「やべ、寝坊した…」
ミナトは時計を確認し、今日見た夢を思い出していた。
突然何者かに殺された母と妹の葬式、泣いている俺と姉をじいちゃんとばあちゃんは慰めてくれていた。
だが、その中に父の姿はなかった。
「…父親とかふざけんな…」
「おはよー」
速水は教室に入り自分の席に向かおうとしていた。その時、自分の列の一番後ろ津芽がまだ来ていないことに気づく。
「あいつ、いつもこの時間には来てるのに…」
速水は昨日の津芽の様子を思い出した。みんなの輪から抜けた津芽、甘い物が苦手と言っていたが本当にそれだけだろうかそんなことを考えている時、中村に声をかけられる。
「おっはよーはやみん。あれ津芽まだ来てないんだ」
「そうみたい、いつもこの時間には来てるんだけど…」
速水の言葉を中村はニヤニヤしながら聞いていた。
「ミナトならまた寝坊したって、さっきメール来たぞ」
横にいる岡島が呆れつつ応える。
「あいつ寝坊しすぎでしょw」
中村が言うと岡島はほんとになーと答えるが、速水は違和感を抱いたまま授業の準備を始めた。
「…よーしみんな集まったな!では今日から新しい体育を始めよう!ちょっと厳しくなるが…終わったらまたウマいモン食おうぜ!」
「そんな事言って自分が食いたいだけじゃないの?」
「まーなおかげ様でこの横幅だ」
中村の問いに目をそらしつつ鷹岡は答え、そんな鷹岡をみんなが笑っていた。
「さて!E組の時間割も変更になった。これをみんなに回してくれ」
その時間割を見たE組の生徒は絶句した。
平日は夜の9時まで、土曜日にも訓練が組み込まれていた。
「このぐらいは当然さ、理事長も地球の危機ならしょうがないと言ってたぜ」
「ちょっ…無理だぜこんなの‼︎勉強の時間にこれだけじゃ成績落ちるし、遊ぶ時間もない‼︎できるわけねーよこんなの‼︎」
ズンッ‼︎
「前原!」
鷹岡は無表情で前原の腹に膝蹴りをくらわせる。嗚咽を吐きながら地面に転がる前原を岡野が支えていた。
「できないじゃないやるんだよ。言ったろ俺たちは家族、俺は父親だ。世の中に…父親の命令を聞かない家族がどこにいる?」
その時の鷹岡の表情に、E組の生徒は恐怖した。
鷹岡は教官として活路を見出した。
家族のように近い距離で接する一方、暴力的な父親のような独裁体制で忠実な精鋭を短期間で育てていた。
「父ちゃんはなお前ら1人でもかけてほしくないんだ。家族みんなで地球の危機を救おうぜ‼︎なっ?」
そう言って三村と神崎の肩に手を回した。
教え子を手なずけるならたった2つ
「親愛」と「恐怖」
延々と「恐怖」に叩かれた兵士達は一粒「親愛」をやるだけで泣いて喜ぶ。手始めに逆らえば叩き、従えば褒める事から覚えこませる。
それが鷹岡明のやり方だった。
「な?お前は父ちゃんについてきてくれるよな?」
頭に手を置かれ神崎は恐怖しつつもまっすぐと答える。
「私…私は嫌です。烏間先生の授業を希望します」
そう言って皆に笑顔を見せた時、鷹岡は勢いよく平手打ちを当て神崎は地面に転げ落ちた。
「神崎さん‼︎」
茅野は神崎を支え、心配した杉野は神崎に歩み寄る。
「…お前らまだわかってないようだな。 はい 以外は無いんだよ。文句があるなら拳と拳で語り合おうか?そっちの方が父ちゃんは得意だぞ‼︎」
「いい加減にしてよ‼︎」
生徒達が恐怖心を抱く中、声をあげたのは速水だった。
「そんなやり方間違ってる!今すぐ、烏間先生と変わってください!」
E組の生徒は速水と同じことを思っていた。だが、鷹岡を前に恐怖心が体を硬直させていた。鷹岡はゆっくりと歩き、徐々に速水に近づいていく。
「凛香ちゃん!」
このままでは危険だと倉橋は思い、速水に呼びかけるが、速水もまた恐怖心に体がすくみあがっていた。
「悪い子だな…父ちゃんに逆らうなんて、おしおきだ!」
言葉とともに、鷹岡は速水めがけて拳を振り下ろす。速水は動くこともできず、恐怖心のあまり目をつむった。
だが、鷹岡の拳が速水に届くことはなく、速水は恐る恐る目を開ける。
「おーはよーございまーす♪」
彼は適当な挨拶を鷹岡にかわしながら拳を受け止めていた。
「津芽…?」
「いやー危なかったね大丈夫だった?速水」
振り返り笑顔で問いかけるミナトに対し、速水は頷いた。
速水が無事であることに安堵するとミナトは再び鷹岡の方に視線を移す。
「んで、あんたは何してんの?」
「何って、教育だよ教育。だから邪魔しちゃいけないぞ?」
ミナトに対し笑みを浮かべる鷹岡だが、言い終わると同時にミナトによって蹴り飛ばされていた。
「教育?ふざけんな…暴力で支配しやがって…」
その間に鷹岡はまるで効いてないかのように立ち上がる。
「かわいそうだな津芽…母親と妹は殺され、父親もお前を相手にしない。代わりに俺が父親ってものを教えてやるよ」
鷹岡の言葉にE組の生徒は言葉を失う。母と妹が殺された。それは誰もが知らなかったミナトの過去だった。
「…拳と拳で語るんじゃないの?べらべら喋りやがって…」
ミナトは指を鳴らし、戦闘態勢をとっていた。
「手始めにまずお前から教育してやろう」
鷹岡は笑顔を浮かべ、構え始めていた。