ラブライブ!DM   作:レモンジュース

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 前回の投稿から1ヶ月を過ぎる寸前でようやく投稿。皆様お待たせしました。
 容赦無い攻撃を幾度と無く繰り出してきた亜里沙との激闘も、ついにクライマックス。
 約半年の長い休暇を貰っていたお師匠様が、久しぶりに大活躍です。

 それでは、どうぞ!



龍を撃て! 《ブラック・マジシャン》反撃

●反撃の黒魔術師

 

 

 

「《ブラック・マジシャン》の特殊召喚に成功したことで、永続魔法《黒の魔導陣》の更なる効果発動!」

 

 幕の中から黒魔術師が出現すると同時、真円が淡く発光する。まるで、何らかの力を蓄えるかのように。水晶の龍を相手に単純な攻撃力(ステータス)では敵わずとも、彼にはそれを補って余りある『技』がある。

 

「俺のフィールドに《ブラック・マジシャン》が現れた場合、相手フィールドに存在するカード1枚を対象として、除外することができる。

 選択するカードは、当然《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》!」

「魔法による除去……!」

 

 やがて黒魔術師が杖を振り下ろすと、力を充填した真円から漆黒の奔流が放たれる。これはモンスターの攻撃でもなければ効果でもない。つまり、龍の力が及ぶことはない。

 巨大な爆発が、フィールド全体を包み込んだ。

 

(よし、クリスタルウィングは攻略した。あとは《ブラック・マジシャン》の直接攻撃(ダイレクトアタック)で……)

 

 亜里沙に残されたライフポイントは1050。黒魔術師の攻撃を行なうだけで勝負は決する。だが――

 

「凄い、ですね。確かに亜里沙のクリスタルウィングは、魔法・罠への耐性を持たないという弱点があります。

 しかし、対策は既に済ませてありますっ!」

 

 

 

 ――亜里沙以外には何もないと思われた場所には、未だ水晶の龍は顕在しており、更に1枚のカードが発動されていた。

 

 

 

「アテムさんが永続魔法の効果を発動させた瞬間、亜里沙は罠カード《ポールポジション》を発動させていました」

「《ポールポジション》だと!? その永続罠は、互いのフィールド上で最も攻撃力の高いモンスターが魔法効果を受けなくなるカード!」

 

 驚愕するアテムの問いに、『その通りです』と亜里沙は答える。現在この場に存在するモンスターのうち、水晶の龍が持つ攻撃力3000ポイントが最大値。

 これによって永続罠の効果が、発動した《黒の魔導陣》の効果を打ち消したのだ。

 

「くっ……。まさかとは思ったが、クリスタルウィングを守る手段まで用意していたとはな。

 俺は伏せ(リバース)カードを1枚セットして、ターン終了だ」

 

 ターンの終了を宣言しつつ、アテムは改めて亜里沙の実力を上方修正していた。彼女が発動した永続罠《ポールポジション》は、強力な効果を持つものの『高度な知識とプレイングを要求するカード』として有名だったからだ。

 このカードは使用者の切り札となるモンスターを守護する強力なカードである反面、互いのプレイヤーに効果が及ぶ性質上、使い方を誤れば相手を助けてしまう恐れもある諸刃の剣。余程自らの実力に自身がある決闘者でなければ、使用者の首を絞めかねないカードを採用することを避けるはずだ。

 また、《ポールポジション》の効果は一見シンプルに思えるが、非常に複雑な効果処理が行われ、旧式のデュエルディスクでは適切な効果処理がされないこともあると言われるカード。

 それを躊躇いなく採用する彼女は、間違いなく高い実力を有しているに他ならない。

 

「亜里沙のターン、ドロー! ……このままバトルです! 《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》で、《ブラック・マジシャン》を攻撃します!」

 

 引き当てたカードを確認すると、少女は即座に水晶の龍へと攻撃命令を下す。

 ライフポイントは風前の灯、最上級黒魔術師が攻撃表示のままとはいえ、伏せ(リバース)カードが1枚残されているという状況。

 『何らかの罠があるのでは?』と少しでも攻撃を躊躇するのが普通かもしれないが、彼女はそれをしなかった。

 

「この局面で迷いの無い攻撃……、亜里沙さんの胆力はかなりのものですね」

 

 亜里沙の攻撃宣言に対して、アテムは伏せ(リバース)カードを発動する素振りを見せなかった。ならば、あれは《聖なるバリア -ミラーフォース-》や《魔法の筒(マジック・シリンダー)》を代表とする攻撃反応型の罠カードではない。

 

「これで終わりです、アテムさん! 烈風の――」

「そうはさせない! ダメージステップに入る前に、俺は伏せていたカードを発動する!」

 

 『攻撃宣言時』でも『ダメージステップ』でもないタイミングでの発動宣言。

 《ポールポジション》によって、水晶の龍への魔法効果は無効となるのだから、まず間違いなく罠カード。

 

「俺が発動するカード、それは――」

 

 

 

 

 

 ――罠カード《あまのじゃくの呪い》!!

 

 

 

 

 

「あ、《あまのじゃくの呪い》!?」

 

 『あまのじゃく』とは、物事に対して逆の言動をする人のことを言う。戦闘中に発動され、物事を逆にするというのであれば、何に対してかは語るまでもないだろう。

 

「こいつは発動したターンの終わりまで、攻撃力・守備力のアップ・ダウンを逆にする罠カード。キミの切り札《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》は、レベル5以上のモンスターとバトルする時、そのモンスターの攻撃力を『強制的に』自らの攻撃力へと加算する効果を持つ。

 しかし《あまのじゃくの呪い》の効果が適用されることで、それは攻撃力を下げる効果へと書き換えられる!」

 

 黒魔術師の攻撃力は2500ポイント。本来ならばその数値が加算され水晶の龍は攻撃力5500の超強力モンスターへと姿を変える。だが逆に作用してしまえば、自らを弱体化させた挙句攻撃力500の弱小モンスターへと変わってしまう。

 対モンスター戦において無敵に近い龍。それを倒すために魔法・罠を駆使するというのが一般的だが、その力を利用しようなどと誰が予想できるだろうか。

 

「強大な力を誇る龍の力、利用させて貰う! これで――」

 

 

 

 

 

 ――まだです! 亜里沙は速攻魔法《神秘の中華なべ》を発動っ!

 

 

 

 

 

「クリスタルウィングをリリースして、フィールド上での攻撃力分だけ亜里沙のライフを回復しますっ!」

「何だとッ!?」

 

亜里沙 LP1050 → LP4050

 

 『黒魔術師の反撃によって勝負は決する』と確信したはずが、それは叶わなかった。呪いがかかる直前、チェーン発動された『速攻魔法』によって、水晶の龍は場から姿を消したからだ。

 

「……危なかったです。《あまのじゃくの呪い》は、攻撃力・守備力に直接作用する効果ではないため、ダメージステップに発動することができません。おかげで助かりました」

 

 《ポールポジション》が発動されている今は一見不可能な行為に思えるだろう。

 アテムも一瞬疑問符を浮かべたが――

 

「なるほど、《神秘の中華なべ》によってモンスターを生け贄とするのは『効果』ではなく『コスト』によるもの。

 これなら《ポールポジション》が適用中でも最大攻撃力のモンスターを逃がすことが可能というわけか」

「はい。いざという時の保険でしたが、まさかこのタイミングで使うことになるとは思いませんでした。

 亜里沙はこれで、ターンエンドですっ!」

 

 『サクリファイス・エスケープ』と言われる戦術。それを実践した亜里沙の恐るべき強運。

 ライフポイントはほぼ初期値に戻されてしまったが、これで亜里沙の場から水晶の龍は消え去った。あとは次のターンで攻撃力1550ポイント以上のモンスターを引き当てればアテムの勝利は確定する。

 だが、それが叶うことはない。

 

「俺のターン、ドロー! このままバトルフェイズへと移り、《ブラック・マジシャン》で亜里沙に直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

 

 

 

 ――黒・魔・導(ブラック・マジック)!!

 

 

 

「きゃっ……!」

 

亜里沙 LP4050 → LP1550

 

 アテムは引き当てたカードを確認することもせずに黒魔術師へと攻撃命令を下し、亜里沙へと戦闘ダメージを与えた。

 もっとも、それも当然のこと。彼は直前のターンで発動した《黒の魔導陣》の効果により、デッキの上に存在する2枚のカードを認知しているのだから。

 

「いたた……。やっぱり最上級モンスターの直接攻撃(ダイレクトアタック)は強烈ですね」

 

 攻撃を受けた少女も多少はよろけたが、尻餅をつくことはない。最上級魔術師が放つ一撃を直接受けて尚倒れないとは、並の鍛え方をしていないということか。

 

「俺はメインフェイズ2へ移行し、魔法カード《馬の骨の対価》を発動するぜ。

 こいつは自分フィールド上に存在する効果を持たないモンスター1体を墓地に送ることで、新たに2枚のカードをドローするカード。よって、通常モンスター《ブラック・マジシャン》を『コスト』として墓地に送り、カードをドローさせて貰う」

 

 黒魔術師の魂と引き替えに、2枚の新たなカードへ。これもまた『効果』ではなく『コスト』によるものであり、《ポールポジション》の効果の適用外である。

 

「最後にモンスターを裏守備表示で召喚して、ターン終了だ」

 

 エースモンスターを手放してまでカードを引き、伏せられたモンスター。そして1枚の手札。

 『攻撃できるものならしてみるといい』と言わんばかりの布陣であり、何らかの罠が仕掛けられているのは誰が見ても明らか。

 絵里は不安げな表情で妹を見つめるが、当の本人が浮かべる表情は全くの反対であった。

 

「亜里沙のターン、ドローっ!」

 

 どのようにして突破するか、楽しみで仕方がない。直接言葉にせずとも、声音だけでそう語っているかのようではないか。

 

「魔法カード《マジック・プランター》を発動っ! 自分フィールド上に表側表示で存在する永続罠を1枚墓地に送ることで、2枚のカードをドローします。

 亜里沙がコストにするカードは、もちろん《ポールポジション》ですっ!」

 

 《ポールポジション》が小さな爆発を起こすと同時、亜里沙の手に2枚のカードが握られる。その様子を見つつ、アテムは小さく息を吐いた。

 

「ここで《マジック・プランター》を引き当ててきたか、いい引きをしているな。《ポールポジション》がフィールドから離れた瞬間、互いのフィールドに表側表示で存在する最も攻撃力の高いモンスターは『チェーンブロックを作らず即座に』破壊される」

「はい。そのため『コスト』として《ポールポジション》が墓地に送られた際に発生する破壊効果は、永続的な破壊耐性を持つモンスターでなければ防げません」

「だが、今俺たちのフィールド上には表側表示のモンスターはいない。どうやら俺の選択は間違っていなかったようだな」

 

 彼の言う選択とは、《黒の魔導陣》を発動した際にデッキトップのカードを操作したことだろう。仮に《馬の骨の対価》ともう1枚のカードの順序が逆であったならば、黒魔術師は為す術もなく撃破されていた。

 

「相変わらずアテムさんの勘は鋭いですね。今のコンボは《ポールポジション》の効果で破壊された後に《マジック・プランター》によるドロー処理が行われるため、『破壊された時の任意効果』も発動させない強力なもの。

 あとは亜里沙さんが引いた2枚の中に逆転のカードがあるかどうかですが……」

 

 間違いなく彼女はアテムの罠を打破するカードを引き当てているに違いない。

 一進一退の攻防を繰り広げる2人が、この期に及んで不要なカードを引くことなど、あるはずがないのだから。

 

「行きますよっ! 手札から魔法カード《ミラクルシンクロフュージョン》を発動!

 フィールド・墓地からモンスターを除外して、シンクロモンスターを素材とした融合モンスターを呼び出します!

 亜里沙が素材とするモンスターは、ドラゴン族シンクロモンスター《氷結界の龍 トリシューラ》と、戦士族モンスター《チューン・ウォリアー》です!」

「ここで融合魔法を引き当てただと!?」

 

 モンスター同士の結束により、強力なモンスターを生み出す融合召喚。

 しかも、ただでさえ強力なシンクロモンスターを素材とするということは、凄まじい力を秘めたモンスターが現れるに違いない。

 

「封印されし古の龍よ! 電波を操る戦士よ! 神秘の渦で1つとなりて、更なる力へと昇華せよ! 融合召喚っ!!」

 

 

 

 

 

 ――現れよ、レベル10! 《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!!

 

 

 

 

 

 《波動竜騎士ドラゴエクィテス》

 ☆10 風属性 ドラゴン族 ATK3200

 

 蒼き鎧と双翼、長大かつ鋭利な尾。更に、身の丈を遥かに超える巨大な剛槍。獰猛かつ美しきその姿は、水晶の龍に勝るとも劣らない。

 

「このモンスターこそ、亜里沙のもう1つの切り札です。

 ドラゴエクィテスの効果発動! 1ターンに1度、墓地からドラゴン族シンクロモンスターを除外して、その名前と効果を得ます!」

「墓地のシンクロモンスターをコピーするだと!? まさか……!」

 

 今、亜里沙の墓地に眠るドラゴン族シンクロモンスターは2体。しかし、この状況で選ぶカードと言えば、1体しかいない。

 

「そのまさかです! 亜里沙は墓地から《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》を除外して、その能力をターンの終わりまで自分のものとします!」

 

 水晶の龍の加護を受けた波動竜騎士が、天空へと飛翔しつつ剛槍を持つ右腕を振りかぶる。狙いは当然、正体不明のモンスター。

 

「バトルフェイズ! ドラゴエクィテスで、裏守備モンスターを攻撃っ!」

 

 

 

 ――スパイラル・ジャベリン!!

 

 

 

 その質量からは想像もできない迅速の槍が放たれ、嵐を巻き起こしながらカードを貫いた。隠されていた者、それは杖を携えし邪悪な老婆。

 

 《執念深き老魔術師》

 ☆2 闇属性 魔法使い族 DEF600

 

「くっ……! 表側表示になったことで、伏せていた《執念深き老魔術師》のリバース効果である『相手フィールド上のモンスター1体を対象として破壊する効果』が発動する、が……!」

 

 見た目に違わず、純粋な戦闘では弱小であることは確かな老婆だが、その執念はあまりにも深い。自らを葬らんとする竜騎士を呪い殺さんと呪詛を呟き始める。

 

「ですがこの瞬間、クリスタルウィングの効果を得たドラゴエクィテスの効果発動! モンスター効果の発動を無効にして、破壊します!」

 

 

 

 ――ダイクロイックミラー!!

 

 

 

 しかし老婆が呪詛を唱えるよりも速く、波動竜騎士の左腕が光を放ち、老婆を跡形も無く消滅させてしまった。

 

「くっ……!」

「この時、破壊したモンスターの攻撃力を自らの攻撃力に加えますが、今はあまり意味がありませんね。

 それにしても、伏せていたモンスターは《執念深き老魔術師》だったんですね。何かあるとはわかっていましたが、少しだけビックリしちゃいました」

 

 そう。アテムが《黒の魔導陣》の効果によって確認していたカードのうち、最後の1枚は《執念深き老魔術師》であった。

 相手モンスターを破壊する特殊能力は確かに強力であり、成功すれば優位に立つことができる。だからこそ戦術を明かす危険性(リスク)を冒してまで黒魔術師をフィールドから離したのだ。

 仮に攻撃を控えてくるのならば、僅かでも時間を稼げる。攻撃を仕掛けられても、攻撃モンスターまたは後続のモンスターを破壊できる。

 

「ふっ。それをいとも簡単に突破するキミも流石だぜ、亜里沙」

「ありがとうございます、アテムさん。亜里沙はバトルフェイズを終え、メインフェイズ2へ移行します。伏せ(リバース)カードを1枚伏せて、ターン終了です。

 そして、同時にドラゴエクィテスのコピー効果も終了します」

 

 それでも強力な効果を持った老婆が、その場しのぎにしかならないとは流石に予想外だった。また、亜里沙のフィールドには強力な融合モンスターと1枚の伏せ(リバース)カード。

 

(このままではドラゴエクィテスを倒すことは困難。かといって、これ以上守勢に回ったところで、もう意味は無いだろう)

 

 未だデッキに眠る防御の要、《聖なるバリア -ミラーフォース-》や《光の護封剣》ならばあるいは……。そのような考えが頭を過るが、彼の決闘者としての勘が否定する。

 今更姑息な防御手段を用いたところで、彼女が繰り出す攻撃を止めることなど不可能なはずだと、彼の勘が告げていた。

 

(ならば間違いなく、これが俺に残されたラストターン!)

 

 目の前に立つ少女は、自らとのデュエルを所望していた。今も『どのような手を繰り出してくるのか』と、瞳を強く輝かせている。

 仮にも決闘王(デュエルキング)の称号を持つ決闘者として、その期待を裏切るような真似は決して許されない。

 

「さぁ、最後の決戦だ! 俺のターン、ドローッ!!」

 

 カードを引き抜く一挙手一投足に、誰もが目を奪われる。彼に対して嫌悪感を抱いていた絵里でさえも。

 ここで引き当てるカードは、決戦の火蓋を切るための1ピース。

 

「来たぜ! 俺は手札から、魔法カード《シャッフル・リボーン》を発動!

 自分フィールドにモンスターが存在しない時、俺の墓地に眠るモンスター1体を、効果を無効にして特殊召喚する!

 対象モンスターは、当然《ブラック・マジシャン》!!」

 

 反応は2つに分かれた。

 亜里沙と海未は、『やはり』という予想通りといった表情に。

 絵里は、『信じられない』と言わんばかりの表情だ。

 

 未だ顕在の真円に刻まれた金色の紋様が、淡く発光する。内より黒魔術師が復活し、漆黒の奔流が放たれれば、今度こそ間違いなく彼の勝利は確定するだろう。だが――

 

「この瞬間、アテムさんの《シャッフル・リボーン》にチェーンして、亜里沙は速攻魔法《禁じられた聖衣》を発動します!」

「何ッ!?」

 

 波動竜騎士の蒼き鎧の上から、純白の衣が覆われた。禁じられし聖なる力は、加護を受けし者に力を与える。

 

「このカードの対象となったドラゴエクィテスの攻撃力はターンの終わりまで600ポイント下がる代わりに、カード効果によって破壊されなくなり、カード効果の対象に取ることもできなくなります!」

 

 《波動竜騎士ドラゴエクィテス》

 ATK3200 → ATK2600

 

「《黒の魔導陣》の除外効果は、《ブラック・マジシャン》を呼び出した後に相手フィールド上のカードを『対象に取る』効果……!」

「その効果は確かに強力ですが、このタイミングで発動すればドラゴエクィテスを対象に取ることは不可能となり、不発に終わります!」

 

 やはりと言うべきか、亜里沙が伏せていたカードは自身の切り札を守るカード。初めて見るカードの特性を即座に把握し、カードの発動タイミングも適切。

 アテムと黒魔術師が繰り出す『技』に対してここまで対応できる決闘者は、彼の記憶の中でも片手で数えられる程度しかいない。

 

「だが、《シャッフル・リボーン》の効果は無効になっていない! 再び現れよ、《ブラック・マジシャン》!」

 

 《ブラック・マジシャン》

 ☆7 闇属性 魔法使い族 ATK2500

 

 聖なる衣を纏った波動竜騎士に対峙する、誇り高き黒魔術師。しかし攻撃力は僅かに及ばない。

 たった100ポイント、されど100ポイント。その差はあまりにも高く、遠い。

 

「残念だったわね、園田さん。《シャッフル・リボーン》で特殊召喚したモンスターは、エンドフェイズにゲームから除外される。

 彼に残された最後の手札も、未だに使う様子は見られない。つまり、この状況では役に立たないカード。

 亜里沙を相手に随分と粘っていたけど、これで終わりよ」

 

 もうこれ以上、付き合う理由は無い。早く帰宅して期末試験と廃校阻止に向けて取り組まなければ。絵里は嘆息しつつ、亜里沙の元へ歩み寄ろうと――

 

「まだですよ、生徒会長」

「……何ですって?」

 

 海未が放つ一言で、絵里は動きを止める。いや、『止められた』と述べた方が適切だろうか。彼女の声音は、まるで呪いのような力を秘めていた。

 

「アテムさんはまだ、勝負を諦めていません。彼にはまだ、最後のドローがあります」

「ッ! まさか……!」

 

 亜里沙のカウンターによって、思わず失念してしまっていた。《シャッフル・リボーン》には、もう1つの効果があることに。

 

「俺は墓地から《シャッフル・リボーン》を除外して、《黒の魔導陣》を対象として効果発動! 対象のカードをデッキに戻してシャッフルし、新たに1枚のカードをドローする!!」

 

 黒魔術師の背後に控える真円が消滅し、デッキの中へと舞い戻る。アテムはオートシャッフル機能によって切り直されたことを確かめ、デッキへと手をかざす。

 次に引くカードこそ、正真正銘最後のカード。

 

「アテムさんは常日頃から口にしていました。

 ライフポイントが僅かでも残されている限り、目の前に存在するデッキに眠る見えない可能性を信じてカードを引くことのできる決闘者が、最後に勝利を掴めるのだと」

「見えない可能性を、信じる……」

 

 本当に、この状況から勝てるとでも言うのか。《禁じられた聖衣》の効果を受けた波動竜騎士をカード効果で倒すことはまず不可能。

 仮に攻撃力を上昇させるカードを引き当てたところで、亜里沙の残りライフ1550ポイントを削り切るのは難しい。

 

(でも、彼は《ブラック・マジシャン》という未知のカードを所持している。まさか、《黒の魔導陣》のような強力なサポートカードが……?)

 

 絵里は気付かない。妹の勝利を確信する中で、

 

 ――もしかしたら、彼は一発逆転のカードを引き当てられるのではないか。

 

 そのような可能性が、1%でもあるのではないかと考えてしまっていることに。

 

 

 

『…………』

 

 

 

 5秒程度の静寂。これからカードを引く者でなくとも、恐怖を感じる重圧(プレッシャー)が3人に襲い掛かる。

 誰か、もしくは全員が息を呑む音が微かに響いた瞬間、

 

「俺は魔法カード――」

 

 その決闘者はカードを見ないまま、

 

 

 

 ――《融合》を発動ッ!!

 

 

 

 デュエルディスクへと挿入した。

 

「えぇっ!? カードを見ていないのに!?」

「しかも、《融合》を!?」

 

 姉妹の目が大きく見開かれ驚愕を露わにするが、無理もない。海未ですら最初に見た時は不正を疑ったのだから。

 

(アテムさんだからこそできる芸当なのでしょうが、心臓に悪いのでやめてくれないでしょうか……)

 

 発動を宣言した魔法カードは『ERROR』と表示することなく、効果処理へと移行する。つまり、残された最後の手札1枚は、正規の融合素材であることを証明していた。

 

「アテムさんのフィールドに存在する《ブラック・マジシャン》は通常モンスター……。もしかして、《始祖竜ワイアーム》を!?」

 

 亜里沙が知る限り、融合召喚可能なモンスターは2体の『通常モンスター』を要求する《始祖竜ワイアーム》のみ。召喚されてしまえば、厄介なことになるだろう。

 通常モンスター以外との戦闘では破壊されず、モンスター効果を受け付けない『永続効果』を持つ竜は、彼女の墓地に眠る《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》が苦手とするモンスターの1体なのだから。

 

「いいや、違うぜ亜里沙。これから呼び出すモンスターは《始祖竜ワイアーム》ではなく、このデュエルの幕を下ろすカード!」

 

 アテムの言葉を裏付けるように、黒魔術師の隣に新たなモンスターが並び立つ。それは、亜里沙が予測した『通常モンスター』ではない。

 

「《ブラック・マジシャン》と融合させるモンスター、それは竜を討つ剣士、《バスター・ブレイダー》!」

「なっ……!? 《バスター・ブレイダー(竜破壊の剣士)》と《ブラック・マジシャン(黒き魔術師)》の融合!?」

 

 《バスター・ブレイダー》と言えば、対ドラゴン族においてほぼ無敵の強さを誇るカード。それを素材とするモンスターなど、亜里沙は見たことも聞いたこともなかった。

 

「見せてやる、これが《ブラック・マジシャン》が持つ可能性の1つだ!

 全ての魔術を極めし黒魔術師よ! 破壊剣士の力を受け継ぎ、新たなる力を得よ! 融合召喚!!」

 

 

 

 

 

 ――現れろ、レベル8! 《超魔導剣士-ブラック・パラディン》!!

 

 

 

 

 

 《超魔導剣士-ブラック・パラディン》

 ☆8 闇属性 魔法使い族 ATK2900

 

 黒魔術師が纏う紫色の衣装は、闇夜よりも深い漆黒に。手にしていた杖は長大な剣に。なるほど、破壊剣士の力を受け継いだのも頷ける。

 攻撃力は今の波動竜騎士を上回っているが、当然これだけでは終わらない。

 

「ブラック・パラディンの元々の攻撃力は2900! だが、こいつは《バスター・ブレイダー》の能力を受け継ぎ、より高次へと昇華させている!」

「受け継いで、昇華……!?」

 

 破壊剣士は、『相手プレイヤーのフィールド・墓地に存在するドラゴン族モンスター1体につき、攻撃力を500ポイント上昇させる』特殊能力を持つ。

 その能力を昇華させているということは、自ずと答えは見えてくる。

 

「このカード効果が参照するのは、相手だけじゃない。俺の墓地に眠りしドラゴン族モンスターも竜破壊の剣に力を与えるのさ。

 今、俺の墓地には《デビル・ドラゴン》が存在する!」

「亜里沙の墓地には、クリアウィングが。そしてフィールドにはドラゴエクィテス……!」

「合計3体! よって、攻撃力は1500ポイントアップ!」

 

 《超魔導剣士-ブラック・パラディン》

 ATK2900 → ATK4400

 

 3体の竜の魂に呼応するかのように、剣に埋め込まれた宝珠が発光する。魔導剣士がそれを天に掲げると光はより強くなり、剣を包み込むように巨大なエネルギー体が出現した。

 

「攻撃力4400……。亜里沙の、負けですね」

「さぁ行くぜ、亜里沙! 俺はブラック・パラディンで、ドラゴエクィテスを攻撃!」

 

 

 

 ――超・魔・導・無・影・斬!!

 

 

 

 光球から放たれる無数の斬撃は、波動竜騎士が装備する鎧を、衣を、剛槍を次々に切り刻む。剣士と竜騎士、2体の攻撃力の差は1800ポイント。

 

亜里沙 LP1550 → LP 0

 

 勝敗が決しても尚、魔導の剣は沈みかける夕陽を浴びて輝き続けていた。

 

 

 

●露呈

 

 

 

「嘘……。亜里沙が、負けたですって?」

 

 妹の戦術は完璧だったはずだ。手札事故も起こしておらず、モンスターを撃破されたところで即座に反撃し、ライフポイントも残り50ポイントにまで追い詰めた。

 対するアテムは、デッキ構成が初見の絵里でさえバランスの悪いものであるとわかる。デッキ枚数が60枚であったことはもちろんだが、このデュエルで彼が使用したカードには統一性があまり感じられない。常識的に考えて、まともに回転させることはまず不可能なはずだ。

 しかし結果はどうだ。絵里はどうしても目の前の光景を信じることができなかった。

 亜里沙自身も同じ思いなのだろう。ライフポイントが0になり、ソリッド・ヴィジョンが消失したというのに、亜里沙はその場に立ち尽くし――

 

 

 

「ハラショー! 凄いです、アテムさんっ!!」

 

 

 

「え?」

 

 落ち込んでいるかと思いきや、急に大声をあげてアテムへと接近していた。夕陽に勝るとも劣らない程に輝く瞳からは、敗北の悔しさが微塵も感じられない。

 

「それはこっちのセリフだぜ。強力なコンボによる波状攻撃、そして俺の切り札《ブラック・マジシャン》の攻撃を何度も防いだキミには驚かされてばかりだった」

「あ、ありがとうございます! でも、アテムさんはカードを見ないで発動して、あんなに強くてかっこいいモンスターを召喚するなんて、亜里沙感動しちゃいました!」

 

 健闘を称え合う2人の笑顔。それは、絵里の記憶に深く刻み込まれている。

 亜里沙が自らとデュエルする時、仲の良い友人とのデュエルや大会での結果を報告してくる時に見せる表情。

 そして、もう1つ。

 

 

 

「まるで、お姉ちゃんのダンス(・・・)を見ているみたいでしたっ!」

 

 

 

『ッ!』

 

 昔から、何度も映像越しに見てきた自らの表情。

 できるなら口にして欲しくなかったが、もう遅い。海未は大きく目を見開いていた。

 

「生徒会長、亜里沙さんが言ったことは――」

「貴女が知る必要は無いことよ、園田さん。……帰りましょう、亜里沙。早くしないと期末試験の勉強時間がなくなるわ」

 

 天神乱漫で、アテムや海未に気を許してしまっている亜里沙のことだ。これ以上ここにいたら更に余計なことまで話してしまうだろう。

 追求しようとする彼女の言葉を遮り、絵里は踵を返した。試験勉強に取り組まなければならないことも間違ってはいないのだから。

 

「あ、お姉ちゃん!」

 

 亜里沙は慌ててデッキとデュエルディスクを収納すると、早足で歩を進める絵里の元へと駆け出した。そして最後に彼らの方を振り返り、大声で叫んだ。

 

「亜里沙、『μ’s』もアテムさんのことも、大好きです! 今日はデュエルしてくれて、本当にありがとうございました!

 またデュエルしてくださいね! 今度は、海未さんとも戦ってみたいです!」

「ああ、もちろんだ。俺はいつでも受けて立つぜ!」

「私も亜里沙さんとのデュエル、楽しみにしていますね」

 

 彼らと関わる機会など、もう訪れて欲しくはない。しかし実際には避けられないかもしれない。

 遠く離れた地に住んでいるのではないのだから、会おうと思えばいつでも学院に赴くことができるというのが、理由の1つ。

 また、音ノ木坂学院の廃校を阻止することができたならば、来年度はより長く顔を合わせる機会が増えるだろう。

 

(……違う。『できたならば』じゃない。私が、やらなきゃいけないのよ)

 

 大好きな祖母のためにも、音ノ木坂学院への入学に憧れる妹のためにも。生徒会長である自分が戦わなければならない。

 スクールアイドルなどというお遊びで廃校を阻止しようという彼女たちや、奇行を繰り返す彼のことなど、認めるわけにはいかない。

 

(亜里沙、貴女は彼女たちのどこに惹かれているというの……?)

 

「ゴメンねお姉ちゃん、お待たせ。……どうしたの?」

「何でもないわ。それよりも、男性に対して軽々しくあんなことを言ってはダメよ」

「へっ?」

 

 結局、絵里は背後を振り返ることはなかった。

 彼らのことを嫌悪しているからか、それとも、他に理由があるのか。

 

 今はまだ、誰にもわからない。

 

 

 

●決戦前

 

 

「ついに、この日がやって来たね。私たちは皆の想いを背負ってこの決戦の舞台にやってきた。失敗なんて許されない!」

 

 約1週間後の期末試験初日。校門前には数多の戦士が集結していた。

 

「その通りにゃ! 凛だって、海外版カードを使って英語の勉強をいつも以上に頑張ったもん。今回のテストは絶対に――」

「待て、星空! 『絶対に大丈夫』という説明はフラグだ! 俺たち決闘者にとって、過度な自信は足元を救われる原因になるぜ!」

「アテムの言う通りよ、凛。この場合、『多分』とか自信が無さそうなことを言っておいた方が成功確率は上がるのよ。言うなれば、逆転フラグ理論! さぁ、私に続きなさい!

 このままでは赤点!」

 

『応! このままでは赤点!』

 

 慣れない試験勉強を必死に取り組んできた4人にとって、最早周囲を気にする余裕はないのだろう。彼女たちの近くを通過する生徒たちは例外なく耳を塞いでいるのだが、気付く様子はない。

 

「あの、ことりセンパイ。今更ですが凛ちゃんたちは本当に赤点を回避できるのでしょうか?」

「う~ん、…………………………多分大丈夫だよっ!」

「異常に長い間を作った上に、毒されないでください! ここは『絶対』って言うべきところですよねぇ!?」

 

 ことりの肩を掴んで必死に訴える花陽は涙目であった。

 

「落ち着きなさいよ、花陽。教える方も教わる方も、死に物狂いで頑張った。今更慌てたところで何も変わらない。そうでしょ、海未先輩」

「ええ。皆を信じましょう」

 

 この1週間は、色々なことがあった。

 例えば――

 

 

 

「ウチは魔法カード《拡散するワシワシ》を発動。さぁ、試験勉強をサボろうとする皆はまとめてオシオキやでぇ~!」

「そうはさせないわよ、希! 罠カード《シフトチェンジ》を発動! ワシワシの効果対象をアテムに変更する!」

「ムダや。ウチがワシワシするのは女の子だけ。よって、にこっちの《シフトチェンジ》は無効になった!」

 

 隙あらばダンスを始めようとする3人に対して、究極奥義・神の揉み手(ゴッド・ワシワシ・ハンド)を持つ生徒会副会長の鉄槌が下されたり。

 他にも――

 

 

 

【次は数学、組み合わせの問題だ。『大小』2つのダイス、及び『全く同じ』2つのダイスを振った時、出る目の組み合わせは何通りかそれぞれ答えよ】

「白パカ、そのダイスが割れた場合はどうなる?」

【貴様は何を言っているんだ】

「アテムくん、普通に答えて」

 

 最も赤点を取る可能性の高いアテムは、意味不明な回答を機関銃の如く連発したり。

 ちなみに正答は、前者が『36通り』で後者が『21通り』である。

 

 

 

 あの長いようで短かった日々を、海未は回想しつつ新たに決意する。

 

(私たちにできることは全てやり尽くしました。あとは試験を受け、結果を待つだけ。いえ、なんとしても赤点を回避してもらわないといけません)

 

 彼女の脳裏によぎるのは、アテムと亜里沙のデュエルが行なわれた日のこと。

 あの後亜里沙が口走った事実を確かめるため、希に追求したところ、海未はとある真実を知ってしまった。

 試験前ということで『μ’s』のメンバーには秘密にしているが、無事赤点を回避した後は伝えなければならない。

 これからの自分たちの未来のために。

 ……今はただ、祈るしかない。

 

 

 

●宣告

 

 

 

 更に数日後。期末試験の全教科の結果が判明する日、『アイドル研究部』の部室内は重苦しい空気に包まれていた。

 今、この場にいる者は『μ’s』メンバーに唐沢と白パカを加えた9人と1匹。なお、彼女たちの視線はその内2人へと集まっている。

 

「穂乃果ちゃん、アテムくん……!」

 

 ことりの声は、『不安で仕方がない』と言わんばかりに震えている。期末試験が終わり数日にかけて答案用紙が返却されてきたが、現段階では1人も赤点を取っていない。

 

「凛はセーフだったよっ! ブイ!」

「アテム、穂乃果。この私が3年になってようやく全教科の赤点を回避したのよ! 私たちの努力を水の泡にするんじゃないでしょうね!?」

 

 危険域に入っていた4人のうち、既に凛とにこは全ての教科が返却されており、この通り全教科の赤点を回避している。本来は赤点を取らないことが普通なのだが、それをツッコむ余裕は誰にもなかった。

 

【確か、残るは数学だけだったな】

 

 この最後の2枚で、全員の未来が決定する。

 人口密度が高すぎて、ただでさえ異常な熱気に包まれている部室の温度はジワリジワリと上昇していく。

 

「もうちょっといい点だったら良かったんだけど……」

「ああ、俺たちはまだまだだったようだ」

 

『なっ……!』

 

 穂乃果とアテムが漏らした不穏な言動に、全員が戦慄する。花陽が泣きそうになったところで、2人はカバンの中から答案用紙を解き放った。

 

「じゃんじゃじゃーん、2人とも53点だったよ!」

「今明かされる、衝撃の同点! これで赤点回避しグハァッ!? やめろ白パカ、蹄痛い! そんなことしちゃいけない!」

【我等を不安にさせた罰だ。避けるな、受け入れよ】

 

 白パカの蹄がアテムを踏みつける音と、アテムの悲鳴。そして残るメンバーが安堵する声が部室に響く。

 何はともあれ、これで全員が無事試験を通過した。長らく休止されていた練習も再開され、理事長との約束通り『ラブライブ』を目指すことが可能となるのだ。

 今はまだ出場できると決まったわけではないが、これは大きな一歩。赤点回避の報告のため、理事長へと駆け出していく全員の笑顔が、その喜びを物語っている。

 

 

 

 ――コンコン

 

 

 

「…………あれ? いないのかな」

 

 理事長室の前まで辿り着くと、先頭に立つ穂乃果は逸る気持ちを抑えきれず、やや強めにノックをしたのだが反応がない。

 

「それはないと思いますよ、穂乃果。『来客中』の札がありませんし」

「あ、ホントだ。とりあえず開けてみよっか」

 

 ドアの横には、現在理事長がどうしているかを表示する掲示があるのだが、今は『在室中』となっている。もしかしたら気付いていないだけかもしれない。

 万が一来客があったとしても、それを伝える旨の掲示がなかったと言えば然程大きな問題にはならないはずだ。

 

「失礼しま~す……」

 

 小声でこっそりとドアを開き、2年生4人が室内を覗き込む。それと同時に、悲痛な叫びが響き渡った。

 

「そんな! どうしてですか理事長! 説明して下さい!!」

 

 瞳に映る声の主は、絵里。穂乃果たちの方からは表情を見ることはできない。しかしその声音と机を強く叩く音から、相当衝撃的なことを伝えられたのだろう。

 

「……ごめんなさい。でも、これは決定事項なの」

 

 絵里と向かい合う理事長が発する、普段の朗らかさを無理矢理抑えこむような固い声。

 

 

 

 

 

 ――音ノ木坂学院は、来年度より生徒募集を辞め、廃校とします。

 

 

 

 

 

『え……?』

 

 舞い上がっていた気持ちは、一瞬にして突き落とされる。その衝撃の一言に、誰もが耳を疑った。

 




 今回のフィニッシャーは、ブラパラとミラージュ・ナイトのどちらにするか悩みましたが、明日放送のARC-Vで《涅槃の超魔導剣士》が出るということで、前者の登場となりました。

 ~亜里沙のデッキについて~
 《大革命》→トリシューラ→クリスタルウィングという必殺級の攻撃を何度も繰り返したり、《復活の福音》や《ポールポジション》で守ったりと、非常に高い実力を持っていた亜里沙でしたが、当初は別のデッキを使う予定でした。それは、


 【決闘龍】


 漫画5D'sでレクス・ゴドウィンが使用した究極竜、《アルティマヤ・ツィオルキン》を主軸としたデッキです。
 本作ではシグナー龍や決闘龍に特別な設定はないということで、場に究極竜・月華竜・妖精竜・機械竜・魔王龍等を並べる布陣も考えていました。
 しかし、実際にこれをやると「もう亜里沙がラスボスでよくね?」的な展開になるので、結局は【大革命シンクロ】に変更することとなりました。これでも充分攻撃的なデッキですが(汗)
 
 さて、お次の対戦相手は絵里。
 亜里沙が相当アテムを追い込んだおかげで、ハードルが非常に高くなっていますが、皆様に楽しんでいただけるデュエルとなるよう精一杯書いていきます。

 それでは、次回もよろしくお願いします。

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