ソードアート・オンライン 黄昏の剣士   作:京勇樹

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再びの旅立ち

「……あれ?」

 

目を覚ましたヨシアキは、目に入った光景に疑問の言葉が漏れた

ヨシアキは何故か、森の中で仰向けに倒れていた

いや、そもそも

 

「……直前のことが、思い出せない……?」

 

何故森で倒れていたのかの理由すら、思い出せなかった

そしてヨシアキは、ある確信から右手を上から下に振った

すると、ウィンドウが開いた

 

「やっぱり、VRか……しかも、まったく知らないVRだ……」

 

知らないVR世界だと気付いた理由は、ウィンドウに表示されているデータの形式からだった

SAO

ALO

GGOの何れにも、該当しない形式だった

 

「うーん……まあ、何をするにしても、情報収集だな……山の中っぽいけど、近くに人里無いかな?」

 

ヨシアキはそう言って、目を閉じて意識を耳に集中させた

システム外スキル《聴音》だ

そして、少しすると

 

「……向こうから、水の音が聞こえる」

 

と言って、ある方向に歩き始めた

森の中を歩いていたヨシアキは、木漏れ日に目を細めながら

 

「うーん……のどかだ……」

 

と呟いた

SAOからずっと、VR世界で山の中を歩いていた時は、モンスターの気配をずっと留意していた

でなければ、奇襲を赦し、下手したら全滅する可能性が高かったから

しかし、今のVR世界では、モンスターや動物の敵意を一切感じない

居ても、ただ見てくるだけ

 

「……なーんか、拍子抜けだなぁ」

 

ヨシアキはそう言いながら、頭を掻いた

その時、一気に視界が開けた

その先では、一人の少年がツルハシを手に、オレンジ色の岩を砕こうとしていた

その少年は、ヨシアキを見ると

 

「君は……誰だい?」

 

とヨシアキに問い掛けてきた

それを聞いたヨシアキは

 

「そういうのは、自分から名乗るものじゃないかな? ……僕の名前は、ヨシアキ……ヨシアキ・カーバイド」

 

と名乗った

カーバイドは、今咄嗟に考えた名前だが、なぜかしっくりときた

すると、少年が

 

「ああ、それは失礼しました……僕の名前は、リヒト・アーカイブ」

 

と名乗った

そして、ヨシアキに

 

「見ない顔だけど、どうしたんだい?」

 

と問い掛けてきた

それに対して、ヨシアキは

 

「いや、それが……気付けばここに居たんだよね……どうにも、名前以外の記憶も曖昧みたいだし」

 

と言いながら、頭を掻いた

それを聞いたリヒトは、驚いた表情で

 

「……初めて見た……ベクタの迷子なんて……」

 

と言った

 

「ベクタの……迷子……?」

 

「うん。闇の神たるベクタが、世界の何処かに居る人を何処か別の場所に移してしまうっていう伝承だよ」

 

ヨシアキが首を傾げると、リヒトはそう話した

 

「そっか……それで、君は何してるの?」

 

「僕かい? 僕は、この岩を砕くのが天職なんだ」

 

ヨシアキの問い掛けに、リヒトはツルハシを掲げながらそう言った

 

「天職?」

 

「そう。一人一人に与えられる、仕事のことだよ。僕の一族は、長い間、この岩を砕くことが天職として与えられたんだ」

 

ヨシアキが再度首を傾げると、リヒトはそう説明してから、ツルハシを岩の砕け始めている部分目掛けて、振り下ろした

それを見たヨシアキは

 

「……ねえ、僕にやらせてくれないかな?」

 

とリヒトに言った

それを聞いたリヒトは、少し黙考した後に

 

「はい」

 

とツルハシを、ヨシアキに手渡した

それを受け取ったヨシアキは、岩に近づき

 

「この、砕けてる所を叩けばいいんだね?」

 

とリヒトに問い掛けた

その問い掛けに、リヒトは頷きながら

 

「そうだよ」

 

と答えた

それを聞いたヨシアキは、そこを見つめて

 

「わかった……やってみる」

 

と言って、ツルハシを腰だめに構えた

すると、ツルハシに青い光が宿った

それを見たリヒトは、思わず息を飲んだ

次の瞬間、ヨシアキはそのツルハシを高速で岩に向けて放った

だが、僅かにズレていたらしい

岩に当たったが、甲高い音がして、ツルハシが途中で折れてしまった

 

「あっ!? ご、ごめん! ツルハシ、折れちゃった!」

 

折れたツルハシを見て、ヨシアキは慌てた表情を浮かべて、頭を下げた

すると、リヒトは

 

「ああ、大丈夫。元々、限界が近かったんだ。家に帰れば、予備のツルハシはまだまだあるよ」

 

と答えた

そして、ヨシアキに

 

「それにしても、驚いた……ヨシアキは、剣士なのかい? それに、見たことも聞いたことも無い技だった……流派は、分かるかい?」

 

と問い掛けた

すると、ヨシアキは

 

「流派? ……んー……」

 

と言って、腕組み

そして、少しすると

 

「うん……アインクラッド流剣術……だね」

 

と告げた

これが、この世界での二人

否、六人の戦いの幕開け


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