ソードアート・オンライン 黄昏の剣士   作:京勇樹

110 / 201
失われた思い出

「つっ!! いくら楯持ちが私だけだからってぇ!?」

 

「ごめん、リズ!」

 

「もう少し耐えて!」

 

第12層ボス

ザ・ストリクト・ハーミットの特殊攻撃を、身内で唯一の楯持ちたる理香の後ろに隠れることで、全員は無事だった

だが、幾らなんでも長時間は耐えられないのは明白である

だから、明日奈と琴音が動こうとした

その時

 

「え、ピナ?」

 

気付けば、珪子の傍らに小さな竜が居た

その見た目は、確かにピナに似ている

だが次の瞬間、その小さな竜が激変した

小さかった体が一気に巨大になり、水色の体は禍々しいまでに黒い体になっていた

 

「ひゃあぁぁぁぁ!?」

 

それに驚いた珪子は、理香の後ろから飛び出してしまった

そしてそのまま、いつの間にか居た第二位

エイジにぶつかった

 

「あ、ご、ごめんなさ……」

 

ぶつかったことを、珪子は謝ろうとした

だがそうする前に、エイジは珪子を突き飛ばした

それを見た理香が

 

「ちょっと、あんた! 今謝ろうとしたじゃない!!」

 

と批難がましく怒鳴った

そんな理香を無視して、エイジは下がった

そこに、竜が接近

珪子を攻撃しようとした

それを見た明日奈と琴音が、珪子を守ろうと動いた

明日奈が珪子を抱き締めて、琴音が攻撃をナイフで受け止めようとした

だがそれより早く、竜の爪が琴音と明日奈を切り裂いた

その直後、二人の脳裏にて様々な光景が走った

それが何なのかは、この時の二人には分からなかった

だが気付けば、二人の目端から涙が溢れていた

結局のこの日のボスイベントは討伐失敗

全員は、それぞれ帰宅した

そして明日奈と琴音は、不安を感じながらも入浴を済ませると、眠りに就いた

そして二人は、夢を見た

夢というのは、過去の記憶の振り返りが大半だ

中には、妄想を夢として見ることもあるが

この時二人が見た夢は、前者だった

それは、かつて居た鋼鉄浮遊城での夢

明日奈は、キリトと住んでいた第22層のログハウスでの夢

そして琴音は、ヨシアキとの出会い

その夢を見ていた

筈だった

しかし、途中からその夢がボヤケていった

それだけでなく、その背中が遠くなっていった

琴音と明日奈は、その背中に追い付こうと懸命に走った

だが追い付かず、突如浮遊感に襲われた

そしてそこで、目が覚めた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「こんな時間に、どうしたの? フィリア?」

 

朝早くに、ヨシアキはフィリアの居るギルドホールに来た

それは、現実で電話が掛かってきたからだ

泣きそうな声を聞いたら、放ってはおけなかった

 

「ねえ、ヨシアキ……私達って……アインクラッド中層で出会ったよね……?」

 

「うん、そうだね……僕がオレンジギルドとアイテム収集の依頼を受けて行った先で、出会ったね」

 

フィリアの問い掛けに、ヨシアキは思い出すようにしながら返答した

それを聞いたフィリアは、呟くように

 

「そう……だよね……」

 

と言った

それを不思議に思い、ヨシアキはフィリアの隣に腰掛けて

 

「……なにか、あった?」

 

と優しく問い掛けた

するとフィリアは、涙を流しながら

 

「ヨシアキ……!」

 

とヨシアキに抱き付いた

そして、泣きながら

 

「アインクラッドでの、記憶が……思い出せないのっ!」

 

と叫ぶように告げた

それを聞いたヨシアキは、目を見開いた

実はほぼ同時刻、キリトとアスナもログハウスで同じことを話し合っていた

そしてこれが、英雄達が動く理由となる


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。