ミナトと倉橋、2人の間に沈黙が続く。ミナトは表情を変えること無く、先ほどの倉橋の言葉を思い出していた。
(倉橋は今なんて言った?確か……速水の事を好きかどうかって聞いてきたな………………)
「はぁ⁉︎」
しばらくして倉橋の質問の意味を理解したミナトは大声で叫び、そのまま問い続けた。
「なんでそんな質問すんの⁉︎」
ミナトの慌てように動揺しながらも倉橋は質問した理由を話し始める。
「えーと…高校生との喧嘩の時も、津芽っち抵抗せず凛香ちゃん守ってたから……そんなことなかなか出来ないしもしかしたら好きだからかなーって思って」
ミナトの頭は混乱し顔は赤くなっていた。そんなミナトを見て倉橋は、笑いながら応える。
「冗談だよ♪莉桜ちゃんから津芽っちがすごく恥ずかしがり屋だって聞いたからw」
その言葉を聞いてミナトは大きくため息を吐いた。
「中村の奴……まさか倉橋に遊ばれるとは思わなかったな…」
「ごめんね、でも酔い冷めたんじゃない?」
「おかげさまで、急にあんなこと言われたら酔い冷めるよ」
「でもお似合いだと思うけどな〜」
「…もうからかうな」
ミナトの言葉に倉橋はえへへ〜と笑みを浮かべながら2人は旅館の中へ入って行った。
「それじゃこれから作戦会議始めるよ」
片岡が指揮をとり、作戦会議が始まった。
「狙撃のポイントは任せといてくれ」
「こっちも確認済み」
千葉と速水はマップを見ながら、暗殺に適した狙撃ポイントを確認している。
「狙撃は2人に任せて、私と倉橋さんと岡島君は殺せんせーを暗殺する場所まで連れて行く、そして最後は……」
「ミナト、ちゃんと忘れず持ってきたよな?」
岡島に言われたミナトは、みんなの前に伊武鬼から渡された竹刀袋を差し出す。
「わざわざじいちゃんが用意してくれたんだ、ちゃんと持ってきてるよ」
ミナトが持つ武器と彼の言葉に皆は頼もしさを覚えると、片岡は真剣な表情でミナトに行った。
「ところで津芽君」
「何?」
「明日の移動中はゲーム控えてね?」
そう言われた時のミナトの顔は、まるで世界が終わると告げられた時のようだったと千葉と岡島は思った。
「津芽っちゲームやっている間は平気だけどね」
「明日1日ゲームするの我慢するだけでしょ?」
倉橋と速水に言われ、逃れる方法はないと悟ったミナトのテンションはガタ落ちだった。
「そんな落ち込むなよ津芽」
「暗殺終わって帰ってきたら旅館のゲームコーナー行こうぜ?」
「…………分かった、明日は我慢するよ」
千葉と岡島に慰められ、ミナトは明日ゲームを我慢する決意をした。
作戦会議も終わりみんなが部屋に戻ろうとしていた時、ミナトは不意に速水に声をかけられた。
「…津芽、これ家にあったからよかったら使って?」
そう言って速水が差し出した物はパックマンの小型携帯ゲーム機だった。ミナトは目を輝かせ携帯ゲーム機を受け取ると笑みを浮かべて言った。
「速水もゲームやるんだな、ちょっと以外w」
「私も小さい時はよくやってたの。それなら小さいし、片岡や倉橋にもバレないでしょ?」
「サンキュー!……あれ?でも速水もゲーム我慢しろって言ってなかったっけ?」
そう言われた速水は、慌てて顔を逸らし頬を少し赤く染めると強く言い放った。
「別に!ただ…さっきとても残念そうな顔してたから少しかわいそうだと思っただけ……」
その時ミナトは旅館の外で倉橋に言われた事を思い出した。
『津芽っちって凛香ちゃんのこと好き?』
(あんなこと言われて意識しないとか無理だろ…)
「サン……ありがとうな速水」
「…うん、明日任せたからね」
そう言って速水は部屋に戻っていった。ミナトは自分がどんな顔でありがとうと言ったのかわからなかったが、いつも以上に顔が熱くなっていた事は分かっていた。
そして次の日、ミナト達は伏見稲荷大社を見学していた。
速水にもらったゲームのおかげで、ミナトの元気が無くなることもなく、不思議とあまり酔わなかった。
「先生が来るのはもうそろそろだな」
岡島がそう言うと、突風が吹き荒れ目の前には殺せんせーがいた。
「楽しんでますかみなさん?先生は2班のみなさんとショーを見てきまして、先生もついつい参加してしまいました。」
予定では2班と行動している先生を、ショーに気が向いているスキに政府が依頼したプロの殺し屋が暗殺するはずだった。
3班はそれぞれ残念がる気持ちを悟られないよう殺せんせーに声をかける。
「じゃーん、見てよ殺せんせー」
そう言って津芽は1本の太刀を先生に見せた。
「さっきそこのおみやげ屋で買ってきたんだ〜俺こういうの好きでさ♪」
殺せんせーはミナトが差し出した太刀を受け取った。
「これはよく売ってるおもちゃのやつですね。いやーそれにしてもよくできています。ですが、人に向けてはいけませんよ?」
ミナトは分かってるよと言って、3班は殺せんせーを連れて見学を始めた。
「「「「「「すごい…」」」」」」
伏見稲荷大社の景色は、とても幻想的なものだった。外国人観光客も多く、何よりも千本鳥居はとても神秘的だった。殺せんせーも含め3班のメンバーみな、その景色に見とれていた。
ただ頂上までの道のりはかなり険しかったが、いつものトレーニングをしていた彼らにとっては、たやすいものだった。
「いやー素晴らしい景色ですね」
殺せんせーが頂上からの眺めに気が向いているスキに、彼らは暗殺の準備を始める。
「殺せんせー、俺達そこの屋台でお稲荷買ってくるから」
「先生も食べるでしょ?」
「にゅやっ!これは申し訳ありません」
「あ、私も行くー♪」
そう言って、千葉と速水と倉橋は先生のもとを離れ、屋台の方へ向かった。
同時に岡島と片岡も準備を始める。岡島は見晴らしの良い場所で双眼鏡を覗き込むと、何かを発見し大声で叫んだ。
「先生!こっちに先生好みの金髪巨乳の外国人がいるぞ‼︎」
岡島のこんな分かりやすい嘘に騙されるやつはいない。
だが、殺せんせーなら必ず引っかかると全員が確信していた。
「にゅやっ!本当ですか?」
案の定、殺せんせーはわかりやすい岡島の嘘に引っかかった。
「あぁ、俺も先生には負けるが目は良い方だからな。」
殺せんせーは岡島が指差す方を眺めている。
「岡島君、やはり君は先生の好みを分かっていますねー」
本当にいたことに岡島は驚くが、悟られないよう言った。
「俺のエロも先生にはかなわないがな」
殺せんせーの顔がピンクになり油断した一瞬を片岡は見逃さなかった。片岡はどこかに身をひそめた千葉と速水にわかるよう合図を送る。
((…………今‼︎))
千葉と速水は同時に引き金を引くが、その弾丸を殺せんせーは振り返ること無く避けた。
「ヌルフフフフフ、引き金を引く一瞬殺気を感じました。それと気をつけてくださいね、その弾丸は先生を殺すためのものです。ここにいるほかの観光客や動物に当たっては危ないですよ?」
その時、殺せんせーは自分が言った言葉に引っかかりを覚える。
(先ほどまで、こんなにたくさん動物がいなかったはず…)
いつの間にか殺せんせーの周りをたくさんのキツネ達が囲んでいた。それは、動物、昆虫に関しての知識がクラス1の倉橋が用意したものだった。
「にゅやっ⁉︎狐がこんなにいっぱい‼︎先生油揚げを用意していませんでした‼︎」
予想外の展開にテンパる殺せんせーに3班は最後の追い打ちをかける。キツネの中から何かが飛びだし、その何かは手に持つ刀で殺せんせーの体を斬りつける。
それは、キツネの仮面をかぶったミナトだった。
「そなたの存在は害なるもの。我らの聖域を侵すことは許されぬ」
オカルト嫌いの殺せんせーには、効果抜群だった。
「にゅやーーーーーーーー‼︎キツネの神様ー‼︎」
ミナトは躊躇うことなく、先ほど殺せんせーに見せた太刀をかざして思いっきり斬りかかった。