長かった…2週間くらいメンテしてたら待った甲斐があった(*´w`*)
作者のどうでもいい余談でしたw
それではどーぞー♪
喧嘩に明け暮れる日々を送り続け、いつしか年上にも負けない強さを手に入れた。母親と共に虚刀流を学び、大切な家族を守る強さを手に入れた。だが、そんな強さはまやかしだとミナトは思い知らされた。
腹部に何発も蹴りを喰らったからか感覚は麻痺し、痛みも感じなくなっていた。そんな薄れゆく意識の中うっすらと聞こえる相手の声。
『人間はどうしたら強くなると思う?』
(知るかよそんなこと…)
ミナトは脳裏にジウの顔を思い浮かべながらイラッとした。自分が今まで培ってきた強さが通用しない、奴に勝つことは無理なんじゃないかと………そう思い始めた。
『僕はこう思うんだ………怒り、憎しみ、そういった負の感情が爆発した時、人は自分の予想をはるかに超えた力を出し切れるようになり強くなると……』
(負の感情が人を強くする?だったらなんで母さんと都が殺された時、俺は何も出来なかったんだ……)
薄れる意識の中、ミナトの自問自答に当然答えは返ってこなかった。だがそれは以前までの彼の話………今の彼の中には意思を持つ別の何かがいた。
((怒ることも憎むこともせず、ただ悲しんでいたからだろう))
(………………………どういうこと?)
((初めて僕と会話をしてくれたね、とても嬉しいよ))
(そんなことより、どういうことだよ?)
((ジウ、彼は言ったね人を強くするのは負の感情だと。これは僕自身の考えだが、人を強くするのは負の感情である怒りや憎しみ………そこから最終的にたどり着く復讐心だ))
(復讐心……)
((悲しんでいるだけでは復讐心は芽生えない。だから君はあの時何も出来なかったんだ))
ミナトは彼の言葉に、自分があの日動けなかった理由がはっきりと分かった。
そんな時、外から声が聞こえてきた。
『君の大切な人が死ねば君はいったいどれ程強くなるのかね‼︎』
その言葉にミナトは1人の女性を思い浮かべると共に意識を覚醒させ、カッと目を見開いた。
((理解できたはずだ…君が強くならなければ大切な人を失う。怒り、そして憎め‼︎自分から大切なものを奪う敵を……奪われたくなければ…))
「奪うしかない…」
((ほんの少しだけ力を貸してあげる))
意識を覚醒させたミナトは、いつの間にかジウの腕を強く握りしめていた。
先ほどまでピクリとも動かなかったミナトが立ち上がり、自身の腕を力強く握っていることにジウは驚きを隠せずにいたが、その表情は少年のように輝いていた。
「とてもいい目になったじゃないか♪」
「…………」
上機嫌なジウに対しミナトは何も答えることなく、黙って彼を睨みつけていた。
「だ、大丈夫かよ⁉︎」
叫び声に反応しミナトが目を向けると、生徒達や先生達がジウのナイフにやられた1人を囲い込み心配していた。
「まぁ加減はしたから死ぬことはないと思うんだけど………君のクラスはみんな大袈裟だ」
ジウはミナトの方に目を向け言葉を投げかけたつもりだったが、気づいた時には口から血を流し地面に倒れ込んでいた。
「………何をした?」
まさかの出来事にジウは呆気にとられていた。そんなジウに歩み寄りミナトは先ほどとは逆の立場、ジウを見下すように右頬を指差しながら言った。
「……ここ、ぶん殴っただけ」
淡々と答えるミナトを前に、ジウは驚きを隠せずにいたがそれと同時に喜びから来る笑みを必死に抑えていた。
(素晴らしい………君は想像以上の可能性を秘めている‼︎今殺すのは勿体無い………だが………)
ジウはこちらを睨みつけるミナトに目をやった。その目からは溢れんばかりの殺意が痛いほど伝わってきた。
(…………少し本気を出そうか)
次の瞬間ジウはミナトの顔面めがけ拳を振るう、だがミナトもまたジウの顔面めがけ拳を振るい、互いに拳をぶつけ合った。
そのまま休むことなくジウはミナトめがけ蹴りを放つ。ミナトはその蹴りを片腕で防ぎ払い飛ばすと、体勢を崩したジウの鳩尾に拳を放った。
「ぐっ………」
「これで終わりとか思ってないよね?」
ミナトはよろめくジウの腕を掴みそのまま背負い投げると、高く飛び上がり足を斧刀に見立て一気に振り下ろした。
「虚刀流・七の奥義…落花狼藉…改」
ジウは急いで立ち上がり頭上で腕を交差しミナトの攻撃を防いだ。
「ここまで強くなるのか君は……」
「何言ってるかわからないけど、これはただの落花狼藉じゃないよ」
ミナトはそう言うと片足の攻撃を防がれた状態で、もう片方の足を掲げると勢いをつけ振り下ろした。2本の足から放たれる落花狼藉、それはまるで獲物を仕留める獅子の牙のようだった。
「言ったじゃん、落花狼藉…改って」
ジウと戦う冷静なミナトの姿に、リング内にいた海莉は驚き戸惑っていた。
「どうなってんだよ……さっきと動きが全然違うじゃねぇか……」
「彼がなぜあそこまで優位に戦えているのかわかりませんが、ミナト君自身に何かが起こったことは確かです」
「それって副会長が強くなったのと同じ原理なのか?」
海莉の言葉に殺せんせーはジウと対峙するミナトに目を向けた。
「触手細胞は植え付けた本人に常人を超える戦闘力を与える代わり、様々なデメリットを与えます。ミヤコさんが息を絶え絶えにしているのもそれが原因です。だが、ミナト君にはそのデメリットが1つも無い…………」
「何があいつをあそこまで強くしてんだよ…」
海莉と殺せんせーはミナトとジウの戦いをただ見ていることしかできなかった。
ジウはミナトの落花狼藉・改を何とか防ぎ、笑みを浮かべる。
「そう言えば君は虚刀流を使うんだったね………でもそんなものに頼らなくても君には充分力がある‼︎」
ジウはそう言いながら両腕を使いミナトを払い飛ばす。
「何のことかさっぱりわからないんだけど…」
「とぼけるつもりかい?津芽ミナト君」
睨みつけ殺気を放つミナトと、笑みを浮かべるジウ。2人の間に沈黙が続く中、互いに何かを感じ取り同じタイミングで走り出した。
(コロシテヤル…)
(もっと楽しませろ‼︎)
そんな2人の間に割って入ってきたのは、人間でも無く、超破壊生物でも無く1本の触手だった。2人は触手が放たれた方向に目を向けると、息を絶え絶えにするミヤコの姿があった。
「ジウ…早く暗殺を……そのために私は………この触手を……受け入れたのです………」
そんなミヤコにジウは冷たく言い放った。
「手を出すなって言ったよね?僕は今、彼との戦いを楽しんでいるんだ………邪魔するならお前も殺すぞ?」
ジウの言葉にミヤコは絶望の表情を浮かべていた。
「……………それじゃ私は…何のために今まで頑張ってきたのですか……」
膝を落とし顔を俯かせ落胆するミヤコに、ジウはゆっくりと歩み寄った。
「所詮君は捨て駒ってことさ♪」
ミヤコはその言葉の意味を瞬時に理解し、それ以上何も言うことは無かった。
「さて、続きと行こうか津芽君♪」
「そこまで‼︎」
ジウが笑みを浮かべミナトの方へ振り返ると、肩を抑える真琴の姿があった。
「泉先生……その肩の怪我は」
「集中するのはいいが君はもう少し周りをよく見ろ。速水さんは無事だ」
その言葉にミナトは我に返り、慌てて生徒達の方に目を向ける。そこには無傷の速水が笑顔を向けていた。
(生きてる………良かった………)
((……………))
ミナトの様子がいつも通りに戻ったことを目にした真琴は、恐る恐るジウの方へ目を向けた。
「確認したいのですが、今回の暗殺のルールはイトナ君の時と同じでよろしいんですよね?」
「……………そうだね、イトナ君の時は机をリングに見立てた。今回は白線をリングとしたけど、外に出れば死刑というルールは同じだよ」
「その時もう一つルールがあったことはご存知ですか?」
「もう一つのルール?」
「観客に危害を与えた場合も負け………あなたは速水さんに向けナイフを投げた。その時点で勝者は津芽君となっているのです」
笑みを浮かべるジウに、真琴は恐怖しながらも臆する色もなく言った。
「そんなルールがあったのか………それは知らなかったよ♪それにしても君は優秀な教師だね。生徒を守り、僕に恐怖しながらも臆することなく楯突く、その勇気を誇りに思うといい」
ジウはそう言うと真琴の横を通り過ぎコートを手に取ると、この場から立ち去ろうとした。
「おい待てよ‼︎そいつはどうするつもりだ⁉︎」
「そいつ?」
「トボけんなミナトの妹のことだよ‼︎」
寺坂と村松の言葉に、ジウは落胆するミヤコに目を向け言った。
「彼女はもういらないよ。あとは君達の好きなようにすればいい」
「てめぇ‼︎」
「いい加減にしろよ‼︎」
怒りを抑えきれずジウに殴りかかろうとする村松と吉田であったが、ジウはその2人の間を何事も無かったかのように通り過ぎた。
「「………は?」」
「確か………人間が死神を刈り取ることは出来ないだったかな?」
ジウは意味深な言葉を言い残すと生徒達の方へ振り返り、無邪気な笑みを浮かべ言った。
「今日は楽しかったよ。また遊びに来るね♪」
それはまるで友達の家に遊びに来た少年が自分の家に帰るようだった。
「待てよジウ‼︎」
「…後ろ気をつけたほうがいいよ?」
ジウを呼び止めるミナトであったが彼の言葉を聞き急いで振り返ると、暴走したミヤコの触手が目の前まで迫っていた。
「あぶねっ‼︎」
ミナトはギリギリその触手をかわすが、振り返った時には既にジウの姿は無く、ぶつぶつと何かを呟くミヤコの方へ目を向けた。
「まったく……世話のかかる妹だな」
ミナトはそう言いながらゆっくりと立ち上がり、自分の手の平に拳をぶつけると覚悟を決め口にした。
「兄ちゃんが助けてやるよ」
ミナトとミヤコ、2人の戦いは最終局面を迎えようとしていた。