ラブライブ!DM   作:レモンジュース

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 アテムVS穂乃果、後編です。
 穂乃果が融合召喚の口上を述べる時に、アニメのものをそのまま使っているせいか、
 見返してみるとちょっと違和感ありますね(笑)

 この話を投稿後、少し経ったら活動報告に「キャラ&デッキ紹介」を、
 Twitterに穂乃果+ジェムナイトの写真を載せようと思います。

 それでは、どうぞ!
 


輝きの淑女

●アテムVS穂乃果 ②

 

 

 

 デュエルモンスターズにおいて、モンスターの性能を表すものは『攻守の数値(ステータス)』と『カード効果』に分けられる。どちらが重要かは状況・カードの組み合わせによって様々ではあるが、基本的な勝利条件が『相手のライフポイントを0にすること』である以上、前者を重要視する決闘者は多い。

 特に今の《ジェムナイト・クリスタ》は、一撃で初期ライフの4分の3近くを削り取ることができるのだ。アテムはこれまでにも攻撃力3000のモンスターを操る好敵手(ライバル)との激戦を繰り広げてきた経験があるため、その脅威をより強く実感していた。

 

(《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》にも迫る攻撃力を持った強力なモンスター……。しかも穂乃果は融合召喚も扱う以上、フィールドに素材となるモンスターを残しておくのはあまりにも危険。

 ならば、次のドローが勝負の分かれ目……!)

 

 

 

「俺のターン、ドローッ! ……ッ!」

 

 彼の手に握られた新たなカード。しかし、彼の表情は渋いまま。クリスタを倒すためのカードを引き当てることは叶わなかったのだろう。

 

(だが、手がないわけじゃない。力を借りるぜ、オヤジ!)

 

「俺は手札から魔法カード《融合回収(フュージョン・リカバリー)》を発動! 俺の墓地から《融合》と融合召喚に使用したモンスター、《幻獣王ガゼル》を手札に戻す!」

 

 それは、穂乃果の父からアテムへと渡されたカードのうちの1つ。融合召喚を戦術の1つとしている彼にとっては、強力なサポートカードとなる。

 しかし、《幻獣王ガゼル》自体は攻撃力1500の通常モンスター。手札に戻しただけでは未だ力不足であることは否めない。

 

「続いて俺は魔法カード《手札抹殺》を発動! 互いのプレイヤーは手札を全て捨て、同じ枚数だけ新たにカードをドローする! 俺は3枚のカードを入れ替える!」

「私の手札は0枚。《手札抹殺》の効果を受けられない……!」

 

 せっかくの手札交換の恩恵を受けられないことに少々落ち込む穂乃果と、不要なカードを墓地に捨て、新たな可能性(カード)を呼び込むためにデッキへと手をかけるアテム。

 ここに来て、ようやく雪穂は彼のプレイングに感心していた。

 

(なるほどね。《手札抹殺》を発動する場合、最終的に手札は1枚減っちゃうけど、《融合回収》のように手札を増やすカードを使えば損失を軽減できる。

 しかも、相手の手札が無い状態で使えば無用なアドバンテージを与えることもない。カードの知識はともかく、運とプレイングはお姉ちゃんよりも上みたいだね)

 

 

 

 アテムが新たにカードをドローした瞬間、彼の表情に笑みが浮かんだ。そう、逆転への可能性を引き寄せたのだ。

 

「まずは《バフォメット》を攻撃表示に変更するぜ!」

 

 《バフォメット》

 DEF1800 → ATK1400

 

『!?』

 

 あまりにも無謀。そうとしか思えないアテムの行動に、穂乃果も雪穂も揃って目を見開いた。

 腕を交差した防御姿勢を解いて立ち上がり、攻撃態勢に移る《バフォメット》だが、その攻撃力は《幻獣王ガゼル》にも劣る1400ポイント。相対する《ジェムナイト・クリスタ》の半分以下ではないか。

 

「そして、このカードが逆転への一手! 魔法カード《強制転移》!

 互いのプレイヤーは、自身のフィールドに存在するモンスターを1体選び、そのコントロールを入れ替える。今、俺達のフィールドにはモンスターが1体ずつ。この意味がわかるよな?」

「ひ、酷いよアテムくん! そんなの選ぶ意味がないじゃん!」

 

 穂乃果は非難の声を上げるが、伏せ(リバース)カードも手札も無いため、カウンターすることは不可能。

 弱小モンスターと評価された《バフォメット》は穂乃果のフィールドへと移され、逆に高い攻撃力を保った《ジェムナイト・クリスタ》が本来の主へと牙を剥く。

 

「バトルだ! 《ジェムナイト・クリスタ》で《バフォメット》を攻撃!

 クリスタル・シュート!!」

 

 先のターンと同じ光線(レーザー)攻撃により、山羊の悪魔は断末魔の叫びを上げて消滅する。だが、その一撃によりダメージを受けるのは、本来の持ち主ではない。

 

「ひゃあっ!?」

 

穂乃果 LP2950 → LP1400

 

 2ターン前の直接攻撃(ダイレクトアタック)よりも、前のターンにアテムへ与えたものよりも大きなダメージに、衝撃が完全に緩和されず穂乃果の身体は少しだけよろけた。それも自分のモンスターの攻撃なのだから、精神的にも少々キツいだろう。

 

「これで形勢逆転だぜ、穂乃果。俺は伏せ(リバース)カードを1枚セットして、ターンエンド!」

「むっ! 今度は私が逆転する番だよ! 私のターン、ドローッ!」

 

 

 

 攻守の数値(ステータス)に難のある《バフォメット》を穂乃果に押し付けると同時に、高い攻撃力を誇る《ジェムナイト・クリスタ》を奪って大ダメージを与えたアテムのタクティクス。

 ターンが終わってみれば、穂乃果の手札とフィールドには発動中の《ガイアパワー》以外のカードはなくなり、一方のアテムはクリスタに加えて伏せ(リバース)カードと手札が1枚ずつ。

 見事に状況をひっくり返したアテムに感心する雪穂であったが、あくまで感心だけ。家族として穂乃果のデッキをよく知る彼女にとって、この程度のアドバンテージの差など、無いに等しいのだ。

 

(驚いたけど、アテムさんはこのターンでお姉ちゃんのライフを0にするべきだったね。

 お姉ちゃんが次のドローであのカード(・・・・・)を引き当てれば、例えライフポイントが4000であっても簡単に削りきれる)

 

 雪穂が知る限り、穂乃果のデュエルタクティクスは海未やことりと比べて大きく劣る。だが、前のターンに《ジェムナイト・アレキサンド》を引き当てたように、運だけは良い傾向にあった。

 今の穂乃果は、クリスタを奪われたことに多少の不満を覚えているだろうが、未だ闘志は衰えていない。きっとこのドローで目当てのカードを引き当てるはずだ。

 

「……よしっ! 私は手札から永続魔法――」

 

 それを裏付けるかのように、穂乃果はドローしたカードを勢い良くデュエルディスクへと挿入した。

 

 

 

 ――《ブリリアント・フュージョン》を発動っ!!

 

 

 

「カード名からわかると思うけど、このカードも「ジェムナイト」専用の融合魔法。

 私のデッキ(・・・)から《ジェムナイト・ラズリー》、《ジェムナイト・ルマリン》、《ジェムナイト・ガネット》の3体を墓地に送って、「ジェムナイト」と名のついた融合モンスターを融合召喚する!」

「デッキのモンスターで融合召喚だと!?」

 

 融合召喚には2体以上のモンスターと《融合》等の魔法カードが必要というのは、決闘者にとって基本中の基本。だからこそ召喚にはかなりの手間を要し、呼び出されるモンスターも強力なものばかり。

 それを、一切の下準備も無しに魔法カード1枚だけで行なうとは、常識外れにも程があるではないか。

 

(しかも、穂乃果が素材としたモンスターは3体! 海馬の《青眼の究極竜》のように、超強力なモンスターが出てくるのは間違いない……!)

 

 

 

「神秘の力を秘めし蒼き石よ! 雷帯びし秘石よ! (くれない)の真実よ!

 光渦巻きて新たな輝きとともに1つとならん! 融合召喚! これが私の切り札だよっ!!」

 

 

 

 ――レベル10! 究極の輝きを放つ淑女、《ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ》!!

 

 

 

 《ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ》

 ☆10 地属性 岩石族 ATK3400 → ATK500

 

 頭部・胸部・腰にはめ込まれた幾つものダイヤモンド。

 右手に細剣を携えるたおやかな佇まい。

 輝きの淑女と称されるに相応しい高貴さを思わせる姿は、まさしく切り札。

 だが、その攻撃力はたったの500ポイントしかない。《ガイアパワー》の効果を受けていることを考えれば、攻撃力0の状態で特殊召喚されたことになる。

 

「《ブリリアント・フュージョン》で融合召喚したモンスターの攻撃力と守備力は、手札から魔法カードを墓地に送らない限り元に戻らない。でも、この《ブリリアント・フュージョン》の強さはデッキ融合だけじゃないよっ!

 今度は、墓地に送られた《ジェムナイト・ラズリー》の効果発動! ラズリーはカード効果で墓地に送られた場合、墓地から通常モンスターを手札に戻すことができる!」

「デッキのモンスターを素材とした上に、モンスターを回収だと!?」

 

 本来、融合召喚を行なえば手札の枚数が減るものだ。だが、この効果により損失は帳消しとなる。

 しかも、この融合召喚で墓地に送った3枚のカードをアテムは見逃していない。

 

(残りの2体はどちらもレベル4の通常モンスター……!)

 

「この効果で私は、ラズリーと一緒に融合素材になったレベル4の《ジェムナイト・ガネット》を手札に加えて、そのまま召喚!

 ガネットも地属性だから、《ガイアパワー》の効果を受けてパワーアップ!」

 

 《ジェムナイト・ガネット》

 ☆4 地属性 炎族 ATK1900 → ATK2400

 

 右の拳に炎を宿す、ガーネットの宝石騎士。その勇敢な姿を表すかのように、攻撃力も下級モンスターとしては非常に高い。

 

「だが、2体の攻撃力はクリスタよりも低い。

 そしてお前の手札にカードはない以上、ブリリアント・ダイヤの攻撃力を元に戻すことはできないぜ?」

 

 そんな彼の疑問に対して、穂乃果は墓地に手を添えながら(・・・・・・・・・・)答えた。

 

「無ければ増やすまでだよっ! 私は、墓地の《ジェムナイト・フュージョン》のもう1つの効果発動!

 墓地から「ジェムナイト」1体を除外することで、このカードを手札に戻す! 私はアレキサンドを除外!」

 

 穂乃果の手札に加えられる、融合召喚用の魔法カード。

 通常ならば、更なる融合召喚に繋げるのだろうと考えられるが、今は違う。

 

「魔法カードを手札に戻したということは……!」

「そう! これで《ブリリアント・フュージョン》の第2の効果が使えるようになったよ!

 私は、手札の《ジェムナイト・フュージョン》を墓地に送ることで、ブリリアント・ダイヤの攻撃力と守備力を元々の数値分アップさせる! この効果は次のアテムくんのターンが終わるまで続く!」

 

 《ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ》

 ATK500 → ATK3900

 

「攻撃力、3900……!」

 

 未だフィールドに残されていた《ブリリアント・フュージョン》が発光すると同時、ブリリアント・ダイヤにはめ込まれた宝石が更なる輝きを放つ。

 元々高い攻撃力に加え、大地の女神の加護を受けた姿。『淑女』と呼ぶよりも、『女王』と称するべきかもしれない。

 

「これでクリスタを倒せるよ! バトルフェイズ!

 ブリリアント・ダイヤで、クリスタを攻撃!」

 

 

 

 ――ブリリアント・スラッシュ!!

 

 

 

 しなやかな所作で細剣を振るうブリリアント・ダイヤの姿は、まさしく芸術。

 一閃で斬り捨てられたクリスタも、あまりの美しさに避けるという動作すらもできなかった。

 

 しかし、プレイヤーへと与える衝撃は真逆。

 穂乃果の切り札ゆえに、込められた思いが特に強いのだろう。緩和されているとは思えない強烈な一撃がアテムを襲う。

 

「ぐっ! なんて威力だ……!」

 

アテム LP3150 → LP2200

 

 《有翼幻獣キマイラ》が穂乃果に与えたものよりも小さいダメージにも関わらず、アテムを2歩後退させる程の攻撃。もしも通常のソリッド・ヴィジョンによる衝撃と同じであったならば、彼は大きく吹き飛ばされていたに違いない。

 

「これで決めるよっ! 《ジェムナイト・ガネット》で、アテムくんに直接攻撃(ダイレクトアタック)!!」

 

 クリスタが倒れ、モンスターが消え去ったアテムのフィールドを駆ける、赤き鎧の宝石騎士。

 その主人である穂乃果の表情は、いつになく緩んでいた。

 

(アテムくんの残りライフは2200! 攻撃力2400のガネットの攻撃で、私の勝ちだ!)

 

 

 

 海未に勝利したアテムを倒せる、そう信じきっているのだろう。だから、穂乃果は気付くことができなかった。

 

 ――アテムが今まで発動することのなかった、伏せ(リバース)カードの存在に。

 

 

 

「勝ち誇るのは、まだ早い! 穂乃果、お前が譲ってくれたカードが俺のピンチを救うぜ! 伏せ(リバース)カード、オープン!」

 

 

 

 ――罠カード《ピンポイント・ガード》!!

 

 

 

「こいつは、相手モンスターの攻撃宣言時に俺の墓地からレベル4以下のモンスターを守備表示で特殊召喚する罠カード。

 俺の墓地に眠るレベル4以下のモンスターは《幻獣王ガゼル》のみ。蘇れ、ガゼル!!」

 

 《幻獣王ガゼル》

 ☆4 地属性 獣族 DEF1200 → DEF800

 

 巨大な手に掴まれながら主人のフィールドへと舞い戻ったガゼル。《ガイアパワー》の効果により、守備力はたったの800まで下がってしまうため、大抵のモンスターの攻撃で容易く葬り去ることができるだろう。

 だが、ガネットの前に立ちはだかる手が、追撃を許さない。

 

「むむむ……。《ピンポイント・ガード》で特殊召喚されたモンスターは、このターンの間は戦闘でもカード効果でも破壊されない。仕方ない、バトルフェイズはこれで終了。

 でも、メインフェイズ2で私はブリリアント・ダイヤの効果発動!

 1ターンに1度、自分フィールドの「ジェムナイト」1体を墓地に送ることで、エクストラデッキから「ジェムナイト」融合モンスター1体を特殊召喚するよっ!」

「何だとっ!?」

 

 ブリリアント・ダイヤが細剣を天井へと掲げた瞬間、淡い光が《ジェムナイト・ガネット》を包み込む。いや、それだけではない。炎の如き真紅が、深海の如き蒼へと変質していくではないか。

 

「もう一度お願い、勇敢なる防壁! グラインド・フュージョン!」

 

 

 

 ――レベル6! 《ジェムナイト・アクアマリナ》!

 

 

 

 《ジェムナイト・アクアマリナ》

 ☆6 地属性 水族 DEF2600 → DEF2200

 

 再度現れる、蒼き鎧の宝石騎士。《ガイアパワー》の効果で守備力が下がっているものの、未だ下級モンスター程度なら軽々と防ぐ数値は残されている。

 

「こんな方法で融合モンスターを召喚するとはな。しかも、アクアマリナは墓地へ送られても俺のフィールドのカードを手札に戻す。

 やるじゃないか、穂乃果……!」

「攻撃を止めたアテムくんも流石だね。でも、次のターンでどうにかしないと、今度こそ私の勝ちだよ。

 私はこれで、ターンエンド!」

 

 自分には死角はないと言わんばかりの自信を示し、穂乃果はターンを明け渡す。

 観戦を続ける雪穂も、フィールドの状況を見て姉がそう思うのも当然だろうと判断していた。

 

 

 

(お姉ちゃんのフィールドには、《ガイアパワー》で攻撃力が3900になったブリリアント・ダイヤ。

 もしも《ブリリアント・フュージョン》を除去されたら破壊されちゃうけど、それでもアクアマリナが立ち塞がる。

 それに墓地に送られても手札に戻す(バウンス)効果を発動できるのだから、どんなに高い攻撃力のモンスターを出しても意味が無い)

 

 一方、アテムのフィールドにはレベル4の通常モンスター、《幻獣王ガゼル》のみ。

 次のターンで逆転へのカードを引き当てられなければ、今度こそ穂乃果の勝利は確定する。

 

(あれ?)

 

 そこで、ふと気付く。穂乃果がターンエンドを宣言したというのに、アテムが床を見つめ、微動だにしないことに。

 

「? どうしたの、アテムさん。もしかしてサレンダー?」

 

 今、穂乃果のフィールドには2体の強力な融合モンスターが並んでいる。勝負を諦めてしまいたいと考えるのもおかしくはない。

 

 だが、違う。

 

「アテムくんはまだ諦めていないよ、雪穂」

 

 穂乃果も、彼のデュエルを見ていなければ雪穂と同じ考えに至っていただろう。しかし、彼女は知っている。

 どのような状況に追い込まれようとも、自らのデッキを信じて最後まで戦い抜く、真の決闘者の姿を。

 

「穂乃果の言う通りだぜ、雪穂。

 俺の手札に残ったカードとガゼルでは、穂乃果に勝つことはできない。かといって、守備を固めたとしても穂乃果は次のターンで再びブリリアント・ダイヤの効果を使い、確実に攻撃を通してくるだろう。そうなれば、俺に勝ち目はない。

 だが――」

 

 

 

 ――諦めなければ、逆転の可能性はいつだってデッキに残されている!!

 

 

 

 顔を上げて語る彼の表情は、今までで最も鋭く、倒すべき獲物を見つめているようだった。数十分前に泣いたり騒いだりしていた人物とはまるで別人。

 なるほど、これがアテムの本当の姿ということか。

 

「行くぜ穂乃果! これが俺のラストターン!」

 

 

 

 ――ドローッ!!

 

 

 

 デッキに手をかけ、カードをドローする。たったそれだけの動作だというのに、雪穂の身体全体が大きく震える。

 ドローだけでこれ程の気迫を見せる決闘者には、今まで出会ったことが無い。

 

 渾身の力を込めて引き当てた1枚、それは――

 

 

 

 ――俺は魔法カード《七星の宝刀》を発動ッ!!

 

 

 

「ッ! お姉ちゃんがアテムさんに渡した、レアカード!?」

 

 それは、高価でありながらファイルにしまわれたままだった、穂乃果自慢のレアカード。

 『アテムなら使いこなせるかもしれない』という思いで託されたその1枚が今、アテムの危機を救う一手となる。

 

「このカードは、手札かフィールドのレベル7モンスター1体を除外することで、カードを2枚ドローする魔法カード!

 俺が除外するのは、手札の《バスター・ブレイダー》だ!」

 

 《バスター・ブレイダー》は、相手のフィールドと墓地のドラゴン族の数だけ力を増す強力な戦士。だが、穂乃果のフィールドと墓地にはドラゴン族はおらず、そもそも2体のリリースが必要な最上級モンスターである以上、出すことすら不可能。そのような状況で手札交換のためのカードを引き当てたのは、この上ない幸運と言える。

 

 剣にはめ込まれた7つの宝石の輝きに導かれ、竜破壊の剣士が次元の彼方へと消えていく。

 それと引き換えに、アテムの手には新たに2枚のカードが握られた。

 

「……穂乃果、礼を言うぜ。お前から譲り受けた《七星の宝刀》のおかげで、勝利へのキーカードは全て揃った!」

 

 唐突に勝利を宣言するアテム。その証拠を示すかのように、彼は1枚のカードをデュエルディスクへと差し込んだ。

 

「俺はまず、ブリリアント・ダイヤを対象として、速攻魔法《禁じられた聖槍》を発動! この効果の対象となったモンスターは、攻撃力が800ポイント下がり、他の魔法・罠の効果を受けなくなる!」

 

 突如、ブリリアント・ダイヤの胸元に突き刺さる聖なる槍。力を失い、腕を下げる姿を目の当たりにした穂乃果は、狼狽えずにはいられない。

 

「そ、そんな!? それじゃあ、ブリリアント・ダイヤの攻撃力が0になって、ガゼルに破壊されちゃう!」

「違うよ、お姉ちゃん。既に《ブリリアント・フュージョン》の効果による攻撃力上昇の処理は終わっているから、受けられなくなるのは《ガイアパワー》の分だけ。つまり、下がるのは1300ポイントだよ」

 

 《ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ》

 ATK3900 → ATK2600

 

「よ、良かったぁ。それならまだブリリアント・ダイヤの攻撃力は高いままだね!」

 

 そう言って穂乃果は胸を撫で下ろし、安心した表情を浮かべる。しかし、雪穂はまだ警戒心を解くことができない。アテムの手札にはもう1枚カードが残されているからだ。

 

 

 

(たとえモンスターが『効果を受けない』状態になったとしても、既に効果処理が終わっている攻守の上昇値が元に戻ることはない。

 今の《禁じられた聖槍》はそれをわかっていなかったプレイングミスとも考えられるけど、アテムさんは『まず』と言った。

 最後に残った1枚、それでどうするつもりなの……?)

 

 

 

「更に俺は装備魔法《戦線復活の代償》を発動!

 こいつは自分フィールドの通常モンスター1体を墓地に送ることで、互いの墓地からモンスター1体を選択して復活させる。

 墓地に送るモンスターは当然、《幻獣王ガゼル》!」

 

(なるほど。アテムさんの狙いは、クリスタを蘇生させて《禁じられた聖槍》で攻撃力が下がったブリリアント・ダイヤを破壊することか)

 

「無駄だよ、アテムくん! ブリリアント・ダイヤが倒されても、次の私のターンで「ジェムナイト」を引き当てれば、《ジェムナイト・フュージョン》を手札に戻してもう一度融合召喚ができる!

 アクアマリナを素材として更なる融合モンスターを呼び出せば、アクアマリナの効果でクリスタは私の手札に戻るよ!」

 

 確かに、このデュエル中で召喚されてモンスターのうち、ブリリアント・ダイヤを除けばクリスタの攻撃力が最も高いのだから、『クリスタの蘇生を狙っている』と考えるのは当然のこと。

 だが――

 

「俺が呼び出すのはクリスタじゃない。忘れたか、俺が《手札抹殺》で墓地に送ったカードの数を!」

 

 

 

『!?』

 

 アテムの言う通り、その時は確認をしていなかったが彼は《手札抹殺》で3枚(・・)のカードを墓地に送っていた。

 そのうち2枚は《幻獣王ガゼル》と《融合》。ならば、もう1枚は?

 

 

 

「穂乃果、お前の強さに敬意を表して見せてやるぜ。

 (ファラオ)である俺だけが所有を許される三幻神が一柱(ひとはしら)を!」

 

 

 

 宣言と同時、突如彼らが立つ場所は揺れ動く。

 室内だけではない。耳を澄ませば、階下で明日の仕込みを進める両親や、近隣の家から戸惑いの声が聞こえてくる。

 

 ――信じられないことに、周囲の地面までもが揺れているのだ。

 

 それどころか、よく見れば穂乃果のフィールドに立つモンスターも、少しずつ後退り、震え上がっているではないか。

 

(お姉ちゃんの「ジェムナイト」も、怯えている……? アテムさんは、何を召喚するっていうの!?)

 

 

 

「今こそ降臨せよ! 生きとし生けるもの全てを殲滅する究極の破壊神!」

 

 

 

 

 

 ――レベル10! 《オベリスクの巨神兵》!!

 

 

 

 

 《オベリスクの巨神兵》

 ☆10 神属性 幻神獣族 ATK4000

 

「神属性、幻神獣族……!?」

「こんなモンスター、見たことない……!」

 

 雪穂も、穂乃果も。その恐るべき姿を目の前にして、ただ呆然とすることしかできなかった。

 

 『神属性・幻神獣族』という今まで聞いたこともない属性と種族。

 一切の強化もされていない、4000という驚異的な攻撃力。

 

 そして、何より。

 

 床に膝を立てているにも関わらず、天井に頭を擦り付けている蒼き巨躯。

 本当に、デュエルディスクの補正機能は働いているのか? いや、故障していると考えたほうがまだ納得できる。もしもこれが正常に作動しているのならば、元々の大きさは高層ビルに匹敵することになるだろう。

 

 

 

「オベリスクは特殊召喚された場合、エンドフェイズに墓地へ送られる。

 だが、この一撃で決着がつくのだから、何ら問題はない!」

 

 それは、バトルフェイズへと移行するという宣言。

 事前に《禁じられた聖槍》が発動されている以上、破壊神(オベリスク)の攻撃対象は1つしかない。

 真紅の双眸に睨まれたブリリアント・ダイヤが人と同じ意思を持っていたのならば、どのような心境だろうか。

 考えるまでもない。ただひたすら怯えるか、頭が真っ白になるかのどちらかであろう。

 

「行け、オベリスク! その拳で、至高の輝きを粉砕せよ!」

 

 

 

 

 

 ――ゴッド・ハンド・クラッシャーッ!!!

 

 

 

 

 

 神の鉄槌が、下される。

 

 攻撃を防ぐ手段もなく、攻撃力の差は1400ポイント。

 穂乃果の残るライフポイントも、同じく1400ポイント。

 

「きゃああああ!?」

 

 輝きの淑女は跡形もなく消え去り、その余波を受けた穂乃果もその場へ倒れこみライフポイントは完全に尽きるのだった。

 

穂乃果 LP1400 → LP 0

 

 

 

●ラス・オブ・穂乃果

 

 

 

「あ~あ、負けちゃったか。やっぱりアテムくんは強いなぁ」

 

 破壊神の一撃を受け、大の字になった穂乃果はアテムの強さを改めて実感した。

 

 敗北寸前でドローした《七星の宝刀》による手札交換。

 新たにドローした2枚のカードを使って穂乃果のモンスターを弱体化し、墓地のモンスターを蘇生。

 極めつけは、蘇らせたモンスターが《手札抹殺》であらかじめ墓地に送っていた未知の巨大モンスターだったのだから、恐れ入る。

 

「ちょっとお姉ちゃん? 男子の前で仰向けになるなんて、みっともないんじゃない?」

「え? ああ……」

 

 雪穂の言う通り、男子の前でするには非常にみっともない格好かもしれない。

 しかし、

 

「穂乃果、立てるか?」

 

 どうやらアテムは全く気にしていないようで、しゃがんで手を伸ばしていた。

 その手を取って立ち上がる穂乃果は、男子に触れる機会がほぼ皆無であるにも関わらず、恥ずかしがっている様子は全く見られない。

 

 

 

 ――アテムくんって、《ブラック・マジシャン》だけじゃなくて、あんな凄いモンスターも持ってたんだね!

 

 ――ふっ。神のカードは凄いぜ! オベリスクの他にも、手札の数だけパワーアップする神とプレイヤーと合体する神もいるのさ!

 

 ――本当!? だったらもう1回デュエルしようよ! 神のカード、全部見てみたい!

 

 ――いいだろう! 今度も負けないぜ!

 

 

 

 勝っても負けても笑い合う2人の姿は、まさに決闘者のあるべき姿。そこに男女関係についての話を持ち出すのは、間違っているのかもしれない。

 

(アテムさん、本当にデュエルが好きなんだなぁ。でも――)

 

「2人とも、ちょっといいかな?」

 

 今にも2戦目を始めようとするアテムと穂乃果に対して、雪穂は声をかけずにはいられなかった。

 

「どうしたの、雪穂。あ、もしかして雪穂もアテムくんとデュエルしたくなった?」

「う~ん、今日はいいかな。それよりも――」

 

 カード効果を正しく把握していなかったにも関わらず、勝利を収めたアテムのデュエルタクティクス。

 なぜ、誰も採用していないはずの融合モンスターを使うのか。

 おそらくどこのデータベースにも載っていないであろうカードを使役し、デュエルディスクが認識できる理由。

 

 聞きたいことはいくつもあるが、まず1つ言っておくべきことがあった。

 

 

 

 

 

「部屋の中、ところどころ焦げてるんだけど」

 

 

 

 

 

『ゑ?』

 

 雪穂に指摘され、素っ頓狂な声を上げた2人が周りを見渡すと、天井や壁をはじめとして、家具までもが黒く焦げ付いていた。

 

「あぁー! 『万年筆 (ジン)さん』と『それいけ! 腹パンマン』の背表紙が焦げてる!? お気に入りの漫画なのに!」

 

 どうやら穂乃果は家具よりも漫画の方が重要らしく、焦げ目のついた数冊を手に取りながら涙していた。燃え上がっていなかったのは奇跡と言っていいのかもしれない。

 

 いったい原因は?

 室内でデュエルをしても、ソリッド・ヴィジョンである以上周りが汚れるなんてことは、まずありえない。

 しかし、このデュエルでは普通ではないことが起こっているではないか。

 

 

 

 ――天井を突き破らんばかりの巨躯を誇る、破壊神の召喚が。

 

 

 

「……多分、アテムさんが最後に召喚したモンスターのせいだと思うよ?」

 

 雪穂も、ソリッド・ヴィジョンが身体への軽い衝撃以上の影響を与えたなどと、信じたくはないだろう。だが、観戦していたからこそ気付いてしまうのだ。

 

 そして、穂乃果は漫画を本棚にしまい、立ち上がる。その瞳からは生気が失われ、まるで別人のようだった。

 

「…………へぇ。それじゃあ、私の漫画が焦げたのはアテムくんのせいってことだね」

「ち、違う! オベリスクが勝手に!」

 

 一歩ずつ後退り、狼狽するアテムからはもう先程の威厳は一切感じられない。もっとも、穂乃果の尋常ではない怒りを直接受けて平静を保っていられる人はほとんどいないだろうが。

 

 

 

「アテムくん、今後は部屋の中で神のカードを使っちゃダメだからね♪」

「…………はい、申し訳ございません」

 

 

 

 笑顔であって、笑顔でない怒り。

 アテムはただ、土下座して受け入れることしかできなかった――。

 

 

 

●オマケ

 

 

 

 次の日の朝。

 登校途中にアテムは懐から1枚のカードを取り出して、穂乃果へと見せた。

 

「……穂乃果、この神を見てくれ。こいつを見てどう思う?」

「あ、昨日言ってたオベリスク以外の神のカードだね。

 なになに、《ラーの翼神竜》……」

 

 

 

 ☆10 神属性 幻神獣族 ATK ? DEF ?

 このカードは特殊召喚できない。

 このカードを通常召喚する場合、3体をリリースして召喚しなければならない。

 ①:このカードの召喚は無効化されない。

 ②:このカードの召喚成功時には、このカード以外の魔法・罠・モンスターの効果は発動できない。

 ③:このカードが召喚に成功した時、100LPになるようにLPを払って発動できる。このカードの攻撃力・守備力は払った数値分アップする。

 ④:1000LPを払い、フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊する。

 

 

 

「…………これ、本当に神のカードなの?」

「そんなこと、俺が聞きたい」

 

 悲しげに語るアテムの瞳からは、大粒の涙がとめどなく流れ続けていた。

 




 穂乃果が《ブリリアント・フュージョン》を使った時、ラズリーを1枚しか落とさなかったことに「おや?」と思った方もいるかもしれません。
 実は、彼女のデッキは「ハイランダー」となっているため、ラズリーは1枚だけとなっています。そのため、《サンダー・ドラゴン》も《ヴォルカニック・バレット》も入っていません。
 というか、《ジェムタートル》をはじめ、「ジェムナイト」関連カードが全て詰め込まれています。……リアルでは絶対にありえない構築ですね。
 最初の構成では、キマイラが裏守備表示の《ジェムエレファント》に攻撃して、ダメージ計算時に守備力2900になったことで反射ダメージを受ける、という案もありました。

 また、穂乃果に【ジェムナイト】を使わせた理由その2ですが、
 作者がリアルで【絵札の三銃士】に《ブリリアント・フュージョン》など、一部のカードを出張させたことが原因でもあります。

①ラズリーとクィーンを落として、セラフィを融合召喚。
②ラズリーの効果でクィーンをサルベージして通常召喚。
③セラフィの効果でキングを通常召喚して、ジャックをリクルート。
④《ガガガザムライ》と《シャーク・フォートレス》をX召喚。
⑤1900×2+2400×2=8600で1ショットキル。

 《シャーク・フォートレス》も海未のデッキに入っているであろうカードでもありますし、本編で似た流れをやるかは未定ですが、この流れが決まるとかなり楽しいです。

 そして、ちゃっかり神降臨。トップバッターはオベリスク。
 正直な話、他の2体は使いづらい……(泣)
 ラーは球体のおかげでマシにはなったものの、問題はオシリス。
 元々手札消費が激しいアテムのデッキでは3000を超える打点は確保しにくいので、
 塚で維持して召雷弾を使って貰おうか……。悩みは尽きません。

 それでは、次回もよろしくお願いします。

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