ラブライブ!DM   作:レモンジュース

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 文字数22000字を超えたけど、切る場所が上手く見つからなかったのでそのまま投稿。エンタメデュエルって書いてみると大変ですね。
 遊矢には是非頑張っていただきたいものです。

 そして重要なお知らせ。
 今回は海未ちゃんの出番は一切ありません。
 その代わり、ファーストライブ前にメンバーに加入した真姫ちゃんの解説をお楽しみ下さい。
 
 あと、前回のお話の最後にネタバレ次回予告を追加しました。もっとも、今回のサブタイが完全にネタバレとなっていますが。



ペンデュラムA-RISE

●前回のラブライブ!

 

 

 

 皆さんこんにちは、南ことりです。

 ファーストライブが近づいている今現在、私はとっても悩んでいます。

 

 

 

 それは、【RR】のデッキ構築についてです。

 

 

 

 全部のモンスターを「RR」に統一していたんだけど、せっかく闇属性をメインにしているんだから、《ダーク・アームド・ドラゴン》を使いたいと思っちゃうんです。

 他には、《スワローズ・ネスト》を3積みするならってことで、《聖鳥クレイン》も1、2枚入れたいな。

 でも、「BF」に頼りすぎるのだけは避けたいかな。気がついたら【RR】じゃなくてお母さんと同じ【ストリクス入りBF】になっちゃいそうで。

 

 

 

 え、前回のあらすじ? アテムくんをライズ・ファルコンで吹き飛ばして、グループ名を決めて、1年生の真姫ちゃんが新しくメンバー入り……、こんなところかな。

 

 衣装作り? 実は今、材料が足りなくなりそうだから、穂乃果ちゃんと真姫ちゃん、そしてアテムくんに買い出しに行って貰っているの。

 アテムくんが変なことしないか心配だけど、大丈夫かな。穂乃果ちゃんもたまに寝坊しちゃうし。……真姫ちゃんがいればなんとかなるよねっ。よし、3人を信じよう!

 

「えっと、《闇の誘惑》は確かこの辺りに……」

 

 

 

●正直言ってアテムにフラグが立つ気がしない

 

 

 

「30分の遅刻なんだけど、2人とも何か言い訳は?」

 

『お互いに《光の護封壁》をライフ3000払って発動したものの、除去カードを全く引けず膠着状態になっていました、テヘッ♪』

 

 ファーストライブまで約1週間となった日曜日。

 

 アテム、穂乃果、真姫。3人は今、秋葉原駅の改札口の近くに立っている。いや、正確には真姫だけが仁王立ちしており、アテムと穂乃果は正座させられていた。……周囲の視線が痛い。

 現在時刻、10時30分。待ち合わせの時刻は10時ちょうど。

 友達と遊びに行く経験が極端に少なかった真姫は、実は待ち合わせの30分前に現地に来てしまったため、1時間待っていたことになる。

 

「……はぁ。南先輩が下級生の私に2人の面倒を見るよう頼んできた理由がわかったわ。確かにこれは子守りが必要ね」

 

『面目ありません……』

 

 本当は他の2人も来るはずだったのだが、ことりは出来る範囲での衣装作りを進めるために居残り。海未は弓道部の練習試合のため、真姫がアテムと穂乃果の引率係となったのである。

 だが、実際は居残りをしたことりが作業を半日で終え、残りの時間をデッキ構築に費やすことになることを3人は知らない。

 

「そ、それよりもさ! 早く行こう!」

「そうだぜ西木野! ここでじっとしていても時間の無駄――」

 

「それ、遅刻してきた人が言う台詞じゃないわよね?」

 

『本当に申し訳ございませんでしたぁ!』

 

 後輩に頭を垂れる上級生2人。半径2m内には人がいなくなっていた。

 

「……まぁいいわ。確かに時間を無駄にするのも良くない――」

 

 

 

 ――グゥ~

 

 

 

 突如聞こえる、可愛らしい音。何の音だろうかと、アテムと穂乃果が互いを見つめ、次に真姫へと目をやると、

 

 

 

 ――彼女は、顔を真っ赤に染めていた。

 

 

 

「もしかして、今の音は真姫ちゃん?」

「ち、違うわよ!」

「でも、私もアテムくんも朝ご飯はしっかり食べてきたし、周りには誰もいないよ?」

「うっ……!」

 

 右の頬に米粒をつけたままの穂乃果に指摘され、真姫は朝食をあまり食べてこなかったことを激しく後悔した。ライブに向けて、ちょっとしたダイエットをしていたのだが、まさかこんな恥をかくはめになろうとは。

 周囲に人がいれば、気付かれることも無かったろうに。いや、この場に3人しかいなかったから他人に笑われずに済んだと安堵するべきか。

 

「よし、空腹の西木野のために、まずは腹ごしらえだ。牛丼屋に行こうぜ!」

 

『えっ』

「ゑ?」

 

 立ち上がり、意気揚々と歩き出すアテムに、女子2人はドン引きしていた。

 

「アテムくん、女の子2人連れて牛丼屋って……」

「そういうお店に行ったこと無いけど、空気読めてないことだけはわかるわ」

 

 どうやらこの王様(ファラオ)、デュエルの腕はあっても、それ以外は本当に残念らしい。

 

「……な、ならサ店に行くぜ!」

 

 今度はアテムの言っていることの意味がわからないのか、穂乃果と真姫は互いに見つめ合い首を傾げる。どうやら今どきは喫茶店のことを『サ店』と言わないようだ。

 

「何!? 喫茶店のことをサ店と言わないのか!?」

「いや、そんな略し方は聞いたこと無いんだけど」

「いつの時代よ、それ」

 

「……3000年前だぜ!」

 

 あまりにも苦しい言い訳。

 家に帰ったら現代の若者としての勉強をしようと心に誓ったアテムであった。

 

 

 

●最強決闘者は1パック購入でトップレアを引き当てる

 

 

 

「へ~。こんなところにカード屋があったんだ」

 

 喫茶店で軽食を済ませ、おつかいを終えた3人は街を散策していた。本来ならばすぐにことりの家に赴き、買った材料を渡すべきなのだが、ことり本人から「せっかくの秋葉原なんだから、しばらくのんびりしてきていいよ」との許しを得たのである。

 

 今ある材料で作業を進めているのか、と予想するアテムたちであったが、実際はデッキ構築のために部屋の中が散らかってしまっているのを他人に見せたくないだけであることを彼らは知らない。

 

 そして、今3人はとあるカードショップの前に来ていた。

 

「それはそうよ。こんな大きな街なんだから、カード屋の3つや4つ、あって当然じゃない」

「ふ~ん、真姫ちゃん随分詳しいんだね。もしかして常連さんだったりするの?」

「ち、違うわよ! パパに教えてもらってただけで私は別に――」

「店の前でうるさいぜ穂乃果、西木野。さっさと入ろうぜ」

 

 アテムは店先でじゃれ合う2人に注意すると、さっさと店の中に入ってしまう。初めて訪れる店であるにも関わらず、堂々と真剣な表情で入店するその姿から、本当にデュエルモンスターズが好きなのだと伺える。

 だが、

 

(アテム先輩、正論だけどアナタにだけは言われたくないわよ)

 

 普段がアレなのであまり説得力は無かった。

 

 

 

 入店した3人は、それぞれ予算の許す限りカードを購入した。

 あまりお金を持ってこなかった穂乃果は、10円ストレージコーナーを物色。少々傷んでいたものの、《リビングデッドの呼び声》や《地砕き》を始め、汎用性の高いカードを手に取る彼女の表情は幸せそのものであり、アテムや真姫、更には周囲の者も一緒になって微笑んでいた。この笑顔があるからこそ、クラスでも友達が多いのだろうとアテムは感じていた。

 

 次に真姫だが、穂乃果と違って所持金が多い彼女は1枚2000円前後のカードを数枚、一切の迷いもなく購入していた。

 この世界に来たばかりで当然小遣いが少ないアテムはこれを見て、「財力ってやつか。気に入らねぇな、気に入らねぇ……」と心の中で愚痴をこぼしていたのだが、その態度が思い切り顔に出ていたため、周囲は彼から距離を置いていた。

 

 そして最後にアテムだが、前述したように予算が少ない彼は、カードショップの店員が独自に作ったオリジナルパックを1つ購入した。

 『強力カードが当たるかも!?』という謳い文句が書かれていたことに惹かれ手にとったのだが、穂乃果も真姫も彼に対して、やめておくべきだと提案した。確かにいいカードが当たることもあるのだが、通常のパック以上に何が入っているかわからないため、運試し目的で買うことが多いからだ。

 しかし、そんな忠告程度で自分を曲げるアテムではない。2人の静止を振り切ってオリジナルパック(5枚入り200円)を購入した彼は、即座に開封して中身を確認する。

 

「お、いいカードだ。早速デッキに入れてみるぜ」

 

 どうやらハズレではなかったらしい。過去に何度もハズレを引き当てていた穂乃果と真姫は、自分のことではないにも関わらず安堵していた。いや、普段からここぞという時に必要なカードをドローしている彼だからこそ、この当たりは当然だったのかもしれない。

 

 

 

●その名はウィング・キラ

 

 

 

「ねぇそこのヒトデ頭くん、ちょっといいかな」

 

 それぞれ目当ての物を購入したことで、店を出た時だった。

 後ろからかけられた女性の声に3人が振り返ると、そこには不審人物としか言いようのない少女が立っていた。

 

 来ている服はUTX学院の制服。ナンバーワンのスクールアイドルユニット『A-RISE』を擁する、今現在最も有名な高校だと言っても過言ではないだろう。

 休日だというのになぜ制服を着ているのかという疑問が持たれるが、そこは大した問題ではない。何らかの用事で登校し、その帰りに立ち寄ったと考えられるからだ。

 

 大問題はその次だ。

 

 彼女は制服の上から、羽の模様が描かれた黒地のマントを羽織り、それどころか『☆』の形をした仮面と、『☆』の模様が散りばめられたシルクハットを着用して、あまつさえ既にデュエルディスクを展開中なのだ。

 これを不審人物と言わずに何と言おう。アテムがこの世界にやって来た時のことを知らない真姫は勿論のこと、穂乃果やアテムでさえもドン引きしていた。

 歳相応(?)に成熟した身体と艷やかな髪から、仮面とマントを外せばおそらく美少女であるはずなのにもったいない。

 

「私の名前は『ウィング・キラ』、キミの名前は?」

「……アテムだ」

 

 いつもは『!』マークをつけて自己主張するはずのアテムだが、今回ばかりは歯切れが悪い。見るからに怪しい人物に話しかけられては仕方がないと考える真姫であったが、半分間違いである。あくまで平静を装っているアテムであったが、よく見れば額からうっすらと汗を流し、手が震えている。

 彼は感じているのだ。目の前に立つ少女が持つ『底知れない何か』を。

 

「アテムくん、キミがオリジナルパックを買うところを見せてもらったわ。ハズレが多いと言われるこのショップで強力なカードを引き当てたのは、私以外では多分キミが初めてね」

 

 言動からしてこの店の常連なのだろう、自らをウィング・キラと名乗ったその少女は、仮面の奥からアテムを品定めするかのように見つめていた。

 

「今まで多くの決闘者と戦ってきた私だけど、キミのように見ただけで強者とわかる人はそうそういない。オリパを1パックだけ購入してアタリを引き当てたことからもよくわかる。

 最強の決闘者はパックを購入した時のアタリ・ハズレすら操作できるという噂もあるしね」

 

 

 

 ――ねぇ、私とデュエルしない?

 

 

 

『ッ!』

 

 その瞬間、デュエルを申し込んできただけだというのに、ウィング・キラが放つ威圧感が3人を襲った。これまでアテムにしか認識できなかった強者としての迫力の一端が解き放たれ、真姫は一歩後ずさり、穂乃果に至っては尻餅をついてしまっていた。足を動かすことのなかったアテムでさえ額から流れる汗の量が増えたことから、彼女の実力はやはり相当なものであることが伺える。

 

「キミほどの決闘者なら、挑まれたデュエルを断るなんてこと、しないわよね?」

「……ああ、いいぜ。俺もお前のような気迫(フィール)を放つ決闘者に出会うのは久々だ」

 

 デュエルディスクを左腕に装着。次にデッキを差し込み、オートシャッフルを行う。ただそれだけの、いつも行う動作だというのに、穂乃果も真姫も、目の前のアテムからはいつもの余裕が感じられなかった。

 

 

 

 ――おい見ろよ、野良デュエルだぜ!

 

 ――男の方見てみろよ、すげー頭してるぞ! ヒトデかよ!

 

 ――相手の女の子もかなり怪しくね? 不審者対決、どっちが勝つんだ!?

 

 

 

 他のギャラリーからの反応は散々であった。どちらが勝つかそれぞれ予想しているが、大半はウィング・キラが勝つと考えているらしい。いや、男よりも女の子に票を入れたいだけなのかもしれない。だが、アテムの方もかなりの実力者であることは穂乃果も真姫もよく理解している。

 

「アテムくんは凄く強いんだから! ……ことりちゃんに瞬殺されたことあるけど」

「先輩はデュエルだけなら誰にも負けないわ。……多分」

 

 そう、一応理解しているのだ。

 

「ねぇキミ、あんなこと言われて――」

「御託はいい! かかってきな!」

「……ごめん、気にしないことにするわ」

 

 

 

『デュエル!』

 

アテム:LP4000

キラ :LP4000

 

 

 

●アテムVSウィング・キラ

 

 

 

「先攻は俺だ! 俺はモンスターと伏せ(リバース)カードを1枚ずつセットして、ターン終了だ」

「……へぇ。随分とあっさりしているのね」

 

 先攻の最初のターンはドローもバトルも行えないため、手の内を晒さないためにあまり動かないというのは、戦略の1つとして考えられる。

 だが、ソリッド・ヴィジョンを用いたデュエルが主流である昨今、ほとんど動きを見せないデュエルはウケが良くない傾向にあった。

 

 

 

 ――え、それだけ?

 

 ――つまんないなー。せめてモンスターを見せてくれよー。

 

 

 

「むっ。アテムくんのタクティクスにケチをつけるなんて。別にいいじゃんっ」

「いちいち怒らないでよ。でも、アテム先輩がカードを伏せただけでターンを終えるのは珍しいのは確かね」

 

 真姫の言う通り、彼女たちが見た限りでは、アテムは基本的にモンスターを積極的に攻撃表示で召喚する、『攻めの姿勢』が多かった。

 だが、このデュエルでは先攻で始めたとはいえカードを伏せただけの『受けの姿勢』だ。それだけ慎重にならざるを得ない相手だということか。

 

「ふふ、観客のみなさん。モンスターを伏せただけの彼のタクティクスがご不満であるならば――」

 

 

 

 ――このウィング・キラが華麗なショーをお見せしましょう!

 

 

 

 ざわつく観客を宥めながら、ウィング・キラは高らかに宣言する。

 いったい、何をしようというのか。

 

「さあさあ、お立ち会い! 紳士淑女の皆様方! これよりウィング・キラによる、素敵で華麗なショーの始まりです!

 まずはドローフェイズ! 後攻の1ターン目から通常のドローが可能となります!」

 

 クルッと一回転しながら、彼女はデッキの上から1枚のカードを抜き出した。少々派手すぎるその動きも、アテムの戦術に不満を持っていた観客を惹きつけるには十分であった。

 

「そして、スタンバイフェイズには特にすることもないので、そのままメインフェイズに移ります!

 私は手札から、《俊足なカバ バリキテリウム》を特殊召喚! 素早く動くカバさんの足踏みをご覧あれ!」

 

 《俊足なカバ バリキテリウム》

 ☆4 地属性 獣族 ATK1600

 

 ウィング・キラの手札より現れた一体のモンスター。マントを羽織り、サングラスを着けたそのカバは確かに彼女に似てなくもない。『俊足』の名の通り、素早い足踏みをする愛嬌のある動きに、観客からクスッと笑いが溢れる。

 

「バリキテリウムは1ターンに1度、無条件で手札から特殊召喚できますが、その代償として相手は私の墓地からレベル4モンスターを特殊召喚することができます。

 しかし、現在私の墓地にはモンスターがいません。つまり正真正銘デメリット無しでの特殊召喚となるのです!」

 

 『おお、凄い!』と穂乃果や多くの観客が感嘆の声を漏らす。彼女ほど大げさにはしないものの、アテムも真姫も驚いていた。本来のデメリットを無視するために、最初のターンで引き当てるとは。なんという引きの良さだろう。もしや、デメリットさえ逆手に取る戦術を彼女は有しているのではないかとも思えてくる。

 

「お次は通常召喚です! 私が手札から呼び出すのは、ドクロの奇術師《EM(エンタメイト) ドクロバット・ジョーカー》!」

 

 《EM ドクロバット・ジョーカー》

 ☆4 闇属性 魔法使い族 ATK1800

 

 紫色のドクロが描かれたシルクハットをクルクルと回しながら現れる陽気な奇術師。ジョーカーがシルクハットの中から挨拶代わりに真紅のバラの束を取り出すと、観客から拍手が鳴り響く。

 

「ここで、ドクロバット・ジョーカーのモンスター効果を発動です! このカードが召喚に成功したことで、デッキから新たなモンスター《EM パートナーガ》を手札に加えます!」

 

 続けて、ジョーカーがシルクハットの中を探り、1枚のカードを取り出すと、それをウィング・キラへと投げ渡す。

 フィールドを駆けるカバと、様々なものを取り出す奇術師に、観客の目は釘付け。

 

 

 

 未だモンスターを2体出しただけだというのに、既に観客の意識はウィング・キラへと向いてしまっていた。

 

 

 

「これは、いったい……!」

 

 アテムは、二重の意味で驚いていた。

 1つは、たった2体のモンスターで観客を惹きつける才能。かつて自分も、好敵手(ライバル)たちもデュエルを通して観客の注目を浴びていた。しかし、モンスターを召喚しただけでここまで注目を集める決闘者に出会ったのは初めてのこと。このようなデュエルもあるのかと感心する。

 そして2つ目。彼にとってこちらのほうが重要だ。

 彼女が召喚した《EM ドクロバット・ジョーカー》と、手札に加えた《EM パートナーガ》の2体。カードの上半分と下半分が別の色枠になっている特殊なモンスターを見たのは初めてのこと。特殊な召喚方法を用いるわけではないみたいだが、一体どのような力を秘めているのか。

 

「おやおや? もしかしてその反応、『ペンデュラムモンスター』を見るのは初めてでしょうか? ならばお見せしましょう。『ペンデュラムモンスター』の力の一端を!」

 

 アテムや観客に見せつけるかのように、ウィング・キラは《EM パートナーガ》を頭上に掲げる。既に観客の心を掴んだだけあって、彼女の発言1つ1つに誰もが目を輝かせる。

 

「私はスケール3(・・・・・)の《EM パートナーガ》を――」

 

 

 

 ――ペンデュラムゾーンにセッティング!!

 

 

 

「何っ!?」

 

 ウィング・キラはなんと、モンスターカードをモンスターゾーンの右横に設置した。

 すると、彼女が立つ右横に赤と黄の縞模様のヘビと光の柱が現れ、『3』という数字が表示される。

 

 《EM パートナーガ》 スケール3

 

「ふふ、驚いていますね。ペンデュラムモンスターを初めて見るのでしたら、無理はありません。ペンデュラムモンスターが発表された時は、私を含め誰もがその特異性に戸惑ったものです。

 このカードは、見ての通り上半分がモンスター、下半分が魔法カードの色で区別されています。その時点でお分かりになるのでは?」

「モンスターだけでなく、魔法カードとしての特性も併せ持つということか」

「正解! 流石ですね!」

 

 パチパチと手を叩いて喜ぶウィング・キラ。どうにも調子が狂ってしまう。

 

「論より証拠。私はパートナーガのペンデュラム効果を発動いたします! 1ターンに1度、自分フィールドのモンスター1体を対象として、そのモンスターの攻撃力をターンの終わりまで、自分フィールドの「EM」カード1枚につき300ポイントアップします! 対象はバリキテリウム!」

 

 パートナーガが尻尾を、ジョーカーが右手をバリキテリウムに向かって振ると、2枚の応援を受けたカバは足踏みのスピードを上げる。

 

「ご覧ください! 2枚の「EM」の声援を受けたカバさんが、一層元気になりました。そして攻撃力もアップして、なんと2200! 上級モンスターに匹敵する数値です!」

 

 《俊足なカバ バリキテリウム》

 ATK1600 → ATK2200

 

「バリキテリウムの攻撃力も上がったところで、皆さんお待ちかねのバトルフェイズに移りましょう!

 相手モンスターが裏守備表示のため、ここはセオリーとして、攻撃力の高いバリキテリウムで攻撃です!」

 

 モンスターにも伏せカードにも、全く警戒する気配を感じさせず、ウィング・キラはバリキテリウムへ攻撃命令を下す。既に下級モンスターとしての力を凌駕したカバが、アテムの正体不明のモンスターへと迫る。

 

 

 

(まずいわね。戦闘破壊耐性を持つモンスターでも無い限り、守備力2200以上の下級モンスターは少ない。

 この攻撃で戦闘破壊なんてされたら、次は1800の直接攻撃(ダイレクトアタック)が飛んでくるわよ)

 

 モンスターのショーに夢中となっている他の観客とは違い、真姫は冷静に今の状況を観察していた。

 

 デメリットとなる効果を無意味にするプレイング。

 攻撃力上昇のカードをサーチして発動する単純かつ効果的なコンボ。

 裏守備表示のモンスターに対し、攻撃力の高いモンスターで攻撃する冷静さ。

 

 おちゃらけた言動や行動の裏に隠れた戦略(タクティクス)に、ウィング・キラが持つ実力の高さを改めて実感させられる。

 

(どうするの、アテム先輩……!)

 

 

 

 裏守備モンスターへ迫る俊足のカバ。並のモンスターなら容易く蹂躙できる攻撃力であるにも関わらず、アテムの表情は冷静そのもの。

 

「ペンデュラムモンスター……。魔法カードとしての力も持つカードの存在には驚かされたが、そんなことで怯む俺じゃないぜ!

 この瞬間、伏せ(リバース)カードオープン! 罠カード《反転世界(リバーサル・ワールド)》!」

「ッ! 攻守反転のカード……!」

 

 アテムが伏せていた罠を発動した瞬間、バリキテリウムとジョーカーの表情から元気が無くなっていく。何が起こったのかわからない観客は戸惑うしかなかった。

 

「ウィング・キラ、お前は気付いたようだな。

 そう、このカードはフィールド上の全ての効果モンスターの、現在の攻撃力と守備力を入れ替える。そして今はまだ『バトルステップ』だ。裏守備表示のままの俺のモンスターは影響を受けず、バリキテリウムとドクロバット・ジョーカーの攻守だけが入れ替わる!」

 

 デュエルモンスターズでは、基本的に守備力よりも攻撃力が重視される。相手のライフポイントを削り取るゲームなのだから、そうなってしまうのも無理はない。そのため守備力重視のモンスターで無い限り、攻撃力は覚えていても、守備力を覚えていないということはたまにある。

 そして今。《反転世界》の効果を受けて攻守逆転した2体の攻撃力は――

 

 《俊足なカバ バリキテリウム》

 ATK2200 → ATK600

 

 《EM ドクロバット・ジョーカー》

 ATK1800 → ATK100

 

「おおっとぉ! これは大変だ! 私のモンスター達の攻撃力が一気に下がってしまいました!」

 

 あくまで平静を装うつもりなのだろうが、少なからず焦っていることがよくわかる。

 しかも、《聖なるバリア -ミラーフォース-》のように攻撃してきたモンスターを破壊するカードではないということは、伏せモンスターとアテムの狙いは容易に察せられる。

 

「モンスターの数が変化していないため、攻撃は続行される! 『バトルステップ』から『ダメージステップ』に移行し、俺のモンスターが表側になるぜ。

 俺が伏せていたモンスターは、守備力2100の《魔神 アーク・マキナ》! 戦闘破壊は発生しないが、反射ダメージ1500を受けてもらうぜ!」

 

 表側表示となり、アテムの前に立ちはだかったのは、機械仕掛けの悪魔。その高い守備力が突進してきたカバを受け止め、ウィング・キラへと投げ返した。

 

 キラ LP4000 → LP2500

 

 

 

「やったぁ! アテムくんの先制カウンター! それにアーク・真姫ナが戦闘ダメージを与えたってことは、アレが来るよ!」

「……誤変換された気がするのは気のせいかしら」

 

 

 

「この瞬間、アーク・マキナが相手に戦闘ダメージを与えたことで、効果発動! 俺の手札か墓地から通常モンスター1体を特殊召喚する!

 俺の墓地にモンスターはいない。よって、手札からこのモンスターを呼び出す。来い、我が最強の下僕!」

 

 

 

 ――《ブラック・マジシャン》!!

 

 

 

 アテムと何度もデュエルをしている穂乃果や真姫にとっては、既に見慣れた彼のエースモンスター。しかし、ウィング・キラや他の観客は別だ。見たことのない黒き魔術師の登場に、戸惑いと歓声が巻き起こる。

 

 

 

 ――なんだ、あのモンスター!

 

 ――今まで見たことないぞ!

 

 ――でも、デュエルディスクは認識してるし……

 

 

 

「……私の身体を突き刺すこの威圧感。なるほど、それがキミのエースモンスターか」

 

 観客に聞こえないように小さな声で呟くウィング・キラ。先制ダメージを受けた、エースの召喚を許したにも関わらず、その瞳は輝きを増していた。

 

 

 

「初めて見るペンデュラムモンスターに臆さず、それどころか攻守反転のカウンター、お見事です! 攻撃権が残っているドクロバット・ジョーカーも攻撃力がたったの100となっているため、これ以上の追撃はできません。これにてバトルフェイズは終了です!」

 

 だが、その怪しさはすぐに鳴りを潜め、先程までの演技の顔に戻る。あくまでもこれをショーとして続けるつもりらしい。

 

「バトルの後は、メインフェイズ2! ここで私は伏せ(リバース)カードを2枚伏せ、更に永続魔法《補給部隊》を発動させて頂きます。このカードは1ターンに1度、自分フィールドのモンスターが破壊された時、カードを1枚ドローします!」

「くっ。厄介なカードだ……!」

 

 1ターンに1度しか発動できないという制約はあるが、何度も発動されればハンド・アドバンテージに差がつき、かといって《補給部隊》を対象とした除去カードを使えばそれが囮となり他の伏せカードを使われる恐れもある。

 

「続けて、魔法カード《ペンデュラム・アライズ》を発動! 自分フィールドのモンスター1体を墓地に送り、そのモンスターと同じレベルのペンデュラムモンスターをデッキから特殊召喚させていただきます!

 バリキテリウムを墓地に送り、新たな仲間の登場です! 拍手でお迎え下さい、《EM ペンデュラム・マジシャン》!」

 

 バリキテリウムと交代して現れる新たな奇術師。騒がしそうなジョーカーと違い、こちらはクールな印象を受ける。

 観客は2人目の奇術師の登場に、次はどのようなマジックを見せてくれるのかと期待に胸をふくらませていた。

 

「おっと、やはり皆さんはペンデュラム・マジシャンのマジックを期待しているようですね! いいでしょう! それでは特殊召喚に成功したペンデュラム・マジシャンの効果発動(マジックショー)

 自分フィールドのカードを2枚まで破壊して、その数だけデッキの「EM」モンスターを手札に加えます! 破壊対象はパートナーガとドクロバット・ジョーカーです!」

「ッ! 破壊と手札補充だと!?」

 

 ペンデュラム・マジシャンが両手の指をパチンと鳴らすと、モンスターゾーンのジョーカーと、ペンデュラムゾーンのパートナーガに、『?』と書かれた白い箱が覆い被さる。

 

「行きますよ、1(ワン)……、2(ツー)……、3(スリー)!」

 

 再び指を鳴らすと、小さな爆発音とともに箱が開き、中には先程までいた2体のモンスターの代わりに、2枚のカードが浮かんでいた。

 

「ペンデュラム・マジシャンが呼んできてくれたのは、ペンデュラムモンスター《EM ドラミング・コング》と《EM ラクダウン》! この2枚を手札に加えさせていただきます!」

 

 ウィング・キラの手に加えられる2枚のカード。だが、まだ彼女にはもう1枚加えるカードがある。

 

「そして、忘れてはいけません。私のフィールドのモンスター《EM ドクロバット・ジョーカー》が破壊されたことで、《補給部隊》の効果が発動されます。よって、私は更に1枚のカードをドローすることができるのです!」

 

 アテムの眼前で次々と繰り広げられるマジックショーに、まだ2ターン目であるにも関わらず観客のテンションは最高潮に達しようとしていた。

 

「さて、ここで残念なお知らせです。《ペンデュラム・アライズ》で特殊召喚したモンスターは、エンドフェイズに破壊されてしまいます。

 これにて私のターンは終了。さあ、ペンデュラム・マジシャンを拍手でお送りしましょう」

 

 ウィング・キラとペンデュラム・マジシャンが、アテムに向かってシルクハットを取りながらお辞儀をする。同時に『ポンッ』と小気味良い音が鳴り、ペンデュラム・マジシャンは消え去っていた。

 そして、顔を上げたウィング・キラはニヤリと笑っていた。まるで『主導権は既に自分のものだ』と言わんばかりだ。

 

「俺のターン、ドローッ!」

 

 だが、この程度で怯むアテムではない。その余裕を崩さんと、渾身のドローを行うと、辺りに風が吹き荒れる。

 

(2枚の伏せ(リバース)カードがあるとはいえ、奴のフィールドにモンスターはいない。ここは攻めるしかない!)

 

「このままバトルだ! 行け、《ブラック・マジシャン》! プレイヤーへ直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

 

 

 

 ――黒・魔・導(ブラック・マジック)!!

 

 

 

「《ブラック・マジシャン》の攻撃力とウィング・キラのライフポイントはどっちも2500! この攻撃が通ればアテムくんの勝ちだ!」

 

 魔術師から放たれる漆黒の奔流に、勝利を確信する穂乃果。

 だが、ウィング・キラはそれを嘲笑うかのように、1枚のカードを発動させた。

 

「お客さん、そういう台詞は『お約束』というのですよ! この瞬間、私は永続罠《EM ピンチヘルパー》を発動させていただきます!

 このカードは1ターンに1度、相手の直接攻撃(ダイレクトアタック)を無効にします!」

 

 突如発生した光の壁が、魔術師の攻撃を打ち消した。だが、その光はまだ収まらない。

 

「それだけではありません! その後私はデッキから新たな仲間(「EM」モンスター)を、効果を無効にして特殊召喚します! さあさあいらっしゃい、ド派手な飛沫(しぶき)を放つ巨獣! 《EM マンモスプラッシュ》!」

 

 《EM マンモスプラッシュ》

 ☆6 水属性 獣族 ATK1900

 

 楽しげに、鼻から水飛沫を吹き上げて現れる巨大な象。実際に辺りが濡れることはないものの、マンモスプラッシュが放つ水流により描かれる虹が、1つに芸術となっていた。

 

「どうやらこのターンで決着はつけられないようだな。

 俺はバトルを終了してメインフェイズ2へ移り、《ホーリー・エルフ》を召喚するぜ!」

 

 《ホーリー・エルフ》

 ☆4 光属性 魔法使い族 ATK800

 

 両手を合わせ、祈りを捧げるかよわいエルフ。本来ならば守備力2000の壁モンスターとして召喚されるモンスターだが、アテムはこれを攻撃表示で召喚した。

 

「アテム先輩、何してるのよ! 壁モンスターを攻撃表示で出すなんて、プレイングミスにもほどがあるわよ!」

「そうだよアテムくん! ウィング・キラのフィールドには攻撃力1900のマンモスプラッシュがいるんだよ!?」

「プレイングミス? 慌てるなよ2人とも。見せてやるぜ、オリパで手に入れた俺の新しい仲間を!」

 

 真姫と穂乃果の指摘をさらりと受け流し、アテムはデュエルディスクのとある場所へと手をかけた。

 その場所は、エクストラデッキ。

 そこでようやく2人は気付く。フィールドに存在するモンスター達のレベルに。

 

「行くぜ! 俺はレベル4の《魔神 アーク・マキナ》と《ホーリー・エルフ》でオーバーレイ!」

 

 同じレベルのモンスター2体が、光の球体となって空中へと飛び上がる。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 

 そしてアテムの眼前に現れた光の渦にそれらは吸い込まれ、辺りを埋め尽くす爆発を巻き起こす。

 

「来い、ランク4!」

 

 

 

 ――《交響魔人マエストローク》!!

 

 

 

 《交響魔人マエストローク》

 ★4 闇属性 悪魔族 DEF2300 ORU2

 

 爆発とともに現れた指揮者が、右手に持つ指揮棒をまるで武器のように振り回し、片膝立ちになる。

 最強の下僕《ブラック・マジシャン》と、戦場(フィールド)の指揮者が、アテムを守るために立ちはだかった。

 

「更に俺は装備魔法《魔術の呪文書》を《ブラック・マジシャン》に装備! これにより、装備モンスターの攻撃力は700ポイントアップ!」

 

 《ブラック・マジシャン》

 ATK2500 → ATK3200

 

「最後に伏せ(リバース)カードを1枚伏せてターンエンド。さあ、お前のターンだぜ!」

 

 

 

「……まずいわね」

「? どうしたの、真姫ちゃん」

 

 新たな仲間を呼び出し自信を保つアテムとは逆に、真姫の心情は不安で埋め尽くされていた。

 

「アテム先輩が強いのは知っているわ。壁としてマエストロークをエクシーズ召喚したのもいい選択よ。でも、今回ばかりは相手が悪い。

 次のターン、ウィング・キラは【EM】の本領を発揮してくるはずよ」

「……そうなの?」

 

 あまりわかっていない穂乃果に嘆息しつつ、すぐにわかると言ってウィング・キラの方を向くよう指示する。

 ウィング・キラによる、本当のショーが開催されようとしていた。

 

 

 

「それでは、ウィング・キラによるモンスターショーの第2幕を始めさせていただきます。私のターン!……ドローッ!」

 

 同じく回転しながらのカードドロー。しかし、今度はバク宙しながらデッキのカードを引き抜いた。下着が見えそうになるが、そこはマントが上手く阻止していた。

 

「お、これはいいカードを引きました!」

 

 

 

 ――このデュエルの決着に相応しい主役を!

 

 

 

「ッ! 来るか!」

 

 アテムが先程から感じ取っていた、ウィング・キラのデッキに眠る大きな力。それが彼女の手に握られた瞬間一際大きくなる。いよいよ仕掛けてくるか、とアテムは身構えた。

 

「デュエルのメインとなるのは、やはりモンスターカード。紳士淑女に老若男女の皆様方、多くのモンスターが並ぶその瞬間を、目に焼き付けてみたいと思いませんか?」

 

 観客に向けて問いかけると、誰もが頷き、賛成の声を上げる。

 これにはアテムも同感だ。ソリッド・ヴィジョンで描かれるモンスターのリアリティは、より多くが並んでこそ映えるもの。その上、強力なモンスターでフィールドを埋め尽くせば相手に与えるプレッシャーはかなりのものだ。

 

(だが、今奴の場にいるモンスターは《EM マンモスプラッシュ》のみ。通常召喚や特殊召喚を駆使するとしても、新たに呼び出せるモンスターは精々2体のはずだ。

 俺のフィールドに並ぶ2体のモンスターがいればまだ耐えられる!)

 

 攻撃力が3200となった魔術師と、オーバーレイ・ユニットを使うことで破壊を免れる指揮者。マンモスプラッシュの攻撃力は1900であるため、現時点では脅威とならないだろうと予測するアテムだったが、それは大きな間違いであったとすぐに知ることとなる。

 

「ふむふむ、やはり皆さん私のショーにご期待のようですね! ならばお応えしましょう。一時も目を離してはいけませんよ! さあご覧あれ!

 私はスケール2の《EM ラクダウン》とスケール8の《竜穴の魔術師》で――」

 

 

 

 ――ペンデュラムスケールをセッティング!!

 

 

 

「今度は2体のペンデュラムモンスター……!」

 

 《EM ラクダウン》 スケール2

 《竜穴の魔術師》 スケール8

 

 今度は2体のペンデュラムモンスターを魔法カードとして使用するウィング・キラ。だが、魔法カードとしての効果を使用した先程とは決定的に違う点があった。

 両側に並ぶ2体のモンスターの下に浮かぶ『2』と『8』の数字。それが互いに発光しているのである。

 

「これにより、2つのスケールに挟まれたレベル3から7のモンスターが同時に召喚可能となります!」

 

 

 

 ――天空に描く光の軌跡(アーク)! 闇を祓いて新たな奇跡を生み出さん!

 

 

 

 ウィング・キラの頭上に現れた振り子が、口上とともに左右へ揺れる。その美しい軌跡(きせき)から目を離す者など、この場には存在しない。

 

 

 

 ――ペンデュラム召喚! おいで、私の仲間たち!!

 

 

 

 手を振りかざすと同時、『4つ』の光が天空より降り注いだ。

 

「最初に登場するのは、胸を打ち鳴らす森の賢人! 《EM ドラミング・コング》!」

 

 《EM ドラミング・コング》

 ☆5 地属性 獣族 ATK1600

 

「お次は、仲間の絆を繋ぐ架け橋! 《EM パートナーガ》!」

 

 《EM パートナーガ》

 ☆5 地属性 爬虫類族 DEF2100

 

「まだまだ行きます! 寡黙な凄腕奇術師! 《EM ペンデュラム・マジシャン》!」

 

 《EM ペンデュラム・マジシャン》

 ☆4 地属性 魔法使い族 ATK1500

 

「そして最後は本日の主役! 雄々しくも美しき双色の眼を持つ龍! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!!」

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 ☆7 闇属性 ドラゴン族 ATK2500

 

 

 

「2つの『スケール』に挟まれた数値分の『レベル』を持つモンスターの同時召喚……! だが、2枚の手札から4体のモンスターだと?

 それに、パートナーガとペンデュラム・マジシャンは破壊されて墓地に送られたはずだ!」

 

 ウィング・キラの手札は2枚であったにも関わらず、出現したモンスターの数は4体。

 アテムの言う通り、通常ならば(・・・・・)計算が合わないのだ。

 

「チッチッチッ。それがペンデュラムの特性なのです。

 確かに貴方が仰る通り、ペンデュラム召喚とは、1ターンに1度ペンデュラムゾーンにセッティングされた2体のペンデュラムカードが持つ『スケール』に挟まれた数値分の『レベル』のモンスターを同時に特殊召喚する召喚法です。

 しかし、私の手札は2枚でした。同時に4体のモンスターが出現し、戸惑うのも無理はありません。ここでペンデュラムモンスターのもう1つの特性が出てくるのです」

 

 そう言って、ウィング・キラは左腕を持ち上げ、空いた右手である一点を指さす。そこは、先程アテムが手をかけたのと同じ、エクストラデッキ。

 

「まさか、墓地ではなく……!」

「そのまさかです! ペンデュラムモンスターは、フィールドから墓地に送られる場合、墓地ではなくエクストラデッキへ送られます!

 そして、ペンデュラム召喚の際、エクストラデッキに存在するペンデュラムモンスターも特殊召喚できるのです!」

「つまり、破壊されてもペンデュラム召喚によって何度でも蘇るということか……!」

 

 インチキもいい加減にしろ! そう叫びたくなるほどの強力な召喚法に、アテムは戦慄する。

 ここでようやく納得がいった。《EM ペンデュラム・マジシャン》の効果でパートナーガを破壊したのは、エクストラデッキにモンスターを溜めつつ、ペンデュラム召喚によって一気に呼び出すつもりだったのだと。

 

「ペンデュラム召喚の基礎講座を終えたところで、モンスター効果の発動といきましょう!

 特殊召喚に成功したことで、ペンデュラム・マジシャンとパートナーガの順に効果を発動します!

 パートナーガは召喚・特殊召喚に成功した時、自分フィールドのモンスター1体を対象として、そのモンスターの攻撃力を現時点でフィールドに存在する「EM」モンスター1体につき300ポイントアップ!

 ペンデュラム・マジシャンが破壊対象として選択するのは自分自身とパートナーガ! そしてパートナーガが選択するのは我らが主役《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》です!」

 

(ここだっ! 使うなら今しかない!)

 

「それにチェーンして伏せ(リバース)カードオープン! 罠カード《裁きの天秤》!

 俺の手札とフィールドのカードの合計数が相手フィールドのカードの数より少ない場合、その差分だけ俺はカードをドローする!

 今、俺のフィールドのカードは《裁きの天秤》を含め4枚! 手札は0!」

「一方私は《補給部隊》と《EM ピンチヘルパー》に伏せ(リバース)カード、更には2枚のペンデュラムカードと5体のモンスター。合計枚数は10枚、つまり……!」

「そうだ、枚数差は6! よって俺は6枚のカードをドローする!!」

 

 これには、観客だけでなく流石のウィング・キラも驚きの目を丸くした。1度に6枚ものドローを行うとは、実に禁止カード《強欲な壺》の3倍。ペンデュラム召喚による大量展開を利用した見事な機転と言える。

 

「流石アテムくん! 一気に6枚のドローだなんて、私初めて見たよ!」

「何悠長なこと言っているのよ! あの手札によってはこのターンで負けるのよ!」

 

「その通り! 《裁きの天秤》で大量のドローができるということは、それだけ不利な状況に立っているということ。さてさて、チェーン処理は続いていますよ!

 チェーン2の《EM パートナーガ》の効果により、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃力がアップ! 今私のモンスターゾーンに存在する「EM」は4体! よって攻撃力は1200ポイントアップします!」

 

 長く伸ばしたパートナーガの胴体の先端にある手のひらが、オッドアイズを掴む。仲間の絆により力を増した龍が、咆哮を上げた。

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 ATK2500 → ATK3700

 

「攻撃力3700……!」

「そしてチェーン1の《EM ペンデュラム・マジシャン》の効果により、自身とパートナーガを破壊! 改めてご説明しますが、破壊されたこの2体はエクストラデッキへと送られますよ!」

 

 今度は自分自身とパートナーガに箱をかぶせ、小さな爆発とともに2体は姿を消した。その中に浮かぶ2枚のカードを、ウィング・キラは手に取った。

 

「私が手札に加えたモンスターは、《EM ハンマーマンモ》と《EM ファイア・マフライオ》! 更に《補給部隊》の効果も忘れてはいけません! 私のフィールドのモンスターが破壊されたため、カードを1枚ドローさせていただきます!」

 

 これだけの動きをしながら、手札の枚数は3枚。それでいてまだ通常召喚をしていないのだから恐れ入る。

 

「たった今手札に加わった《EM ハンマーマンモ》はレベル6の上級モンスター! ですが、自分フィールドに「EM」と名の付くカードが2枚以上ある時、リリースなしで召喚できるのです!

 「EM」の重鎮、地響きとともにただいま降臨!」

 

 《EM ハンマーマンモ》

 ☆6 地属性 獣族 ATK2600

 

 大地を震わせながら、槌のような鼻を持つ巨象が現れる。

 2体の巨象にゴリラ、そして雄々しも美しき龍。4体のモンスターが並び立ち、アテムを見据える。

 愛らしい見た目を持つモンスターばかりだというのに、今アテムが受けている威圧感はかなりのものだった。

 

「さあ、最後の仕上げです! ハンマーマンモを対象として、《EM ラクダウン》のペンデュラム効果発動! 1ターンに1度、相手フィールドの全モンスターの守備力は800下がり、対象モンスターが守備モンスターを攻撃した時、攻撃力がその守備力を上回っていれば、相手に貫通ダメージを与えます!」

「弱体化と貫通効果付与を同時に!?」

 

 《ブラック・マジシャン》(攻撃表示)

 DEF2100 → DEF1300

 

 《交響魔人マエストローク》(守備表示)

 DEF2300 → DEF1500

 

「それでは、再び皆様お待ちかねのバトルフェイズです! しかし彼のフィールドのマエストローク、このモンスターはオーバーレイ・ユニットを1つ使うことで自身の破壊を免れるという効果を持っています。そこで、まずはドラミング・コングとマンモスプラッシュの攻撃です!」

 

 2体のモンスターの攻撃力はそれぞれ1600と1900。通常ならばマエストロークの守備力を超えられないが、今はラクダウンのペンデュラム効果によりその守備力は下がっている。

 獣たちの攻撃を、オーバーレイ・ユニットを盾としてなんとか受け止める。

 

「お次はハンマーマンモの攻撃です! この瞬間、モンスター効果発動!

 ハンマーマンモが攻撃する時、相手フィールドの魔法・罠を全て手札に戻します!」

「何だと!?」

 

 ハンマーマンモが鼻息を吹くと、その突風が《魔術の呪文書》を吹き飛ばす。

 これにより、装備魔法の効果が消えた魔術師の攻撃力は元に戻ってしまう。

 

 《ブラック・マジシャン》

 ATK3200 → ATK2500

 

「そしてハンマーマンモはラクダウンの効果により貫通効果を持っています! さあ、マエストロークをやっつけろ! いただきマンモー!!」

 

 ハンマーマンモの巨大な槌が、マエストロークへ振り下ろされる。守備力を下げられ、オーバーレイ・ユニットという盾も失った指揮者には、この攻撃を止めることはできない。

 持ち上げた槌の下には、ぺしゃんこになって目を回すマエストロークの姿があった。

 

「くっ……!」

 

 アテム LP4000 → LP2900

 

「最後は我らがエースモンスター《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃です。最後のバトルがエースモンスター同士の激突! これは熱いですね~!」

 

「え? でも、2体の攻撃力の差は1200だから、アテムくんのライフはまだ残るんじゃ……」

「オッドアイズとドラミング・コングの効果よ、高坂先輩。彼女は2体の効果を使って、この一撃で決めるつもりなのよ!」

 

「大正解! ツリ目ちゃんの言う通り、オッドアイズの攻撃宣言時にドラミング・コングの効果を発動! 1ターンに1度、モンスターの攻撃宣言時、対象モンスターの攻撃力を600ポイントアップ!」

 

 召喚時の口上の通り、ドラミング・コングが胸を打ち鳴らすと、その音色が龍の攻撃力を更に上昇させる。

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》

 ATK3700 → ATK4300

 

「そして、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》は相手モンスターとバトルする時、相手に与える戦闘ダメージは2倍になります! 2体の攻撃力の差は1800! つまり発生する戦闘ダメージは3600!

 さて、この『バトルステップ』で発動するカードはありますか?」

「……ないぜ」

 

 アテムは、ゆっくりと首を横に振った。それを見た反応は様々。

 

 ウィング・キラは勝利を確信し、

 ある者はエースモンスターの激突による決着に興奮し、

 そしてまたある者は激戦の終結に若干の寂しさを抱き、

 穂乃果と真姫は、信じられないといった表情を浮かべる。

 

「これにて終劇(フィニッシュ)です! オッドアイズよ! その双色の眼で、捉えた全てを焼き払え!」

 

 

 

 ――螺旋のストライク・バースト!!

 

 

 

 杖による攻撃で必死に応戦する《ブラック・マジシャン》だが、攻撃力の差を埋めることは不可能。

 双色の眼の龍が放つ螺旋の奔流が、魔術師の身体を飲み込み、消滅させた。

 

 

 

 

 

「そんな、アテムくんが負けるなんて……」

「なんて強さよ……!」

 

 濛々(もうもう)と立ち籠める砂塵を見つめ、2人はショックを隠し切れないでいた。

 アテムのデュエルは何度も見て、実際に対戦したこともある。その中ではアテムが負けることも時折あったが、ほとんどが接戦の末のものであり、今回のようにほぼ相手のペースで進むことなどまず無かった。例外があるとすれば、ファッション関連でことりを怒らせた時くらいか。

 

「これにて、わたくしウィング・キラのデュエルショーは閉幕で御座います。皆様、ご観覧どうも――」

 

 

 

 ――それはどうかな?

 

 

 

『ッ!』

 

 煙の奥から響く、アテムの声。

 その堂々とした雰囲気に、誰もが動きを止めた。

 敗北したにも関わらず、なぜそのような声を出せるのか。

 

 徐々に晴れていく煙の中に立つ彼の衣服は、傷ひとつ無い。

 いや、それよりも信じられないのは、表示されているライフポイント。3600もの大きな戦闘ダメージを受けたはずだが――

 

 

 

 アテム LP2900

 

 

 

 ――1ポイントも減っていなかったのだ。

 

「そんな、どうして……!」

 

 信じられない異常事態に、流石のウィング・キラも演技を忘れ素の状態に戻ってしまう。

 驚愕したのは彼女だけではない。真姫も同様で、観客に至っては不正を疑うものまで出ていた。

 

 だが、1人だけ。

 アテムのライフポイントが変動していない理由を知るものがいた。

 

「そうだ、忘れてた! アテムくんにはあのカードがあったんだ!」

 

 穂乃果だ。寝食をともにし、この世界で最も彼とデュエルをしている彼女だからこそ知っているカードがある。

 

「確かに俺の手札には『バトルステップ』に発動できるカードはなかった。加えて、『ダメージステップ開始時』に手札から《ブラック・マジシャン》の攻撃力を上げるカードは現状存在しない。

 だが、お前は1つ大事なことを忘れているぜ。『ダメージステップ』の中に『ダメージ計算時』というタイミングがあることを!」

「『ダメージ計算時』に手札から発動できるカード……まさか!」

 

 今ではほとんど採用されないものの、かつては多くの決闘者が使用していたモンスター。

 その名は――

 

「そうさ、俺はこの『ダメージ計算時』、手札の《クリボー》の効果を発動させていたのさ!

 こいつは相手ターンの『ダメージ計算時』に手札から捨てることで、その戦闘によって発生するダメージを0にする!」

 

 《クリボー》

 ☆1 闇属性 悪魔族 ATK300 / DEF200

 

 墓地からひょっこり顔を覗かせる小さな悪魔。

 レベルもステータスも非常に低いモンスターだが、『ダメージ計算時』という特殊なタイミングで手札から発動できるカードは、かつてはかなり珍しく、1ターンキル対策として採用されたこともある程だ。

 もっとも今は他のカードが採用されることが多いため、予想できなくとも仕方ないだろう。

 

 ――そんなカードをギリギリで引き当てるだなんてね。

 

 ウィング・キラの誰にも聞き取れないような小さな声で呟くと、すぐに声を張り上げる。

 

「なんと! このタイミングで《クリボー》! これには私も驚きを隠せません! これで終劇(フィニッシュ)といった手前、少々恥ずかしくなりますね。テヘッ♪」

 

 舌を出し、コツンとシルクハットを叩く彼女に、観客から笑顔が溢れる。

 むしろ、マイナーカードで攻撃を防いだアテムに誰もが興奮していたのだ。些細な失敗など気にも留めていない。

 

「ふふっ。6枚のドローで手札誘発のカードを引き当て、1ターンキルを防ぐだなんて、貴方も中々のエンターテイナーですね。

 私はバトルを終了し、カードを1枚伏せてターン終了。

 さて、私のフィールドに並ぶモンスターたちを倒すことはできるでしょうか!」

「臨むところだ! 勝つのは音ノ木坂学院所属、『μ’s』最強の決闘者であるこの俺だぜ! 俺のターン、ドローッ!」

 

 未知の強敵との出会いに心を躍らせ、この戦いに決着をつけるため、アテムは新たなカードをドローする。

 アテムは朧げに感じていた。

 ペンデュラムの特性上、このターンで決着をつけなければ次のターンは回って来ないかもしれないと。

 

 残る砂塵を吹き飛ばしながらドローしたカードを確認する。それは――

 

(ッ! バカな、このカードは……!)

 

「? アテムくん、どうしたんだろう。ドローカードを見て固まっちゃったよ?」

「変ね。あれだけの手札があるんだから、大事故ってわけでも無さそうだけど」

 

 ドローしたカードを見つめ、動きを止めるアテム。その表情からは、『信じられない』といった気持ちがはっきりと読み取れた。

 

(確かに、このカードと《裁きの天秤》で引き当てたカードを組み合わせれば勝てるかもしれない。だが、いいのか? このような場所であのカードを呼び出して……!)

 

 

 

 ――どうしたんだ、あのヒトデ頭。

 

 ――手札事故でも起こしたのか~?

 

 ――早く早く~!

 

 

 

(いや、勝つためにはやるしかない!)

 

「ふむ。どうしたのかと思いましたが、大丈夫のようですね。いったい何のカードをドローしたのか楽しみ…………おや?」

 

 ふと、ウィング・キラは気付く。自分とともにフィールドを盛り上げていたモンスターが急に静かになったことに。いや、それどころか何かに怯えていた。

 まるで、自然災害が起こる直前に謎の行動をする動物のように。

 アテムがドローしたカードの力、その恐怖をモンスターたちは無意識に感じ取っているとでもいうのか。

 

「いったい何が……」

 

「さあ行くぜ! 俺はお前のフィールドの――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――なあ、あの女の娘ってもしかして『A-RISE』の綺羅ツバサちゃんじゃね?

 

 

 

 

 

 

 

 

『ッ!?』

 

 観客の誰かが漏らした何気ない言葉に、2人の動きが止まる。

 それを皮切りに、これまでと違うざわめきが広がった。

 

 

 

 ――そうだ、どっかで見たと思ってたけど、No.1スクールアイドルの!

 

 ――私、初めて近くで見た!

 

 ――サイン貰わないと!

 

 

 

「あらら、隠してたつもりだったのにバレちゃったかー」

 

 突然、身につけていたマントと仮面、シルクハットを外すウィング・キラ。

 その素顔は、あのUTX学院のスクールアイドル『A-RISE』のリーダー、綺羅ツバサであった。

 

「アテムくんだったっけ。ゴメンね、今キミが出そうとしている切り札を見てみたいところだけど、ここまでの騒ぎになった以上、この勝負はおあずけかな」

 

 そう言うと、彼女はデッキをデュエルディスクから引き抜き、制服のポケットに入れてしまった。同時にオッドアイズを始めとしたモンスターたちが姿を消していく。

 

「それじゃ、バイバイ! 次に会う時を楽しみにしてるわ!」

「おい、待て! ウィング・キラ!」

 

 アテムの静止の声を聴かず、ウィング・キラ……いや、ツバサはデュエルディスクから伸ばしたアンカーをビルの屋根に引っ掛け飛び上がる。そのまま彼女はビルの屋根を飛び越えながら走り去ってしまった。

 

 観客たちはツバサが走っていった方向へ移動を開始する。

 後に残されたのは、デュエルの中断に不満を抱く少しの観客と、呆然と立ち尽くすアテムたち3人のみであった。

 

 

 

●いつか、必ず

 

 

 

「アテムくん、最後に引いたカードって何だったの?」

 

 その後、することが無くなった3人はことりの家へ荷物を届け、それぞれ帰路に着いていた。

 スクールアイドル結成のきっかけとなった『A-RISE』のメンバーを近くで見ることができた穂乃果は非常に興奮し、真姫はスクールアイドルとしてだけでなく、決闘者としての腕も優れているツバサに驚きを隠せないでいた。

 だが、いつもデュエル以外では騒がしいアテムが、この時ばかりはほとんど喋らなかった。

 

(最後にドローしたカード、それは――)

 

 

 

 ――《ラーの翼神竜-球体形(スフィアモード)

 

 

 

(この世界に来たことで効果が書き換えられ弱体化したカードの中でも、特に弱体化した《ラーの翼神竜》のもう1つの姿。

 こいつは相手のフィールドのモンスター3体を生け贄に捧げることで、相手のフィールドに召喚することができる。《EM マンモスプラッシュ》以外を生け贄にして奴の場に出し、残る5枚のうち、その後魔法カード《所有者の刻印》を使えばラーを俺のフィールドに戻すことができる。

 更に球体形(スフィアモード)を生け贄にすれば、デッキに眠る《ラーの翼神竜》を攻撃力4000の状態で特殊召喚することができた。

 そして、他の4枚のカードを組み合わせることで奴に勝利できた――)

 

「アテムくんってば!」

「わ、悪い。聞いてなかった」

 

(――だが、本当にそうなのか? 奴の場には2枚の伏せ(リバース)カード。

 もしかしたら、あの中に神の力をも防ぐ手段があったのかもしれない。

 ともあれ、デュエルが途中で中断してしまった今、アレコレ考えても意味は無い、か)

 

 

 

 

 

「音ノ木坂学院のスクールアイドル『μ’s』、そしてアテムくん、か……」

 

 一方その頃、綺羅ツバサはUTX学院の屋上に立ち、眼下の秋葉原を見下ろしていた。その方向はちょうど先程デュエルをしていた場所だ。

 

(彼はきっと私が知らない強力なモンスターを召喚しようとしていた。

 でも、私の場に存在していた《EM ピンチヘルパー》……。あのカードはモンスター同士が戦闘を行う時、墓地に送ればダメージを0にする効果がある。

 それに、伏せ(リバース)カードのうち1枚は《連成する振動》。1ターンに1度ペンデュラムゾーンのカードを破壊してカードを1枚ドローする効果を持つ永続罠。これで何かしらの手札誘発のカードをドローできる可能性もあった。まあ、デュエルが終わって確かめることもできない上に、彼の手札の枚数を考えると安心はできないんだけど)

 

「ふふっ。UTXに入って無敗(・・)の私が『もしかしたら負けたかもしれない』だなんて、ね」

 

 

 

 

 

(ウィング・キラ……いや、綺羅ツバサ……!)

 

(未知のモンスターを操る決闘者、アテムくん……!)

 

(奴との決着は――)

 

(彼との決着は――)

 

 

 

 ――いつか、必ず!!

 

 

 

●オマケ

 

 

 

「ツバサ、とあるカードショップの前で不審者同然の格好をしていた貴女が目撃されたという話を耳にしたんだが……」

「この写真に写ったツバサちゃん、完全に不審者ね♪」

「えー、面白いと思ったのになー」

 

 その後、秋葉原のカードショップにはウィング・キラのブロマイドが売りだされ、大ヒットしたのだとか。

 




 遊矢デッキが放送2年目にしてほとんど完成している件。

 どうも、ツバサに【EM】を使わせたものの舐めプになってしまい反省しっぱなしのレモンジュースです。
 マンモスプラッシュもボルテックスも強すぎませんかね?
 架空デュエルの製作者が扱いに困りそうだ。

 今回、途中終了となってしまった2人のデュエルですが、このまま続けばどちらが勝ったかは私自身考えていません。
 アテムは球体形と所有者の刻印の他に4枚のカードがありますし、
 ツバサはピンチヘルパーの効果、連成する振動によるドロー、伏せカードがあります。
 何のカードだったかは不明のままにしておき、どちらが勝ったのかはわからないままというのもたまにはいいかなと。ちゃんと表現できたかどうかは不安ですが。

 さて、次回はどうしようかな。
 ここまで一切文字が出てこない凛ちゃんをそろそろ出してあげないとなー。

 どうでもいいけど、9月のストラクRが「帝」と聞いて、ウチの真姫ちゃんのデッキが強化できそうでなによりです。
 禁忌の壺も、希のデッキと相性が良さそう。良すぎて対戦相手のアテムにどうやって勝たせようか悩みますけどね。

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