「タイミング悪いよなー全く」
笑みを浮かべるミナトの周りを鉄パイプや金属バットを持った高校生が囲むように陣取っていた。
少し前のこと……
高校生の仲間と思われる奴らが突如、倉庫の扉を開け入ってきた。ミナトにとっては倒す相手が増えるだけで問題なかったが、その中にはクラスメイトである速水凛香の姿もあった。
その後ミナトは速水を人質に取られ、手を出せないまま現在に至っていた。
「散々暴れてくれた礼しないとな!」
高校生は木材を振り上げ無抵抗のミナトにおもいっきり振り下ろす。その後木材や鉄パイプで殴りつける音が鳴り止むことはなかった。
どれくらい時間がたったかわからない。だが彼女はかすかに聞こえる何かを殴りつける音によって目を覚ました。
「ここって…倉庫の中……あれ?私いつの間に中に入って…」
しかし、そんな疑問などどうでもよくなることが彼女の目の前で起こっていた。
「津芽‼︎」
彼女の目の前には、高校生に囲まれ負傷しているミナトの姿があった。
「ようやくお目覚めか?お前を人質に取ったおかげでこっちは楽してアイツを痛めつけることができるぜw」
笑いながら言う不良に腹が立ったが、両手を縛られてる速水には何もできなかった。
「これで終わりだな!」
ミナトを取り囲む高校生達の中で最も下っ端と思われる男は鉄パイプを彼の頭部めがけて振り下ろした…
「にゅやっ‼︎遅くなりました」
そいつは突如、屋根を突き破り空から落ちてきた。
「あれ?鉄パイプがないぞ」
「あーそれなら上に」
降ってきたそいつは上を指差しながら言った。次の瞬間、上から落ちてくる鉄パイプが頭に直撃し下っ端は気を失った。
「危なかったですねーミナト君。速水さんも無事でなによりです」
「あ、ありがとうございます殺せんせー」
あまりにも速い一瞬の出来事に、速水は戸惑いを隠せなかった。
「せんせーお願いがあるんだけど」
「なんですかミナト君?…って、頭から血が出てるじゃないですか⁉︎」
ミナトはふらふらと立ち上がり答える。
「相手の大将は俺にやらせてほしいんだ。だから他の奴はせんせーが相手してくれると嬉しいな〜」
ミナトはいつも通りの笑みを殺せんせーに向けていた。
「ミナト君、勝手ながら君の過去を調べさせてもらいました。前のクラスで何があったかも」
その言葉にミナトは俯いた。
「君は今、何のために戦おうとしていますか?」
ミナトは殺せんせーの言葉にしばらく答えることができなかったが、ふと顔を上げると普段通りの笑みを浮かべて言った。
「いーやー、クラスメイトにまで危害加えんのが許せなくてさ。例え前のクラスと同じようになっても、俺は今本気を出すことに後悔しないよ」
「あなたの友達を思う気持ち満点です!」
そう言う殺せんせーの顔には丸印が浮かび上がっていた。
「ミナト君、誰かのために力を使うのはとても素晴らしいことです。安心してその力を振るってきてください。ですがあなたが傷ついて悲しむ人がいるのも忘れないでください?」
そう言われたミナトは速水に目を向ける。速水は心配そうな顔でこちらを見ていたが、目が合うと頬を染めつつ視線を逸らした。
「そんなミナト君にミッションです」
「無事に戻ってこいでしょ殺せんせー?言われなくてもそのつもりだよ、明日からE組のみんなと一緒にせんせーを殺さなきゃいけないんだから」
そう言うとミナトは不良高校生のボスと思われる男の元へ向かった。
「殺せんせーと津芽君、何話してたんだろう?」
E組のメンバーも倉庫にたどり着き、外から中の様子を伺っていた。
「でも、なんだか津芽君嬉しそうだったね」
茅野の言葉に渚も共感し言った。
「確かに今までより爽やかな笑顔になってた気がする」
「ヌルフフフフフ、先生が綺麗に手入れをしてきましたから」
(せんせーいつの間に‼︎)
その場にいた生徒全員が同じことを思った。そして倉庫の中をみると、不良高校生達は1人を除いてとても綺麗に手入れされていた。そんなことはおかまいなしにと、殺せんせーは言葉を続ける。
「ミナト君は前のクラスで1人だった…そして家族の中でも1人になってしまった」
殺せんせーの言葉の意味を、渚達は理解できなかった。
「元々は成績優秀な生徒だったと聞いています。ですが周りがそれを良く思わなくなり険悪な目で見られるようになった………結果彼は、何事にも本気で取り組む事をやめた。学校をサボっていた時期もあったそうです。ですが、今ミナト君は過去のトラウマにとらわれることなく自分の力を発揮しようとしている。ヌルフフフ、今後の暗殺教室がより楽しみですね〜」
そう言う殺せんせーの顔はとても嬉しそうだった。
「さぁて、お互い一対一で始めようか」
ミナトは指を鳴らしながら男に少しずつ近づいた。
(不思議な感じだ…でもとても懐かしい。本気で取り組むってやっぱ良いことだよな)
「さっさと終わらせようぜ、不良の大将さんよぉ!」
「なんなんだよお前はよぉ‼︎」
その一言に怒り狂った男は、単純に拳を突いてきた。ミナトは相手の殴りかかってきた腕を掴み、突きの速さを殺さずそのまま一気に背負い投げた。
「どっこいしょ‼︎」
本当に一瞬、ミナトの動きを見たE組の生徒達はみな驚いていた。
「今のは背負い投げ…だよな?」
「テレビでもあんな速い背負い投げ見たことねぇよ…」
木村と杉野はあまりの速さに、呆気を取られていた。
「よかったよかった♪早く終わらせることができて、まぁ何度やっても俺の勝ちだろーねーw」
そしてミナトは倒れている男のそばまで歩み寄ると、彼の耳にだけ聞こえるようささやいた。
「だけど次、俺の友達に手を出したら殺すから」
ミナトは怒りのこもった言葉を残しガタガタと怯える男を目にするとくるりと振り返り、クラスメイト達の元へ向かった。
「宿題終わったよ殺せんせー♪」
ミナトは笑顔でE組の元に戻ってきた。そんなミナトの周りにはたくさんの仲間達が駆け寄っていた。
「すげーな津芽‼︎あんな早い背負い投げ見たことねーよ‼︎」
「たまたま上手く決まっただけだよw」
「そんなことよりはやく止血しないと‼︎」
「なっ⁉︎すっかり忘れてた‼︎」
「「「忘れてたんかい‼︎」」」
(迷いのない爽やかな笑顔。そしてクラスメイトともすでに打ち解けてる様子……その内に秘める殺意もとても素晴らしいものです。ヌルフフフフフ)
E組の仲間たちとじゃれ合うミナトを見て、殺せんせーは新しいクラスの一員が増えたことをとても喜んでいた。