隔離校舎へと続く坂を登っている途中、岡島は目の前にいるクラスメイトに声をかける。
「よっ!ミナト」
「岡島ー、助けてくれよ…」
そう言うミナトの顔は少しやつれ、眼の下にはくまができていた。
「お前…そのくまどうしたんだよ⁉︎」
「帰ってきたんだよ…」
「帰ってきたって…もしかして雪乃さん⁉︎」
「うん……」
昨晩のこと
「ねぇ、もう寝ていいかな?」
「何言ってんの⁉︎私まだ1回も勝ってないんだから。勝ち逃げなんて許さないよ?」
時刻は深夜12時、ミナトと姉の雪乃はレースゲームをしていた。普段は一人暮らしをしている雪乃が帰ってきた時はこうして姉弟でゲームをするのが決まりのようになっていた。
「明日仕事は?」
「ふふーん明日は休みー♪だから帰ってきたんじゃん」
「俺学校なんだけど…」
「文句言わない!あ、手加減したら怒るからね?」
「もう寝たい…」
結局ミナトは、3時までゲームに付き合わされた。
「雪乃さん負けず嫌いだからな…お前が苦手なジャンルで勝負すればよかったのに」
ちなみに岡島は雪乃と数回あったことがあり、岡島は綺麗なお姉さん、雪乃は将来危なくなりそうな弟の友達という認識をしている。
「姉ちゃんがやりたいって言ったのが、レースゲームだったんだよ…」
岡島は散々だったなと笑うと、何か思い出したように言ってきた。
「そういえばミナト、班は決めたか?」
「なんの?」
「なんのって、修学旅行だよ。もう来週まで迫ってんだぞ?」
中間テストが終わり、6月を迎え3年E組は修学旅行の準備を進めていた。ちなみにミナトは岡島のいる班に入れてもらった。メンバーは、岡島、千葉、ミナト、倉橋、速水、片岡の6人。ちなみに今回の修学旅行でも殺せんせーの暗殺は継続して行われ、国が雇った凄腕のスナイパーが暗殺しやすいようコースを話し合っていた。
「しっかし修学旅行の時ぐらい、暗殺のこと忘れたいよな〜」
「そう言ったって仕方ないでしょ?さぁ、暗殺向けのコース決めよう!」
岡島をなだめ学級委員である片岡を中心に、話し合いが始まった。
「なるべく人通りが多い方がいいかもね」
「殺せんせーあぁ見えて鼻が効くから匂いをごまかさないと…」
「高さがあったほうがスナイパーさんも楽かな?」
片岡、岡島、倉橋がそれぞれ意見を出すが中々まとまらず時間だけが過ぎる。そんな中ミナトはあることに気づいていた。
暗殺向けのコースはまた明日決めることになりミナトは放課後を迎え、あるクラスメイトの元へ向かった。
「なぁ千葉、これからどっか行って暗殺のコース考えない?」
千葉 龍之介
目が見えないくらい伸びた前髪が特徴で銃の扱いがうまい男子だ。
「津芽か、いいけど俺とお前だけか?」
「いや、あと速水も誘おうと思ってるけど」
ミナトは班のメンバーで話している時、速水と千葉が発言していなかったことに気づき2人を誘ってみることにした。
「速水もだけど千葉もさ、もっと意見言っていいんじゃないの?」
「俺はそう言うの、あまり得意じゃないからな…」
昔のことを思い出しているのか顔を俯かせながら話す千葉にミナトは親近感を覚えた。
「俺もさ前のクラスでは孤立して誰にも助け求めなかったけど、E組に来てからそれが出来た」
その後ミナトは笑顔で言い続けた。
「それって結構嬉しいんだよね、頼れる仲間がいるってことだから」
ミナトはそう言うと恥ずかしそうに笑った。そんなミナトを見た千葉もうっすらと笑みを浮かべていた。
「津芽は初めの頃と比べてだいぶ変わったな。OK、速水呼んでくるから場所決めといてくれよ」
「りょーかい♪」
千葉はミナトに笑顔で答え、速水の元へ向かった。
その後、ミナト、千葉、速水、そして女子1人は嫌という理由で速水が倉橋を誘い、計4人でサイベリアへ向かい、暗殺コースの話し合いを行った。
「津芽が提案したから全部奢ってね」
「速水、流石にそれだと俺の財布が…」
「「ごちそうになりまーす」」
「お・ま・え・ら・な・‼︎」
結果この日、ミナトの財布はほぼからっぽになった。
翌日
「伏見稲荷大社って、あの千本鳥居があるところだよな?」
「そうだよー」
岡島の質問にミナトは答え、再び片岡が問いかけた。
「津芽君どうして、そこを選んだの?」
「それは、俺らのクラスの名スナイパー2人から聞いてくれ」
ミナトがそう言うと班のメンバーが千葉と速水に注目した。2人は視線が集まることに緊張しながらもしっかりと自分たちの意見を述べた。
「暗殺は岡島の言う通り千本鳥居で行う。あそこは観光地で人通りも多いし、殺せんせーの死角も多数作れる」
「あの幻想的な景色なら、殺せんせーでも釘付けになると思ってね。それに津芽が秘策あるんだって」
千葉と速水の説明を終えると、岡島と片岡がミナトの秘策に疑問を抱く前に、倉橋は天真爛漫な笑顔を浮かべ言った。
「それに津芽っちも見たがってたもんね〜千本鳥居」
「ちょっと待って倉橋‼︎それは言わないでって昨日言ったじゃん⁉︎」
倉橋はハッと思い出したがすでに遅かった。片岡は一瞬、怒ったような顔をしたがいつもの顔に戻った。
「流石はE組の名スナイパーコンビね。 確かにあそこの景色なら殺せんせーも釘付けだよ」
「でしょ?片岡だって本当は見たいんじゃん」
「津芽君?」
「はい、すいませんでした…」
片岡とミナトのやりとりを見ていた他の班員達は、笑い出した。
そんな中、千葉と速水は周りには聞こえないよう小さな声で話し出す。
「自分の意見言うって結構大変だけど、ちゃんと聞いてくれる仲間がいるのはいいことだな」
「まぁ、誰かに頼るってのも悪くないかもね」
「「津芽に感謝だな(ね)」」
2人は目の前で片岡に怒られるミナトを見て笑いながらも、自分達を少しだけ変えるきっかけをつくってくれたことに感謝していた。