ラブライブ!DM   作:レモンジュース

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 前回の投稿から、4ヶ月。様々な過去のテーマが強化され、来月にはLVP2まで発売されてしまいます。時械神は全て揃い、TGはリンクモンスターなどによって展開力が上がり、Sinは時折相性の良いカードが登場。さて、機皇の明日はどっちだ。
 カオス・ソルジャーのリンクは、うちのアテムさんに使いこなせるだろうか。

 それでは、ますます混沌としてきた本編をどうぞ。


見よ、我が剣は未だ折れぬ!

 8月が始まり、いよいよ夏本番を迎えた最初の日曜日。『ラブライブ』出場を目指す『μ’s』が、いつもなら、炎天下の中汗だくになりながら練習に励んでいる頃。

 メンバーのうち3人の2年生は、ことりのバイト先である喫茶店『Yliaster』の地下空間を訪れていた。

 

「ほぇ~。凄く盛り上がってるねぇ。あっちこっちでデュエルしてるよ海未ちゃん!」

「前回来た時も疑問に思っていましたが、此処って本当に喫茶店なんですよね?」

「い、一応は……。『とことんデュエルを楽しめる喫茶店』っていうのが売りだから」

 

 見渡す限りの人、人、人。用意された小型のデュエルリングでは誰もがデュエルを楽しんでおり、その盛況はアイドルのライブに勝るとも劣らない。以前アテムとパラドックスがデュエルをした時とは天と地ほどの差がある人口密度に、大量の汗をかきながらカードを操る者も多い。ことり曰く、空調を全開にしていなければ、とてもではないが耐えられないとのこと。

 それでも、脱水症状等で体調を崩す者も出ることが予想されるため、空間内を歩き回るメイドや執事が飲料やタオルを手渡していた。

 

「アテムくん、どこにいるんだろ。ことりちゃんは何か聞いてないの?」

「ううん、特には。『ノワール』との合同イベントがあるってことは聞いてたけど、店長もルイさんも、何も教えてくれなかったし」

 

 数日前に発覚した、恐るべき事件。それは、アテムがこの店でアルバイトをするというもの。もっとも具体的な仕事内容は、喫茶店の接客や調理を担当するのでは決してない。本日のイベントの目玉である、大舞台でのエキシビジョンマッチだ。あの格好や言動で接客などまず不可能だが、ただデュエルをするだけなら……。

 

「普段の彼を見ていると不安しかありませんね。マハードさんが現れてからは多少マシになったのですけれど」

 

 イベント自体には興味があるが、実のところ不安要素の方が圧倒的に大きい。何か問題を起こそうものなら即座に止めよう(主にことりが)という監視目的で来たと言っても過言ではない。

 本当は全員揃って来るはずだったのだが、3年生は受験勉強、花陽と真姫は人気アイドルのイベントに参加、そして凛は何かしらの用事があるとのこと。

 

「それにしても、色々な格好の人がいるんだね。魔女に巫女さん、お侍さん。ここにアテムくんやマハードさんが混ざっても、案外目立たなかったりして」

「確かに、そうかもしれませんね」

 

 今日の催しは数日前から『コスプレ自由!(ただし常識の範囲内で)』と告知されていた。そのためか、穂乃果が言う通り来場者の服装は多種多様。

 

「くははははっ! 悪魔の女王リリスの力、思い知るがいい! 墓地から《サクリファイス・フュージョン》の効果発動! 《魔導獣 キングジャッカル》を吸収せよ、《ミレニアム・アイズ・サクリファイス》!!」

 

 全身ほぼ黒ずくめの銀髪少女は、帽子の巨大な目玉が特に印象的。場に召喚されている無数の目を持つモンスターも相まって、まさに邪悪な魔女のよう。

 

「リリス! いい加減、公共の場でその高笑いをやめんかい! あたしは速攻魔法《ディメンション・マジック》をチェーン発動! 対象となったキングジャッカルをリリース!」

 

 そんな彼女とデュエルをしているピンク髪の少女は、白いネコミミフード付きのローブスタイル。ともに魔法使い族を操る、可愛らしい魔法少女の対決は一際周囲の目を惹いている。

 一方、海未はその近くで行われている、少女と少年のデュエルをじっと見つめていた。

 

「これで条件は整ったよ! 私は、リンクモンスター《ブースター・ドラゴン》の効果対象になった《マグナヴァレット・ドラゴン》の効果発動! 自身を破壊して、フィールドのモンスター1体を選んで墓地に送る!

 対象を取らない破壊以外の除去なら、《真六武衆-シエン》の身代わり効果も無意味だよ!」

 

 片方は、黒髪を右側で束ねた中学生らしき巫女さん。弾丸(ヴァレット)モンスターを操るデッキに合わせてか、左腕に装着したデュエルディスクは玩具の拳銃を模している。

 

【だったら弾丸を潰すまでだ。信行!】

「言われなくとも! 僕は罠カード《六武式風雷斬》を発動! 《六武の門》から「武士道カウンター」を1つ取り除き、マグナヴァレットを手札に戻す!」

 

 対戦相手は、侍風のコスプレをした黒髪の少年。時折、彼の腰に提げられている刀から声が聞こえるのは何かの演出だろうか。彼が右腕を振り上げる動きに合わせて、紅い甲冑のシンクロモンスターが二振りの刃でマグナム弾型のモンスターを弾き返す。日本が誇る侍が、近代武器に打ち克つ光景に、海未は目を奪われていた。

 

(え? 海未ちゃん、もしかして信行さんに……)

 

 そして、ことりは友人が頬を赤らめて少年を見つめる姿に、冷や汗をかいていた。彼はことりの同僚の兄であり、紹介するだけならば容易だ。もし仮に海未が『そういう気持ち』を抱いたのであれば、本当なら友人として応援したい。

 だが、

 

「きゃー! 流石あたしのお兄ちゃんかっこいい! 愛してる~! 抱いて!」

「……はぁ」

 

 給仕をサボって信行へ声援を送っている同僚を見て、2つの意味で大きく溜息。応援したくてもできない理由があるのである。

 どうしたものかと考えていると、そこへ赤髪のメイドが声をかけてきた。

 

「あ、来てたのね南」

「お疲れ様、優香ちゃん。私、ヘルプに入らなくて大丈夫? 忙しそうだし、タマちゃんも信行さんの応援ばっかりしてるみたいだし。

 それに、なんとなくわかるよ。『本物』の人もけっこう来てるんでしょ?」

「やっぱりわかっちゃうか。でも今ここにいる『本物』連中は全員ルイさまやゾーンさんが招いた客だから、心配いらないわ。ぶっちゃけ、イベントの後の顔合わせが本番らしいし。

 タマは、こっちでなんとかするから今日は客として過ごしておきなさい。……むしろイベント内容のこと考えると、やめておいた方がいいわね」

「え、アテムくん何かやらかしそうなの?」

 

 混雑具合を見かねてヘルプを提案したものの、なぜか渋い顔をして断られてしまった。いつもは互いの店舗同士で助け合っていたのだが。

 いくら大丈夫だと言っても、『本物』を相手にするのならば人手が多いことに越したことはないはずだ。頑なに拒む理由を尋ねようとしたところで、天井に取り付けられたスピーカーから、幼い少女のアナウンスが鳴り響く。

 

 

『皆の者、これよりメインイベントを開始する! 今デュエルをしていない者は、特設ステージの前に集まるのだ!』

 

 

「は~い、ルイさま! あなたのメイド神城優香、今イきま~す!」

「…………ほ、本当にヘルプ入らなくていいのかな?」

 

 目の色をピンク色に変える赤髪のメイドが、一目散に駆けて行く。ことりは一層の不安を募らせつつ、前列へ移動を開始するのであった。

 

 

 

 その背中を、4つの瞳が見つめる。蒼い髪の、小さくも妙に威厳のある巫女と、黒いセーラー服を着た、人形のように愛らしい黒髪の少女のものだ。

 前者の着こなしは、周囲がハッと息を飲むほど様になっていて、他の似たような服装をした女性とは一線を画している。一見巫女のコスプレをした中学生と、それに付いて来た友人のような関係。しかし、実際には真逆の間柄であることに気付いた者はほとんどいない。

 

水緒里(みおり)、そろそろ移動した方がいいと思うけど?」

「うん、知ってるよ(より)ちゃん。それより、あれが巷で話題のスクールアイドルグループ『μ’s』かぁ。ネットで見たときよりもうんと可愛いよね。

 特に南ことりさん、私たちの気配に少しでも気付くだなんて、このお店で慣れているってことなのかな?」

 

 くすくすと、心底楽しそうに笑うセーラー服の少女。2人は他の客とは別の場所、主催者(ホスト)が待つ舞台袖へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 穂乃果たち『μ’s』は、これまでアテムという男の奇行を散々目の当たりにしてきた。そのため、ちょっとやそっとのふざけた言動・行動には動じない。

 エキシビジョンマッチの司会を務める『Yliaster』のメイド、宮本(みやもと)珠樹(たまき)が【六武衆】使いの兄を5分もの間自慢し続けても落ち着き払っていたほどだ。

 

『それでは、あたしのかっこいいお兄ちゃんを紹介したところで、本日1戦目! まず登場する決闘者は、この人! 秋葉原に降り立った悪の怪人、ヒトデ男だ~!!』

「俺はヒトデじゃない、アテムだ!!」

『あ、キショいから近寄らないでくれない?』

アッテム(ガッデム)! 真顔で拒絶だなんて、アテムさんの折れないハートにちょっぴりダメージ!」

 

 ヒトデ模様の全身タイツ+ヒトデフレームの眼鏡を身に着けた変態がステージに上がった時は一瞬ドス黒い感情が芽生えたが、一度深呼吸をすることでどうにか気を落ち着かせた。まだだ、この程度で気を乱していては、きっと今後の奇行に耐えられないだろう。

 

『だが、しかし! そんなキショい怪人を倒すため、漆黒のヒーローが立ち上がった! お願い、あたしたちを助けて!!』

 

 子供向けのヒーローショーのような演出だからか、非常にわざとらしい演技で司会が舞台袖へと声を掛ける。すると、1人の女性が暗がりから飛び出してきた。

 

「漆黒の翼翻し、ただいま参上!」

 

 カラス(無駄にリアル)の覆面でも隠しきれない、灰色の長髪。そして普段から着慣れているであろう純白のスーツと黒タイツ。ついでに女性として抜群のスタイルを誇る決闘者は、

 

「我が名は――」

 

 

 

 ――黒羽仮面!!

 

 

 

 音ノ木坂学院の理事長、すなわち南ことりの実母。

 

「…………もうやだ、お家帰るぅ」

 

 首から上が不審人物であること以外は完璧(っぽい)女性と、コスプレ無しでも不審者な少年。少女の心は粉々に砕け散り、観客の9割が既にドン引きしていた。

 2人の決闘者が対峙する空間が、異様な緊張感に包まれる。

 

「ふふ、久しぶりに貴方と戦う機会が訪れましたね」

「久しぶりだと? 俺と貴様は初対面のはずだぜ」

「…………ええ、言われてみればそうですね。どうやら人違いだったようです」

 

 ゴクリ、と唾を飲み込むヒトデ男。珍しく気圧されているのか、彼の額からは一筋の汗が流れ落ちた。そんな(あるじ)へと、周囲から見えない臣下が声を掛ける。

 

(ファラオ)。あの者は間違いなく、)

(わざわざ言わなくてもわかってるぜ、マハード。黒羽仮面、奴が只者でないことはな)

(そ、そうではなくてですね。彼女の正体に心当たりは……)

(正体だと? さっきも言ったが俺と奴は初対面だ。心当たりなどあるわけがないぜ)

 

 知り合いが見れば十中八九バレバレな変装のはずだが、全く気付く様子がない。マハードは、主の今後を改めて心配せずにいられなかった。

 

『さてさて! そろそろデュエルを始めましょう! というか、めっちゃ白けてるし!』

 

 場が白けるというのは、どのような舞台であっても決してあってはならないこと。2人の見た目はともかく、誰もがデュエルの開始を今か今かと待ちわびている。この場に集う『人間』の力を超える者たちを含めて。

 

 

 

 会場内の至る所に設置されたカメラの一部を通して、舞台袖に立つ2人の少女を眺める蟹頭の男も、その1人だ。

 

「真のメインイベントは、私と『彼女』による神のデュエル。それまで彼には会場の空気を一層盛り上げて頂かなくてはなりません。

 …………ほぅ、流石に鋭いですね。山神水緒里」

 

 男、ゾーンの視線に気が付いたのか、黒髪の少女が振り返り、両者が()()()()()()に見つめ合う。

 

「ですが、こちらに気を取られていて良いのですか? デュエルは間もなく始まりますよ」

 

 ――うん、知ってる。

 

 声は聞こえないが、口の動きからそう言っているのだろうと感じられる。黒髪の少女、水緒里が舞台へと向き直った瞬間。世にも珍しい不審者同士のデュエルが幕を開けた。

 

 

 

『デュエル!!』

 

黒羽仮面 LP:4000

ヒトデ男 LP:4000

 

 

 

 

 

 

「私の先攻! まずは、チューナーモンスター《BF(ブラックフェザー)-上弦のピナーカ》を通常召喚!」

 

 《BF-上弦のピナーカ》(チューナー)

 ☆3 闇属性 鳥獣族 ATK1200

 

 インド神話に登場する破壊神が持つ弓と同じ名を持つ、漆黒のカラス。不敵な笑みを浮かべるが、チューナーモンスターは、基本的に戦闘能力が低いカードばかり。それを攻撃表示で残して終わることなど、まず有り得ない。

 

「続けて、このモンスターは自分フィールド表側表示で存在するモンスターが「BF」モンスターのみの場合、手札から特殊召喚することができます。

 現れなさい、《BF-白夜のグラディウス》!!」

 

 《BF-白夜のグラディウス》

 ☆3 闇属性 鳥獣族 ATK800

 

 両手に剣を携えた、細身の鳥獣族モンスター。こちらもまた単体では攻撃力が低い弱小モンスターに過ぎないが……。

 

「チューナーと非チューナーが揃った、来るか……!」

「行きますよ。私は、レベル3の白夜のグラディウスに、同じくレベル3の上弦のピナーカをチューニング! ライト・エクストラモンスターゾーン、解放!」

 

 黒羽仮面の宣言とともにピナーカが3つの光輪へと変質し、グラディウスの周囲を包み込む。

 

牡籥(かぎ)かけ(とざ)す総光の門。七惑七星(しちわくしちせい)が招きたる、由来艸阜(ゆらいそうふう)の勢」

 

 やがてその身体は彼女の仰々しい口上に呼応し、3つの光球へと姿を変えていく。同時に、黒羽仮面の左手中指が真紅に輝いた。

 

廉貞(れんじょう)零零(れいれい)、急ぎて律令(りつりょう)の如く成せ。シンクロ召喚!」

 

 

 

 ――千歳(ちとせ)(ともがら)、レベル6! 《BF-星影のノートゥング》!!

 

 

 

 《BF-星影のノートゥング》

 ☆6 闇属性 鳥獣族 ATK2400

 

 物々しい大剣を携えた、漆黒の鳥人が姿を現す。レベル6のモンスターとしては高めの攻撃力を持ち、その攻撃的な外見を証明するかのように、ヒトデ男へ向けて大剣を投擲した。

 

「まずは挨拶代わりに、ノートゥングの効果を受けて頂きましょう。1ターンに1度このカードが特殊召喚に成功した時、相手に800ポイントのダメージを与えます!

 ――火天墜衝(かてんついしょう)!!」

「ぐぁっ……!」

 

ヒトデ男 LP4000 → LP3200

 

 炎を纏った刃がヒトデ男のライフを削り取り、ブーメランのように舞い戻る。ちょうど初期値の5分の1という大きなダメージは、挨拶代わりという表現はいささか不適切かもしれない。

 

「1ターン目からダメージを与えてくるとは、流石だな。だが、これで終わりじゃないはずだぜ。次の手を見せてみな」

「言われずともそのつもりです。自分フィールドに「BF」が存在することで、手札よりこのモンスターを特殊召喚します! 現れなさい、チューナーモンスター《BF-突風のオロシ》!」

 

 《BF-突風のオロシ》(チューナー)

 ☆1 闇属性 鳥獣族 ATK400

 

 北風の名を持つ、レベル相応に小さなカラス。再びチューナーモンスターが特殊召喚された今、黒羽仮面が取る行動は自ずと絞られる。

 

「レベル6の星影のノートゥングに、レベル1の突風のオロシをチューニング! ライト・エクストラモンスターゾーン、再解放!」

 

 シンクロモンスターを素材とした、さらなるシンクロ召喚。ノートゥングが浮遊しているエクストラモンスターゾーンが発光し、その周囲を1本の光輪が包み込む。

 

牡籥(かぎ)かけ(とざ)す総光の門。七惑七星(しちわくしちせい)が招きたる、由来艸阜(ゆらいそうふう)の勢。

 禄存(ろくぞん)零零(れいれい)、急ぎて律令(りつりょう)の如く成せ。シンクロ召喚!」

 

 今度は、左手の小指が輝きを放つ。

 

 

 ――千歳(ちとせ)(ともがら)、レベル7! 《BF T(テイマー)-漆黒のホーク・ジョー》!!

 

 

 

 《BF T-漆黒のホーク・ジョー》

 ☆7 闇属性 戦士族 ATK2600

 

 僅かに異なる口上によって現れたのは、筋骨隆々の大男。先のノートゥングは人のような姿をした鳥であったが、このモンスターは戦士族。「BF」モンスターの中でも特に異質な存在だ。

 

「ここでホーク・ジョーのモンスター効果。1ターンに1度、墓地からレベル5以上の鳥獣族モンスター1体を特殊召喚できます。

 並びて来たれ、《BF-星影のノートゥング》!」

 

 《BF-星影のノートゥング》

 ☆6 闇属性 鳥獣族 ATK2400

 

「やはり、ホーク・ジョーの効果を利用してシンクロモンスターを並べて来たか」

 

 シンクロ素材として墓地へ送られたシンクロモンスターが蘇り、今度はメインモンスターゾーンに呼び出される。

 新マスタールールでは、エクストラデッキのモンスターは基本的にエクストラモンスターゾーンにしか特殊召喚できないため、【BF】のようにエクストラデッキを多用するデッキは戦術の見直しを余儀なくされた。

 しかし、今のように一度墓地を経由させれば、その制約をある程度緩和することが可能。流石は調教師(テイマー)の特殊能力といったところか。

 

「そして、カードを1枚伏せてエンドフェイズに移行。この瞬間、墓地へ送られていたピナーカの効果により、デッキから「BF」モンスター、月影のカルートを手札に加えます。

 これで私はターンエンド。怪人・ヒトデ男、今度は貴方の力を見せて頂きましょうか」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 リンクモンスターを使用せずに1ターン目から2体のシンクロモンスターを並べただけでも驚嘆に値するが、【BF】デッキを相手にする場合、これだけに気を取られてはいけない。

 黒羽仮面……もとい、南理事長の娘であることりは、母親の戦術を熟知しているからこそ余計に『厄介な布陣だ』と思わずにいられなかった。

 

 

 

「お母さんが堂々と見せつけた《BF-月影のカルート》、あのモンスターは「BF」モンスターが戦闘を行なうダメージステップに手札から墓地に捨てることで、その攻撃力を1400ポイントもアップさせる厄介なカード」

「理事長の場に並んだ2体のシンクロモンスターの攻撃力は、2400と2600。カルートで強化されてしまえば、単体で倒せるモンスターはほぼ存在しません。そして、最も警戒すべきは伏せ(リバース)カード。穂乃果もわかりますよね、子供の頃から何度も苦しめられたのですから」

「うん、伏せ(リバース)カードは絶対《ゴッドバードアタック》だよね」

 

 《ゴッドバードアタック》は、鳥獣族モンスター1体をリリースすることで、フィールド上のカード2枚を破壊する罠カード。ことりの【RR】や黒羽仮面の【BF】のように、鳥獣族モンスターを主体とするデッキであれば必ず採用されていると言っても過言ではない。

 当然のことだが、コストとなるモンスターや、伏せ(リバース)カード自体を除去するカードを使えば戦術はあっさりと瓦解する。しかし、誰もが導き出せるその最適解が手の内を曝け出させてしまうのだ。

 

 

 

 ステージの裏から観戦する2人の少女も、黒羽仮面が敷いた布陣に感嘆の声を漏らす。

 

「鳥獣族デッキを相手にする場合、カードが1枚伏せてあるだけで相手は警戒せずにいられない。

 もしも慎重な行動を取れば、『除去カードが手札にない』ということを証明することとなる」

「正義のヒーローが怪人の動きを制限するっていうのもおかしな話だけど、これをどうやって突破するのか。ふふ、王様のお手並み拝見だね」

 

 正義のヒーローは、強力な布陣を維持できるのか。はたまた、邪悪な怪人によって突破されてしまうのか。会場内の視線が集まる中、ヒトデ男はデッキからカードを引き抜く。

 

「行くぜ。俺のターン、ドロー!

 まずは手札からフィールド魔法《混沌の場(カオス・フィールド)》を発動! デッキから《暗黒騎士ガイア》を手札に加える!」

 

 黒羽仮面がカードの発動を止める気配はなく、フィールド魔法の発動に合わせて、怪人の手札に1体の最上級・通常モンスターが加わる。

 「カオス・ソルジャー」儀式モンスターや、他の「暗黒騎士ガイア」モンスターといった、より強力なモンスターを呼んだ方が良いのでは? ほとんどの者がそう考えたことだろう。

 

「さらに、魔法カード《森のざわめき》を発動! 相手モンスター1体を裏側守備表示に変更し、フィールド魔法を手札に戻す!

 対象は、《BF T-漆黒のホーク・ジョー》だ!」

「ならば、ホーク・ジョーの効果発動。このモンスターが攻撃・効果の対象となった時、別の「BF」へ対象を移し替えます!」

「やはり使ってくるか。だが、どちらが裏側になっても問題ないぜ。俺の本当の狙いはこっちだからな」

 

 調教師の命令を受けたノートゥングが魔法効果の身代わりとなり、ただのカードへと姿を変えた。しかし、ヒトデ男の手札にはフィールド魔法が再度握られる。《混沌の場》は1ターンに1度しか発動できないが、次のターンでもう1度発動時の効果を使うことが可能となった。

 

「続けて、俺はチューナーモンスター《破壊剣士の伴竜》を通常召喚! このカードが召喚に成功した時、デッキから「破壊剣」カードを手札に加える!

 俺が手札に加えるのは、《破壊剣-アームズバスターブレード》!」

 

 《破壊剣士の伴竜》(チューナー)

 ☆1 光属性 ドラゴン族 ATK400

 

 小さな白き竜が現れ、1枚のモンスターカードを主へと与える。到底このままでは、黒羽仮面の強力なシンクロモンスターに太刀打ちすることなどできない。だが、異なるカードと組み合わせることで、新たな可能性が生み出される。

 

「ここで俺は、手札から魔法カード《融合》を発動! フィールド・手札のモンスターを素材として、融合モンスターを呼び出す! さぁ、カードを発動するなら今のうちだぜ?」

「いいえ、発動するカードはありません。貴方の融合モンスター、是非見せて頂きましょうか。もっとも、大体の予測はできますが」

 

 融合モンスターを特殊召喚するための素材を選ぶのは、効果解決時。何らかのカードをチェーン発動され、素材となるモンスターがいなくなれば不発になるのだが、黒羽仮面は一切動く素振りを見せない。

 ならば、と。ヒトデ男は場と手札のカードを1枚ずつ頭上へ掲げる。

 

「その余裕が命取りになるぜ? 俺が素材とするモンスターは手札の《暗黒騎士ガイア》と、フィールドのドラゴン族モンスター《破壊剣士の伴竜》!」

 

 

 

 ――翔び立て、レベル7! 《天翔の竜騎士ガイア》!!

 

 

 

 《天翔の竜騎士ガイア》

 ☆7 風属性 ドラゴン族 ATK2600

 

 「暗黒騎士ガイア」の名を持つモンスターと、任意のドラゴン族という非常に緩い融合素材で呼び出される融合モンスター。巨大化した伴竜に暗黒騎士が跨る姿はかなり違和感があるが、そこはご愛嬌。

 

「《天翔の竜騎士ガイア》が特殊召喚に成功したことで、効果発動! デッキから永続魔法《螺旋槍殺(スパイラル・シェイバー)》を手札に加える!

 そして、これをそのまま発動するぜ!」

 

 暗黒騎士の力を高める永続魔法が発動されるが、ここまで進めても黒羽仮面は落ち着き払ったまま。得体の知れない不気味さに警戒心を抱きつつも、少年は動く。

 

「バトルだ! 俺は《天翔の竜騎士ガイア》で、ホーク・ジョーを攻撃! この瞬間、ガイアのさらなる効果発動! 攻撃対象モンスターの表示形式を変更する!」

 

 《BF T-漆黒のホーク・ジョー》

 ATK2600 → DEF2000

 

「ホーク・ジョーが守備表示に……。これではカルートの効果は使えませんね」

 

 黒羽仮面の手札に存在する《BF-月影のカルート》は、味方の攻撃力を大幅に上昇させる強力なカード。だが、表示形式を変更されてしまえばその効果は全くの無意味。宙を舞う黒羽の調教師を、二振りの槍が穿つ。

 

「《天翔の竜騎士ガイア》は、フィールドに存在する限りカード名を《竜騎士ガイア》として扱う。よって《螺旋槍殺》の効果により、貫通ダメージを受けて貰うぜ!」

「くっ!」

 

黒羽仮面 LP4000 → LP3400

 

「ここで、《螺旋槍殺》のもう1つの効果発動! 《竜騎士ガイア》が貫通ダメージを与えたことで、カードを2枚ドローして、手札1枚を墓地に捨てる!」

 

 月影のカルートの効果を封じつつ、貫通ダメージを与え、手札を増強。相手の行動を妨害しつつ自らの攻撃を通すという鮮やかな戦術に、それを成した者が『悪役』といえど、誰もが思わず息を呑む。これだけでも十分に思えた、が。

 

「まだ行くぜ。「BF」を追加召喚する効果を持つノートゥングは、このターンで破壊する!

 手札から速攻魔法《融合解除》を発動! 《天翔の竜騎士ガイア》をエクストラデッキに戻し、《暗黒騎士ガイア》と《破壊剣士の伴竜》を攻撃表示で特殊召喚!」

「ッ! これは融合デッキ最強の攻撃パターン!」

 

 怪人は攻撃の手を緩めない。融合戦術における最高の攻撃の機会であると同時に、相手には反撃の機会を与えないためだ。

 

「バトル続行だ! 《暗黒騎士ガイア》で、裏側守備表示のノートゥングを攻撃! 《螺旋槍殺》の効果により、700ポイントの貫通ダメージを与えるぜ!

 そして、《破壊剣士の伴竜》で直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

「むぅっ……! これは、効きますね」

 

黒羽仮面 LP3400 → LP2700 → LP2300

 

『あ~っと! 黒羽仮面、怪人の連続攻撃によって、一気にライフを削られてしまった~!』

 

 シンクロモンスターを2体とも失い、ダメージを受けた黒羽仮面よりも、司会の方が過剰な動揺を見せる。ヒーローショーとは、得てしてそういうものなのだろうか。

 一方、ヒトデ男の場にはチューナーを含む2体のモンスター。伴竜の攻撃力僅か400ポイントだが、何もせずに残すことなど有り得ない。

 

「バトルを終え、メインフェイズ2! 俺はレベル7の《暗黒騎士ガイア》に、レベル1の《破壊剣士の伴竜》をチューニング!

 ライト・エクストラモンスターゾーン、解放!」

「やはり、シンクロ召喚で来ますか」

 

 シンクロ召喚を扱うのは、黒羽仮面だけではない。エクストラデッキをあまり使用しないヒトデ男(アテム)も、極稀に呼び出すことがあるのだ。

 

「破壊剣士に付き従いし竜よ、全てを滅する力を呼び醒ませ! シンクロ召喚!」

 

 

 

 ――来い、レベル8! 《破戒蛮竜-バスター・ドラゴン》!!

 

 

 

 《破戒蛮竜-バスター・ドラゴン》

 ☆8 闇属性 ドラゴン族 DEF2800

 

 か弱き幼い竜が、瞬く間に凶悪な巨竜へと変貌する。そのレベル・外見とは裏腹に攻撃力はたったの1200ポイントしかないが、このモンスターが真の力を発揮するのはここからだ。

 

「バスター・ドラゴンの効果発動! 自分フィールドに「バスター・ブレイダー」モンスターが存在しない場合、1ターンに1度、墓地から《バスター・ブレイダー》を特殊召喚する!」

「なるほど、《螺旋槍殺》の効果で墓地に送ったモンスターですね」

 

 《バスター・ブレイダー》

 ☆7 地属性 戦士族 ATK2600

 

『ヒトデ男、ここでドラゴン族殺しの最上級戦士を特殊召喚! だけど、黒羽仮面のデッキ【BF】は鳥獣族がメイン。その効果はあまり活かせないんじゃない?』

 

 少女の評価は、概ね正しい。相手のドラゴン族モンスター1体につき攻撃力を500ポイント上げる竜破壊の剣士も、相手がドラゴンを使わなければ攻撃力が高いだけのモンスターにしかならないからだ。

 

「まだだ! 俺は手札から、《破壊剣-アームズバスターブレード》のモンスター効果発動! 自分フィールドの《バスター・ブレイダー》を対象として、このモンスターを装備カード扱いとして装備する!」

 

 《バスター・ブレイダー》が自身の剣を放り投げ、新たな得物を握り締める。その刀身からはバーナーのように炎が吹き出し、より破壊的な印象を抱かせる。

 

「今度は《破壊剣士の伴竜》の効果で手札に加えたモンスター、確かその効果は……」

「知っているなら話は早いな。そう、このカードが装備されている限り相手フィールドの既に表側表示で存在する魔法・罠カードは効果を発動できない!」

 

 使い切りの魔法・罠カードや、永続的に効果が適用されるカードに対しては無力なため、カード名に反して使い勝手が悪いように思われるだろう。だが、どのようなカードも戦う相手によっては絶大な力を発揮する。

 

「【BF】デッキのキーカード、永続魔法《黒い旋風》は、「BF」モンスターの召喚をトリガーとして効果を『発動』する。

 次々と新たなモンスターを呼び寄せる効果は、確かに強力だ」

「それをアームズバスターブレードの効果で封じた、と。怪人らしい意地の悪い戦術ですね」

 

 強力なデッキ・戦術も、広く認知されればされるほどに対策は容易となる。だからこそ、こうして発動前のカードを無力化する手筈を整えることができたのだ。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンを終了する。さあ、貴様のターンだぜ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 2体のシンクロモンスターを退けたばかりか、今度はヒトデ男が黒羽仮面の戦術を封じる盤面を構築する。両者をよく知る海未は、早くも勝負あったのではないかという考えが頭をよぎってしまう。

 

「見た目はとことんふざけていますが、流石はアテムさんですね。《黒い旋風》を封じてしまえば、【BF】の展開力はある程度抑えられます」

伏せ(リバース)カードもあるし、これで理事長はほとんど動けなく…………どうしたの、ことりちゃん。そんな難しい顔して」

 

 奇天烈な格好をしていた母親に対し、最初はショックを受けていたことりであったが、デュエルを見ているうちに多少は気持ちの整理がついたらしい。窮地に陥る母親を見て、少女は小さく唸る。

 

「お母さんが伏せたあのカード、いったい何なんだろうって思って」

「え、《ゴッドバードアタック》じゃないの? 鳥獣族モンスターが裏守備表示になったから、発動できなくなったんだし」

「それは違いますよ、穂乃果。《ゴッドバードアタック》のように自分フィールドのモンスターをリリースして発動するカードは元々の種族・属性・攻守を参照するため、裏側守備表示でもいいのです。これを利用したコンボもありますが、今はやめておきましょう。

 しかし、そうなると確かにあの伏せ(リバース)カードが気になってきますね」

 

 理事長が伏せたカードが《ゴッドバードアタック》であった場合、バトルフェイズの間に発動機会があったにも関わらず使用しなかったことになる。攻撃が全て通ったことからも、防御のためのカードでなかったことは明白。

 逆転が困難な状況に、どう立ち向かうのか。正義のヒーロー・黒羽仮面は微かに微笑み、ターンを開始した。

 

 

 

「私のターン、ドロー。……ふふっ、良いタイミングで来てくれましたね」

「何だと?」

 

 引き当てたカードを確認した黒羽仮面が、今度ははっきりと笑みを浮かべる。彼女はそれを一度左手に持ち替え、別のカードをデュエルディスクへと挿入した。

 

「まずは、このカードです。私は手札から魔法カード《シャッフル・リボーン》を発動!

 自分フィールドにモンスターが存在しない時、墓地からモンスター1体を、効果を無効にして特殊召喚します! 来なさい、《BF-突風のオロシ》!」

 

 《BF-突風のオロシ》(チューナー)

 ☆1 闇属性 鳥獣族 ATK400

 

「ピナーカではなく、オロシだと?」

 

 突風のオロシはシンクロ素材となった時、モンスター1体の表示形式を変更する効果を持つ。そのため、《シャッフル・リボーン》による効果無効の影響は受けない。しかし、上弦のピナーカは墓地に送られたエンドフェイズに新たな「BF」モンスターを手札に加える効果を持つ。

 どちらが有用かは場合によるが、高レベルのシンクロモンスターに繋げやすい後者を選ばなかった理由は? ヒトデ男の疑問に、黒羽仮面はデュエルディスクへと手を伸ばすことで答える。

 

「罠カード発動、《ブラック・リターン》! フィールドに「BF」1体が特殊召喚された時、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動。その攻撃力分だけ私のライフを回復し、対象モンスターを手札に戻します。

 私が選択するのは、《バスター・ブレイダー》!」

「やはり《ゴッドバードアタック》ではなかったか。しかも、これは……!」

 

 発動条件はあるが、モンスター除去とライフ回復を同時にこなすという特徴を持つカード。シンクロ召喚を始めとして、特殊召喚の機会は無数に存在するため、発動も容易だ。

 

「貴方のフィールドに存在する《破戒蛮竜-バスター・ドラゴン》は、私のフィールドのモンスター全てを『ドラゴン族』に変える。

 種族サポートを妨害しつつ《バスター・ブレイダー》の攻撃力を上げるコンボなのでしょうが、こちらで利用させて頂きましょう」

「くっ……!」

 

黒羽仮面 LP2300 → LP5400

 

 ヒトデ男のカードを利用してライフポイントの回復量を増やしつつ、強力なモンスターを退ける。中々の戦術だが、彼にとって厄介なのはここからだ。

 

「装備対象を失ったアームズバスターブレードが墓地に送られたため、私は《黒い旋風》の効果を存分に(ふる)うことができます。

 ここで私は、《シャッフル・リボーン》のもう1つの効果を発動。突風のオロシをデッキに戻し、カードを1枚ドロー!」

 

 なるほど、復活させたモンスターを即座にデッキへ戻すのならば、ピナーカを選ばなかったことに説明がつく。これで黒羽仮面の手札は、月影のカルートを含めて3枚。

 

「これで準備は整いました。自分フィールドにモンスターがいない時、私は手札から《BF-毒風のシムーン》のモンスター効果発動!」

「何だと!?」

 

 驚きの声を上げたのは、ヒトデ男だけではない。会場にいる観客のほぼ全てだ。無理もない、なぜなら黒羽仮面が公開したモンスターは、

 

 

 

 ――今まで誰も見たことも聞いたことも無いのだから。

 

 

 

「お母さん、もしかして店長からカードを……?」

 

 その出処を、ことりは即座に予測する。彼らイリアステルは、元いた世界では【BF】を扱う決闘者と縁があったという。理由はともかく、未知のカードを独自に開発していたとしても不思議ではない。

 果たして、どのような効果を秘めているのだろうか。

 

「このモンスターは手札から他の「BF」を除外することで、デッキから《黒い旋風》を発動し、自身をリリース無しで召喚するか、墓地へ送ります。

 これにより、私は《BF-月影のカルート》を除外して、毒風のシムーンを攻撃表示で召喚!」

 

 《BF-毒風のシムーン》

 ☆6 闇属性 鳥獣族 ATK1600

 

「《黒い旋風》を発動しつつ、カード効果によって召喚されるだと!? インチキ効果もいい加減にしろ!」

 

 シムーンとは、砂が混じった激しい熱風を意味する。アラビア語で『毒』を意味する言葉に由来し、動植物を死に至らしめることもある危険な風だ。

 毒々しい風貌の黒翼が、旋風を巻き起こす。

 

「この瞬間、私は《黒い旋風》の効果発動! 召喚されたシムーンよりも低い攻撃力を持つモンスター、攻撃力1300の《BF-南風のアウステル》を手札に加えます。

 そして、このモンスターを本来の召喚権を行使して通常召喚!」

 

 《BF-南風のアウステル》(チューナー)

 ☆4 闇属性 鳥獣族 ATK1300

 

 続けて現れたのは、黄色い体毛と鮮やかな羽を持つ、ひよこのようなモンスター。またしても未知のカードであり、どのような効果を持っているのかと、誰もが考えずにはいられない。

 

「アウステルが召喚に成功したことで、自身と《黒い旋風》の効果発動! デッキから攻撃力400の《BF-突風のオロシ》を手札に加え、除外されている《BF-月影のカルート》を守備表示で特殊召喚します!

 さらに、突風のオロシを特殊召喚!」

 

 《BF-月影のカルート》

 ☆3 闇属性 鳥獣族 DEF1000

 

 《BF-突風のオロシ》(チューナー)

 ☆1 闇属性 鳥獣族 ATK400

 

「くっ……、流石は【BF】だ。一気にモンスターを4体も展開してくるとはな」

 

 芋蔓式に呼び出される、黒き翼のモンスターたち。《黒い旋風》を起点とした、この展開力こそが【BF】の恐ろしさだ。

 

「お褒め頂き、ありがとうございます。お次は新たなシンクロモンスターをお見せしましょう。

 私はレベル6の毒風のシムーンに、レベル1の突風のオロシをチューニング! ライト・エクストラモンスターゾーン、解放!」

「レベル7の新たな「BF」シンクロモンスターだと!?」

 

 2体のモンスターが飛び上がると同時、観客は揃って期待の眼差しを上空へと向ける。決闘者は、誰もが新たな力に興味を抱く。それが強力なデッキのものであるならば、尚更。

 

牡籥(かぎ)かけ(とざ)す総光の門。七惑七星(しちわくしちせい)が招きたる、由来艸阜(ゆらいそうふう)の勢。

 文曲(もんごく)零零(れいれい)、急ぎて律令(りつりょう)の如く成せ。シンクロ召喚!」

 

 

 

 ――千歳(ちとせ)(ともがら)、レベル7! 《A(アサルト)BF-驟雨(しゅうう)のライキリ》!!

 

 

 

 《A BF-驟雨のライキリ》

 ☆7 闇属性 鳥獣族 ATK2600

 

 黒羽仮面の左手薬指が発光し、雷を纏った日本刀を持つシンクロモンスターが現れる。強襲という意味を持つ新たな「BF」の登場にヒトデ男は警戒心を強め、反対に観客は「いったいどのような活躍を見せてくれるのか」と一層瞳を輝かせる。

 その期待に応えんと、黒羽仮面とライキリは同時に右手を振り上げた。

 

「ライキリの効果発動! 1ターンに1度、自分フィールドに存在する他の「BF」モンスター1体につき、フィールド上のカード1枚を破壊します!」

「モンスターの数に応じた除去能力、これが新たな力か……!」

 

 元より優れた展開力を誇る【BF】ならば、複数のカードを破壊することは容易い。除去能力に乏しかったデッキの力を底上げする、理想的なモンスターと言えよう。

 

「私のフィールドには、アウステルとカルート! よって、バスター・ドラゴンと伏せ(リバース)カードを破壊します!」

 

 縦一閃。振り下ろされた刃が、蛮竜と伏せカードを両断した。観客席からは「おおっ」と感嘆の声が漏れるが、極一部の者は異なる反応を見せる。

 

「ああっ! アテムくんのフィールドがガラ空きになっちゃったよ!」

「高速展開に磨きをかけ、強力な除去能力をも会得するなんて……。【BF】の飛翔は留まるところを知らない、ということですか」

「…………お母さん、ノリノリだなぁ」

 

 

 

 悪しき竜が棲まう場を徹底的に掃除した上で、決着をつける。少々過剰に警戒しているようにも思えるが、これもより確実に相手のライフポイントを削り切るためだ。

 

「私が次々とモンスターを展開していく中で、最も警戒すべきものは《聖なるバリア -ミラーフォース-》のような攻撃反応型の罠カード。それを破壊した今、貴方を守るカードは――ッ!?」

 

 連続攻撃によって、勝利を確信したと踏んだ黒羽仮面。だが、その声が突如詰まる。なぜなら、ヒトデ男の口元には笑みが浮かんでいたのだから。

 

「確かに、この局面でミラーフォースのようなカードを警戒するのは当然だ。絶体絶命の状況を1枚でひっくり返すことができるからな。

 だが、その用心深さは時に仇となるぜ」

 

 

 

 ――俺は、破壊された《ミラーフォース・ランチャー》の効果発動!

 

 

 

「ッ! 《ミラーフォース・ランチャー》!?」

 

 それは、「ミラーフォース」の名を持つが全くの別物。破壊されることで真価を発揮する発射装置だった。

 

「セットされたこのカードが相手の効果で破壊され墓地に送られたことで、手札・デッキ・墓地から《聖なるバリア -ミラーフォース-》1枚を選び、このカードとともにセットする。

 そして、この効果でセットしたカードは、セットしたターンでも発動できる!」

「確実な勝利を手にするための行動が逆効果になってしまうとは……、一本取られましたね。ですが、これだけで進化した【BF】を止められるとは思わないことです。

 まず、私は手札から速攻魔法《グリード・グラード》を発動。相手フィールドのシンクロモンスターを破壊したことにより、カードを2枚ドローします」

 

 ミラーフォースは、存在そのものが決闘者のプレイングに影響を及ぼす。今、黒羽仮面の場に存在するモンスターはカルートを除く2体が攻撃表示。このまま攻撃すれば壊滅的な損害を被ることは間違いないだろう。

 新たなドローによって、除去カードを引き当てるつもりか。会場内に緊張が走る。

 

「……やはり、あのモンスターを使わざるを得ませんか。私はレベル3の月影のカルートに、レベル7の驟雨のライキリをチューニング! ライト・エクストラモンスターゾーン、再解放!」

「何だと!?」

 

 彼女はいったい、どこまで人を驚嘆させれば気が済むのか。シンクロモンスターをチューニングするなど、そのような力は極一部の者しか持ち得ないはず。既に目にしたことのあるヒトデ男たちでさえ、信じられないといった表情を浮かべているのだ。何も知らない観客の驚きようはその比ではない。

 

「これこそが、「A BF」が持つ特殊能力。「BF」を素材としてシンクロ召喚している場合、自身をチューナーとして扱うのです」

「ッ! つまり、擬似的なシンクロチューナーというわけか!」

 

 3つの光球へと姿を変えたカルートが、7つの光輪を通過する。

 デュエルモンスターズでは、モンスターのレベル・ランク・リンクマーカーが多ければ多いほど強力になる傾向がある。絶対では無いが、今行われているのはシンクロモンスターを素材とした超高レベルのシンクロ召喚。生半可なモンスターでないことは確かなはずだ。

  召喚時に輝く、黒羽仮面の指は人差し指。

 

牡籥(かぎ)かけ(とざ)す総光の門。七惑七星(しちわくしちせい)が招きたる、由来艸阜(ゆらいそうふう)の勢。

 巨門(こもん)零零(れいれい)、急ぎて律令(りつりょう)の如く成せ。シンクロ召喚!」

 

 

 

 ――千歳(ちとせ)(ともがら)、レベル10! 《BF-フルアーマード・ウィング》!!

 

 

 

 《BF-フルアーマード・ウィング》

 ☆10 闇属性 鳥獣族 ATK3000

 

 全身を漆黒の装甲で覆い、右手には大剣を、左手には機関銃を携えた重武装のシンクロモンスター。攻撃力の高さも相まって、見る者に大きな与える威圧感を与える。

 

「これは、攻撃力3000のアーマード・ウィング!? どのような特殊能力を――」

「バトルです! 私は、フルアーマード・ウィングでプレイヤーへ直接攻撃(ダイレクトアタック)!!」

 

 言い終わる前に、黒翼の戦士が持つ機関銃から、無数の弾丸が放たれた。黒羽仮面のモンスターの総攻撃力は4300ポイント。残りライフ3200のヒトデ男では、受けきれない。

 ミラーフォースが伏せられているのを知っていて、なぜ? 疑問に思いながらも、怪人は右端に伏せたカードを発動させた。

 

「罠カード発動、《聖なるバリア -ミラーフォース-》! 相手の攻撃表示モンスターを全て破壊する!!

 これで貴様のモンスターを2体とも葬る!」

 

 ヒトデ男の眼前に出現した不可視の盾が、全てを弾き返す。その向かう先は2体のモンスター。アウステルは小さな翼で逃げようとするが為す術もなく砕け散り、同じく攻撃の主も消え失せる――

 

 

 

  ――はずだった。

 

 

 

 戦士は微動だにせず、自身へと飛んできた弾丸を全て文字通り受け止める。だが、その装甲や武器には(ひび)一つ入っていなかった。

 

「ふふっ、無駄ですよ。フルアーマード・ウィングは、自身以外のカード効果を一切受け付けません。たとえミラーフォースであろうと、このモンスターには傷一つ付けることはできないのです」

「3000ポイントもの攻撃力に加えて、カード効果への完全耐性だと!?」

 

 流石はレベル10のシンクロモンスター、『フルアーマード』の名は伊達ではないということか。やがて不可視の盾(ミラーフォース)は消失し、今度こそ彼を守る伏せカードは存在しない。

 

「アウステルは破壊されましたが、フルアーマード・ウィングの攻撃は続行中です。さぁ、行きなさい!」

 

 戦士は弾丸を装填し直し、再びヒトデ男へと撃ち放つ。この攻撃を受けても彼のライフポイントは残るが、与えられる損害は甚大だ。

 

「そうはさせない! ダメージ計算時、俺は手札から《クリボー》のモンスター効果発動! このカードを墓地に捨てることで、『俺が受ける』戦闘ダメージを0にする!」

「ッ!」

 

 正義の弾丸が怪人を蜂の巣へと変える寸前、無数に増殖した小さな悪魔が立ち塞がる。たとえ攻守が低くとも、その能力はまさに鉄壁の盾。お返しだと言わんばかりに次々と相殺していく。

 

 

 

 それでも、一部の観客はいまいち納得がいかない様子。そのうちの1人、先ほどデュエルを繰り広げていた巫女服の少女が、隣に立つ軍服姿の少年へ疑問を投げ掛けた。

 

「ねぇ、佑斗(ゆうと)くん。フルアーマード・ウィングって、他のカードの効果を受けないんだよね。どうして《クリボー》で攻撃を防げたの?」

「防いだっていう表現は少し違うぞ、(あずさ)。彼も言っていたけど、《クリボー》の効果を受けるのは攻撃モンスターではなくプレイヤー。完全耐性も決して万能じゃないってことだな」

「へ~、この資料には一通り目を通したけど、異世界で決闘王(デュエルキング)と言われていただけのことはあるんだね。あの髪型と全身タイツにはドン引きだけど」

「それは同感。ただ、髪型に関しては資料を渡してくれたここの店長も強烈だったな」

 

 2人の左手に装着されたデュエルディスク、その画面にはアテムが元の世界で繰り広げてきた戦いの記録が事細かに記されている。まるで、偉人の生涯を追う伝記のように。

 また、そこには同じく異世界の住人イリアステルや、東京23区で活躍するご当地ヒーローなどの情報までもが纏められていた。

 

「去年海上都市(アクアエデン)で生活を始めた時、自分が吸血鬼になる以上の衝撃は、これ以上ないと思ってたのになぁ……」

「異世界人、精霊、宇宙人、魔法使い、果ては神様だもんね。さっきデュエルした男の子も、喋る刀を持ってたっけ」

「さっき会った山神さんも荒神(あらがみ)市長みたいな威厳があったよ。この後の会合、今から緊張してきた……」

 

 緊張する、と言うが少年の目元には隈が出ており、時折あくびを噛み殺している。現在時刻は14時を回ったところ。普段の彼らは就寝中であり、そのような時間に出歩いているのだから無理もない。

 

「どうする? 少し仮眠とっておこっか?」

「いや、やめておくよ。あの怪人役や店長たちを見極めるっていうのも俺たちが与えられた仕事だからな」

「ふふ、佑斗くんってばすっかり一人前だね」

 

 2人が見つめる先では、ちょうど黒羽仮面のターンが終わろうとしている。古の王を見極めようとしているのは、何も彼らだけではない。

 異世界人、宇宙人、魔法使い、吸血鬼、神。この場所に集った異能に携わる者は両手でも数えきれない。そのような事実を知る者はどれほどいようか。

 

 

 

「今度こそ決定打を与えられると思っていましたが、残念です。私はカードを2枚伏せ、エンドフェイズへと移行。この瞬間、毒風のシムーンの効果で発動した《黒い旋風》が墓地へと送られ、私は1000ポイントのダメージを受けます」

 

黒羽仮面 LP5400 → LP4400

 

「なるほどな。デッキから《黒い旋風》を発動できる強力な効果にも、デメリットがあったようだな」

「回避するための手が無いわけではありませんが、引けなかった以上仕方がありません。さぁ、貴方のターンです」

「言われるまでもない。怪人・ヒトデ男の力、思い知らせてやるぜ!」

 

 以外にもノリノリで悪役を演じる、王のターンが幕を開ける。彼の仲間たちは、恥ずかしさのあまり頭を抱えていたそうな。

 

 

【挿絵表示】

 

 




 BFで一番やりたかったのは、正直ライキリの召喚口上だったり。
 雷切はともかく、火車切広光、鉋切長光、小烏丸天国をどのシンクロモンスターに当てはめるか、割とどうでも良さそうな内容で悩みました。最後の童子切安綱は次回登場です。どれを当てはめたかは、もう予想がつきそうですが。

 それでは次回、不審者対決後編もどうぞ宜しくお願い致します。



 ゾーンやアテムの手札補充をどうしようと考えてたら、《強欲で金満な壺》という素晴らしいカードが登場。EXをあまり使わないキャラのデュエルでは今後色々と助かりそうです。

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