ラブライブ!DM   作:レモンジュース

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元々途中まで書いていたとはいえ、久々に前回の投稿から1ヶ月経たずに次話投稿。
「獣闘機」がOCG化しない限りこれっきりとなる勲章おじさんのデュエル、遂に決着です。

それでは、どうぞ!


黄昏の弾丸

 一挙にフィールドを壊滅させられたバレットだが、ただでは終わらない。

 

「私は、破壊された罠カード《ヒーロー・メダル》の効果発動! このカードをデッキに戻し、新たにカードを1枚ドローする!」

「ひ、《ヒーロー・メダル》……?」

 

 相手に破壊される以外の用途が存在しない、非常に使い難い罠カード。他の効果を持つ《運命の発掘》や《リ・バウンド》を採用した方が良いことは言うまでもないが、《ヒーロー・メダル》はご当地ヒーロー全員がデッキに入れる義務を負っているのだ。

 バレットは、引き抜いたカードに目をやると胸中で大きく舌打ちをする。これで手札は6枚になったが、今は使えない《マジック・プランター》を含め、手札事故が発生していた。

 

「……やむを得まい。私は、墓地から《ヴォルカニック・バレット》の効果発動! ライフを500支払い、3枚目を再び手札に加える」

 

バレット LP1200 → LP700

 

「そして速攻魔法発動、《リロード》! 自分の手札全てをデッキに戻し、その数だけ新たにカードをドローする」

「ッ! 《ヴォルカニック・バレット》の効果を使ってまで……!?」

 

 いくらドローする枚数を1枚増やすためとはいえ、ライフコストを限界近くまで払う行為は確かに危険極まりないだろう。だが、勝つためにはより多くの手札を確保する必要があることも事実。

 このまま1日に連続で一方的に倒されるなど、絶対に許されない。かつてのアカデミアの戦士として、そして今は23区ヒーローとしての沽券に関わる。

 

 彼が新たに手にした6枚のカード、それは――

 

「……これを待っていた。今、貴様の手札はなく伏せ(リバース)カードもない。反撃を開始させて貰おうか」

 

 逆転への、キーカードだった。

 

「まずは手札より、レベル8モンスター《A・O・J コズミック・クローザー》を特殊召喚! このモンスターは、相手フィールドに『光属性』を含むモンスターが2体以上存在する場合に特殊召喚することが可能!」

 

 《A・O・J コズミック・クローザー》

 ☆8 闇属性 機械族 ATK2400 → ATK1600

 

 光属性モンスターに対抗する効果を多く持つ、「A・O・J(アーリー・オブ・ジャスティス)」の1体。宇宙からの外敵を封じ込める力を持つ一方で、最上級モンスターとしては元々の攻撃力が低く、今も《強者の苦痛》の効果によって下級モンスター程度の攻撃力となってしまっている。

 

「続けて、《A(アーリー)・ボム》を通常召喚!」

 

 《A・ボム》

 ☆2 闇属性 機械族 ATK400 → ATK200

 

 紫色の炎を吹き上げる、小さな爆弾。永続魔法の苦痛を受け、《もけもけ》以下の攻撃力となったこのモンスターは、対戦相手によっては文字通り『爆弾』となる。

 

「確か、そのモンスターは『光属性』モンスターとの戦闘で破壊された時、フィールド上のカード2枚を破壊する効果がありましたね。

 ですが、私のモンスターは全て守備表示。《A・ボム》の効果は――」

「ならば表示形式を変えるまでのこと。

 魔法カード《『守備』封じ》を発動。貴様の《もけもけ》1体を、攻撃表示に変更する!」

 

 《もけもけ》

 DEF100 → ATK300

 

「《もけもけ》ちゃんが攻撃表示に!? それに、《A・ボム》の攻撃力は……!」

「そうだ。《強者の苦痛》により200ポイント減少している。厄介な貴様のカードを、今度はこちらが利用させて貰った」

 

 《A・ボム》は元々の攻撃力が非常に低いため、自爆特攻させるには大幅なライフロスを覚悟する必要があった。だが、ヒカリが操るモンスターはどれも能力値の低い通常モンスター。リスクは無いも同然。

 

「更に手札から、魔法カード《アイアンドロー》を発動! 自分フィールドに存在するモンスターが機械族2体のみの場合、カードを2枚ドローする!

 ただし、このカードを発動した後はターンの終わりまで特殊召喚を1度しか行なえなくなるがな」

 

 機械族モンスターを主力とするバレットのデッキにとって、重宝される強力なドローソース。特殊召喚への制限も、戦い方を意識すれば問題なくフォロー可能だ。

 

「……良きカードだ。ここで新たなフィールド魔法《サベージ・コロシアム》を発動! このカードがある限り、攻撃可能なモンスターは全て攻撃しなければならない!」

 

 攻撃表示である限り、どれだけ低い攻撃力のモンスターでも戦いを強要される、残酷な闘技場。現在、バレットが召喚したモンスターはどちらも攻撃表示。必然的に、バトルフェイズへ移行して攻撃を仕掛けなければならない。

 

「バトルだ! 行け、《A・ボム》! 我が勝利のための礎となるがいい!」

 

バレット LP700 → LP600

 

 攻撃された《もけもけ》が僅かに手を動かしただけで、爆発四散。バレット自身のライフも減少するが、砕け散ることこそが《A・ボム》の仕事。

 

「この瞬間、フィールド魔法《サベージ・コロシアム》と破壊された《A・ボム》の効果発動!

 《サベージ・コロシアム》の影響下で攻撃宣言したコントローラーはダメージステップ終了時にライフを300回復し、《A・ボム》の効果でフィールド上のカード2枚を対象として破壊する!

 私が選択するカードは、《強者の苦痛》と《天空の聖域》だ!」

 

 ヒカリのデュエルは、豊富な魔法・罠カードで《もけもけ》をサポートすることで初めて成立する。つまり、何れかを失えば戦術は瞬く間に瓦解してしまう。

 そして、これだけでは終わらせない。

 

「更に手札から、モンスター効果発動! このモンスターは、自分フィールドの機械族・闇属性モンスターが戦闘・効果で破壊された場合、手札から特殊召喚できる。

 現れよ、ならず者の機械龍! 《デスペラード・リボルバー・ドラゴン》!!」

 

 

 《デスペラード・リボルバー・ドラゴン》

 ☆8 闇属性 機械族 ATK2800

 

 

 頭部と両腕が回転式拳銃(リボルバー)となっている、禍々しい機械の怪物。弾丸(バレット)が操るに相応しいモンスターと言えよう。

 

バレット LP600 → LP900

 

 特殊召喚直後は下級モンスター程度に下げられた攻撃力も、《A・ボム》が永続魔法を破壊したことにより、即座に復活。そしてコズミック・クローザーも、元の攻撃力2400ポイントを取り戻す。

 戦闘ダメージを防げなくなっては、大ダメージを受けることは必至。先のターン、ヒカリは自身のライフを大幅に回復していて良かったと、心底安堵していた。

 

(今、私のフィールドに存在する攻撃表示モンスターは《もけもけ》ちゃん1体だけ。次の攻撃で戦闘ダメージを受けても、ライフは3000ポイント以上残ります)

 

 加えて、彼女のフィールドには《人海戦術》が残ったまま。エンドフェイズには新たなモンスターを補充することが可能だ。

 

「安心しているようだが、甘いぞ琴吹ヒカリ!

 私は手札から貴様の《もけもけ》を対象として、速攻魔法《ハーフ・シャット》を発動! 攻撃力をターン終了時まで半分にする!」

「は、《ハーフ・シャット》!?」

 

 《もけもけ》

 ATK300 → ATK150

 

 ただでさえ貧弱な攻撃力しか持たないモンスターを弱体化させたところで、普通は大した旨味はない。だが、《ハーフ・シャット》の真骨頂はもう1つの効果にある。

 

「その反応、どうやら効果を知っているようだな。そう、《ハーフ・シャット》の効果を受けたモンスターは、戦闘破壊への耐性を付与される。

 つまり、2体のモンスターで同じモンスターへの連続攻撃が可能となる!」

「……ッ!」

 

 1体分の戦闘ダメージなら、まだ問題はない。それは大きな間違いであった。鋼鉄の機械による暴虐が、少女へと襲い掛かる。

 

「バトル続行! やれ、《デスペラード・リボルバー・ドラゴン》! 《A・O・J コズミック・クローザー》!

 ――デスペラード・ガン・キャノンショット!!

 

 ――コズミック・サンダー!!」

 

 無数の弾丸と雷撃が、《もけもけ》へと降り注ぐ。攻撃力たった150ポイントのモンスターが、最上級モンスターの連撃を受けても倒れることができない。小さな天使の悲痛な叫びが、電脳空間に木霊した。

 

「~~ッ!?」

 

ヒカリ LP6100 → LP1200

 

バレット LP900 → LP1200 → LP1500

 

 せっかく回復したライフポイントも、たった1ターンで残り僅か。片や最上級モンスターを従えるバレット、片やサポートの一部を失った低レベルモンスターが並ぶヒカリ。盤面もライフポイントも逆転し、追い詰める側と追い詰められる側が、遂に入れ替わった。

 

「バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2へ移行する。私は手札より魔法カード《アドバンスドロー》を発動。

 レベル8の《デスペラード・リボルバー・ドラゴン》をリリースすることで、カードを2枚ドローする!」

「攻撃力が高いモンスターを、コストに……。私の狙いには気付いていたんですね」

 

 《アドバンスドロー》は、フィールドのレベル8以上のモンスターをリリースすることで手札を補充するカード。だが、コストにするならば攻撃力が低い方を選ぶのが定石。一見不可解な行動だが、そうさせるだけの理由は既に少女の墓地に存在していた。

 

「デスペラードは、互いのバトルフェイズ中に相手モンスターをランダムに破壊する効果を持つ。だが、貴様の墓地には罠カード《ブレイクスルー・スキル》があることを私は既に知っているからな」

「《ブレイクスルー・スキル》は、自分ターンに墓地から除外することで、相手モンスター1体の効果をターン終了時まで無効にします。使われる前に自ら対象モンスターをコストにした、ということですか」

 

 それでも彼の戦力が低下することに変わりはない、が。

 

「デスペラードが墓地に送られたことで、モンスター効果発動! コイントスを行なう効果を持つレベル7以下のモンスター、《リボルバー・ドラゴン》を手札に加える。

 更に、魔法カード《闇の誘惑》! カードを2枚ドローした後、手札の闇属性モンスター《リボルバー・ドラゴン》を除外する!」

 

 手札補充カードが、続けざまに発動される。これで手札は3枚。

 

「これで貴様の手はまた1つ封じられる。私はカードを2枚伏せ、永続魔法《暗黒の扉》を発動! このカードがある限り、互いにモンスター1体でしか攻撃できない!」

「そ、それって!?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 目を見開いたヒカリを意に介さず、バレットはターンを明け渡す。次のターンに向けた準備は十分、ということなのだろう。

 また、《サベージ・コロシアム》にはターンプレイヤーのエンドフェイズに攻撃していない攻撃表示モンスターを全て破壊する強制効果を持つ。バレットへの影響は微々たるものだが、基本的に低い能力値のモンスターを扱うヒカリにとって、これは本当に厄介な包囲網だ。なぜなら自分のモンスターを守備表示にしなければエンドフェイズに強制破壊され、守備を固めてもバレットのターンになればその低い守備力を曝け出してしまうのだから。

 攻撃を簡易的に制限し、捕らえた獲物をじわじわと追い詰める彼の戦術。観戦中の女性陣は、揃って顔を(しか)めていた。

 

 

 

「あの勲章おじさん、ようやく自分が優位に立ったからってノリノリね。琴吹だけに限った話じゃないけど、攻撃ロックは面倒ったらないわ」

「《暗黒の扉》が無かったとしても、琴吹さんのライフは残り1200ポイント。《天空の聖域》を失った今、自爆特攻をしてから他のモンスターで攻撃するっていう戦法も使えない」

「逆に《天空の聖域》を再発動したところで、《怒れるもけもけ》とのコンボを《暗黒の扉》が阻害する。本当に、バレットの戦い方はネチネチしていて嫌なのだ」

 

 優香とことりは基本的に1体のモンスターによる連続攻撃または一撃必殺を得意とするため影響は少ないが、ルイは大型モンスターを次々と展開する決闘者。3人の中で、最も不満気だ。

 一方、少女の先輩である彩乃は……。

 

「ヒカリちゃんはまだ、全力を出し切ってない。私は信じてるよ、次のターンであっと驚くことをしてくれるって」

 

 年長者として、友として。更なる逆転への可能性を信じていた。

 

 

 

「私の、ターン……」

 

 ようやく自身のターンを迎えたヒカリだが、デッキへと向かうはずの右手が止まる。カードを引かなくてはならないのに、たった1つのアクションすらできない。

 自分の大好きなカードを最大限に活かして戦いたいという思いで作り上げたデッキが、圧倒的な力を前にして敗れつつある。

 

(せっかく、先輩たちが手伝ってくれたのに)

 

 前のターンに伏せたカードを使えば、勝つ可能性はある。だが、それが無駄に終わってしまったとしたら。

 低レベルの通常モンスターを主力として戦うデュエルが、今ではどれだけ無謀なことか。そのようなこと、組んだ本人が1番よく分かっている。これまでもコンボが回り始めてようやく互角に戦える程度で、勝率も低い。

 

(それでも、引かなきゃ……!)

 

 この電脳空間の校庭には、ヒカリとバレットしかいないが、現実世界からは自分たちの姿が見えている。みっともない姿を見せることになっても、せめてドローフェイズだけでも。

 

「……貴様は、何のために戦う?」

「え?」

 

 顔を上げると、バレットの瞳が少女を真っ直ぐに捉えている。それは敵を仕留めるような物騒な視線ではない。

 出会って間もない男性ではあるが、思考が麻痺しつつあったヒカリは反射的に答えていた。

 

「私はただ、好きなカードでデュエルを楽しみたいだけで……」

 

 見た目通り『戦いこそが全て!』と言いそうな彼に対する回答としては失礼だろうか、と心配になったが、どうやら杞憂のようだ。バレットは1つ息を吐くと、語り出す。

 

「そう、か。別に私は戦う理由によって軽蔑するつもりはないし、その権利もない。それが一歩でも戦場に足を踏み入れた戦士へ対する礼儀だからだ。

 だが、私をここまで追い詰めた貴様が、デュエルを途中で放棄することは断じて認めん!」

 

 拳を握り締め、声を荒げ、彼は続ける。

 

「私が知る少年は、絶対に勝ち目のない状況に陥っても、仲間のために最後まで私に抗おうとした。貴様も決闘者なら、デュエルに賭ける信念を私に全てぶつけて来い!!」

「ッ!」

 

 バレットの言う『少年』が誰を指しているか。とても訊ける雰囲気ではないが、きっと強い心を持つ決闘者なのだろう。

 自分がデュエルをする理由。ヒカリは、ふと自らのデッキを組もうと決意した時のことを思い出していた。

 それはとても賑やかで、かけがえのない大切な記憶。

 

 

 

 

 

 ――琴吹さん、デュエル始めるんだって?

 

 ――はい、先輩。だけど絵が可愛くて気に入った《もけもけ》ちゃん、あまり強くないみたいで。

 

 ――そうかな? 自分が好きなカードを使って楽しむことが、デュエルで1番大事なことだと俺は思う。俺たちも手伝うからさ、一緒にデッキを組んでいこうぜ。

 

 ――花咲、先輩……。

 

 ――あ~! 花咲くんがヒカリちゃんを口説いてる~! いっけないんだ~。

 

 ――はぁ!? 何言ってんすか玖音先輩! 俺は別にそんなつもりじゃ……!

 

 ――遊真、別れましょう。見損ないました。結局、私とのことは遊びだったんですね。

 

 ――祈!? ちょっと待って、口調も昔に戻ってるし!

 

 ――まったく、お兄ちゃんってば。あれ、ヒカリさんどうしたの……?

 

 ――ののちゃん、私決めたよ。先輩と一緒に、《もけもけ》ちゃんが大活躍するデッキを組む!

 

 

 

 

 

 その後、皆で意見を出し合って作り上げたのが今のデッキ。たとえ勝率が低くても、大切な友達とデュエルができるようになったことが、何より嬉しかった。彼が助けてくれたから、今の自分とデッキがある。

 

(決闘者は、最後の最後まで絶対に諦めちゃいけないんですよね)

 

 最後まで真剣に戦わなければ、デッキに対しても、仲間に対しても、目の前の対戦相手に対しても失礼だ。

 基本中の基本を、どうして忘れてしまっていたのだろう。

 

「ありがとうございます、バレットさんのおかげで目が覚めました。大切な友達に応えるために、私は最後まで全力で戦って、あなたに勝ちます!」

「……覚悟は決まったようだな。ならば私も全身全霊を持って応えねばならん。その上で、貴様に圧倒的な勝利というものを見せてやろう!」

 

 もう迷わない。自分を支えてくれるカードたちに報いるため、少女はドローの軌跡を描き出す。

 

「私のターン、ドローッ! まずは伏せていた魔法カード、《強欲で貪欲な壺》を発動! デッキトップ10枚を裏側で除外して、カードを2枚ドローします!」

「ほう。ここで賭けに出るか」

 

 膨大なコストと引き換えに、2枚のカードを手にする強力なカード。だが、ドローする前にキーカードを失う危険性が常に付き纏う。気弱な少女が躊躇いなく使用するその姿は、心境に変化が生まれた証拠に他ならない。

 ヒカリは引き当てたカードを確認し――、

 

 

 

 ――笑みを浮かべた。

 

 

 

「私は手札から、装備魔法《団結の力》を攻撃表示の《もけもけ》ちゃんに装備! 攻撃力と守備力を、

私のフィールドに存在するモンスター1体につき800ポイントアップさせます!!」

 

 バレットは、少女が何らかの手段で攻撃ロックを崩そうと目論んでいるのだろうと予測していた。だが、少女が発動したカードによってそれは覆される。

 1体の《もけもけ》へと、合計5体分の力が収束していく。仲間の力を合わせる装備魔法、今の彼女には適切なカードと言えるかもしれない。

 全ての力を結集させた天使の攻撃力は――

 

 

 

 《もけもけ》

 ATK300 → ATK4300

 

 

 

「攻撃力4300の《もけもけ》だと!?」

「バトル! 私は、《もけもけ》ちゃんで攻撃力2400の《A・O・J コズミック・クローザー》に攻撃します!

 1回しか攻撃できないのなら、この攻撃に全てを賭けます!」

 

 《怒れるもけもけ》の効果を超える攻撃力を得た《もけもけ》の怪音波が放たれる。攻撃力の差は、1900ポイント。回復したバレットの残りライフを僅かに上回っていた。

 《暗黒の扉》の盲点を突いた、結束の一撃。

 ヒカリが勝利を確信した、その瞬間。

 

「ダメージステップに入る前に、罠カード《マジック・ディフレクター》を発動!!」

 

 少女の思い、結束を無に帰する罠が牙を剥く。

 

「このカードはターンの終わりまで、通常・儀式・ペンデュラムを除くフィールド上の魔法効果を全て無効化する。無論、装備魔法《団結の力》も例外ではない。これで終わりだ、琴吹ヒカリ!!」

「……ッ!」

 

 破壊ではなく、無効化。たとえそれが一時的なものであっても、今の彼女には致命傷となり得る。攻撃力の差は元に戻り、雷撃が天使とヒカリを襲う――

 

 

 

 

 

「まだ、終わりません! 私は手札から、速攻魔法《瞬間融合》をチェーン発動! フィールド上の《もけもけ》ちゃん3体で、融合します!」

 

 

 

 

 

 そのはずだった。

 

「何!? 3体の《もけもけ》を融合させるだと!?」

 

 《マジック・ディフレクター》は、あくまで効果処理後の魔法効果を無力化するカード。よって、チェーンして発動された速攻魔法までは防げない。

 素材となるのは、バレットを散々追い詰めた3体の同名モンスター。彼は融合召喚を極めたアカデミアの戦士だが、それでもこの組み合わせで呼び出されるモンスターなど一切記憶に無かった。

 

 

 

「融合召喚! 現れて、《キング・もけもけ》さん!」

 

 

 

 《キング・もけもけ》

 ☆6 光属性 天使族 DEF100

 

 

 神秘の渦で混じり合い現れたのは、4階建ての校舎を超える巨大な《もけもけ》。だが、モンスター3体を素材にしたモンスターでありながら、攻撃力・守備力ともに全く変化がない。元々のやる気の無さを象徴しているかのようだ。なるほど、弱小モンスターであればノーマークだったことも頷ける。

 これでは無駄にカードを消費しただけ。バレットは一瞬そう考えた、が……。

 

「なるほど。融合モンスターの素材とすることで、戦闘を強制的に終了させたということか。見事だ」

 

 あわや返り討ちとなる寸前、攻撃中のモンスターを融合素材として戦闘を回避。さしずめ『フュージョン・エスケープ』といったところか。

 エクストラデッキはただの飾りかと思っていた相手が魅せた融合戦術に、彼の頬は微かに緩む。

 

「バトルを終え、メインフェイズ2! カードを1枚伏せて、エンドフェイズに移ります」

「しかし《瞬間融合》によって融合召喚されたモンスターは、このタイミングで破壊される。よもや忘れてはいまい」

 

 融合召喚の専門家ゆえに、相手の使用カードであってもそのデメリットは把握していた。小さな破裂音とともに《キング・もけもけ》がフィールドから消え去る。これで、ヒカリに残された壁モンスターは2体。

 

「当然、覚えています。ですがこれこそが私の狙いです。《キング・もけもけ》さんの効果発動! このカードがフィールドから離れた時、墓地の《もけもけ》ちゃんを可能な限り特殊召喚できます!」

 

 

 《もけもけ》×3

 ☆1 光属性 天使族 DEF100

 

 

 それも束の間。飛散した《キング・もけもけ》の一部が、3体の《もけもけ》となってフィールドへと復活する。速攻魔法《融合解除》による分離ではなく、モンスター自身が所持する効果で壁モンスターの確保。かつてのバレットのエースモンスター《獣闘機(ビースト・ボーグ)パンサー・プレデター》とよく似た効果だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「《瞬間融合》のデメリットを利用して素材モンスターを復活させるとは、見事だ」

 

 通常の《融合》と比べて扱い難さが目立つカードを最大限に利用するコンボ。融合次元の戦士として、称賛の言葉を送らずにはいられない。だからこそ、本物の融合召喚によって打ち倒してやろうという決意が一層強まっていく。

 

「行くぞ、琴吹ヒカリ。これが最後の戦いだ! 私のターン、ドローッ!!」

 

 勝利へ布石は、既に整っている。バレットは前のターンに伏せたカードを発動するためにデュエルディスクへ手を伸ばす――

 

「このスタンバイフェイズに、伏せ(リバース)カードオープン! 罠カード《ソーラーレイ》!

 私のフィールドに存在する光属性モンスター1体につき、600ポイントのダメージを相手に与えます!」

 

 男の動きを遮る、ヒカリの叫び。

 少女のフィールドには、メインモンスターゾーンを埋め尽くす5体の光属性モンスターが並んでいる。すなわち、発生するダメージは3000ポイント。

 

「光属性デッキ専用のバーンカード……。戦闘を回避されても、効果ダメージでとどめを刺す。これが、貴様の最後の攻撃ということか」

「はい。小さなモンスターの力を1つにした、今私が出せる全力。これで決着です!!」

 

 事前にバレットが伏せカードを発動しようとしていたことから、それが《ソーラーレイ》をカウンターするカードでないことは明白。

 今にも沈まんとする夕日の輝きが、全てを包み込むかに見えた、その瞬間。

 

 

 

 

 

 ――私は、()()()()()()()()()()《レッド・リブート》を発動ッ!!

 

 

 

 

 

 赤紫色のカードが、手札から姿を現した。

 

「て、手札からのカウンター罠!?」

 

 罠カードは手札から発動できず、一度伏せてから次のターンを迎えなければ使えない。それはデュエルモンスターズにおける基礎中の基礎の1つ。だが、彼は何の躊躇いもなく発動し、デュエルディスクも正しく認識していた。

 

「このカードは、自らのライフ半分を支払うことで、手札から発動することが許される」

 

バレット LP1500 → LP750

 

「そして、罠カードの発動と効果を無効にし、セットした状態に戻す! 更に、このターンが終わるまで相手プレイヤーは罠カードを発動できない!」

「そ、そんな……!」

 

 重いライフコストを必要とする代わりに、特殊な発動条件も無しに手札から奇襲するカウンター罠。自身の勝利を確信していたヒカリにとって、ショックは計り知れない。また、現在バレットの手札は0枚。これが意味することはただ1つ。

 彼を敗北の淵から救い出したカウンター罠は、たった今引き当てたもの。どれ程完璧な戦術を整えたとしても、1枚のドローで全てを覆す可能性を秘めている。それこそがデュエルだ。

 

「私は罠カード《融合準備(フュージョン・リザーブ)》を発動! エクストラデッキの融合モンスター1体を相手に公開し、そのモンスターにカード名が記された融合素材モンスター1体をデッキから手札に加え、その後墓地から《融合》を手札に戻す!」

 

 罠カードゆえに発動までのタイムラグがあるという欠点を抱えるものの、1枚を2枚の手札へと変換する強力なカード。手札に加えるカードの選択肢は豊富に存在するが、今ならバレットがどのモンスターを選ぶかは、自ずと絞られてくるだろう。

 

「公開するモンスターは、《E・HERO(エレメンタルヒーロー)フレイム・ブラスト》! よって、その素材となる《E・HERO ザ・ヒート》をデッキから手札に加える。更に、墓地から《融合》を手札に戻す!

 「E・HERO」はその多くが戦士族だが、このモンスターの種族は『炎族』だ」

「今、バレットさんのフィールドには『機械族』のコズミック・クローザー。そして、手札には《融合》……!」

 

 彼のエクストラデッキには、『あのモンスター』がヒカリの《シャッフル・リボーン》によって戻されている。これで準備は整った。

 

「私は、魔法カード《融合》を発動! 手札の『炎族』モンスター《E・HERO ザ・ヒート》と、場の『機械族』モンスター《A・O・J コズミック・クローザー》を素材として、融合モンスターを特殊召喚する!

 ライト・エクストラモンスターゾーン、解放ッ!!」

 

 融合モンスターを呼び出すために存在する2つの門。モンスター同士が混じり合うことによって、その右側が再び開かれていく。

 

「熱く燃え盛る英雄よ! 宇宙兵器と混じり合い、戦場を焼く不死鳥へと生まれ変わらん! 融合召喚ッ!!」

 

 

 

 ――再誕せよ、レベル8! 《重爆撃禽 ボム・フェネクス》!

 

 

 

 《重爆撃禽 ボム・フェネクス》

 ☆8 炎属性 炎族 ATK2800

 

 たとえ効果を封じられ、退けられたとしても、敵を焼き尽くすためならば何度でも蘇る。

 ヒカリは既に伏せカードを使いきり、手札も無い。今度こそ、正真正銘決着の時。

 

「……完敗です、バレットさん。ですが今度は必ず、勝ってみせます。私が信じる、最高のデュエルに磨きをかけて」

「ふっ、何度でも受けて立とう。この次元(ここ)では、勝敗に関わらず再戦の機会に限りなど無いのだから。

 ボム・フェネクスのモンスター効果発動! 互いのフィールド上のカード1枚につき、300ポイントのダメージを相手に与える。合計枚数は11枚、よって3300ポイントのダメージだ!!」

 

 

 

 

 

 ――不死魔鳥大空襲(フェネクス・ビッグ・エアレイド)!!

 

 

 

 

 

 防ぎようのない必殺の爆撃が、少女へと止めどなく降り注ぐ。実際に痛みを感じなくとも震え上がりそうな威力だが、彼女はじっと立ち尽くす。その目に恐怖の色は無く、むしろ満ち足りた表情が浮かんでいた。

 

ヒカリ LP1200 → LP 0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です、バレット。どうでしたか、彼女とのデュエルは」

「……この次元でのデュエルは、『奪い合う』ものではなく『競い合う』もの。それを改めて実感する良きデュエルだった。

 私もまだまだ腕を磨かなくてはいけないな。次に戦う時は、圧倒的な実力差によって勝利を収めてみせよう」

「それはいいが、バレットの旦那。そのギャラクシーアイズ・マウンテンは何杯目だ? いい加減控えないと財布と健康に良くねーぞ」

 

 デュエルに勝利し、現実世界へと帰還したバレット。早速ことりから淹れて貰った高級コーヒーを啜り、ゾーンやJ.D.と言葉を交わす彼の頬はいつになく弛んでいた。

 勝利の余韻に浸り、次はどのようにして打ち倒すか。今後の戦い方へと想いを馳せる。かつてアカデミアの戦士であった頃は終ぞ味わうことのなかった感覚だ。エクシーズ次元に侵攻した当時は倒した相手をカード化し、『アークエリア・プロジェクト』の礎に。逆に黒咲隼や天城カイトら『レジスタンス』によって敗北した同胞も、カードへ封印されていった。『次の機会』などというものは、まず与えられることは無かったのだから。

 だが今では違う。この次元ではデュエルによる戦争はなく、勝敗を気にせず誰もが楽しめる娯楽の1つ。大会でなければ、何度でも挑戦する機会が与えられる。現にバレットたちが見つめる先では、女性陣がヒカリを中心として集まっていた。今回のデュエルの反省点を洗い出し、再戦に臨むためだ。チョーカーを手にする少女は、勝者であるバレット以上に晴れやかな笑顔を浮かべている。

 

「眼福、眼福。かわい子ちゃんが集まってるのは、いつ見てもいいものだよなぁ?」

「私を貴様と同類にするな、と何度言わせればわかる。それよりもゾーン、私の「獣闘機」を復活させるという話はどうなっている?

 認めたくはないが、譲り受けたボム・フェネクスやヴァルカノンを主力とする今の戦術では限界がある」

「すまないとは思っています。貴方のカードは我等がいた世界にも存在せず、融合モンスター自体イリアステルにとってあまり馴染みがない。復元するためのエネルギーが未だ足りないのです」

 

 別世界にしか存在しないカードを復元するためには、多大なエネルギーを必要とする。現段階でも作れないことはないが、不十分なエネルギーで復活させたカードは著しい弱体化を余儀なくされる。アポリアの「機皇」シリーズがその最たる例だ。

 

「バレット、今は雌伏の時です。ようやく復活した私のデッキも完全再現には至りませんでしたが、一部は以前よりも強化されたのですから」

「……そうだな。勲章ものの働きを期待している」

 

 我ながら、図々しいとバレットは思う。この次元では「獣闘機」よりも強力な融合モンスターが容易に手に入るし、他の召喚法を主軸にした戦い方に切り替える選択肢すらある。

 それでも「獣闘機」に拘り続けるのは、愛着のあるカードで戦い、勝ちたいから。このような考え方は、デュエルを戦争の道具として扱い、勝利『だけ』を追い求めていたあの頃は間違いなく抱くことが無かっただろう。

 

「さってと。『Duelist Generation』の動作も万全。時間ももう遅いし、そろそろ解散するか。女子だけで帰すわけにもいかないし、俺の車で――」

「余と優香は、西園寺の迎えがあるから不要だ」

「彩乃くん、ヒカリくん。私が送っていきましょう」

「南ことりは私が送っていく。むしろ貴様に任せる方が危険極まりない」

「酷くね!?」

 

 

 

 

 

 数分後、会話もそこそこに一同は解散した。当然のごとくぞんざいに扱われたJ.D.の背中は哀愁が漂っていたが、普段の行いが悪いとしか言いようがない。

 そして今、バレットはことりと並んで夜道を歩いている。

 

「すごかったですね、『Duelist Generation』でのデュエル。今度あの世界に入ったら他のデュエルもやってみたいなぁ。

 バレットさんは『アクションデュエル』に興味があるんでしたっけ?」

「ああ。私も人伝と資料でしか知らないが、あのデュエルはプレイヤー自身の身体能力が勝敗に直結する。これならば、大抵の相手に遅れは取らん」

「その台詞、ほかの23区ヒーローの方々の前で言えます?」

「…………すまん」

 

 今日の話題は、電脳空間でのデュエルが中心。今回は普通のデュエルしかできなかったが、次は『アクションデュエル』や『スピードデュエル』など別形式のデュエルにも触れてみたいという欲求に駆られていた。

 また、そこで戦った2人の決闘者についても話が弾む。特に、バレットやことりを完封した彩乃には実力をつけてリベンジをしてみせると。

 

「玖音彩乃が繰り出す、私の先攻1ターン目からモンスターを2体も呼び出すという異常なまでの高速展開を可能とするコンボ。あの対策も進めねばならん。

 それはそうと、南ことり。帰り際に奴等の手荷物が増えているのを見たが、やはりアレは『Duelist Generation』関連のものだろうか」

「それもありますけど、店長がウチのメイド服を何着か提供したと聞きましたよ? 玖音さん、あのデザインが気に入ったから、部活の友達と一緒に着てみたいそうです」

「店の制服を他人に……いや、私が気にすることではないか」

 

 その後も特に会話が尽きることなく、気が付けばことりの家の前へ辿り着いていた。すぐに来た道を引き返そうとするバレットの背中へ、少女は声を掛ける。

 

「いつも送って頂いて、ありがとうございます」

「勘違いするな。デュエルで倒すべき貴様が、万が一にも何らかの事件・事故に巻き込まれては困るだけだ」

「……こういうのを、ツンデレって言うんだろうなぁ。知らない人から見たら、この状況で通報されかねないですけど」

「?」

 

 現役スクールアイドルかつ秋葉原の人気メイドと、鋭い目付きの屈強な大男。そんな2人が月明かりに照らされて歩く光景は、事件性を疑われてもおかしくはない。実際、ことりが初めてバレットに自宅へと送り届けて貰った時、途中で何度も警察官から声を掛けられた。その都度23区ヒーローとして身分を証明する度に、彼の表情は険しくなっていったものだ。

 

「そうそう、いつも言っていますけどコーヒーの飲み過ぎには注意してくださいね。健康に悪いですから」

「ふん、あの味を知った今では出来ない提案だ。そういう貴様も今夜は速やかに寝ることだな。明日もスクールアイドルとやらの練習があるのだろう?」

 

 足立区を担当するご当地ヒーロー、バレット。後ろ暗い過去を持ち、近寄り難い外見をしているが、悪い人間でないことをことりはよく知っている。

 彼女がスクールアイドルとして活動する裏で、男は街の平和を護り続けていくのだろう。

 

「おやすみなさい、バレットさん」

「……ああ」

 

 

 

 

 

 翌日。ことりのスマートフォンに、メイド服を着た『男女』の写真・動画が送られてくるのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――更に、数日後。

 

 

 

 

 

 いつものように屋上でダンス練習を行う『μ’s』の少女たち。時刻は正午を過ぎ、そろそろ昼休憩にしようとした頃。

 

「皆、聞いてくれ!」

 

 ドアを壊さんばかりの勢いで、ヒトデ頭が飛び込んできた。彼は今日も部室でアルパカとデュエルをしていたはずだ。

 このクソ暑い時に、アホみたいなテンションで叫ばないで欲しい。9人全員の想いが1つになる中、男は告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺、バイトを始めるぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『まっじで!?』

 

 採用を決定したバイト先の神経を疑う一同であった。

 

 

 

 

 

 一方その頃、同敷地内の一室にて。学園の主である女性は、とある男へと電話を掛けていた。

 

「先日連絡を頂いた依頼の件、お受けします。ゾーンさんには普段からお世話になっていますし、私自身たまには息抜きをしたいですから」

 

《感謝します、南理事長。当日の対戦相手はイベントの目玉に相応しい対戦相手を用意しています。彼は私と直接顔を合わせず、パラドックスを介して依頼したにも関わらず、快く承諾してくれました。

 ……そして特別なゲストも来られる予定です。まさか、あちらから出向いてくるとは。遠出する手間が省けましたよ》

 

「?」

 

 電話越しの彼の言葉は、後半がどこか楽しそうに聞こえた。いったいどのような人が来るのだろうか。気になって尋ねてみたが、『特別』と言うだけあって全てを答えてはくれなかった。

 

《ただ1つ言えるのは、『彼女』がJ.D.やルイくん、そしてアテムに匹敵する存在だということです。私のデッキが完成していなかったらと思うと、ゾッとしますね》

 

 自称・大魔法使いに宇宙人、そして異世界の古代王。彼らと肩を並べるとすれば相当な大物であることは確かだろう。1つ、と言うにはあまりにも大きなヒントだ。

 

「1人の決闘者として、貴方がどのような戦いを見せてくれるのか期待しています。

 私も、当日までに最高のデッキを準備しておきます」

 

 

 

 

 

 

 ――そして、次の日曜日。

 

 

 

 

 

「お~。ここが夢にまで見たアキバ! 人がいっぱいだよ、(より)ちゃん!」

「……気持ちはわかるけど、私たちは遊びに来たわけじゃないことをお忘れなく」

 

 この街は、あらゆるモノを受け入れる。それでも、駅から出てビル群を見上げる2人の少女は『異様』だった。

 まず明らかに目立つのは、はしゃぐ連れを嗜める蒼い長髪の少女。彼女が纏う服は、驚くべきことに巫女装束。明らかに、電車を乗り継いで大都会にやって来るような服装ではない。それどころか、混雑に巻き込まれたような衣服の乱れは一切見られない。まるで、ここに辿り着くまで彼女たちの周囲には誰も立っていなかったかのように。

 

「うん、知ってる。だけど『視察』って名目で神楽谷(かぐらだに)からこんなに離れた場所に来られたんだよ? 去年、短い期間だけしか山を下りられなかった私が!

 これも、かなちゃんと芽以ちゃんに留守を任せられるようになったおかげだね」

 

 もう1人は、黒いセーラー服を着た黒髪ロングの少女。一見どこにでもいるような出で立ちだが、蒼い髪の『依ちゃん』と呼ばれた少女は彼女に対して敬意を払っているようにも見える。少なくとも、完全に対等な関係というわけではないらしい。

 どちらも身長は150cmに満たず、容姿もかなり幼い。このご時勢、良からぬ輩にとっては格好の獲物となるだろう。実際、秋葉原へ辿り着くまでに声を掛けようとする者は少なくなかった。そして今も。しかし、直前になって磁石の同極同士が反発し合うかのように遠ざかっていったのだ。彼等の表情には、揃って『恐怖』が張り付いていた。

 

「それじゃ行こっか。本当は色々見て回りたいけど、まずは本来の目的を果たさないとね」

「ええ。徐々にその存在を(おおやけ)にしつつある異能者、そして異なる世界の者たち。彼等が私たちと共存できる存在か否か。『彼等』の流儀に則ってデュエルで見極めましょう、水緒里(みおり)。いえ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――稚向津水緒里神(ワカムカツミオリノカミ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 多種多様な異能が集う街、秋葉原。

 『神』を名乗る少女が現れる時、新たなる戦いの幕が上がる――。

 

 

 




《プチ解説》
バレットが「E・HERO」を使うという謎の展開。自分でも違和感バリバリですが、本作での彼は『ご当地ヒーロー』という職業に就いているため、一部相性の良いカードを採用しています。


さて、投稿ペースの遅さから長いこと出番が無かったアテムですが、そろそろデュエルをしないとあらすじ詐欺になりかねないし、新規もどんどん使っていきたい。ということで、次回は2年ぶりのデュエルです。
また、遂に時械神が全種OCG化したゾーンの相手は、本物の神。彼女、本当は山から下りられないんですけどね。



アテムのデュエルは、ここ最近《守護神官マハード》ありきの構成になっていることが多いため、気を付けたいところ。

それでは、次回も宜しくお願い致します。

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