ライエが籠を両手で持って来ていた。それを見た二人は、お昼にすることにした。
お昼を食べなからヨシアキは、1ヶ月の生活の中で分かったことを反芻していた。
(この世界が、新しいVR世界なのは間違いない……ただ、NPC? なのかは分からないけど、余りにも人間みたいだ……AIがユイちゃんに近いか、同等……下手したら、上?)
村で過ごす中で、幾つかヨシアキはリアルのことを呟いてみたが、総じて首を傾げられた。
そして村の人達がNPCではないと断言出来ない理由は、応対が余りにも自然だったからだ。
それが、ヨシアキに判断を迷わせていた。
「それで、調子はどうですか?」
お茶を飲み干したライエは、ヨシアキとリヒトに仕事の進捗を聞いてきた。
すると、リヒトは
「最近は、捗ってるよ。ヨシアキのおかげさ」
とライエに答えた。だが、ヨシアキは
「何言ってるのさ。リヒトの要領がいいからだろ?」
と言いながら、お茶を飲んだ。
最近ヨシアキは、リヒトと一緒に岩砕きをしながら、リヒトを観察していたのだ。その結果、リヒトはかなり要領がいいことを知った。
一人暮らしで、料理もしていたリヒトだが、ヨシアキの腕に驚きながらも、ヨシアキの動きの一部を再現してみせたのだ。
「だけど、もっと堅いツルハシは無いの? 5日位で、限界になるよ」
「それが、僕達に手に入る中で、一番堅いツルハシなんだ……央都になら、もっと堅いのがあるみたいだけど、凄い高いんだ……」
ヨシアキの問い掛けに、リヒトはそう言いながら、立て掛けてあるツルハシを見た。
何でも、定期的に村に来る行商人から買い付けているらしい。
竜の牙で作られているツルハシ。それを纏めて買っているために、ある程度は値引きしてくれているらしい。
それでも、村の収入からしてみれば、かなりの値段らしく、更に堅いツルハシとなると、倍では収まらない金額になってしまうらしい。
金銭的な理由なら、仕方ない。と、ヨシアキは嘆息しつつ
「せめて、何か武器が有ればな……」
と呟いた。
すると、器をライエに手渡したリヒトが
「……武器か……」
と呟いて、ある方向を見た。そして、少しすると
「……ライエ、ヨシアキ……ちょっと、着いてきて」
と言って、立ち上がった。
呼ばれた二人は、首を傾げながらもリヒトの後に続いた。
少しすると、小さな祠が有った。
リヒトは、その入り口に半身を入れながら
「ヨシアキ……これは、どうかな?」
と言って、奥を指差した。
奥を見たヨシアキが見つけたのは、一本の鎗だった。
まるで、蒼天のごとき深い蒼色の鎗が、壁に立て掛けてあった。