ソードアート・オンライン 黄昏の剣士   作:京勇樹

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アリシゼーション編
ある村にて 1


「ヨシアキー! リヒトー! 急いで! お日様が沈んじゃうわ!」

 

「待ってよ、ライカ!」

 

「転ぶよぉ!」

 

ある道を、三人の少年少女が走っていた

一番前を走っているのは、銀色の長い髪に水色のワンピースを着た少女だった

その後ろを、茶髪と赤い髪の少年が追い掛けている

その二人は、ツルハシを持っている

 

「今日は、久しぶりにお姉ちゃんが帰ってくるんだから!」

 

「ああ、だからか」

 

「大丈夫だって、アルカさんは居なくならないって」

 

ライカの言葉を聞いた二人は、ライカが急いでいた理由を察した

ライカの姉、アルカ

アルカは薬師として独立していて、旅をしながら薬を売っている

その為に、故郷に帰ってくるのは一年に二三回というところだ

その姉の久しぶりの帰郷とあって、待ちきれないようだ

 

「お姉ちゃんを出迎えるんだから!」

 

「もう、到着してるんじゃないかなぁ?」

 

「だよね?」

 

ライカの言葉を聞いて、ヨシアキとリヒトは顔を見合わせた

時刻は既に、陽の沈む時間だ

姉たるアルカが帰郷していても、不思議ではない

そして三人は、三人が住む村たるアカシャの村に着いた

すると

 

「三人とも、お帰りなさい」

 

と三人を出迎えた女性が居た

ライカと同じ長い銀髪が特徴の、十代後半から二十になったばかりだろう

その女性こそが、ライカの姉

アルカである

 

「ほらぁ! 二人が遅いから、先に帰ってたじゃない!」

 

「えー……」

 

「僕達のせいかい?」

 

ライカの文句に、ヨシアキとリヒトは苦笑した

すると、アルカが

 

「こぉら、ライカ。そういうこと言わないの。二人は天職のために、あの離れた場所に行ってたんでしょ?」

 

「うぅー……」

 

とライカを注意した

だが納得出来ないらしく、唇を尖らせている

そんなライカの頭を撫でながら、アルカはヨシアキとリヒトの二人を見て

 

「ごめんね、二人とも。この子、色々と面倒でしょ?」

 

と謝罪した

すると二人は

 

「大丈夫ですよ、アルカさん」

 

「慣れてますから」

 

と言った

それを聞いたライカは

 

「どういう意味よー!!」

 

と両手を上げながら、二人に突撃した

 

「おっとぉ!?」

 

「逃げろ!?」

 

そんなライカから逃げるために、ヨシアキとリヒトの二人はツルハシを置いて走り出した

 

「逃がすかぁ!!」

 

「あらあら……どうしましょうか……」

 

そんな光景を見て、アルカは苦笑いを浮かべた

こんな日常が、何時までも続くと思っていた

あの日までは……

それから少しして、ヨシアキとリヒトの二人は天職

川を塞き止めている大岩の破砕をしていた

 

「本当、この岩硬いよね……」

 

「まあ、僕達の先祖が何十年と叩いてるのに、未だに砕けないからね……聞いた話じゃあ、西だったかに凄い高い木があるって聞いたよ……」

 

そう話す二人の前に有るのは、オレンジ色の巨大な岩だった

それが村に流れる川を塞き止めていて、長い間水に悩まされていた

その巨大な岩を砕くことが、二人に与えられた天職だった

 

「このツルハシだって、凄い硬い龍の牙で出来てるのに、中々砕けない……」

 

「まあ、今日は調子良いし……もしかしたら、大分減ってるかもよ?」

 

リヒトはそう言って、天窓を開いた

そして、そこに表示されてる巨岩の天命を二人は見て

 

「えっと……昨日は20万9500だったけど……」

 

「今日は……20万9000……500しか減ってない!!」

 

無情な現実を見て、二人は深々と溜め息を吐いた

そこに

 

「二人ともー! ご飯持ってきたわよ!」

 

とライカが、蔓で編んだ篭を掲げながら現れた

それを二人は、力なく手を振りながら歓迎した

そして、ライカが

 

「そう言えばさ、この川の奥……洞窟にある伝説が有るのは、知ってる?」

 

と二人に問い掛けた

するとヨシアキが

 

「知ってるよ」

 

と答えた

その伝説というのは、アカシャ村に旧くから伝わる伝説

アカシャ村から更に北上した山麓の洞窟に、水を司る龍が住んでいた

そこに、ある騎士が向かった

その龍が水を出すために、生け贄を欲していると聞いたからだった

その龍を討伐し、生け贄をこれ以上出させないようにする

それが、騎士の狙いだった

しかし、その話は誤りだと分かった

生け贄を欲してはおらず、平穏に過ごしていた

そのことを聞いた騎士は、知恵ある龍に謝罪して、洞窟を去った

という伝説だ

 

「ちょっと、見にいかない? 気になるじゃない!」

 

ライカは好奇心旺盛な性格で、自分で調べないと気が済まない質だ

それを知っているからこそ、二人は止めることは出来ないと諦めた

そして三人は、川に沿って洞窟を目指した

そして暫く進むと、洞窟は確かにあった

 

「ここか……」

 

「確かに、川は続いてる……」

 

「行くわよ!!」

 

ライカは力強く、洞窟を進んでいった

そして三人は、流れる水を遡る形で奥を目指した

そして、広い空間に出たのだが

 

「……こ、これって……」

 

「龍の……骨!?」

 

そこには、巨大な龍の骨が横たわっていた

その龍の遺骸に、ヨシアキは近寄り

 

「こいつ……剣で倒されたんだ……この傷が、致命傷みたい」

 

と頭に有った傷を見た

その傷は、かなり薄い傷だった

だが、顎の骨まで貫通していた

どう見ても、それが致命傷なのは間違いなかった

 

「だけど、どうして……」

 

とヨシアキが首を傾げていると

 

「ヨシアキ!」

 

「こっち来て!」

 

と二人が呼んだ

呼ばれたヨシアキは、二人の方に向かった

すると二人は、泉の中を指差して

 

「中に、一本の鎗が……」

 

と言った

確かに見てみれば、中に一本の鎗が沈んでいた

深い蒼色の鎗が

 

「この鎗は……」

 

ヨシアキは泉に手を入れて、鎗を持ち上げようとした

だが、その槍はとてつもなく重く、持ち上がらなかった

 

「ダメだ! 持ち上がらない……」

 

とヨシアキが諦めた

その時、ズシンと音が聞こえた

三人が振り向くと、その先には数人の緑色の体表の相手

ゴブリンが居た

 

「アァ? 白イウムのガキが三匹居やがる……」

 

「リアン様! こいつら連れていって、売り払いやしょうぜ! ガキなら、高く売れる筈だ!!」

 

一人の小柄なゴブリンの言葉に、大柄なゴブリンが頷き

 

「俺は、原ゴブリン族のリアンだ! 死にたくなかったら、抵抗すんじゃねぇぞぉ!!」

 

と言って、腰から大きな鉈を抜いた

それを見たヨシアキは、持ってきていたツルハシを持って

 

「二人とも、逃げるよ!!」

 

と言って、そのリアンに向かった

ヨシアキとしては、一撃当てて、怯んだ瞬間に全速力で逃げる算段だった

しかし、次の瞬間

 

「邪魔だァ!!」

 

とリアンが、鉈を振るった

幸いにも、鉈はツルハシの柄を斬っただけだったが、ヨシアキは衝撃で吹き飛ばされた

 

「がはっ!?」

 

吹き飛ばされた先に有った鍾乳石を砕き、ヨシアキは龍の骨の近くにあった金銀財宝の山に落ちた

 

「ヨシアキ!」

 

「ヨシアキ!?」

 

それを見た二人は、青ざめた表情でヨシアキの名前を呼んだが、ヨシアキは動かない

死んでも、不思議ではないだろう

 

「ガッハハハハハ! 抵抗するから、そうなる! お前ら、残り二匹を捕まえろ!」

 

リアンは部下達にそう指示すると、自身は倒れてるヨシアキの方に向かった

どうやら、トドメを刺すつもりのようだ

 

(あー……体が、動かない……)

 

「ヨシアキから、離れろ!!」

 

とリヒトが、先のヨシアキと同じようにツルハシを振り上げたが

 

「お前は、黙ってろ!」

 

と一体のゴブリンが、リヒトの腹に蹴りを叩き込んだ

蹴られた際、嫌な音が響いた

 

「がふっ……」

 

「リヒト!?」

 

倒れたリヒトに、ライカは近寄った

もう、どうなるのか、ライカには分からなかった

この後、一人の剣士が覚醒する


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