ソードアート・オンライン 黄昏の剣士   作:京勇樹

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ある村にて 3

「う……ぐぁ……」

 

「リヒト!」

 

「大丈夫!?」

 

リヒトの呻き声を聞いて、ライカとヨシアキは声を掛けた

すると、うっすらと目が開き

 

「こ、ここは……僕は……」

 

と言って、体を起こそうとした

しかし

 

「いっ!?」

 

痛みから、また倒れた

 

「無理しないで!? 骨が折れてたんだから!」

 

そんなリヒトの頭を、ライカは自身の膝に乗せた

その頃ヨシアキは、周囲を見回して

 

「今のところ……周囲に敵影無し……安全だよ」

 

と二人に教えた

それを聞いた二人は、安堵の表情を浮かべた

だが

 

「さて、問題だけど……僕達、どこから来たっけ?」

 

とヨシアキは、首を傾げた

それを聞いたライカとリヒトは、周囲を見た

そして気付いた

この広間に来るための洞窟が、視認出来る限り6個あった

 

「ど、どれ……?」

 

「僕の記憶じゃあ、龍の骨の正面なんだけど……二つあるね……」

 

ヨシアキの記憶を信じるならば、龍の骨の正面の洞窟から広間に入ってきた

しかし、それに該当するのは二つあった

そのどちらかが、入ってきた洞窟の筈である

しかし、どっちなのか

 

「……よしっ!」

 

ライカはそう気合いを入れると、足下に落ちていた元ツルハシの柄を拾い上げた

そして自分の前に立てると、リヒトとヨシアキを見て

 

「この棒の先端が示した方に進む……それで、どう?」

 

と問い掛けてきた

それを聞いた二人は、僅かに間を置いてから

 

「うん……それでいこう」

 

「こうなったら、運任せだ」

 

と頷いた

それを聞いたライカは、頷いてから

 

「じゃあ……いくよ!」

 

と言って、手を離した

その後、棒はゆっくりと傾き倒れた

そして示したのは、右側の洞窟

 

「よし……こっちね」

 

ライカはそう言うと、棒を拾い上げた

そこに、ヨシアキが

 

「ライカ、リヒトを支えて前を進んで……僕は、後ろを歩くから……もしかしたら、まだあのゴブリン達が残ってるかもしれないし」

 

と言った

それを聞いたライカは、頷いてから

 

「リヒト、ゆっくりでいいから……立てる?」

 

と問い掛けた

その問い掛けに、リヒトは頷いてから

 

「うん……大……丈夫……」

 

と立ち上がった

そんなリヒトに、ライカは右肩を貸して

 

「それじゃあ……進むわよ」

 

と言って、右側の洞窟を進み始めた

これが、別れ道になるとは知らずに

そして、歩き始めてどれ程経ったか

 

「……こんなに、長かったっけ……?」

 

「分からない……」

 

「進むしか、ないわよ……」

 

と三人は、中々見えない出口に不安を覚えた

その時だった

先に、光が見えた

 

「出口よ!」

 

ライカはそう言って、進む速度を上げた

その時だった

ライカとリヒトの二人が通り抜けた右側の影から、小柄な影

ゴブリンが現れた

 

「させるかっ!!」

 

それを見たヨシアキは、ゴブリンに剣を突き出した

その一撃は、ライカとリヒトを追い掛けようとしていたゴブリンの頭を刺し貫いた

その時だった、リヒトが

 

「待って、この匂い……違う、山じゃない!?」

 

と声を上げた

それを聞いたライカが足を止めた直後、ヨシアキが刺し貫いたゴブリンの死体が倒れて、剣を突き刺したままだったヨシアキと、そのゴブリンの腕が当たったライカ

そして、ライカが倒れたことでリヒトも倒れた

そんな三人が見たのは、真っ赤な大地だった

そこのことを、三人は知っていた

 

「だ……」

 

「ダーク、テリトリーだ……!」

 

ダークテリトリー

そこは、ゴブリンを含めた闇の勢力の領域

そこに立ち入るのは、禁忌目録で禁止されている

禁忌目録とは、この世界に於いての法に当たる

 

「ここが……ダークテリトリー……」

 

「初めて見たけど……」

 

「本当に……血生臭いんだ……」

 

その昔、ダークテリトリーでは激しい争いが有ったとかで、大地はその時の流血で真っ赤に染まり、辺りは血独特の匂いが蔓延していると聞いていた

そして、正にその通りだった

大地は真っ赤に染まり、今も三人の鼻を独特の匂いが刺激する

その時、先で激しい金属音が聞こえた

それを聞いた三人は、僅かに体を上げた

すると、大体300m程先で、二人が戦っていた

一人は、その全身に甲冑を纏い、両手で大剣を持っている

それに相対するのは、上半身裸で額にハチマキを巻いた一人の若い男性

その男性は浅黒い肌が特徴で、武器は持っていない

だがよく見れば、騎士の纏っている甲冑が幾らかヘコんでいる

そこから考えられるのは

 

「あの人……拳で戦ってる人なんだ……」

 

いわゆる、拳闘家ということになる

しかもその拳闘家は、怪我らしい怪我はない

素手で戦ってるのにだ

次の瞬間、その二人が同時に動いた

その直後、騎士の剣が拳闘家の腹部に直撃

横凪ぎに切り裂いた

しかし余りの威力からか、その拳闘家の上半身が凄い勢いで三人の居る方向に飛んできた

そのまま、その拳闘家の上半身は三人の手前十数mの位置の地面に激突した

その衝撃は凄まじく、三人は僅かに浮いた

 

「うわっ!?」

 

「んなっ!?」

 

「わわわっ!?」

 

そして三人は落ちたのだが、その位置が悪かった

ライカの左手が、ダークテリトリーの赤い地面に当たった

もちろん、ライカは素早く手を引いた

しかし、そんな三人の耳元で

 

「発見……記録……」

 

と無機質な声が聞こえた

この後三人は、急いで来た道を戻って、もう片方の洞窟に入った

その洞窟は正解で、三人は何とか村に帰還出来た

しかし、無情か別れは目前まで来ていた


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