井武鬼がE組の生徒達に訓練をしている頃、津芽家では八重野が縁側に座り日向ぼっこをしていた。
「おじいさん張り切りすぎて、腰を痛めないといいんだけど…」
笑顔で家を出た井武鬼の顔を思い出し、八重野は心配していた。
「まぁ大丈夫でしょう」
そんな心配もすぐに消え去り、八重野はお茶を飲んだ。
風に揺られ鳴り響く風鈴の音、鳴り止むことの無い蝉の声 八重野は夏の訪れを感じていた。
「それにしても、裕翔にも困ったもんだ…」
先日、ミナトがミヤコに自分の正体について話されていた頃、家にいた八重野に一本の電話が入った。
相手は津芽裕翔 湊と雪乃の父親で研究機関で働いているため家に帰ってくることは少ない。
電話越しに裕翔は、『養子が一人できた』と言った。
八重野はどうことかと問い詰めたが、裕翔は応えること無く通話は切られてしまった。
「まったく…」
八重野がため息をつくとお茶菓子を持ってくる人影がゆっくりと近づいてきた。
「おお、ありがとうね日和ちゃん」
八重野が笑顔を向けお礼を言う相手、日和ちゃんと呼ばれた彼女は人間では無く、からくり人形だった。
蔵の掃除をしていた時、たまたま彼女を見つけ動かなくなっていたのを八重野が直した。
実際このからくり人形がどういった存在なのかは、井武鬼から聞いたりして分かっているが、八重野は彼女を実の娘のように可愛がった。
それから日和ちゃんは八重野の隣に立ち続け、共に景色を眺めていた。
どれくらい時間がたったのだろう…いつの間にか八重野は日和ちゃんに寄りかかり眠りについていた。
だがしばらくして八重野は目覚める。寄りかかっていた日和ちゃんが何者かに反応したため…
「侵入者・認識 即刻・排除」
日和ちゃんの声に寝起きの八重野は意識を覚醒させ、目の前に立つ存在に言い放つ。
「あんた、ちゃんと玄関から入ったかい?」
「おや?玄関からちゃんと入れば客として認めてもらえるのかな?」
黒装束に身を固めた男は笑いながらもそう言ってきた。
「目的はなんだい?」
「ここにある完成形変体刀…俺が貰い受ける‼︎」
「どこでそれを知ったか知らないが、渡すわけにはいかないねぇ」
「フン!お前は嫌でも渡すことになるさ…死にたくなければ今!刀を渡せ‼︎」
そう言って襲撃犯が構えたのはレイピア 襲撃犯は八重野めがけ突っ込んできた。
「許可するよ 日和号」
八重野の言葉を機に、日和ちゃんと呼ばれていたからくり人形は本来の姿に形を戻していた。
それぞれ新しく2本の手足を出し、合計手足はそれぞれ4本となりその手には木刀が握られていた。
「任務遂行・反撃モードに移行」
「そんなガラクタで何が出来る‼︎」
だが、襲撃犯の勢いづいた攻撃は、日和号にガードされていた。
「なっ‼︎」
「人形殺法・竜巻」
日和号は闇雲に木刀を振り回し、徐々に襲撃犯との距離を縮めていった。
襲撃犯はなんとかその攻撃を防いでいた。
「まさか…そのガラクタ自体が微刀・釵か…?」
「ご明察 てっきり分かった上で奪いにきたと思ってたけどそうでもないみたいだね…」
それから八重野は日和号に歩み寄り襲撃犯に向かって言った。
「この子はこの子を作った人が愛した女性を模して造られたんだってさ、ロマンチックじゃないか。例えこの子が人形だとしても、私はこのこのことを人間として見てるんだよ」
「所詮、ガラクタはガラクタ 人間と同じなわけないだろ‼︎」
襲撃犯は再びレイピアを構え突っ込んできた。
「人形殺法・吹雪」
その言葉と同時に日和号の口が開き、無数の木刀の連続突きが放たれた。
襲撃犯はその攻撃を避けきることが出来ず、吹っ飛ばされた。
それに日和号はゆっくりと近づく。
「我が主人を殺す そんなことは私がさせません。もし再び相見えるようなことがあれば、次は刀を持ってお相手します」
その後、襲撃犯は慌てるように逃げ帰っていった。
「ありがとう日和ちゃん」
「主人を助けるのは当然です」
ありがとう その言葉の意味を理解できず、日和号は淡々と応えた。
そんな日和号の異変に気付き、八重野は部屋に戻ると何かを取って戻ってきた。
「日和ちゃん、これあげる」
そう言って頭につけられたのは釵
今まで付いていたのは以前の主人、津芽正亜記から貰ったものだった。
「ごめんね、私が昔使ってたやつなんだけど、日和ちゃんに似合うと思ってね」
昔から人間として生まれたかった。
そうしたら主人にもっと愛されると思っていた。でも私は所詮愛する人を模して造られた人形。叶わない願いだった。
でも今目の前にいる主人は私を人間として見てくれている。一緒にお茶飲もうと声をかけてくれたり、人形の私に贈り物までくれた。
日和号は不思議な感情を抱いていた。これを言葉で表せるほど私は優れていない。でも、今彼女の気持ちに応える言葉が何かはハッキリ分かっていた。
「ありがとうございます 主人」
「八重野でいいよ?」
そう言う八重野の笑顔をに日和号はまた不思議な感情を抱いていた。
人間ならあんな風に笑えたのか…
「わかりました ありがとうございます八重野」
微刀・釵 日和号彼女は遥か昔に造られたからくり人形 主人の愛する人を模して造られたからくり人形 人間のように笑えるようになりたいと、人間のようになりたいと願うからくり人形
ただ八重野の目には、日和号が笑っているように見えた。
「やっぱ日和ちゃんは可愛いね」
「八重野の方が可愛いです」
「フフ、嬉しい事言ってくれるね。一緒に日向ぼっこでもしようか」
八重野と日和号の出会いそれは、八重野に娘と過ごした懐かしい時間を、日和号に人間らしさを与えていた。
井武鬼が訓練に行ってる頃の八重野と日和号の2人を書いてみました。
微刀・釵も作者はお気に入りの1本です
あの話は七花が人間として大きく成長した話でしたね(*´w`*)