それから自律思考固定砲台は、どんどんクラスに馴染んでいった。
「では菅谷君教科書を伏せて。網膜の細胞は細長い桿体細胞と、あと一つ太い方は?」
「えオレ?やばっえーっと…」
居眠りをしていた菅谷はすぐに答えることができなかった。
「菅谷さん」
自律思考固定砲台に名前を呼ばれ、彼女の方を見ると、太ももに答えが表示されていた。
「えーと…錐体細胞。」
「こら自律思考固定砲台さん‼︎ズルを教えるんじゃありません‼︎」
「でも先生、皆さんにどんどんサービスするようにとプログラムを」
「カンニングはサービスじゃない‼︎」
(殺せんせーどんな改良施したらあんなあざとくなるんだよ)
自律思考固定砲台のカンニングの仕方にミナトは、顔を赤くしていた。
そして昼休み
「へぇーっ、こんなのまで体の中で作れるんだ!」
「はい、特殊なプラスチックを体内で自在に成型できます。設計図があれば銃以外も何にでも!」
「おもしろーい!じゃあさ花とか作ってみて?」
「わかりました矢田さん。花のデータ学習しておきます。王手です千葉君、それからこれで私の3連勝ですね、津芽君。」
「…もう勝てなくなったなんつー学習能力だ…」
「あんなに厳選したのに…俺が厳選に費やした時間はなんだったんだー‼︎」
1人で色んな事をこなせたり、自在に変形できる自律思考固定砲台は、クラスの人気者になっていた。
「にゅやっ‼︎しまった‼︎」
「どうしたの?殺せんせー」
突然大声を上げる殺せんせーに驚きつつ、渚は問いかけた。
「先生とキャラがかぶる…」
「かぶってないよ1ミリも‼︎」
「皆さん皆さん‼︎先生だって人の顔ぐらい表示できますよ」
生徒達の視線が一気に殺せんせーに集まった。
「皮膚の色を変えればこの通り」
「「「キモいわ‼︎」」」
生徒達にキモいと言われ落ち込む殺せんせーを気にかけることなく、片岡は自律思考固定砲台の呼び方を決めようと提案した。
「確かに自律思考固定砲台って長いもんな…」
「何か1文字とって…」
「じゃあ律は⁉︎」
不破の思いつきに千葉が呟く。
「安直だな」
「えーいいじゃーん」
「お前はそれでいいか?」
前原が問いかけると、自律思考固定砲台、律は笑顔で応える。
「…嬉しいですね‼︎では、律とお呼びください‼︎」
「そんじゃ律、また厳選してくるから勝負しろよな?」
「わかりました、私も様々な戦術を考えておきます‼︎」
「津芽は遅刻するからゲームやめといたほうがいいんじゃねー?」
前原に注意されるミナトを見て、律を含むE組の生徒達は笑っていた。
「上手くやっていけそうだね」
その光景を見ていた渚がカルマに話しかけた。
「んーどーだろ、機械自体に意思があるわけじゃないし、あいつがこの先どうするかは…あいつを作った開発者が決める事だよ」
「おはようございます皆さん」
次の日、律は殺せんせーが手を加える前の姿に戻っていた。前の姿に戻ったということは、ハタ迷惑な射撃が始まると皆が警戒していた。
「…攻撃準備を始めます。どうぞ授業に入って下さい殺せんせー」
律の射撃が始まると誰もが身構えた。だが、展開されたのは銃ではなく綺麗な花だった。
「花を作る約束をしていました。殺せんせーに施されたほとんどは暗殺に不要と開発者が判断し、削除・撤去・初期化してしまいました。ですが、私個人は協調が暗殺に必要不可欠と判断し、消される前に関連ソフトをメモリの隅に隠しました」
「…素晴らしい、つまり律さんあなたは」
「はい、私の意思で産みの親に逆らいました♪」
そう答える律の顔は笑顔だった。
「それに再戦の約束もしていたので」
そう言うと律は、ミナトの方をみてにっこり笑い、殺せんせーに問いかけた。
「殺せんせー、私がとった行動は反抗期と言うのですよね?律は悪い子でしょうか?」
「とんでもない、中学三年生らしくて大いに結構です」
そう言う殺せんせーの顔には丸が浮かび上がっていた。
こうして、E組の仲間が1人増えこのメンバーで殺せんせーを殺すことにミナトは喜んでいた。
「また私の勝ちですね津芽君」
放課後みんなが帰り静まり返り教室の中、ミナトは律とゲームで対戦していたが、負け続けていた。
「昨日だって徹夜で厳選したんだぞ…本当に強いな律…」
連敗したミナトは俯いていたが、しばらくして真剣な顔つきを律に見せ言った。
「いくつか頼みたいことがあるんだけどいいかな?」
「私にできることならお任せください!」
「津芽美月について調べて欲しい」
律はミナトが何を考えているのかよくわからなかったが、指示に従い調べ進めた。だが、そのうち律は幾つかの疑問を抱いた。
「津芽君、この人はお母さんですか?」
「そうだよ…」
「…彼女が何者かも知ってましたか?」
「…知ってた。もう1つ、デュラハンについて調べて欲しい」
「それは、妖精としてのデュラハンですか?」
律の質問にミナトはしばらく黙っていたが、しばらくして口を開いた。
「いや、デュラハンっていうコードネームの暗殺者について調べてほしい」
ミナトは律とのやり取りの間、自分が過去に経験したことを思い出していた。