ストラク新規が強すぎるせいで断念しかけている。
ジョーカー強すぎやしませんかね。
7/7 アテムが穂乃果を呼ぶ時の呼称を、苗字呼びから名前呼びに変更。
●前回のラブライブ!
我が名はアテム! ATMと書いてアテム! かしこいかっこいいアテムだ!
人は空を飛ぶことができない。それは誰もが知っている常識だ。
だが、俺はついに空を飛ぶことができたのさ。凄いと思わないか?
もちろん俺一人の力で成し遂げたわけじゃない。先に述べたように、かしこいかっこいいアテムであろうとも、自力で人が飛ぶことはできないからな。
そんな常識を覆し、俺に空中飛行の体験をさせてくれた少女がいる。
その名は、南ことり。
俺は奴が操るエクシーズモンスターの攻撃を受け、窓の外まで吹き飛ばされ、地面に叩きつけられてしまった。
だが俺は決闘者。この程度の衝撃で俺を再起不能にすることなど不可能!
今回は敗れてしまったが、次は必ず勝つ! 俺とオヤジの魂がこもった、最強のデッキとデュエルディスクで!
その後色々あって西木野真姫という1年生に作曲を頼むため、俺は彼女とデュエルをすることになった。
それにしても、この意味不明な感覚はなんだ? 奴の声を聴く度に、俺の記憶が疼く……!
●アテムVS真姫
「俺の先攻! 俺は手札から、《矮星竜 プラネター》を召喚!」
《矮星竜 プラネター》
☆4 光属性 ドラゴン族 ATK1700
身体の右半分が漆黒に染まり、左半分が発光するといった珍妙なドラゴン。星の名を冠するだけあって、下級モンスターであるにも関わらず一際大きな存在感を放つ。
「更に、
だが、これはただのターンエンドじゃない! プラネターのモンスター効果発動! このカードの召喚に成功したエンドフェイズに、デッキから光属性または闇属性のレベル7モンスターを手札に加える!」
(サーチ効果……。普通なら手札誘発効果を持つ《冥府の使者ゴーズ》をサーチしてくるでしょうけど、カードを2枚伏せたということは、ゴーズの『自分フィールドにカードが存在しない』という特殊召喚条件を満たせない。何を持ってくる気?)
「俺が手札に加えるカードは、《ブラック・マジシャン》!」
「ッ!」
アテムが手札に加えたのは、今まで真姫が見たことがないモンスター。だが、カードの枠を見る限り、あれは通常モンスター。エンドフェイズにサーチするモンスターとしてはミスだと思わざるを得ない。
「私のターン、ドロー!
手札から
これにより、私はデッキからレベル4の《幻奏の音女アリア》を特殊召喚!」
《幻奏の音女アリア》
☆4 光属性 天使族 DEF1200
音楽用語の名を冠する美しき天使族モンスター。だが、そのモンスターが持つ能力は見た目とは裏腹に厄介である。それを知る海未は怪訝な表情を浮かべる。
「これは、少々厄介かもしれませんね」
「? どうしたの、海未ちゃん」
「特殊召喚されたアリアは、フィールドに存在する限り自身を含む「幻奏」モンスターを戦闘破壊から守り、カード効果の対象にならないという能力を持っているのです。つまり――」
「対象にとらないカード効果で除去するしかないってことなんだよ、穂乃果ちゃん」
2人の説明を受け、穂乃果は『対象にとらない除去カード』がどれだけあるか思い浮かべる。パッと思い浮かんだのは、まず《地割れ》と《地砕き》。この2枚はそれぞれモンスターの攻撃力または守備力を参照しているため、相手モンスターが1体しかおらずとも対象にとらない。あとは全体除去の《ブラック・ホール》と《激流葬》だ。
自宅で何度かアテムとデュエルをしている穂乃果は、彼が持つその手のカードの数が少ないことを知っている。このまま持久戦に持ち込まれれば、ジリ貧になるかもしれない。だが、そんな予想は他でもない真姫によって裏切られる。
「……先輩方、アリアの強力な耐性についてアレコレ語るのはいいけれど、私は別に守りに入るつもりはないわ。
自分フィールドに「幻奏」モンスターがいることで、私は手札から《幻奏の音女カノン》を特殊召喚!」
《幻奏の音女カノン》
☆4 光属性 天使族 ATK1400
またもや音楽用語の名を冠するモンスター。2体の天使の歌声がフィールドに響き渡り、その美しさに少女たちは息を呑む。
だが、何故だろうか。穂乃果にはその歌声の中に僅かな悲しみが混じっているように感じられた。
「これでレベル4のモンスターが2体……来るか!」
「いいえ、エクシーズ召喚はしないわ。《独奏の第1楽章》を発動するターン、私は「幻奏」モンスターしか特殊召喚できない。
でも、通常召喚への制限は無い。そして私はまだ通常召喚を行っていない!」
通常召喚が可能な状況で、フィールドには2体のモンスター。加えて「幻奏」モンスターしか特殊召喚できないとあっては、考えられる可能性は非常に限られる。
「まずは永続魔法《冥界の宝札》を発動! このカードが存在する限り、2体以上のモンスターをリリースしてアドバンス召喚に成功した時、私はカードを2枚ドローするわ!
私は、アリアとカノンをリリース!」
2体の音女が、最上級モンスターの召喚への贄としてその魂を捧げる。
同時に、昼間の室内であるにも関わらず辺りが暗くなる。その原因は、真姫の頭上に発生した雨雲……、いや、雷雲だ。
「現れなさい、レベル8!」
――《轟雷帝ザボルグ》!!
《轟雷帝ザボルグ》
☆8 光属性 雷族 ATK2800
雷鳴とともに現れる巨体。『帝』の名が示すその威圧感に、アテムは戦慄する。
「攻撃力2800の最上級モンスター……! しかも、雷帝だと?
確か、レベル5に《雷帝ザボルグ》というモンスターがいたはずだが……」
「そうよ、このモンスターはリリースするモンスターの数が増えた分、《雷帝ザボルグ》をより強力にした効果を持つ。その力、思い知らせてあげる!
アドバンス召喚に成功したことで、《轟雷帝ザボルグ》と《冥界の宝札》の効果を発動! まずは《冥界の宝札》の効果により、カードを2枚ドロー!」
真姫の手へと新たに2枚のカードが加えられる。カードの消費が激しい
「更にザボルグの効果により、フィールド上のモンスター1体を破壊する! 私が対象とするのは、当然《矮星竜 プラネター》!」
ザボルグの剛掌より放たれる雷撃が、プラネターへと降り注ぐ。雲よりも高所である矮星の竜であっても、『帝』の威光には為す術もなくその身を焼き尽くされてしまう。
「やはり、ザボルグと同じ効果か……!」
「甘いわね。言ったでしょ、轟雷帝は元のモンスターをより強力にしたものだって。
《轟雷帝ザボルグ》の更なる効果! この効果で光属性モンスターを破壊した場合、そのレベルまたはランクの数だけお互いにエクストラデッキのモンスターを選んで破壊する!」
「融合デッキを破壊するだと!?」
アテムは、かつて《死のデッキ破壊ウイルス》により自らのデッキに眠る上級モンスターを根こそぎ破壊された経験から、デッキ破壊の恐ろしさをよく理解している。だが、エクストラデッキを破壊するという戦術は前代未聞であった。
(とはいえ、俺の融合デッキから破壊するモンスターを選ぶのはあくまで俺自身。ここは、召喚する機会の少ないモンスターを選ぶぜ)
破壊されたプラネターのレベルは4。対するアテムのエクストラデッキの総数は6枚。3分の2が破壊されるが、召喚頻度が多くなりそうなモンスターを残そうと、アテムはエクストラデッキに手を添える。だが――
「待ちなさい! 私は轟雷帝のアドバンス召喚に、光属性のモンスターを使用した。これにより、相手のエクストラデッキから破壊するモンスターは『私が選ぶ』!!」
「何!?」
アテムが驚愕すると同時に、彼のエクストラデッキに存在する6枚のカードが真姫の前に表示される。
《竜騎士ガイア》
《有翼幻獣キマイラ》
《アルカナ ナイトジョーカー》
《超魔導剣士-ブラック・パラディン》
《始祖竜ワイアーム》
《幻想の黒魔導師》
(《超魔導剣士-ブラック・パラディン》に《幻想の黒魔導師》……。さっきの《ブラック・マジシャン》とかいうカードといい、見たことのないカードが混ざっているわね。
ここで破壊すべきは……)
「ガイアとキマイラを除く4枚のカードを破壊させて貰うわ。そして私のエクストラデッキからは、
《音楽家の帝王》
《戦場の死装束》
《裁きを下す女帝》
《幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト》
この4枚を破壊する!」
轟雷帝が右腕を振り上げると同時に、2人のデュエルディスクに轟雷が降り注ぎ、エクストラデッキのカードが墓地へと送られる。
前述したように、デッキ破壊は相手から反撃の芽を奪う恐ろしい戦術だ。しかし、エクストラデッキを破壊するという戦術は、それを遥かに超える恐ろしさを秘めていることをここにいる誰もが理解していた。
「まずいですね。《幻想の黒魔導師》と《始祖竜ワイアーム》がエクストラデッキから直接墓地へ送られたことで、アテムさんは切り札を封じられてしまった……!」
「え? そうなの、海未ちゃん」
訂正、穂乃果以外の全員である。
デュエルモンスターズを長く嗜んでいる彼女であっても、まだまだ理解しきれていないルールがあるようだ。
「穂乃果ちゃん、これは蘇生制限っていってね――」
デュエルモンスターズには、通常の召喚ができず、特殊な方法でなければ出すことができないモンスターが多数存在する。
具体例としては、『このカードは通常召喚できない』と書かれているモンスターや、デュエル開始時にエクストラデッキに存在するモンスターだ。
これらのモンスターは、一度正規の召喚方法で特殊召喚しなければ、デッキや手札から墓地へ送られても蘇生することができないのである。
「今回の場合は、エクストラデッキから融合モンスターとエクシーズモンスターが直接墓地へ送られたから――」
「そうか! 融合召喚やエクシーズ召喚で特殊召喚していないから、その蘇生制限っていうのを満たせないんだ!」
「その通りです。私とのデュエルで召喚した《幻想の黒魔導師》も、通常モンスターを融合素材とする《始祖竜ワイアーム》も蘇生できず、更に言えばその素材となるモンスターを活用し辛くなったということです」
3人の解説が終わると、真姫はフッと息を吐く。
「講義は終わったみたいだし、そろそろバトルに入らせて貰うわ。
行きなさい、ザボルグ! 轟雷を浴びせてやりなさい!!」
轟雷帝が再びその右腕を頭上に掲げる。現在、アテムのフィールドにモンスターは存在しない。この攻撃を受ければライフポイントは一気に1200まで減少してしまう。
モンスターとエクストラデッキ破壊、そして直接攻撃。開始早々、一気に優位に立つことができたと真姫は確信していた。
だが、しかし。
「そうはさせないぜ、西木野!
「甘いよ、西木野さん。アテムくんをそう簡単に倒すことはできないんだよ」
アテムも、まだ出会って間もないが同じ時間を共有している穂乃果が共に笑みを浮かべる。
最初のターンで『あのカード』を手札に加えたアテムがそう簡単に敗北する未来など、訪れるはずがない。
「永続罠《永遠の魂》! このカードが存在する限り、1ターンに1度、手札か墓地から《ブラック・マジシャン》を特殊召喚する!
来い、マハード!!」
《ブラック・マジシャン》
☆7 闇属性 魔法使い族 ATK2500
アテムの背後に現れる巨大な石版。そこに描かれた黒き魔術師が飛び出し、轟雷帝の行く手を阻むように杖を掲げる。体格差、攻撃力の差に臆すること無く冷静に笑みを浮かべるその姿は、エースモンスターとしての風格をありありと見せつけていた。
「バトル中に俺のモンスターの数が変化したことで、『攻撃の巻き戻し』が発生する。さあ、どうする?」
(なるほど。ゴーズをサーチしなかったのは、あの永続罠で特殊召喚するためか。
それにしても、攻撃表示で特殊召喚するとはね。これじゃあもう1枚の伏せカードは戦闘時に攻撃力を増減させる速攻魔法か罠だって言っているようなものじゃない)
「バトルは中止、メイン2に移るわ。カードを1枚伏せて、ターンエンド。
さあ、先輩のターン…………何を笑ってるの?」
轟雷帝の攻撃を取り下げ、ターンを明け渡す真姫。ここは次のターンに備えるべきだと判断したのだが、対するアテムはニヤリと笑みを浮かべている。その余裕ぶった態度が気に食わなかった。
「ふっ。すぐにわかるさ。俺のターン、ドローッ!」
エクストラデッキの利用を封じられたにも関わらず、アテムの表情には焦りはない。それどころか、この状況を簡単に覆せると言わんばかりだ。
ただのドローだというのに、真姫が一瞬恐れを抱いてしまうほど、今の彼は自信に満ち溢れていた。
「来たぜ! 俺は魔法カード《融合徴兵》を発動!
このカードは、融合デッキから融合モンスター1体を公開し、カードテキストに記されたモンスター1体をデッキから手札に加える!
これにより、俺は《竜騎士ガイア》を選択し、素材となるモンスター《暗黒騎士ガイア》を手札に加えるぜ!」
アテムの手に再び加えられるレベル7の通常モンスター。《轟雷帝ザボルグ》の効果で破壊しなかったカードと、それに関連するモンスター。
だが、手札に加えた《暗黒騎士ガイア》の攻撃力は2300。レベル7の最上級モンスターとしてはあまりにも頼りない数値。しかも《融合徴兵》で手札に加えたガイアは、そのターンの間は召喚も特殊召喚もできない。
この状況でサーチして何の意味があるのか、真姫は疑問に思えた。
もっとも、その疑問はすぐに解消される。
「更に、魔法カード《七星の宝刀》を発動するぜ!」
「ッ! そういうこと!」
「わかったようだな。こいつは、手札か場からレベル7のモンスターを除外することで、カードを2枚ドローする手札交換のカード。
俺が除外するカードは当然《暗黒騎士ガイア》だ。これにより、俺の手には新たに2枚のカードが加えられるぜ」
7つの宝石が埋め込まれた剣を突き刺され、ガイアが次元の彼方へと消えていく。それと引き替えにアテムの手札に加えられる2枚のカード。
なるほど、単体では役に立たないモンスターだが、レベル7ということは《七星の宝刀》のコストにもなる。《融合徴兵》と合わせれば3枚分のデッキ圧縮が可能。
弱小とも言える、効果を持たない融合モンスターだからといって破壊対象から外したことが仇になった。
「使い道のないカードを手札交換に利用するなんて、中々やるわね。いいカードは引けた?」
伏せカードによる
だが、真姫の場には1枚の伏せカードと《冥界の宝札》がある。ザボルグが倒されたとしても、まだ問題はないはずであった。
「ああ、だがザボルグを倒し、お前にキツい一撃を加えるための準備はとっくに整っているぜ!
ここで俺は《永遠の魂》のもう1つの効果を発動! デッキから《
「《千本ナイフ》……?」
またもや初めて聞くカード。もしや《ブラック・マジシャン》のサポートカードなのか、と予想するが、果たしてその答えは正解であった。
「このカードは、自分フィールドに《ブラック・マジシャン》が存在している場合のみ発動できる魔法カード。相手フィールドのモンスター1体を対象として破壊するぜ!」
「ッ! サーチ可能な除去カードというわけね! でも、そうはいかないわ! 私は《千本ナイフ》にチェーンして、永続罠《連撃の帝王》を発動するわ!
1ターンに1度、相手のメインフェイズかバトルフェイズにモンスター1体をアドバンス召喚する!」
魔術師の周りに突如現れた、文字通り千本の短剣が轟雷帝へと殺到する。
しかし初めて見るカードとはいえ、そう簡単に通す真姫ではない。発動した永続罠により、轟雷帝が新たなモンスターのための贄としてその身を捧げる。リリースにより除去を回避する、いわゆる『リリース・エスケープ』という戦術である。
「降臨せよ、全てを統べる最強の帝王! レベル8!」
――《怨邪帝ガイウス》!!
《怨邪帝ガイウス》
☆8 闇属性 悪魔族 ATK2800
真紅の瞳を輝かせ、数多の怨念を纏う邪悪なる帝。轟雷帝を贄として現れたそのモンスターは、まさに帝の中の帝と言って差し支えない。
「一応言っておくけれど、レベル8の「帝」は、アドバンス召喚したモンスター1体をリリースすることでアドバンス召喚することが可能。もっとも、《冥界の宝札》の効果は発動できなくなるけどね。
さあ行くわよ! 《怨邪帝ガイウス》の効果発動! このカードがアドバンス召喚に成功した場合、フィールド上のカード1枚を除外する! この効果は強制的に発動するため、《千本ナイフ》の処理が途中に入っていてもタイミングを逃さない!」
「除外効果……! だが、《永遠の魂》が存在する限り、俺の《ブラック・マジシャン》は相手のカード効果を受け付けない!」
「だったら厄介な《永遠の魂》を除外するまで! そして、除外と同時に相手に1000ポイントのダメージを与えるわ!」
人間2人分もあろうかという大きな石版。しかし、それも最強の帝の前では無力。怨邪帝が振り下ろした右腕は、それを軽々と打ち砕く。
更に、その余波がアテムを襲う。呪いとも言える怨嗟の声が、彼の身体を締め付けていく。
「ぐぅっ……!」
アテム LP4000 → LP3000
「《永遠の魂》の更なる効果……。このカードがフィールドを離れた時、自分フィールドのモンスターは全て破壊されるぜ。……すまない、マハード」
強大な力にはそれなりの代償が必要ということか。石版の消滅とともに、魔術師の姿も消え去った。
アテムのエースが場からいなくなったことに、真姫の表情も自然と緩む。
「これでフィールドには再び私の帝のみとなったわ。さあ、どうするの?」
「勝利を確信するのはまだ早いぜ! 俺はここで魔法カード《貪欲な壺》を発動するぜ!」
最も信頼するエースが破壊されても、やはりアテムは余裕の表情を保ち続ける。そんな彼が発動した魔法カードに、誰もが驚愕した。
「ッ! 墓地のモンスター5体をデッキに戻すことでカードを2枚ドローする、手札増強カード……!」
「そうだ。今、俺の墓地には《ブラック・マジシャン》と《矮星竜 プラネター》。そしてお前が融合デッキから破壊した4体のモンスターが眠っている。
俺は、《ブラック・マジシャン》を除く5体のモンスターをそれぞれデッキと融合デッキに戻し、2枚ドローするぜ!」
驚愕したのは、その発動条件を序盤で満たしたことだ。最初の1、2ターンで墓地に5体以上のモンスターを溜めるのは、デッキを高速で回転させるようなデッキでなければ難しい。
今回、アテムのデッキを回転させる速さはそれ程でもなかった。だが、真姫が《轟雷帝ザボルグ》の効果でエクストラデッキのモンスターを破壊したことで、条件を満たすことができたのだ。
「すごい! 破壊されたモンスターを《貪欲な壺》の発動条件に利用するなんて!」
「それだけではありませんよ、ことり。エクストラデッキから破壊されたモンスターを戻したということは、正規召喚が可能になったということ。つまり――」
「切り札を召喚できるようになったってことだね! やっぱりアテムくんすごい!」
ことり、海未、穂乃果の絶賛の声。
対する真姫は、自身のプレイングが裏目に出てしまったことに歯噛みする。
「いくら手札を増やしても、新たにモンスターを召喚できなければ意味は無いわ。壁モンスターは引けた?」
「壁モンスター? 俺は防御に回る気はないぜ。
俺は手札から魔法カード《死者蘇生》を発動! 再び力を貸してもらうぜ、マハード!」
おそらくこのドローで引き当てたであろうカード、それはデュエルモンスターズにおいて最高峰の蘇生カード、《死者蘇生》。
アテムのエース、《ブラック・マジシャン》が再びフィールドに君臨し、新たな帝と対峙する。
「さて、西木野。ここでお前に教えておいてやるぜ。お前は前のターンにプレイングミスを犯していたってことを」
真姫を挑発するかのように、アテムは不敵に笑みを浮かべる。その仕草に彼女は若干の怒りを抱いた。
「プレイングミス、ですって? まさかザボルグの攻撃を中止したことを言っているの? 《リビングデッドの呼び声》のような、『攻撃表示』での特殊召喚を強要するカードでもないのに、バトルフェイズ中に攻撃表示で特殊召喚されたら、伏せカードがコンバットトリックのカードだって言っているようなものじゃない。攻撃を中止するのが定石でしょ」
確かに真姫の言うことはもっともだ。穂乃果たちも、同じことをされたら攻撃中止を選択するだろうと考えた。
しかし、それは過去の話。穂乃果たちは、アテムがどれだけ勝負に強い決闘者であるかを知っている。それを証明するかのような答えが今、明かされる。
「このカードを見ても同じことが言えるかな?
「なっ!? ブラフ!?」
《ブラック・マジシャン》
ATK2500 → ATK3200
当然のルールとして、装備魔法はバトルフェイズ中に発動できない。つまり、発動できないカードをアテムは伏せたうえで、攻撃力2800の轟雷帝に対して、攻撃力2500の《ブラック・マジシャン》を攻撃表示で出すというハッタリを、彼は見事に決めたのだ。
「お前がザボルグの攻撃を中止せず、そのまま《ブラック・マジシャン》を戦闘破壊していれば、今の状況を作り出すことはできなかった。基本や定石といった行動、それがプレイングミスになったのさ!」
「くっ……!」
「それだけじゃない! デュエルモンスターズには、光属性最高峰のサポートカード、《オネスト》というモンスターが存在することを俺は昨日の夜に穂乃果とデュエルしている時に教えてもらった。
《オネスト》が持つ、ダメージステップに手札から墓地に捨てることで光属性モンスターの攻撃力を相手モンスターの攻撃力分アップさせる効果は確かに強力だ。
さて、園田。今俺が言いたいこと、わかるか?」
「え!? 私ですか!? えっと……」
突然話を振られて、困惑する海未。親友が夜中にデュエルしていることに少しだけ邪な考えを抱くが、雑念を振り払って返答する。
「……西木野さんが危惧していたようにアテムさんの伏せカードが攻撃力増減のカードだとしても、《オネスト》の効果があれば大して気になりません。むしろ、積極的に攻撃を狙いますが…………なるほど!」
「その通り。攻撃を止めたということは、『《オネスト》が手札にいない』ことの証明になるのさ!」
たった一手で特定のカードの有無を把握した推理と、危険を顧みないプレイングにまたもや一同が驚愕する。
いや、実際に対峙している真姫は畏怖すら感じていた。
「さあバトルだ! 行け、《ブラック・マジシャン》! 《怨邪帝ガイウス》を攻撃!」
――
装備魔法《魔術の呪文書》により、魔術師の攻撃力は3200まで上昇し、怨邪帝の攻撃力2800を上回る。
その杖より放たれる巨大な魔力球が怨念を纏う巨躯を包み込み、消滅させた。
「きゃあっ!」
真姫 LP4000 → LP3600
「バトルフェイズは終了だ。俺はカードを2枚伏せて、ターンを終了するぜ」
黒き魔術師が佇むアテムのフィールドと、巨大な威圧感を放っていた帝が消え去った真姫のフィールド。もう既に1ターン前と優位は入れ替わった。いや、もしかしたら最初からアテムの優位のまま進んでいたのではないか。そんな思いすら抱いてしまう。
「……舐めないで! 私のターン、ドローッ!」
いや、そんなはずがない。
――これは、パパと一緒に作ったデッキ! あんな怪しい男に負ける訳にはいかないっ!
「私は、手札から再び《独奏の第1楽章》を発動! 私のフィールドにモンスターが存在しないため、デッキからレベル4以下の「幻奏」モンスター、《幻奏の歌姫ソプラノ》を特殊召喚!」
《幻奏の歌姫ソプラノ》
☆4 光属性 天使族 ATK1400
真姫の執念の叫びから呼び出されたのは、『ソプラノ』の名が示す通り、澄んだ高音の歌声を響かせる歌姫。
「ソプラノの効果発動! このモンスターが特殊召喚に成功した時、墓地の「幻奏」モンスター1体を手札に戻す! 私は《幻奏の音女カノン》を手札に戻し、自身の効果で特殊召喚する!」
《幻奏の音女カノン》
☆4 光属性 天使族 ATK1400
真姫のフィールドに再びカノンが現れる。第1楽章で呼び出された「幻奏」モンスターと、カノン。そして残された通常召喚権。もしや前のターンと同じようにアドバンス召喚を行うのではないかとアテムは予想した。
「ここで私は、《ファントム・オブ・カオス》を通常召喚!」
《ファントム・オブ・カオス》
☆4 闇属性 悪魔族 ATK 0
「何!? 生け贄召喚じゃないだと!?」
だが、現れたのは上級以上のモンスターどころか、レベル4のモンスター。しかもその攻撃力は0。これは何かあるだろうとアテムは危惧する。
「《ファントム・オブ・カオス》の効果発動! 1ターンに1度、墓地の効果モンスターを除外することで、このカードはエンドフェイズまで除外したモンスターと同名モンスターとして扱い、同じ攻撃力と効果を得る! 私は、《幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト》を除外する!」
形の定まらない不可思議なモンスターが効果を発動すると、その姿が美しき音楽家へと変わっていく。
《ファントム・オブ・カオス(幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト)》
☆4 闇属性 悪魔族 ATK2400
「マイスタリン・シューベルトはフィールドに存在する限り1度だけ、お互いの墓地のカードを3枚まで除外することで1枚につき攻撃力を200ポイントアップするわ」
「なるほど、《轟雷帝ザボルグ》の効果は墓地に送ったモンスターをコピーするためでもあったということか。だが、効果をフルに使っても攻撃力は3000までしか上がらない。それじゃあ俺の《ブラック・マジシャン》は倒せないぜ?」
自分のエクストラデッキを破壊することを戦術に組み込む真姫の戦術にアテムは感心するが、現状では自分のエースを倒すことなど不可能。そう考えるアテムであったが、海未の叫びによって否定されてしまう。
「違います、アテムさん! 西木野さんの狙いは攻撃力や効果のコピーではなく、カード名のコピーです!」
カード名? アテムだけでなく穂乃果も首をかしげる。このターン、真姫は「幻奏」以外のモンスターを特殊召喚できない。だからこそ前のターンはエクシーズ召喚をせずに最上級モンスターをアドバンス召喚したのではないか。
だが、今は違う。
「幻奏の音姫」という名をコピーした、《ファントム・オブ・カオス》がいるではないか。
「もう遅いわよ! 見せてあげるわ、このデッキの真の切り札を!
ソプラノの更なる効果発動! 1ターンに1度、このカードを含むフィールド上のモンスターを素材として、「幻奏」と名の付いた融合モンスターを融合召喚する!」
「バカな!? 《融合》を使わずに融合召喚を行うだと!?」
融合召喚には、《融合》もしくは融合召喚を行うための魔法カードが必要不可欠。だが、そんなアテムにとっての常識を真姫は超越する。
「天使のさえずりよ! 歌曲の王よ! タクトの導きにより力重ねよ! 融合召喚!!」
突如、真姫の背後に出現する神秘の渦。そこに2体のモンスターが吸い込まれ、新たな命を生み出すための力となる。
――今こそ舞台に勝利の歌を! 《幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ》!!
《幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ》
☆6 光属性 天使族 ATK1000
咲き誇る花の中から現れたのは、これまでの帝が放つ巨大な威圧感とはまるで正反対の可憐な少女。更に攻撃力は1000ポイントと、素材としたモンスターよりも低くなっている。
「ねえ海未ちゃん、カード名をコピーするのが目的だったのってもしかして……」
「ええ、そうです。ブルーム・ディーヴァは、融合素材に「幻奏」モンスターと、「幻奏の音姫」モンスター」を要求しています。しかし、「幻奏の音姫」はいずれも最上級モンスターか、先程除外したマイスタリン・シューベルトのような融合モンスター。そのため、あのモンスターを融合召喚するのは手間がかかるのですが、彼女は《轟雷帝ザボルグ》と《ファントム・オブ・カオス》の効果を利用して条件をクリアしたのです」
それ程までに出しづらい融合モンスターを召喚したということは、低い攻撃力とは裏腹に強力な効果を持っていることは確実。穂乃果もことりも、そして勿論アテムも警戒心を隠し切れない。
「バトル! ブルーム・ディーヴァで、《ブラック・マジシャン》を攻撃!
このモンスターは戦闘及びカード効果では破壊されず、私への戦闘ダメージは0になる!」
ブルーム・ディーヴァの歌声が衝撃波となり、《ブラック・マジシャン》へと突き進む。相対する魔術師も、杖を振り上げ、魔力球を放つ。
拮抗する2体の攻撃。だが、その均衡はすぐに崩れ去る。
「更に、ブルーム・ディーヴァの効果発動! このカードが特殊召喚されたモンスターと戦闘を行ったダメージ計算後、その相手モンスターとブルーム・ディーヴァの元々の攻撃力の差分のダメージを相手に与え、その相手モンスターを破壊する!
さあ、《ブラック・マジシャン》の攻撃を跳ね返しなさい!」
――リフレクト・シャウト!!
一際勢いを増した衝撃波が魔術師の杖を砕き、その身を四散させる。
《魔術の呪文書》で強化されているとしても、それは強化後の値。2体の元々の攻撃力の差、1500ポイントがアテムを襲う。
「ぐぁああ!?」
アテム LP3000 → LP1500
強烈な一撃に吹き飛びそうになるも、辛うじて踏みとどまる。大きくライフを減らされたものの、まだアテムには発動すべきカードが残されている。
「《ブラック・マジシャン》を再び倒すとは流石だぜ。だが、ここで《ブラック・マジシャン》とともに墓地へ送られた《魔術の呪文書》の効果発動! 俺のライフは1000ポイント回復するぜ!」
アテム LP1500 → LP2500
「ライフを回復させたとしても、これでフィールドはがら空き! 続きなさい、カノンでダイレクトアタックよ!」
「そうはさせない! この瞬間、永続罠《蘇りし魂》を発動!
墓地に眠る通常モンスター、《ブラック・マジシャン》を守備表示で特殊召喚するぜ!」
《ブラック・マジシャン》
☆7 闇属性 魔法使い族 DEF2100
三度、主を守るために立ちはだかる黒き魔術師。その顔が若干疲れているように見えるのは気のせいであろう。
突然復活した魔術師にカノンは困惑するが、無理もない。自身の攻撃力1400では守備力2100の《ブラック・マジシャン》を倒すことはできないのだから。
「姑息な手を……! メイン2に移ってカノンの効果発動。1ターンに1度、自分フィールドの「幻奏」モンスターの表示形式を変更できるわ。
私は、カノン自身を守備表示にして、カードを1枚伏せる。これでターンエンド。
言っておくけれど、ブルーム・ディーヴァの反射能力は、戦闘を行うモンスターの表示形式に関係なく発生する。守備表示で凌ごうとしても無駄になるわ」
つまり、真姫はアテムに『このターンで勝たなければ敗北する』と告げているのだ。
(私が伏せたカードは罠カード《幻奏のイリュージョン》。対象の「幻奏」モンスターを発動ターンの間、2回の攻撃が可能となり、相手の魔法・罠から守られる。
カノンが戦闘破壊されたとしても、次のターン、ブルーム・ディーヴァの連続攻撃で私の勝ちよ!)
今度こそ勝利を確信する真姫。だが、それはどうやらアテムも同じようだ。彼はまたしても逆転は可能だと言わんばかりの笑みを浮かべていた。
「また笑ってるのね。ブルーム・ディーヴァを突破して、私のライフを0にする勝算があるとでも言うの?」
「……いや、今の俺の手札とフィールドのカードじゃあ、お前に勝つことはできないさ。だが、俺は嬉しいのさ」
「嬉しい? 何がよ」
この状況が嬉しいと言うなんて。もしかして彼はそういう趣味の人なのではないかと邪推してしまう。
「嬉しいに決まっているじゃないか。お前は――」
――デュエルと音楽をこんなにも楽しんでいるじゃないか。
「ッ! 何を言って……!」
「ここまでデュエルで熱くなれる決闘者が、心から楽しんでいないなんてことあるはずがない。
それに、音楽に関するモンスターを使っているということは、音楽に対する情熱も溢れているんじゃないのか?」
「そ、それは……!」
確かに彼の言う通り、少々熱くなっていたのかもしれない。だからといって、音楽はともかくデュエルを楽しんでいる? 頭の体操のための息抜きに対して?
「アテムくんの言う通りだと思うな、西木野さん」
穂乃果も、アテムに続く。彼女も2人のデュエルを見て、何かを感じ取っていたらしい。
「私も今思い出したばっかりなんだけど、「帝」モンスターを主軸としたデッキって、アドバンス召喚をメインにして攻めるデッキだったはず。
でも、最初に特殊召喚したアリアは、防御に使うためのモンスター。今のカノンだってそう。
正反対の特徴を持つカテゴリを組み合わせることも、《ファントム・オブ・カオス》のコピー能力を上手く利用するのも、私だったら考え付かないよ。
これも勝つために、楽しむために貴女が考え抜いたからなんだよね?」
2人の言葉が真姫に突き刺さり、かつて抱いて、捨ててしまっていた『夢』を呼び覚ましてしまう。
――まき、おおきくなったらさいきょーのでゅえりすとになる!
――そうなのかい? 前は確かプロのピアニストになるって言ってなかったかな?
――あ! えっと、それじゃあ! ピアノもできる、さいきょーのでゅえりすとになる!
――ははは! それは凄いな! パパは真姫の夢、応援しているぞ! 頑張れ!
――うん! めざせ、でゅえるちゃんぴおん!
(そうだ、いつからだろう。パパの背中を追い求めることに夢中になって、いつの間にか忘れていたわね。昔の夢、『音楽とデュエルの両方でプロになる』っていう夢を)
「そうね、貴女たちの言う通り、私はデュエルも音楽も大好き。このデッキだって、かつてプロの世界に身を置いていたパパと一緒に考えて作ったもの。だから、このデッキを使う私が負けるはずがない!
さあ、貴方のターンよ! この状況を覆せるというのなら、やってみせなさい!」
そう言った真姫の表情は、これまでの硬いものから、柔らかいものへと変わっていた。
彼女の変化に、穂乃果たちは嬉しくなった。アテムが彼女の心を開きかけているのだ。
あとは彼が勝利すれば、全て解決する。一見厳しいフィールドだが、もう穂乃果も、海未も、ことりも心配などしていなかった。デュエルで海未の心を開いた彼が、未だ諦めていない彼が、負けることなど絶対にあり得ない!
「望むところだ! 俺のラストターンッ!」
――ドローッ!!
カードをドローしただけだというのに、アテムの周りに風が巻き起こった。いや、ドローした後も吹き荒ぶ様は、まさしく嵐。
「まずは、罠カード《ナイトメア・デーモンズ》を発動! 自分フィールドのモンスター《ブラック・マジシャン》を生け贄に捧げることで、西木野のフィールドに攻撃力2000の「ナイトメア・デーモン・トークン」3体を攻撃表示で特殊召喚するぜ!」
「ナイトメア・デーモン・トークン」
☆6 闇属性 悪魔族 ATK2000
「私のフィールドにモンスターを!?」
アテムが発動したのは、誰も予想できないデメリットだらけのカード。
エースモンスターをリリースするばかりか、相手の戦力にしかならないトークンを呼び出すという自殺行為に、誰もが困惑してしまう。
「何してるのアテムくん! せっかくの《ブラック・マジシャン》をリリースするなんて!」
「これでいいのさ、続けて俺は魔法カード《思い出のブランコ》を発動! 墓地の通常モンスター《ブラック・マジシャン》を攻撃表示で特殊召喚する! 頼むぞ、マハード!」
4度目の特殊召喚。
アテム以外の人物には魔術師が泣いているように見えたのだが、きっと気のせいだと信じたい。
「何のつもり? 《思い出のブランコ》で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに破壊される。ブルーム・ディーヴァ以外のモンスター1体を破壊するしかできないのに、全く意味が――」
――それはどうかな?
「確かに西木野の言う通り、このままではモンスター1体を破壊するだけで精一杯。
だが、俺の手に残された最後のカードが、俺を勝利へと導く! これが、勝利へのラストアタックだ!」
――魔法カード《拡散する波動》!!
「か、《拡散する波動》!?」
「ライフを1000ポイント支払い、レベル7以上の魔法使い族モンスター《ブラック・マジシャン》を対象として効果発動!
このターン、《ブラック・マジシャン》は相手の全モンスターに攻撃を行う!」
アテム LP2500 → LP1500
「更に、「ナイトメア・デーモン・トークン」は、破壊された時にそのコントローラーに800ポイントのダメージを与えるぜ!
《拡散する波動》の効果を受けた《ブラック・マジシャン》が破壊した効果モンスターは効果を発動できないが、『トークンは通常モンスターとして扱われる』ため、ダメージは問題なく発生する!」
「そっか! 攻撃力2500の《ブラック・マジシャン》で攻撃力2000のトークン3体を戦闘破壊すれば!」
「1体につき戦闘ダメージ500と効果ダメージ800! それが3体分で、合計値は3900!」
「ブルーム・ディーヴァを攻撃すること無く、アテムくんの勝ちだ!」
ブルーム・ディーヴァを突破されるはずがないと思っていたが、まさかこのような方法で勝利を狙うとは。
(まったく、こんなの予想できるわけないじゃない)
魔術師が飛び上がり、3体のトークンへと狙いを定める。
この攻撃で自身は敗北する。だというのに、気分はなぜか晴れやかだった。
「行け、《ブラック・マジシャン》! 3体の「ナイトメア・デーモン・トークン」へ一斉攻撃!!」
――
真姫 LP3600 → LP0
●新しい仲間
「私の、負けね」
床に寝そべりながら、真姫はポツリと呟いた。だらしのない格好だということはわかっているが、今はどうでもいいとさえ思ってしまう。
完全敗北したというのに、今はなぜか清々しい。
「西木野、立てるか?」
自分を心配しているのか、アテムが手を差し伸べてくる。真姫は彼の手を取って立ち上がった。ほとんど知らない男性に触れることなど今までは考えられなかったが、なぜかこの男だけは抵抗が無かった。
デュエルをして、多少なら気を許せると思ってしまったのだろうか。
「……作曲、して欲しいのよね」
「ゑ?」
『え?』
手を握り合ったまま、お互いに固まる。穂乃果たちも同様だった。
「……スマン。デュエルに夢中ですっかり忘れてたぜ!」
ヒトデ頭は、舌を出しサムズアップした上で、清々しい笑顔で言ってのけた。
「ナニソレイミワカンナイ! 作曲してって言ってきたのはそっちじゃない! どうして忘れるのよ!」
ついにキレた。それはもう盛大に。
「お、落ち着いて下さい西木野さん! 彼は基本的にどうしようもないバカなんです! デュエル以外のことはあまり頭にないだけなんです! 悪気は無いんです!」
「尚更悪いわよ!」
キレる真姫と、宥める海未。これに穂乃果とことりも加わることで、カオスとしか言いようのない騒がしさとなる。もしも近くに教師や生徒会長がいれば、即座に連行されていたことだろう。
因みに、どうしようもないバカ呼ばわりされたアテムは、音楽室の隅で泣いていた。
――そして5分後。
「お、落ち着いた? 西木野さん」
「……えぇ」
4人は揃って寝そべっていた。
「アテム、かしこくてかっこいいもん」
アテムはまだ泣いていた。
「アレはしばらく放置するとして」
(放置するのね……)
真姫の心の中でのツッコミを余所に、穂乃果は続ける。
「ねえ西木野さん……、ううん、真姫ちゃん! 私たちと一緒にスクールアイドルやってみない!?」
「ウェエ!?」
いきなりの提案に、思わず変な声が出てしまった。
「して欲しかったのは作曲だけでしょ? なんでそんなこと……」
「私ね、さっきのデュエルを見て感じたんだ! 真姫ちゃんが一緒にスクールアイドルやってくれれば、もっと楽しくできそうだって!」
穂乃果は、屈託のない笑顔で語ってくる。近くに寝そべっている海未もことりも、同じような表情を浮かべていた。
デュエルでどうしてそんなことまで感じられるのかと思ったが、嘘を言っているようにも思えない。
「それに私、真姫ちゃんと友達になりたい!」
この遠慮のない先輩は、更に手まで握ってきた。純粋な気持ちでここまで頼まれては、正直言って断れる気がしなかった。
「……し、仕方ないわね! でも、私が作曲する以上、次の新入生歓迎ライブで失敗だなんて許さないんだから!」
面と向かって言うのが恥ずかしいのか、穂乃果から目を逸らしながら、真姫は精一杯声を張り上げた。しかし、目を逸らすというのは、どうやらプレイングミスのようだった。
「真姫ちゃん、ありがとうっ!!」
「んなっ!? 何抱きついてんのよ! アナタ達も止めなさいよーっ!」
抱きつく穂乃果と、逃げられない真姫。それを微笑ましく眺める海未とことり。
そして、泣き続けるアテム。
新たな仲間とともに、『μ’s』は初ライブへ向けて動き出す。
●おまけ
その後、高坂家にて。
「なあ、穂乃果」
「どうしたの、アテムくん」
「西木野は俺とどこか似ていると出会った頃から感じていたが、それが何なのかようやく思い出せたぜ」
「アテムくんと真姫ちゃんの似ているところ? なんだろう、教えて教えてっ」
「ああ! それは――」
――ちょっと棒読みなところだぜ!
「……」
「だが、デュエルを続ければもっといい声になるはずだぜ! ……どうした?」
「アテムくん、他の人の前ではそれ言っちゃダメだからね」
「? ああ、わかったぜ」
ファンの方、ごめんなさい。
●次回予告という名のネタバレ
ファーストライブに向けた買い出しのために秋葉原にやってきたアテムたち。
ついでに立ち寄ったカードショップで楽しんだ彼らは、そこで1人の女性決闘者と出会う。
彼女の名はウィング・キラ。
未知のモンスターを巧みに操るウィング・キラのデュエルタクティクスにアテムは大苦戦!
いったい彼女は何者なの!?
次回、『ペンデュラムA-RISE』
デュエルスタンバイ!
唐突な登場人物紹介
・アテム:自分のことをかしこくてかっこいいと思っている。残念な王様。
・穂乃果:元主人公。デュエルの知識と腕はそこそこ。
・海未:基本的に解説担当。男子と同棲を始めた親友の将来が少し不安。
・ことり:ちょっぴり不審者。よくアテムを引き裂いている。
・真姫:ネオでストロングな作曲家。
・花陽:アテムは倒すべき敵だと思っている。
・凛:出番が欲しいにゃ。
・絵里:苦労人。最近は胃薬が手放せない。きっといいことあるよ。
・希:そのうちデュエルするとしてもアルカナフォースは使わない。
・にこ:アテムのことを痛いやつだと思っている。ファンサービス大好き。
次回もよろしくお願いします。