ミナトは自分の意思で構えたわけではない、長年教えられてきたことを自然とやっていた。
「あの構え方は暗殺向きではなく実戦向きの構えですねーヌルフフフフフ」
突然現れた殺せんせーに驚きつつも渚は質問する。
「実戦向きってどういうこと殺せんせー?」
「ご覧なさいナイフを持たない左手を腰の後ろにあて、自分の体をナイフの向きと一直線上にすることで心臓や左手を狙われないよう工夫しているでしょう?」
「確かに…」
渚はミナトの構えを見て思った。
(津芽君はどこであんな構え方を覚えたんだろう)
それと同時に渚は津芽ミナトという転入生に疑問を抱いていた。
「そんじゃいきますよー烏間先生」
ミナトは勢いよく烏間めがけてナイフを突く、しかし烏間に軽々と避けられてしまった。
(突きの速さはなかなかのものだな。だが視線を見ればどこを狙っているか分かる。まだまだ単純な動きだ)
ミナトは一旦烏間との距離を置き深呼吸をした。
(あの速さじゃ全然通用しないな……ならもう少し速く突く‼︎)
ミナトは地面を強く蹴り烏間めがけてナイフを突いた。その速さは先ほどの攻撃よりも速くなっていた。
しかしその速さも烏間には通用せずそんな中、烏間は攻撃を避けながらも楽しんでいた。
(暗殺向きではないがなかなか高い戦闘技術だ)
烏間は少しだけ微笑んだ。だがその時、烏間にほんの一瞬の隙が出来たことをミナトは見逃さなかった。
「油断大敵!」
烏間の左頬をめがけてナイフを突く。烏間はすぐさま切り替え攻撃を避けるが、第二撃の突きが烏間の右頬に迫っていた。
「まだまだいくよ烏間先生!」
ミナトは勢いの突いた攻撃をどんどん続けた。そんなミナトの連撃は勢いを落とすこと無く、速さを増していき烏間も避けることで精一杯になっていた。
「なぁ前原、烏間先生だいぶ動きが大きくなってないか?」
磯貝の言う通り烏間の避ける動作は少しずつ大きくなっていた。
「烏間先生をあんなに翻弄させるなんて俺たちだってまだ出来ないぜ」
「ねぇ岡島君と竹林君って津芽君と知り合いなんでしょ? 彼何か武術習ってたの?」
ミナトの速さに疑問を抱いた片岡は岡島と竹林に問いかけた。
「残念だけど俺と竹林もあいつと同じクラスだったわけじゃないからよくわからないんだ」
「岡島の言う通りだよ。それに彼は自分のことをあまり話したがらなかったから」
岡島と竹林の話を周りで聞いていた生徒たちもミナトのことを疑問に思っていた。
「ねぇねぇ殺せんせーは津芽君について何か知らないの?」
倉橋の質問に殺せんせーは少し迷ったが答えた。
「誰にでも知られたくないことはあります。ですがミナト君のことはいつか彼自身が話してくれますよ」
「おい!あれ見ろよ!」
杉野が指差す方を見ると、ミナトが烏間の上を取っていた。
「いったいいつの間に」
「避けるのに精一杯になってた烏間先生の足を払って転ばせてたぜ」
磯貝の質問に杉野が答えた。
ミナトのテンションは烏間との戦闘で最高潮に達していた。
(ここまで楽しめたのひさびさだ♪今ゲームよりも楽しんでるよ俺‼︎)
「これで終わりですね烏間先生!」
ミナトは勢いよくナイフを振りかざす。烏間はナイフを払う体制を取っていたが一瞬ミナトの動きが止まった
「何やってんだあいつ?」
「体力なくて疲れちまったんじゃねぇの?」
吉田と村松がミナトの動き見て冷やかすように言った。
その時ミナトは元クラスメイトにかけられた言葉を思い出していた。
(さすがだね〜勉強も運動もできるやつは)
そんなの俺だけじゃない………
(何でも出来てあいつムカつくんだよな)
この前俺に勉強教えてくれって言ったじゃんか………
(何かやらかしてE組落ちればいいのに)
何でそんなこと言うんだよ……友達じゃなかったのかよ⁉︎
(俺なんでも出来ますみたいな顔してんじゃねぇよ)
そんな顔してるつもりないよ………
「ダメだ…本気を出したらまた1人になる。もう二度とあんな時間を過ごしたくない…やめないと…」
ミナトはボソッ呟くとそのままナイフを振り下ろすことはなく、校庭内には制限時間の3分を告げるブザーが鳴り響いていた。