修学旅行前日の休日
外で遊ぶにはもってこいの晴天の中、ミナトは姉の雪乃とともにゲームをしていた。
「それじゃ修学旅行は京都なの?」
「そうだよー。はい、また俺の勝ちね」
相変わらずゲームに連敗中の雪乃に、ミナトは呆れつつも答える。
「いいなー…私も行きたいよー」
ミナトは無理だよと苦笑いで応えるが、雪乃の1度言ったらきかない性格を知っていた。
「私も京都いきたーい!」
「あーもう!無理って言ってるだろ⁉︎俺これから修学旅行の買い物行くから」
ミナトに強めに言われ雪乃は俯き、黙り込んだと思ったら突然呟いた。
「ならそれで我慢する…」
「は?」
「ドウシテコウナッタ…」
ミナトは、修学旅行の買い物をわがままな姉と行くことになってしまった。
ミナトと雪乃は大型ショッピングモールに来ていた。修学旅行の買い物と言っても、お菓子や泊まりグッズなどを買うつもりだったが…
「ねぇねぇ、私あっち見てみたいんだけど」
「じゃあ俺買い物行ってくるから、迷子にならないようにね」
「えー、一緒に見ようよー?」
ミナトは呆れた目で雪乃を見る。少し悩むがため息を吐くと、ミナトは分かったと言い雪乃と一緒に見て回ることにした。
その頃、中村と不破はミナト達と同じショッピングモール内にある書店にいた。
「中村さんいい本あったー?」
「んーないなー」
そう言いながらも中村は、漫画を立ち読みし笑っていた。
「絶対このキャラとこっちのキャラくっつけたほうが面白いのにw」
「はいはい、そんなことより漫画探そうね」
不破に背中を無理やり押されるが、中村は面白い物を見つけ立ち止まる。
「中村さんどうしたの?急に立ち止まって」
中村が指差した方を見ると、クラスメイトのミナトが見知らぬ女性と一緒に歩いている。
「あれって津芽君と…誰⁉︎」
「不破ちゃん、私はあの2人を尾行するけどどうする?」
「もちろんついていきます!」
ゲスな微笑みを見せる中村に、不破は笑顔で答え2人の尾行が始まった。
ミナトは1人ベンチで休んでいた。
雪乃のわがままに付き合わされ、自分の買い物は何一つ終わっていなかった。その雪乃は先ほどドーナツを買ってくると言って、1人でどこかへ向かってしまった。ミナトはまだかと辺りを見渡すと、見覚えのある2人と目が合った。
「何してるの?」
「いやーバレたかーw」
笑いながら言う中村とともに不破もやってきた。
「津芽君が大人のお姉さんとデートしてるからついw」
ミナトは一瞬硬直する。自分が姉と一緒に買い物しているのをデートとして見られたことが、あまりにも恥ずかしかった。
「誤解だー!あれは俺の姉ちゃんなんだよ!」
そう言うミナトの顔は赤くなっていた。
「本当かなー?そんな必死になって、顔赤くして怪しいぞー津芽君?」
「当たり前だろ!デートだと思われてたなんて…恥かしすぎる…」
((こいつ思ってたよりも、ピュアだ!))
顔を逸らし言うミナトに中村と不破は彼の弱みを握ったと思った。その時だった…
「おいおい、お前ら公共の場では静かにしろよ!」
不意に声をかけられるが、ミナトは声の主に見覚えがあった。
「お前は俺にボコボコにされたやつじゃん」
「もっとまともな覚え方あんだろ⁉︎」
状況の読めない不破に中村は、ミナトと彼らの関係を話した。
「つまりあの人達は、本気の戦闘の時間で津芽君に喧嘩を売って負けた人達ってこと?」
「そうそう」
「へぇー津芽君ってそんなに強いんだね」
「人は見かけによらないっていうけど本当だね〜」
そう言いながら、中村と不破は高校生と話すミナトに目を向けた。
「んで、俺に何か用?そんな大勢連れてきてw」
ミナトの目の前には、以前よりも多くの高校生が集まっていた。
「この前のリターンマッチといこうぜ」
「先に言っとくけど、この2人には絶対手を出すなよ?でもめんどくさいなー、俺これから買い物しないといけないし……」
「お前…舐めるのもいい加減にしろよ!」
高校生の拳はミナトの顔面目掛けて放たれたが、最小限の動きでかわされた。
「こいつ、なめやがって‼︎」
「ちょこまか動くんじゃねぇ‼︎」
「くそ!全然あたんねぇぞ‼︎」
(烏間先生の避け方ってこんな感じだったっけ?)
ミナトは烏間先生の動きを思い出し、自分なりに再現していた。
(相手の次の攻撃も予測して…うーん、さすがにこの数はきついかも…かといって反撃して明日からの修学旅行行けなくなったら嫌だしな………てか最近ゲームやりすぎてるせいで眠い……)
ミナトは慣れない動きと睡眠不足のせいで次第に避ける事が手一杯になってきた。
「そろそろ疲れてきたみたいだな、お前ら一斉にかかれ!ついでにいい加減俺の名前を教えてやる!」
だがその高校生は自分の名を名乗ることなく、踵落としで床に叩きつけられる。その光景にミナト、そして中村と不破も驚くことしかできなかった。
「流石にその威力はちょっとまずいんじゃない?姉ちゃん」
高校生達はリーダーが1人の女性にやられたことに、困惑していた。だが、彼女の次の一言で彼らは恐怖する。
「警察です。全員同行願えますか?」
「「「「「………えーーーーー⁉︎」」」」」
そう言って雪乃は警察手帳を提示しその後、高校生達は雪乃が呼んだ警察によって連行された。警察と話し終えた雪乃は、いつもの笑みを浮かべミナトたちの元へやってきた。
「大丈夫だった?ミナトのお友達も平気?」
先ほどの表情とは打って変わって、ほんわかした表情をしていた。
「大丈夫です…そのありがとうございました」
中村は戸惑いながらも応える。
「よかったー♪そうだ!ドーナツあるんだけどみんな食べよう?」
その後、雪乃のギャップに中村と不破は戸惑っていたが彼女のほんわかした雰囲気により、話すうちにとても仲良くなっていった。
「ギャップ萌えかな?」
「不破、いくら何でもあれはギャップありすぎだぞ…」
中村と不破にまた明日と告げ、ミナトと雪乃は帰路についていた。4人でドーナツを食べた後、中村の妨害はあったもののミナトはなんとか買い物を終えることができた。
「いやー楽しかったねー♪」
雪乃は笑顔で言った。仕事が忙しくリフレッシュ出来てよかったとミナトが思っていた時、雪乃は口を開き思い出すかのように言った。
「さっきの高校生たちの攻撃を避ける動き……あれ誰の真似したの?」
「……いつから見てた?」
「かなり前からかなー」
ミナトの唖然とした顔を見て、雪乃は笑みを浮かべ言い続けた。
「さっきの動きはミナトの身長にあってないかもしれないよ?少し動きにくそうだったし」
(確かに3人の攻撃を避けていたとき動きにくかったな…)
「それと初めは集中出来てたけど、しばらくしたらおろそかになってたよ?そんなんじゃ、私に空手で勝つのはまだまだ先だね」
ミナトは小学校の頃から、雪乃に空手を教わっていたが勝ったことは一度もなかった。雪乃の言葉にカチンときたのかミナトは挑発混じりに言葉を投げかける。
「ゲームの時の集中力なら姉ちゃんにも負けないけどね」
「言ったなー?よし、帰ったら格ゲーやろう!」
「ちょっと待って、俺明日から修学旅行…」
地雷を踏んだとミナトは自分が発言したことを後悔した…
その後、長時間の戦いの末高校生達との戦いでかなりの集中力を使ったミナトは、初めて姉にゲームで負けた。
「よっしゃ!やっと勝てたー!」
「初めて負けた…」