ラブライブ!DM   作:レモンジュース

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 今回はまだ感想返信を終えていませんが、前回の投稿からちょうど1周間(日付そろそろ変わりそうだけど)ということで、先に最新話を投稿させて頂きます。
 返信はもう少しお待ち下さい。

 さて、本題。
 今回の対戦相手は、ついに「ラブライブ!」全く関係ないあの男です。構成を知人に見せたところ、「あらすじ詐欺」「2人とも真面目にデュエルする気あるのか」と言われました。

 あと、今回からサブキャラ扱いで登場するキャラのうち片方の変態っぷりが「R-15」タグが必要になるレベルです。

 それでは、どうぞ!


イリアステルへようこそ!

●この辺にルイさま ↓

 

 

 

 ことりとの意外な場所での邂逅から30分後。全員はデュエルフィールドの傍らにある観戦スペースにて、各々が注文した(注文させられた)サンドイッチや飲み物が載ったテーブルを囲っていた。パラドックスが言うには『飲食を楽しみながらデュエルを観戦することもこの店の売り』らしく、10人以上が一箇所に集まってもまだ余裕がある。

 現在、全員の視線を浴びることりの表情はやや暗い。幼なじみにすら秘密にしていたアルバイトが露呈してしまったことも原因の1つなのだが、それ以上に母から叱られてしまったことが堪えていた。

 

 

 

 高校生がアルバイトを始める場合、昨今は後々のトラブルを避けるために保護者の受諾が必要となる事が多い。ことりも例に漏れず、母の許可を得た上で勤務していた。理事長曰く、娘の意志を尊重した上で社会経験を積ませたいと考えたのだとか。

 しかし、彼女はことりが皆に黙ってアルバイトをしていることまでは把握していなかったらしい。

 

 ――海未さんたちから聞いたけど、あなたはアルバイトをしていることを隠して練習を休むことが多かったそうね。どちらか一方に専念しなさい、とまでは言わないけれど、皆さんはとても心配していたのよ。

 

 ひとしきり注意し、穂乃果たちとも『μ’s』のグッズを本格的に展開するかどうか後日話し合うことを決めると、理事長は通常の業務を行なうために学院へと戻って行った。

 そして今、この場にいるのは『μ’s』のメンバーにアテムとマハード、パラドックスを加えた12人。周囲には誰もいないため、多少大きな声で重要な話をしても問題はない。また、実体化したマハードはアテムの右横に立ってパラドックスを警戒している。

 

「えぇっ!? まさかとは思いましたけど、本当にことりセンパイがアキバで伝説となっているメイド、ミナリンスキーさんだったんですか!?」

「……はい、その通りです」

 

 地下に響くほどの大声を出して驚く花陽と、か細い声で俯くメイド少女・ことり。普段からは考えられない珍しい構図だ。

 

「へぇ~。小泉、伝説って?」

「はい! ミナリンスキーさんとは、数ヶ月前に突如アキバに姿を表したというメイドさんで、可憐な笑顔と接客能力は天下一品! 瞬く間に数多くのリピーターを獲得したという話です!

 現在の秋葉原ではあの『A-RISE』やチヨダ・ヒーロー『乙女(メイデン)』と並ぶ知名度と人気を誇るんだとか! ですよね、ことりセンパイ!

 あ、乙女(メイデン)というのは『トーキョー・ヒーロー・プロジェクト』、通称THPのご当地ヒーローで――」

 

 アテムの不用意な問い掛けが引き金となり、花陽のいつものマシンガントークが開始された。彼女の守備範囲はアイドルだけではなかったようだ。

 23人全員分語るまで終わらないであろう彼女を一同は無視しつつ、ことりへの質問は続行される。普段仲が良くとも、時には除外される。それが『μ’s』クオリティ。

 

「それにしても、ことりちゃんがアルバイトを始めた時期は3ヶ月前だってパラドックスさんが言ってたけど、どうして働こうと思ったの?」

 

 壁に背を預け、瞑目し口を閉ざすパラドックスをチラリと見つつ、穂乃果は問う。彼は一見アテムよりも威厳のある大男であり、今も上階で勤務している男性スタッフも相当に濃い面子だ。既にアテムというヒトデ頭のおかげでやや慣れているものの、女子校に通う少女が男性比率の多い職場で何故働こうと思ったのか、皆が気になっていた。

 

「穂乃果ちゃんたちと『μ’s』を始めた頃、学校帰りにアキバまで来た時なんだけど……」

 

 『μ’s』結成から数日後。その日の放課後は各々私用があったため、練習を行なうことができなくなった。しかし唯一予定がなかったことりは、フリーデュエル兼デッキ強化のために秋葉原を散策していたという。その最中(さなか)偶然訪れたのが、この喫茶店『Yliaster』。

 

「……」

 

 彼女は今まで黙っていたことへの負い目からか、そこで一度口を閉じてしまう。すると、パラドックスが一歩前に出て言葉を引き継いだ。

 

「南ことりが来店した時間は、先ほどと同じく我等と客がデュエルを行なう時間だった。しかし、他の客は飲食のためだけに訪れた者ばかりでね。唯一デッキとデュエルディスクを持ち歩いていた彼女が抜擢されたのだよ」

 

 やがて、飲食を済ませたことりは地下へと向かった。当時の担当は『Yliaster』の店長。この店で最も高い実力を持つ決闘者である。

 ことりは【RR(レイド・ラプターズ)】の高速エクシーズ召喚戦術によって序盤は優位に進めていたのだが、店長のシンクロ戦術を前に、最後には勝ちを逃す結果に終わったという。

 

「だが、結果はどうあれ南ことりの腕は我々の想像を大きく超えていた。ちょうど『Yliaster』では高い実力を持つ女性決闘者を欲していてね。勧誘してみたところ、この店の制服も気に入ったようで快く了承して貰ったよ」

 

 次々と露見することりの秘密。バラされた本人の顔は、真姫の髪色に負けず劣らず真っ赤に染まっていく。

 

「なるほどなぁ。この店の制服は確かに可愛らしいけど、誰がデザインしたんです? この喫茶店は男性比率が高いみたいやけど、まさか……」

「違う。ここの制服は、近所に位置する別の喫茶店を経営するオーナーがデザインしたものだ。彼女の話によると、自店で使うにあたって最後まで悩んだ末に没となったものらしい。まぁ、今この話はどうでもいいだろう」

 

 見た目不審者な大男たちと接することのできる女性オーナーというのも気になるが、確かに今話題の中心となっているのはことりだ。

 パラドックスは希に返答しつつ、ことりに向けて顎をしゃくる。続きを話せ、ということか。

 

「あと、自分を変えたいなと思ったから。私は穂乃果ちゃんみたいに皆を引っ張っていくこともできないし、海未ちゃんみたいにしっかりもしてない。

 私には、何もないの」

「何もない、ですか……?」

 

 首を傾げる一同。今も絶賛演説中の花陽も言っていたが、ことりはこの喫茶店どころか秋葉原の看板になりつつある存在だ。そんな彼女が語る理由としては些か信じ難い。彼女の俯きようから、アルバイトを初めて3ヶ月経った今でも悩み続けているのだろう。

 

「そんなことないよ! 歌もダンスもデュエルも、ことりちゃんは私よりも上手だし!」

「衣装だって、全てことりがデザインしているじゃないですか」

「少なくとも2年の中では1番まとも……………………じゃないわね、うん」

 

 穂乃果と海未は、ことりと付き合いが長いこともあり、良い所も数多く知っている。そのため慌てる様子も見せず、自然体でフォローする。だが、真姫はと言えば数瞬思い返した末に目を逸らした。アルバイトのことで悩んでいたせいか最近はスランプ気味だが、日課のように人を空高く打ち上げている女子高生は決してまともではない。彼女は『むしろ2年生は全員変人よ』と言っているが、毎度飛距離を計測している真姫自身も変人の1人なのではないだろうか。

 

「それよりも俺にはもっと気になることがあるぜ。……お、このカツサンド上手いな」

「……アテムくん。今は真面目な話をしているのだから、飲食しながら喋らないでくれないかしら?」

 

 ことりの話を聞きつつも、アテムの意識はパラドックスの方へと向いていた。頼んだカツサンドを遠慮無く頬張っているあたり、ショップで遭遇した時よりも警戒心は多少薄れているようだが、この2人には只ならぬ因縁があるのだろう。

 

「パラドックス。貴様はかつて『破滅の未来を回避するため』などと言い、幾つもの時代からカードを奪い、デュエルモンスターズを滅ぼそうとしていた。ペガサスや爺ちゃんを始めとした、数多くの人間の命を奪ってまで」

 

『なっ……!?』

 

 アテムの口から発せられた言葉に、皆は驚愕した。時間を移動したという突拍子もない話はもちろんだが、大規模な殺人を犯そうとしていたとは。しかし意外にも、ことりだけは特に驚く様子を見せていない。

 

 

 

 パラドックスは語る。

 彼はアテムや武藤遊戯が生きていた世界よりも遥か未来に生きていた人間であると。だが、その未来は度重なる人類の過ちによって滅びの時を迎えつつあった。

 

 数人の同士と出会ったパラドックスは救済への道を模索する最中、デュエルモンスターズには世界を変革するほどに強大な力が秘められていることを突き止めた。なんと、世界は1枚のカードから始まったという説もあるのだという。

 

 そして彼は歴史改変、つまりデュエルモンスターズを抹消するという手段へと辿り着く。標的となったのは、アテムたちの世界においてゲームの生みの親であるペガサス・J・クロフォード氏。

 しかし、3つの時代から奪った強力なカードを引き連れ、デュエル大会を襲撃しようとした矢先に3人の決闘者が現れた。彼等の名は、

 

 

 ――武藤遊戯(アテム)

 ――遊城十代

 ――不動遊星

 

 

「目を閉じれば思い出す。キミたち3人の妨害によって失敗に終わったあの出来事は、昨日のことのように覚えているよ」

「あの時発動したフィールド魔法によって、ライフポイントを失った者は死を迎えると言っていたな。宣言通り死んでしまったとばかり思っていたが、まさか俺と同じように別世界に来ているとは思わなかったぜ。……何が目的だ?」

「特段、目的なんてものは存在しない。我等が去年の夏の終わり頃にこの世界へ来てから、もうじき1年が経つ。あの時の『失敗』が『成功』に変わったと知り、そして別世界に来た今となっては、喫茶店を経営しながら日々を気ままに生きているだけだよ」

「去年の夏の終わり……。確かその時期って都庁周辺で小さなテロ事件があったわね」

「テロかぁ。そういえば、そんなのもあったにゃー」

 

 言葉の中に含まれた『去年の夏の終わり』という語句に、にこは去年起きたとある事件を思い返していた。都庁周辺で発生したものだが、奇跡的に1人も死者が出なかったことが一時期話題となったものである。

 

「ファラオ。南殿や理事長殿が信頼を寄せているということは、嘘を言ってはいないようですね」

「……みたいだな」

 

 アテムはデュエルモンスターズに限らず様々なゲームを通して、多種多様な人物と関わってきた。その中で彼は生まれ持った豪運に頼り切ることなく、相手の挙動を注意深く観察し、勝利に繋げるための戦略を組み立ててきた。この経験から、今では1度戦った相手の思考を僅かながら読み取ることができるようになっている。

 また、この世界で出会った仲間であることりが、同じ職場で働くほどに信頼を寄せている。ならば、過去はどうあれ信じないわけにはいかない。

 

「それはありがたい。だが、キミたちはあくまで南ことりを信じたに過ぎない。本心では納得仕切っていないはずだ。

 キング・オブ・デュエリストの称号を持つキミが相手ならば『コレ』を通した方がより確実ではないかと私は考えるが、どうだろうか」

 

 そう言ってパラドックスが取り出したのは、デュエルディスクと非常に厚いデッキ。ディスクの形状自体は一般流通されているものとほぼ変わらないものの、彼はそれを右腕に装着した。左利き用らしく、その珍しさが少女たちの目を惹いた。

 

「元より次のデュエルタイムの担当は私。それにキミたち3人には、叶うならばリベンジしたいと常々思っていた。

 私の挑戦、受けてみるか?」

「なるほど、デュエルなら本心を曝け出さずにはいられないからな。いいだろう、受けて立つぜ!」

 

 決闘者たるもの、挑まれたデュエルは必ず受けなければならない。

 アテムがデュエルディスクを装着し、マハードが実体化を解除してデッキへ戻ると、彼等の周囲を覆う空気が強い緊張感に包まれた。

 今まさに始まらんとする、浅からぬ因縁を持つ者同士のデュエル。しかし、互いに初期手札5枚を引くためにデッキへと手を伸ばした瞬間、エレベーターが開く音と少女の声が彼等の耳に届いた。

 

 

 

「ぼんじゅーる、皆の衆。何やら姦しいと思ったら、今日のデュエルフィールドは盛況のようだな」

 

 

 

 突然の闖入者によって、デュエルフィールドを包んでいた緊張感が霧散する。その中を革靴の音を響かせて闊歩(かっぽ)するのは2人の少女。

 1人は長い金髪を靡かせる、紫色の瞳の少女。背丈はにこよりも低く、白いワンピースが幼い容姿によく似合っている。また、右手のみ嵌められた長い手袋が非常に目を引いた。

 もう1人は、赤いポニーテールを膝まで伸ばした少女。大きめのカバンを持ち、どこかの学校のセーラー服を着ているが、制服の上からでもはっきりとわかる大きさの乳房は胸元に着けた緑色のリボンを大胆に歪ませていた。

 緊迫した雰囲気の中現れた彼女たちに対し、呆気にとられる『μ’s』一同。彼女たちの反応が面白いのか、金髪の少女は穂乃果の前に立ってニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ふふっ。どうした、音ノ木坂学院が誇るスクールアイドル『μ’s』諸君。鳩がSIG(シグ)-SG550で撃たれた顔をしておるぞ」

 

『……SIG?』

 

「たわけ! 我が国が誇る銃器メーカーを知らぬのか! そなたもAK(アーカー)-47派か!?」

 

『??』

 

 小学生のような少女が『μ’s』の存在を知っていることよりも、よくわからない言葉を使うことに再び疑問符。『銃器メーカー』という単語を使ったことから、『鳩が豆鉄砲を食ったよう』と言いたいのだろうか。

 

「むぅ。去年晃太郎に同じことを言った時はもっと良い反応を返してくれたのだがなぁ」

 

 勝手に話を振りながら、残念そうに溜息をつく少女。そんな彼女に対し、ことりが皆のフォローをするように話しかけていた。

 

「あの、ルイさん。私や穂乃果ちゃんたちは普通の女子高生なんですから、銃器のことなんてわかるわけがないですよ」

「確かにそうだが、日頃から人をふっ飛ばしているということりを『普通』と認めるのは難しいと思うぞ。

 それに、晃太郎のようなツッコミスキルを他の者に期待するのは失礼であったな。すまぬ」

 

 互いに中の良さそうな雰囲気から、両者は顔見知りのようだ。と、今度は赤髪の少女が『ルイさん』と呼ばれた少女に追随するように身を乗り出してきた。

 

「そうですよルイさま! ツッコミなら私に任せてください! というか、むしろルイさまに突っ込んで欲しいですッ!」

 

 彼女は、外が暑かったからという理由だけでは説明がつかないほどに顔を赤らめ、鼻息を荒くしている。『ツッコミ』という単語を別の意味で用いているようだが、一部の者は理解できずに首を傾げていた。

 

天元(あまもと)神城(かみしろ)。漫才をするのなら自分たちの店でやってくれないか。デュエルの邪魔になる」

「おっと、すまぬなパラドックス。ゾーンを連れて来るついでに挨拶を、と思ったのだが脱線してしまった。しかし、ちょうどデュエルが始まるところであったか。これはいいタイミングで来ることができたな。

 折角の機会だ、余も観戦させて貰うとしよう」

 

 喫茶店で働くことりと知り合いであるのだから、当然と言うべきか。やはりパラドックスとも親交があるらしい。しかし彼と話す姿はまるで対等、下手をすれば格上であるかのよう。幼い容姿とは真逆の尊大な態度に、これまた穂乃果たちは目を丸くした。

 

「まずは挨拶だ、諸君。余の名は天元ルイ、『カフェ・ノワール』のオーナーを務める大学1年生だ。そこにいるパラドックスと、上にいるゾーン、アンチノミー、ホセ、プラシド、ルチアーノとは1年近くの付き合いになる」

「あたしは神城優香(ゆか)。首都学園東京の2年生。……そして、ルイさまの1番の部下よ!」

 

 ルイはウインクを飛ばしながら可愛げに、優香は少々危ない自己アピールをしつつ名乗った。にこより小さな女の子が大学生であるという衝撃の事実に驚く間もなく、パラドックスとことりが彼女等との関わりを補足する。

 

「彼女たちと出会ったのは、我等イリアステルが全く同じ時間にこの世界へやって来た時だ。天元は私たちが別世界から来たことを容易に受け入れただけでなく、身分の作成や衣食住のサポートまで請け負ってくれたよ」

「今私が着ているメイド服も、ルイさんがデザインしたものなの。優香ちゃんも、たまにデュエルタイムのヘルプに入ってくれることもあるんだよ」

 

 やや不機嫌なパラドックスはともかく、ことりは2人のことを名前で呼ぶほどに好感を持っているようだ。海未はこれまで店内で見た面子から、彼女が不満なく働けているか少々不安に感じていたが、まだまともそうな少女とも交流を持っているようでやや安心した。しかし一方で、絵里は異なる反応を見せる。

 

「よ、容易にって……。パラドックスさんたちには失礼ですが、異世界から来たなんて言葉をよく信じる気になりましたね」

「ふふっ。今は詳しく話すことはできぬが、我々にとって今更異世界人程度では驚くに値せぬとだけは言っておこう」

「私もつい最近教えて貰ったんだけど、ルイさんの話を聞いたら多分……ううん、絶対に驚くと思うよ」

 

 不敵に微笑むルイの表情から、彼女等もアテムと同じく普通ではないということか。ことりの反応を見る限り彼に匹敵する秘密なのだろう。

 

「ところで南、今日もまたゾーンさんがノワールでサボってたんだけど何とかならない? 店長が他店でサボってるってのはやっぱマズいでしょ。

 パラドックスさんたちは何だかんだであの人には甘いし、アンタだけが頼りなのよ」

「うぅ……。いつも注意してるんだけど、ほとんど聞いてくれないんだよぉ。気付いたらカードショップに行ってることも多いし」

 

 ゾーンという男のことを語る優香は憂鬱そうにしており、自分が務める喫茶店でもないのに本気で落ち込んでいる。時折ヘルプに入るほどなのだから、この店のことを余程心配してくれているらしい。

 

「それで、優香ちゃんの本音は?」

「あの人がルイさまとデュエルしてるせいで、ルイさまがあたしを構ってくれないのよ! キーッ!」

 

 ……訂正、思いっきり私欲にまみれていた。

 

「ルイさまのいない学校生活が始まってから3ヶ月。ノワールでの勤務中は一緒に過ごす数少ない時間だっていうのに、風間に抱きついたりゾーンさんとデュエルするせいでそれすらほとんど無い!

 この苛立ちを同人のネタに使う他のどこに向ければいいって言うの!? 答えてみなさいよ、南!」

「そ、そう言われても……。普段のお昼休みも風間さんたちと5人で一緒に食べてるんじゃなかったっけ?」

「んなこたぁどうでもいいのよ! あたしはルイさまと一緒に食べたいの! むしろルイさまを食べたい! あ、でもやっぱり食べられる方が……」

 

『えっ』

 

 とんでもないカミングアウト。アテムを除いた一同ドン引きである。

 

(この人、変態だ……)

 

「神城、キミはもう黙っていてくれないか」

「パラドックスの言う通りだぞ、優香。後でたっぷり構ってやるから今は大人しくしておれ」

「ほ、本当ですか……!? わっかりました、ルイさま!」

 

 それからの彼女の行動は早かった。空いている椅子にルイを座らせると、カバンから大きめの水筒を取り出した。

 中に入っていたのはホットコーヒー、しかもブラック。見た目小学生の少女がブラックコーヒーを飲む姿は、まるで背伸びをしているかのよう。湯気に乗って漂う香りから、インスタントコーヒーはおろか、そこいらの喫茶店より遥かに高級な豆を使っているのだと、普段コーヒーを飲まない穂乃果たちでさえはっきりと感じ取れる。

 ちなみに優香はお客様の前へ絶対に出してはいけない表情をしており、危ない意味で捉えているであろうことは間違いなかった。

 何はともあれ少女たちが再び観戦モードに入ったことにより、ようやくデュエルの始まりだ。

 

「待たせたな、アテム。私たちのデュエルを始めるとしよう。この世界で手にしたカードによって進化した我がデッキの力、キミに超えられるかな?」

「それはこっちのセリフだぜ、パラドックス。貴様の決闘者としての(プライド)を全て賭けて、この俺に挑んで来な! あの時とは別人かどうか、このデュエルで見極めてやるぜ!

 天元ルイとやら、デュエル開始の宣言をしろ!」

「ふふっ、よかろう。元の世界ではキング・オブ・デュエリストと称されたそなたの実力がどれ程のものか、(とく)と見せて貰おう」

 

 用意された椅子に腰掛け、膝組みをしてふんぞり返るルイ。どうやらアテムに関する情報はある程度聞き及んでいるようだ。しかし決闘王(デュエルキング)としての威厳をまざまざと見せつける彼に向けた態度は、やはり上から目線。彼女の小さくも尊大な風格は、スクールアイドル界の絶対王者、綺羅ツバサを思い起こさせる。

 

「おいちょっとそこのヒトデ頭! ルイさまに命令するたぁ何様のつもりよ!」

「王様だ! 何か文句あるか!」

「優香ちゃん、アテムくん。いい加減空気読んでくれないかな?」

 

『はい、すみませんでした』

 

 悩みを抱えていたはずのことりから発せられる静かな怒気に、両者沈黙。

 

 

 

「き、気を取り直して、デュエル開始ィイイイッ!」

 

 

 

 11人の少女による視線が2人の決闘者に集い、少女が指を鳴らす音が響く。今ここに、異世界から現れた決闘者同士による戦いが幕を開けた。

 

『デュエルッ!!』

 

アテム LP4000 DECK:60

パラドックス LP4000 DECK:60

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。1階の喫茶店では、連れ戻された店長が馬車馬の如く働かされていた。

 

「今頃、地下ではアテムがパラドックスかルイくん、もしくは優香くんとデュエルをしているはず。願わくは私が戦いたかったのですが……。アンチノミー、行っては駄目でしょうか」

「行かせないよ、ゾーン。ルイさんとのデュエルで負けた罰として、今日は通常の休憩時間を除いて真面目に働く約束をしたと彼女たちが言っていたからね」

「はぁ……。あのカードを引けていれば勝ちを拾えたのですが、ね」

 

 客に対しては笑顔を振り向きながら、接客を続ける店長。だが悲しいかな、彼の内心ではほとんど反省する素振りを見せていなかった。

 

 

 

●アテムVSパラドックス

 

 

 

「俺の先攻だ! 手札から魔法カード《強欲で謙虚な壺》を発動! デッキトップから3枚のカードをめくり、そのうち1枚のカードを手札に加える!」

 

 発動ターンの特殊召喚を封じるデメリットがあるため、なるべく序盤に発動させることが望ましいドローソースの1つ。しかし、

 

「センパイが《強欲で謙虚な壺》を使うなんて珍しいですね。確かにキーカードを素早く手札に加えられる強力なカードですが、センパイならサーチするまでもなく素引きするはず。

 デッキの内容を晒すデメリットだってあるのに……」

 

 いつの間にかご当地ヒーロー23人分を全て語り終えていた花陽が、アテムの行動に疑問符を浮かべる。仮にデッキ圧縮が目的だとしても、構築段階でデッキ枚数を減らせば良いはずだ。

 

「花陽の言うこともわかるけど、アイツのデッキは様々なカテゴリが混在した常識外れのデッキ。多少中身を晒したくらいで対策するのは難しいでしょうね。

 それに特殊召喚不可のデメリットを軽減する手段を既に持っている、もしくは引き当てるはずよ」

 

 アテムという決闘者は《一族の掟》や《光の封札剣》といったマイナーカードを使い、危機を乗り越えたこともある男。にこの言う通り、常識なんてものは一切通用しない。

 また、《強欲で謙虚な壺》で手札に加えたカードは当然相手に筒抜けだが、わかっていても対抗しようがない戦術を組み立てれば問題はないのだ。

 公開された3枚のカードは、

 

 

 

 《チョコ・マジシャン・ガール》

 《キウイ・マジシャン・ガール》

 《ブラック・マジシャン・ガール》

 

 

 

「お、いいカードだ。ツイてるぜ」

 

 なんということでしょう。空中に投影されたカードは、全て見目麗しい魔法少女たちではありませんか。

 その内容を見た少女たちはと言うと。

 

 

 

『うっわぁ……』

 

 

 

 

「Why!? というか、その反応前に見たぜ!」

 

 揃ってドン引きしていた。よく見れば、パラドックスですら一歩後ろに下がっているではないか。若干涙目になるアテムを見て、優香はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「……へぇ。あれが噂の《ブラック・マジシャン・ガール》と、残り2枚は同じカテゴリのカードかしら。

 あいつは絶対にゲームの女アバターに好きな娘の名前を設定して顔もそっくりにした挙句、エッチな衣装を着せて辱めるタイプね。ドン引きだわー」

「黙れぇっ! 人聞きの悪いことを言うな! 相棒と城之内くんと本田くんがグラビアアイドルの名前で似たようなことをしたのを見たことがあるが、俺はやっていない!」

 

 出会ったばかりの少女に酷い言われようである。辱めの内容もえらく限定的だがゲームのグラフィックが進化した昨今、効果は昔よりも絶大だ。

 ついでにさり気なくかつての仲間の恥を晒すアテムだが、いくらもう会うことがないからといって彼はそれでいいのだろうか。

 

「神城、余計な茶々は入れないでくれないか。アテムもさっさと《チョコ・マジシャン・ガール》を手札に加えて召喚しろ」

「あ、はい。俺は《チョコ・マジシャン・ガール》を手札に加え、通常召喚するぜ」

 

 《チョコ・マジシャン・ガール》

 ☆4 水属性 魔法使い族 ATK1600

 

 少なからずの怒気を浴びたアテムは、気落ちしながらも最初にめくられたカードを手札に加え、残る2枚をデッキに戻してシャッフルする。

 次いで召喚されたのは、宣言通りの魔法少女。腰まで伸びた薄緑色の髪と、真紅の瞳。黒を基調とした衣装は肩・胸元・腹部を大きく露出しており、黒タイツとガーターベルトも相まって何とも扇情的な格好だ。これがソリッド・ヴィジョンではなく現実であれば、その手の業界からスカウトが来ていてもおかしくない。

 『次の本のネタに使おうかしら』と呟きつつメモを取っていた赤毛の巨乳少女の奇行は、誰もが関わらないようにしていた。

 なお、2人の思考が一致したのは偶然でも無ければ、パラドックスがアテムの心を読み取ったわけでもない。「キウイ」と「ブラック」はともに上級モンスターであるため1ターン目に手札へ加える必要性は薄く、何より「チョコ」が持つ能力が特殊召喚不可の誓約を補って余りある性能を秘めているからだ。

 

「《チョコ・マジシャン・ガール》の効果発動! 手札の魔法使い族モンスター《コスモクイーン》を捨てることで、新たに1枚カードをドローする!」

「デッキ圧縮に加え、最高クラスの攻撃力を持つ魔法使い族を墓地に控えさせたか。相変わらず厄介な戦術を組み立てる男だな」

 

 パラドックスは、かつて絶望的な未来を年老いるまで生き抜いた過去を持つ。そのため危機察知能力は人一倍強いと自負しており、以前武藤遊戯(アテム)たち3人とのデュエルに敗北してからはその能力を一層磨き上げてきた。

 今では接客業に携わっていることもあり、初見のカードであってもカードテキストを瞬時に読み取ることが出来るようになっている。

 そしてアテムが呼び出した魔法少女は、手札交換能力の他にも、自身が攻撃対象になった時に墓地から仲間の魔法使い族を復活させ、攻撃対象を移し替える能力も持つ。加えて、攻撃モンスターの攻撃力を半分にするというオマケ付きだ。

 

「俺の墓地に存在する《コスモクイーン》の攻撃力は2900ポイント。倒したければ攻撃力5800以上のモンスターを呼んでくるんだな。

 俺は伏せ(リバース)カードを2枚セットして、ターンエンド!」

 

 攻撃力5800を超えるモンスターを出す機会など、特定のデッキでもなければまず不可能。実質的に攻撃を封じたばかりか、2枚の伏せカード。誰が見ても明らかな挑発に、希は思わず苦笑する。

 

「あはは……。アテムくんノリノリやなぁ。伏せたカードもブラフってことはないやろうし、パラドックスさんも攻め難いはずや」

「いえ、甘いですよ希先輩。あの人はかつてアテムくんを含めた伝説級の決闘者3人とほぼ互角の戦いを繰り広げた過去を持つと言います。

 対抗策はすぐに用意するに違いありません」

 

 同じ職場で何度もデュエルし、見てきたからであろうか。ことりはまるで確信を持っているかのように告げる。さっきも言っていたが、1対3で互角に戦ったという事実は改めて驚異的。先の会話から最後には敗北したようだが、人数差を埋めるほどのカードと戦術を駆使することは明白だ。

 

「私のターン、ドロー! まずは手札から魔法カード《苦渋の決断》を発動! デッキからレベル4以下の通常モンスター《幻殻竜》を墓地に送り、同名モンスター1枚を手札に加えさせて貰おう」

 

 レベルの低い通常モンスターに限定された、《おろかな埋葬》と《増援》を組み合わせたかのような効果を持つ魔法カード。

 手札と墓地に加わった竜はレベル4・闇属性・幻竜族・攻撃力2000・守備力0と、豊富なサポートカードに恵まれた優秀なカード。

 ただし効果を持たないモンスターを闇雲に手札へ加え墓地に送ったところで、小悪魔チックな魔法少女の能力には対抗できない。何らかのコンボに繋げるはずだとアテムは思案する。

 

「続いて、魔法カード《闇の誘惑》を発動。新たに2枚のカードをドローし、その後手札から闇属性モンスターを除外する。

 私が除外するのは、たった今手札に加えた《幻殻竜》だ」

「手札交換によって情報アドバンテージの損失を回避したか。抜け目がないな」

 

 カード・アドバンテージに比べて軽視されがちだが、決闘者にとって情報とは重要な要素の1つであり、レベルが上がるに連れて重要性は増していく。相手に手札を悟らせず、逆に相手の手を読むことでゲームを優位に進めることができるのだ。

 パラドックスが使用した《闇の誘惑》も、デッキ圧縮だけではなく『手札1枚は確定』という情報を打ち消す意味を併せ持つ。

 

「更に私は、チューナーモンスター《カメンレオン》を通常召喚! このモンスターが召喚に成功した時、墓地より『守備力0』の通常モンスターを守備表示で復活させる。現れよ、《幻殻竜》!」

 

 《カメンレオン》(チューナー)

 ☆4 地属性 爬虫類族 ATK1600

 

 《幻殻竜》

 ☆4 闇属性 幻竜族 DEF 0

 

 仮面を被ったカメレオンという洒落た名前のモンスターが出現すると同時、細く長い舌を用いてウミウシのような竜を引っ張り上げた。

 

「合計レベル8、来るか……!」

「我が「Sin(シン)」モンスターと戦う前に、まずはこいつの相手をして貰おう。私は、レベル4の闇属性モンスター《幻殻竜》に、レベル4のチューナーモンスター《カメンレオン》をチューニング!」

 

 奇怪な形状をした生命体が4つの球体へと変わり、同じく4つの光輪に包まれる。やがて光の道が駆け抜ける時、新たなモンスターが誕生する。

 

「漆黒の霧を纏いし竜よ、彼の者を闇へと誘え! シンクロ召喚!」

 

 

 

 ――現れよ、レベル8! 《ダークエンド・ドラゴン》!

 

 

 

 《ダークエンド・ドラゴン》

 ☆8 闇属性 ドラゴン族 AYK2600

 

 鋭利な爪と巨大な角に加えて、腹部にもう1つの顔を持つ黒き竜。攻撃力はレベル8のシンクロモンスターとしては低めだが、名前と邪悪な外見から、強力な効果を秘めていることを感じさせる。

 

「《ダークエンド・ドラゴン》のモンスター効果発動! 自身の攻撃力・守備力を500ポイント下げることで、相手モンスター1体を『墓地へ送る』! 対象は当然《チョコ・マジシャン・ガール》!

 出てきて早速だが、消えるがいい。チャラチャラした少女よ!」

 

 

 

 ――ダーク・イヴァポレイションッ!!

 

 

 

 《ダークエンド・ドラゴン》

 ATK2600 → ATK2100

 DEF2100 → DEF1600

 

 腹部の口から放たれた黒き炎が魔法少女へと殺到する。

 なるほど、通常の戦闘で倒せないのならばカード効果で対処しようと考えるのは当然の帰結。

 

「そうはさせない! 俺のフィールドに魔法使い族モンスターが存在することで、速攻魔法《ディメンション・マジック》を発動!

 《チョコ・マジシャン・ガール》を生け贄に捧げ、手札から新たな魔法使い族を特殊召喚する!」

「……ッ。伏せていたのは《ディメンション・マジック》だったか」

 

 読めていた、と言わんばかりにアテムは1枚の魔法カードをチェーン発動する。パラドックスが眉を僅かに動かすと同時、魔法少女の背後に巨大な棺が出現した。

 

「さっすがデュエルだけなら天才的なアテムせんぱい! 除去を回避するだけじゃなくって、手札から新しい魔法使い族を特殊召喚した後は、相手モンスターを『対象を取らずに』破壊できる完璧な戦術だにゃー!」

 

 褒めているのか貶しているのかわからない凛の評価。このリリース・エスケープが成功すれば戦況は一気にアテムへと傾くであろう。

 しかし、絵里は彼女の発言に対して素直に同意できずにいた。

 

(おかしいわね。1度アテムくんと戦ったのであれば、『戦闘で駄目ならカード効果で』という単純な代替策は容易に覆されることはわかっていたはず。

 パラドックスさんはいったい何を考えて――)

 

 

 

 ――私は、更にチェーンして速攻魔法《禁じられた聖槍》を発動!

 

 

 

「何ッ!?」

 

 果たして絵里の不安は的中した。魔法少女の影に縫い付けられた、聖なる槍によって。

 

「キミのフィールドに《ディメンション・マジック》または《黒魔族復活の棺》が伏せられていることは読めていた。さて、《禁じられた聖槍》のように汎用性の高い強力なカードの効果をキミが把握していないとは言わせん」

「わかっているさ。対象モンスターは攻撃力が800ポイント下がり、魔法・罠の『効果』を受けなくなる……!」

 

 アテムは拳を強く握り締め、苦悶の表情を浮かべる。もうこれ以上何も出来ることはなく、魔法少女は『イヴァポレイション』の名の通り、一瞬で身を蒸発させた。

 

「あ、あれ? どうして《チョコ・マジシャン・ガール》が墓地に送られちゃったの? 《禁じられた聖槍》は魔法・罠カードの『効果』を受けなくさせるんだから、《ディメンション・マジック》の『コスト』でリリースできるんじゃ……」

 

 まさかのリリース・エスケープ失敗に、穂乃果は困惑する。効果を受けないモンスターもカード効果の発動コスト、すなわちリリースすることができることはしっかりと覚えた。そのため、なぜリリースが封じられたのか疑問に思わずにいられなかった。

 

「ああ、それは――」

「それは《ディメンション・マジック》のリリースが『コスト』じゃなくて『効果』によるものだからよ」

 

 上級生に対して、いつものように解説をしようとした真姫。しかし、同時に口を開いた少女がいた。彼女と同じ赤毛の少女、優香である。

 

「《ディメンション・マジック》は、魔法使い族モンスターがフィールドと手札に1体ずつ存在することを発動条件にしているわ。でも、次に行なうのは自分フィールド上のモンスターを対象にするだけ。この段階ではまだリリースは行われない。もうわかるわよね?」

 

 この時アテムのフィールドに存在したモンスターは《チョコ・マジシャン・ガール》1体のみであったため、選択の余地はない。

 

「そっか! パラドックスさんが発動した《禁じられた聖槍》で《チョコ・マジシャン・ガール》は『効果』を受けなくなったから、リリースができなくなったんだね!」

「ええ、正解よ」

 

 穂乃果はまた1つ勉強になった、と目を輝かせている。

 

(神城さん、ちょっと変な娘で真姫ちゃんみたいに気が強いけど、とっても優しい女の子なのかもしれないなぁ)

 

 そんな評価を受けているとはいざ知らず、一方の優香はと言えば。

 

「流石は優香、よく勉強しておるな。近う寄れ、頭を撫でてやろう」

「はふぅ~。ルイしゃま~♪」

 

 主に頭を優しく撫でられ御満悦。しかも口元から涎まで垂らし、身体を震わせている始末。一部を除いて自分と似ている他校の上級生に解説を横取りされた真姫は、『こ、こんな変態に……!』と不満気に呟いていた。

 

「私はキミの用いるカード・戦術を徹底的に分析してきた。つまりキミのデッキはガラスケース同然。勝利という名の景品を掴むことは容易いのだよ!

 バトルだ! やれ、《ダークエンド・ドラゴン》! プレイヤーに直接攻撃(ダイレクトアタック)!!」

 

 

 

 ――ダーク・フォッグッ!!

 

 

 

 今度は、本来の口から漆黒の霧がアテムへと放たれた。たとえ自身の効果で攻撃力が下がっていても、ライフポイントの半分を削る2100ポイントという数値で直接攻撃を受ければひとたまりもない。

 アテムの戦術を読み取るパラドックスの手腕に、海未は心中で戦慄する。だが――

 

(いいえ、まだです。アテムさんがこれくらいで倒れるはずがありません。いくら戦術を読み切ったつもりでも、あの人のデッキを読み切ることなど絶対に出来ないのですから……!)

 

 1つの防御で足りないのなら、2つめの防御策を。駄目なら3つめの手を。彼はいつだってそうしてきた。

 たとえ相手がどれほどの強さを持っていても簡単には屈しない。それが、アテムという決闘者だ。

 

「この瞬間、罠カード《カウンター・ゲート》を発動! 相手モンスターの直接攻撃を無効にする!」

「何だとッ!?」

 

 アテムの眼前に出現した2つの扉のうち1つが、漆黒の霧を飲み込んでいく。そしてこれは『カウンター』、ただ守るだけでは終わらない。

 

「《カウンター・ゲート》の更なる効果! カードを1枚ドローし、それがモンスターカードであれば攻撃表示で通常召喚できる!」

「くっ。これは……!」

 

 パラドックスにとって理想的な結果は、召喚に手間がかかる上級モンスターまたは特殊召喚モンスターを引き当てること。

 しかし本人が語ったように、彼はアテムの戦術を徹底的に分析してきた。だからこそ『常に最善のカードをドローする力』も十二分に把握している。

 

「さぁ行くぜ! 俺がドローしたカードは、レベル3モンスター《電磁石の戦士(エレクトロマグネット・ウォリアー)γ(ガンマ)》! よって、こいつを通常召喚する!」

 

 《電磁石の戦士γ》

 ☆3 地属性 岩石族 ATK800

 

 ピンチの後にチャンスあり。開かれたもう1つの扉から現れたのは、微弱な電気を放出する寸胴体型の磁石兵。攻撃力は非常に低いが、変形合体能力を持つモンスターの1体である。

 

「まだだ! γ(ガンマ)が召喚・特殊召喚に成功したことで、手札から新たな「マグネット・ウォリアー」を特殊召喚する! 来い、《電磁石の戦士β(ベータ)》!」

 

 《電磁石の戦士β》

 ☆3 地属性 岩石族 ATK1500

 

 γに引き寄せられるようにフィールドに降り立つ新たな磁石兵。電気を放出する点は同じだが、こちらの体型はやや細く、装甲の色も薄緑ではなく赤銅色だ。

 

「そしてβ(ベータ)が召喚・特殊召喚に成功したことにより、効果発動! デッキから3体目のレベル3「マグネット・ウォリアー」、《電磁石の戦士α(アルファ)》を手札に加える!」

「そのモンスターは確か、召喚・特殊召喚に成功した場合にレベル8の「磁石(じしゃく)戦士(せんし)」を手札に加える能力を持っていたな。

 流石はキング・オブ・デュエリスト、恐ろしいまでの引きの強さだ」

 

 賞賛の言葉を述べたのは、パラドックスだけではない。見ている少女たちも、『魔法使い族』主体のデッキと思いきや『岩石族』が出てきた意外性に改めて驚き、ダメージ回避と強力モンスターを呼び出す準備を同時に実行した幸運と手腕に沸き立った。

 

「パラドックス、貴様は俺のデッキを『ガラスケース同然』だと言っていたな。だが、たとえ中身が見えていたとしても、景品を掴み取れなければ全くの無意味だということを教えてやるぜ!」

「ふっ、面白い。キミがガラスケースの中身を隠蔽する戦術を繰り出すのならば、私は上から叩き潰すまで。

 伏せ(リバース)カードを2枚セットしてターンエンド!」

 

 この2ターンはあくまで前哨戦。彼等の本当の勝負はここから始まる。

 対戦相手の心を見定めるため、初めて出会った謎の2人組に恥ずべき姿を見せないため、そして見守ってくれる仲間の期待に応えるため。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 新たな(カード)を、デュエルディスクから引き抜いた。

 

 

 

●次回予告という名のネタバレ

 

 

 

 パラドックスが召喚したシンクロモンスターの直接攻撃(ダイレクトアタック)を躱して、なんとかピンチを切り抜けたアテム。だけど、高すぎる攻撃力を持つモンスターを次々と呼び出す戦術に大苦戦!

 頑張って、アテム! チャンスは必ず来る! こっちもパワーで対抗よ!

 

 次回、『罪深き世界』

 

 デュエルスタンバイ!

 




 18歳未満は購入してはいけないゲーム「中の人などいない!」のキャラを参加させていますが、彼女たちとアテムが戦うことはありません。
 戦う機会を作るとしても、それは「ラブライブ!」のキャラたちです。リアルファイトした方が強い連中とデュエルするスクールアイドルってなんやねん。

 宇宙人(ルイ)、未来人(未来組)、異世界人(遊戯王勢)、超能力者(メイデン)が集う街、秋葉原。何この魔窟。どこぞの女子高生が喜びそう。

 それでは、次回もよろしくお願いします。

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