前回の投稿から約1ヶ月、長らくお待たせしました。
今年も「ラブライブ!DM」をよろしくお願いします。
2016年一発目の対戦相手。意外なキャラが意外なデッキで参戦です。
それでは、どうぞ!
●何!? 大化の改新は虫5匹ではないのか!?
「それじゃあ、アテムくんの学力がどの程度か確認させて貰うわ。全教科が苦手だってことはわかってるけど、どれが1番苦手なのかしら?」
「歴史だぜ!」
善は急げということで、勉強会は即座に開始された。唐沢と白パカの担当は4人中最も赤点を危惧されているアテム。普段の行動・言動から不安感を持ってはいたが、彼の残念っぷりは予想を遥かに上回る。
【……アテムよ。自ら
「まぁ、とりあえず何個か問題を出させて貰うわ。律令国家の礎を築いたとされる『大化の改新』、これが行なわれたのは西暦何年?」
「ふっ。それくらい語呂合わせで覚えたから簡単だぜ!」
ここ数年の研究によって変更が成された影響から、この問題は子供よりも大人の方が間違えることが多いかもしれない。
正解を出すか、それとも引っかかるか。1人と1頭が見守る中――。
「『この
「なぜ叫んだ!? しかも間違ってるし!」
微妙に斜め上の回答を繰り出した。
【正解は646年だ。かつては645年とされていたそうだがな】
ちなみに、『大化の改新』そのものが無かったという仮説もあるという。
「つ、次行きましょうか。織田信長が詠んだとされる
鳴かぬなら『~』ホトトギス
この『~』に入る言葉は何かしら」
「『俺から鳴かせて貰うぜ』だぜ!」
「信長が鳴くの!?」
【正解は『殺してしまえ』だ。彼の短気さを表す言葉として有名なのだが……】
信長はホトトギスに対抗心を燃やして何がしたかったのだろうか。
「じゃあ、第2次世界大戦後における日本の豊かさを象徴する3種の神器とは?」
「『デュエルリング』と『デュエルディスク』、そして『Dホイール』だ!」
「確かに豊かだけどデュエルモンスターズ限定!? というか『Dホイール』って何!?」
【デュエルを行なう機能が搭載されたバイクらしいぞ。ちなみに正答は、
1950年代後半は『白黒テレビ』『洗濯機』『冷蔵庫』
高度経済成長期は『カラーテレビ』『自動車』『クーラー』の通称『3C』
最近では『薄型テレビ』『DVDレコーダー』『デジタルカメラ』
これらのことを言うらしいな。あと数年経てば『スマートフォン』や『BDレコーダー』などが新たな3種の神器として扱われるかもしれんがな】
このままでは更なる脱線が懸念されると察した唐沢は、一旦歴史を放棄。別の教科を出題することにした。
「つ、続いて国語の問題よ。『九十九』、これの読み方は? ちなみに『きゅうじゅうきゅう』や『くじゅうく』じゃないわよ」
「へぇ、中々難しい問題じゃないか」
熟語には、普段の生活の中では使用頻度の少ない難しい読みを持つものが数多く存在する。もっとも、これは人の苗字にも使われる熟語。そうそう間違えることは――。
「クルックー」
「……とりあえずアテムくんは全国の
これまた斜め上の珍回答であった。
「次はことわざ。『石の上にも◯年』の、◯に入る数はいくつ?」
「『3000』!」
「長いわっ!」
【3年という年月も、我の寿命としては長いがな】
石の上に3000年座り続けるとは、相当我慢しているようだ。
「……古文の問題と行きましょうか。清少納言が執筆し、平安時代の文学として有名な『枕草子』。
『春は~』に続く文を答えなさい」
「『出会いと別れの季節。今までの自分に別れを告げ、新たな一歩を踏み出していく』」
「うん、現代的には間違っていないかもしれないけど不正解ね」
ひとまず6つの問題を出したところだが、唐沢たちは悟った。これはもうダメかもしれないと。
その横に座って一部始終を見ていた海未も、溜息を吐きつつ立ち上がる。なお、他の赤点スレスレの3人も机に突っ伏したグロッキー状態であった。
「皆さん、申し訳ありませんが私はこれで……」
【ふむ、確か貴様は弓道部だったか。後は我等が何とかしておこう】
「心配するな、園田! 皆のために、俺は最後まで諦めないぜ!」
「貴方が1番心配なのですが……」
海未は肩を落としつつ、ドアノブを握る。
何度も乱暴に開閉したせいで立て付けが悪くなったドアは、彼女たちの未来の不安定さを表しているかのようだった。
●流れ星☆アテム
それから数時間後、時刻は5時に達しようという頃。
「う~ん、おでんは飲み物じゃなかったんだね」
音ノ木坂学院から少し離れた場所に存在する公園。
その前に設置されている自動販売機の前で、1人の少女が小さく唸っていた。
名は、絢瀬亜里沙という。
背丈や顔立ちから、中学生程であろうか。淡い金髪や蒼い瞳、雪のように白い肌は歳相応の可憐さを醸し出す。難しい顔をしている今の状態でさえも、1つの魅力として捉えられる程に。だからこそ、右腕に抱えられた2本のおでん缶のアンバランスさが際立っていた。
夕暮れ時ということもあってか周りには誰もいないが、仮に難しい顔をしている理由を聞かれれば、当然『何を買えば良いか迷っている』と答えるだろう。しかし彼女の目の前に存在する自動販売機に並ぶラインナップは、女子中学生が利用するには不釣り合いとしか言いようがなかった。
「ブラックコーヒーは、やめた方がいいかなぁ」
4段ある中で、最下段は全てがおでん缶。それより上の段も、ブラックコーヒーやおしるこばかりが並び、ミルクコーヒーはおろか、清涼飲料水の類すらない。
「あんこたっぷりの、おしるこ……。『しる』ってことは飲み物だよね」
人によっては飲み物と答えるかもしれないが、餅が入っているのだからおしるこも基本的には食べ物である。おでんやおしるこを飲み物と勘違いしていることから、彼女が日本に慣れていないことが伺える。
「あんこも、確かおまんじゅうの中に入ってる甘いものだって雪穂が言ってたような……」
チラリと視線を公園内に向けると、2人の女子高生がベンチに腰掛けて何かの会話をしていた。1人は亜里沙の姉、絵里。そしてもう片方は憧れのスクールアイドル『μ’s』に所属するメンバーのうちの1人、園田海未。
音ノ木坂学院の校門前で姉を待っていた時に偶然出会うことができたのは、亜里沙にとってこの上ない幸運。本当は色々な話をしたかったのだが、今は絵里と難しい話をしているようだった。
音ノ木坂学院が廃校になるかもしれないという話が出てからというもの、姉は険しい表情を見せることが多くなった。『μ’s』の話になると特に。
「お姉ちゃんと海未さんを待たせちゃいけないし……。よし、これにしよっと!」
それはともかく、飲み物を買って来るよう頼まれたのだから急いで戻らなければならない。
彼女が硬貨を投入したところで――
――AIBOOOOOOOOOO!!
「ほぇ?」
どこからか、男性の声が轟いた。
「これって、確か……」
4月の中旬頃から頻繁に聞くようになった叫び声。
遠くへ飛んで行く
「こっちに、近づいてくる……?」
だが、今回は視線の先を飛ぶ
「亜里沙、逃げなさいっ!」
焦るような姉の声が聞こえるが、当の本人はその場を動くことが……いや、動こうとしない。
普段は声を聞き、見上げるだけだった流れ星。同じクラスの友人・高坂雪穂は『人』だと言い、デュエルの腕もかなり立つと評していた。もしもそれが本当ならば彼(?)は飛行機やヘリコプターも使わずにこの街を眺め続けてきたのだろう。また、雪穂が称賛する程の腕を持つというのも気になる。
近頃の亜里沙にとって、彼(?)は『μ’s』と同程度に関心を持つ存在。だからこそ機会があれば会ってみたいと思いを馳せていたのだ。
「よし、そろそろ地面だ! さぁ行くぜ! アテムさん、大回転から華麗に着地ィイイイ! Yeah!」
やがて男性……、アテムは少女のすぐ横に着地した。降り立つ直前にきりもみ回転をするというオマケ付きで。
「ハラショー……! ざ、座布団1枚!」
「?」
見事着地したアテムへと亜里沙は称賛の声を上げつつ、懐から取り出したハンカチを差し出す。彼女が最近見たテレビ番組では、面白いことを言った人が何枚も座布団を貰っていたので真似をしてみたのだ。
しかし、あまり効果は無かったらしい。彼は亜里沙とハンカチを交互に見比べていた。
「おっと。アテムさんとしたことが、人のすぐ近くに舞い降りてしまったようだ。ケガは無いか?」
「は、はい。大丈夫です! それよりも、貴方は流れ星さんですよね!」
「流れ星? いいや、違うな。我が名はアテム。ATMと書いてアテム。かしこいかっこいいアテムさんだ!」
「かしこいかっこいいアテムさん……」
長い名前だ、そう思いながら亜里沙は小さく復唱する。
自らと背丈はあまり変わらないはずなのに、アテムが放つ存在感は髪の長さだけでは説明がつかない程に大きく見えた。間違いなく、彼が発する決闘者としてのフィールによるものだろう。そのような人物が目の前に立っていることに、少女の瞳は爛々と輝いていた。
会話を始めて1分も経たずに意気投合しつつある2人。そこへ、切羽詰まった少女の声が掛けられた。
「ちょっと貴方! 亜里沙から離れなさい!」
揃って顔を向けると、鬼気迫る表情で迫ってくる絵里、更に彼女の後ろには海未の姿があった。
「よう、園田! 絢瀬!」
「……アテムさん。貴方がことりに吹き飛ばされるのはいつものことですが、この状況でよく平然としていられますね。というか、テスト勉強はどうしたんですか」
絵里は咄嗟に亜里沙の前に立ってアテムを威嚇するが、亜里沙はなぜ姉が自分を庇うのか理解できておらず、口をポカンと開けていた。アテムは平然と挨拶を交わし、慣れてしまった海未は淡々とアテムを諌めている。
自動販売機を前にして、それぞれ異なる表情を見せる4人。端から見ればさぞ滑稽に映ることだろう。
「とにかく、帰るわよ」
そう言って、絵里は亜里沙の手を取った。
アテムが飛んでくるよりも前に、絵里と海未の会話は既に終了していた。ならばこれ以上話をする必要はない。それに、彼のような変人を妹と関わらせたくはなかった。
「……待って、お姉ちゃん」
だが、亜里沙はその場を動こうとしない。それどころか、カバンの中からデッキとデュエルディスクを取り出す。
「私、絢瀬亜里沙って言います。かしこいかっこいいアテムさん、今ここで亜里沙とデュエルしてくれませんかっ!」
「なっ! 亜里沙!?」
「亜里沙の友達が言っていました。貴方は、『A-RISE』の優木あんじゅさんにも勝ったことがあるくらい強いんですよね?
そんな強い人とデュエルしてみたいと、ずっと思っていましたっ!」
瞳を輝かせてアテムと元へと詰め寄る少女に対して、絵里は驚かずにいられない。確かに以前から亜里沙は『いつも空を飛んでいるあの人と話をしてみたい』と言っていた。それでも、奇声を上げながら落下してきた男と会話するどころか、デュエルをしたいとは普通考えない。海未も頬を引きつらせていることから、絵里だけがそう感じているわけではないようだ。
「どこでその話を聞いたのかは知らないが、挑まれたからには当然受けて立つぜ!
あと、かしこいかっこいいアテムさんと呼んでくれるのは嬉しいが、少し長い。アテムさんと呼んでくれ」
「はい、アテムさん! それじゃあ、亜里沙のことも名前で呼んでください!」
「わかったぜ、亜里沙!」
2人の不安に全く気付かないアテムは、一切迷いもせずに承諾していた。決闘者である以上当たり前の行動であることは確かだが、全く周囲を気にかけないとは如何なものか。
「……すみません、生徒会長」
「謝るくらいならさっさと止めて欲しかったのだけど」
ともあれ、絵里とて決闘者の端くれ。あっという間にデュエルの準備を完了してしまった決闘者の邪魔をするわけにもいかない。妹が関わっているのであれば尚更。
直前まで軽い言い争いをしていた者同士が見守る中、アテムと亜里沙のデュエルは幕を開けた。
『デュエル!!』
アテム:LP4000
亜里沙:LP4000
一方、その頃。
『アイドル研究部』の部室では。
「アテムせんぱい、戻ってこないねぇ」
「う~ん、おっかしいなぁ。5分で戻ってこれると思ったんだけど……」
「先輩がケガするなんてあり得ないし、大方何処かの誰かとデュエルでもしてるんじゃない?」
【ところで高坂穂乃果よ、『それいけ!腹パンマン』の最新刊が明日発売されるらしいのだが】
「うん、任せておいて! 読み終わったら持ってくるね」
「にこっちぃ~? まだウチのワシワシフェイズは終了してへんよぉ?」
「ひぃっ!?」
少し前に一旦休憩に入るやいなや、ことりはいつも通りにアテムを射出した。それからは、このような有様だ。
「……ねぇ、小泉さん」
「何も言わないで下さい」
果たして、彼女たちは本当に『ラブライブ』出場という目標を達成することができるのだろうか。
●アテムVS亜里沙
「亜里沙の先攻ですっ! 手札から、魔法カード《強欲で謙虚な壺》を発動します!」
亜里沙が発動したのは、縦半分を境にして2つの顔が描かれている壺。それは2種類の魔法カードを繋ぎ合わせたような絵柄であり、片方は醜悪な、もう片方は穏やかな表情を浮かべている。
「このカードは、デッキトップから3枚のカードをめくって、そのうち1枚を選んで手札に加えます」
「そして、そのカードを発動するターンは一切の特殊召喚を行えないんだったな」
今では禁止カードに指定されている《強欲な壺》のように、キーカードを安定して手札に加えやすくなる反面、アテムが補足したようにモンスターの展開が遅くなる謙虚さを持ち合わせたカード。
デュエルが進むに連れて発動し難くなることから、先攻1ターン目で発動できるというのは非常に運が良いと言える。
「デッキトップの3枚は、これです!」
《闇の量産工場》
《ジェリービーンズマン》
《魔の試着部屋》
上空に2枚の魔法カードと1枚のモンスターカードが投影され、亜里沙が手札に加えたのは魔法カード《魔の試着部屋》だった。
「このターンは特殊召喚ができないので、亜里沙はモンスターと
先攻の最初のターンは攻撃ができず、《強欲で謙虚な壺》の誓約により特殊召喚も不可能。堅実なプレイングと言えるが、公開されたラインナップを見たアテムはデッキの中身をある程度把握することができた。
(1枚目の《闇の量産工場》は、墓地から2体の『通常モンスター』を手札に加えるカード。2枚目の《ジェリービーンズマン》は、レベル3の『通常モンスター』。
そして手札に加えた《魔の試着部屋》は、800ポイントのライフをコストにしてデッキトップを4枚めくり、その中から『レベル3以下の通常モンスター』を可能な限り特殊召喚するカード。ということは……)
《強欲で謙虚な壺》が抱えるデメリットは、発動ターンの特殊召喚を封じる誓約だけではない。相手にカードを公開した上でキーカードを手札に加えるという行為は、デッキの中身を多少なりとも教えてしまうことを意味する。しかも、亜里沙がめくった3枚はデッキコンセプトを公開しているに等しい。
近くでデュエルを観戦している海未も、次の亜里沙のターンで行なうプレイングが予想できてしまう。
「なるほど、亜里沙さんのデッキはレベル3以下の通常モンスターを主軸とした【ローレベル】ということですか。
次のターンで《魔の試着部屋》を発動し、低レベルの通常モンスターを大量展開することが狙いですね」
「あの3枚を公開した以上、『一応』正解と言っておきましょうか。だけど亜里沙のデッキをただの【ローレベル】と侮っていると、後で痛い目を見ることになる。
あの娘が日本に来る少し前、ロシアでは同年代の中で無敵だったという話よ。もしかしたら次にターンが回れば勝負が決するかもしれないわね」
海未の隣で、絵里は不敵に微笑む。低レベルの通常モンスターといえど、油断をしてはいけないことは重々承知している。だが、《魔の試着部屋》は効果の性質上ギャンブル要素が強いカード。なぜ絵里は1ショットキルを予測することができるのか。
一抹の不安を抱える中、アテムのターンが始まった。
「俺のターン、ドローッ!」
勢い良く叫び、ドローを行なう彼の姿は真剣そのもの。
相手が誰であろうと全力で挑むというのがアテムのプレイスタイルだが、理由はそれだけではない。
デッキの内容を公開しても余裕を保つ亜里沙の笑顔が、より一層気を引き締めさせているのだ。
「魔法発動、《予想GUY》! こいつは俺のフィールドにモンスターが存在しない場合のみ発動できるカード。
その効果によりデッキからレベル4以下の通常モンスターを特殊召喚する! 来い、《デビル・ドラゴン》!」
《デビル・ドラゴン》
☆4 闇属性 ドラゴン族 ATK1500
デッキから飛び出したのは、鋭い爪牙を持つ凶悪なドラゴン。レベル4のモンスターとしては低めの
「まだ行くぜ! 俺にはまだ通常召喚の権利が残されている。よって、手札から《疾走の暗黒騎士ガイア》を召喚!
こいつはレベル7のモンスターだが、元々の攻撃力を2300から1900に下げることで、生け贄なしで召喚できるのさ!」
《疾走の暗黒騎士ガイア》
☆7 光属性 戦士族 ATK2300 → ATK1900
アテムのフィールドに並び立つ、光の戦士と闇のドラゴン。一方がチューナーモンスターでも無ければ、レベルが同じというわけでもない。ならば、狙いは一体? 亜里沙が訝しむと同時に、彼は手札から更なるカードを発動した。
「俺は、更に手札の魔法カード《置換融合》を発動!」
「《置換融合》……! フィールドのモンスターを使って融合召喚を行なうカードですね!」
魔法カード《融合》は、手札・フィールドのモンスターを素材として融合召喚を行なうカード。似たような名前と絵柄を持つこのカードはフィールドのモンスターしか素材にできない代わりに、更なる効果を備えている。
「ガイアの新たな可能性を見せてやる! 疾風の速さで駆け抜ける騎士よ! 邪悪なる竜に跨りて、新たな力を生み出さん! 融合召喚!!」
――翔び立て、レベル7! 《天翔の竜騎士ガイア》!!
《天翔の竜騎士ガイア》
☆7 風属性 ドラゴン族 ATK2600
《デビル・ドラゴン》の身体が肥大化し、馬を乗り捨てた暗黒騎士がその上に跨る。《竜騎士ガイア》と似て非なる竜騎士は、上空より無垢な少女へと二振りの槍を向けた。
「《天翔の竜騎士ガイア》はモンスターゾーンに存在する限りカード名を《竜騎士ガイア》として扱い、融合素材は「暗黒騎士ガイア」と名のついたモンスターと任意のドラゴン族。本来の《竜騎士ガイア》よりも格段に召喚しやすい。
更に、このカードの特殊召喚に成功した時、デッキから永続魔法《
進化したのは、融合召喚のしやすさだけではない。《竜騎士ガイア》を支える魔法カードまでも呼び込むことができるのである。
「俺は手札に加えた《螺旋槍殺》を発動し、バトルフェイズに移行! 《天翔の竜騎士ガイア》で裏守備モンスターに攻撃!」
急降下した竜騎士の槍が、裏守備表示となっているモンスターへと接近する。ダメージステップに入ったことで現したその正体は、愛らしい小さなウサギ。
「亜里沙がセットしたモンスターは、通常モンスター《バニーラ》。守備力は2050です!」
《バニーラ》
☆1 地属性 獣族 DEF2050
「レベル1の通常モンスターでありながら、上級モンスターに匹敵する守備力を持つ壁モンスターか。だが、足りないぜ!」
――ダブル・ドラゴン・ランス!!
攻撃力2600を誇る竜騎士には僅かに及ばない。その槍は、強固な防御を容易く貫いた。
「この瞬間、永続魔法《螺旋槍殺》の第1の効果発動! 自分フィールドの《暗黒騎士ガイア》、《疾風の暗黒騎士ガイア》、《竜騎士ガイア》が守備表示モンスターを攻撃した場合、その攻撃力が守備力を上回っていれば、相手に貫通ダメージを与える!」
「《天翔の竜騎士ガイア》はフィールドに存在する限りカード名を《竜騎士ガイア》として扱うから、効果は有効……!」
「その通りだ! よって、550ポイントの貫通ダメージがキミを襲う!」
亜里沙 LP4000 → LP3450
「きゃっ……!」
ウサギの立体映像が砕け散ると同時に、戦闘ダメージによってもたらされた衝撃が亜里沙を襲う。華奢な外見から数歩後ろに下がると思いきや、意外にも小さな悲鳴を上げて腕を前に構えるだけに留まった。
「まだだ! 《竜騎士ガイア》が貫通ダメージを与えたことで《螺旋槍殺》の更なる効果発動! デッキから新たに2枚のカードをドローして、手札1枚を捨てるぜ。俺が墓地に送るのは、モンスターカード《超戦士の魂》!」
手札を1枚増やし、墓地を肥やす。専用モンスターにのみ許される強力な効果に、海未は思わず両手を握り締めていた。
(いい具合に先制ダメージが通りましたね、アテムさん。それに加えて、たった今墓地に送った《超戦士の魂》は墓地で真価を発揮するカード!)
「バトルフェイズを終え、メインフェイズ2へ移行。
墓地に存在するこのカードをゲームから除外して、デッキから《開闢の騎士》を手札に加える。これで俺はターンを終了するぜ」
高い
彼に有利な状況となったように思えるが、アテム自身は依然として警戒心を解けずにいた。
(《強欲で謙虚な壺》でめくった3枚、そして《バニーラ》を伏せていた以上、亜里沙のデッキは間違いなく低レベルの通常モンスターを中心としている。
あの
高い守備力を持ち、中々戦闘破壊されにくい《バニーラ》を倒されても尚、亜里沙の表情には焦りが全く感じられない。
初対面の男性を相手にした少女が浮かべるには不釣り合いの余裕を携え、亜里沙はカードをドローした。
「亜里沙のターン、ドローですっ! 見せてあげますね、亜里沙のとっておきのコンボ!」
「ここで仕掛けてくるか!」
低レベルの通常モンスターや、運に左右される《魔の試着部屋》は一般的な戦術を用いて戦ったところで、力不足だということは自明の理。
ならば、何らかのカードと組み合わせることで能力を十二分に活用するしかない。
「まず1枚目! 手札のペンデュラムモンスター《ダーク・ドリアード》を通常召喚!」
《ダーク・ドリアード》
☆4 闇属性 魔法使い族 ATK1800
清楚な精霊であったはずの《ドリアード》に似ているが、『ダーク』の名を持つだけあって、明らかに正反対の印象を抱かせる。
名前だけではない。漆黒に染まった衣装に、紫の口紅で彩られた唇。夕陽を反射して輝く長い金髪が、その妖艶さを一層際立たせていた。
「《ダーク・ドリアード》が召喚に成功したことで、効果発動!」
亜里沙が宣言した瞬間、術師の周囲に出現する4色の球体。
――『茶』『青』『赤』『緑』
それは、光と闇を除く4種の属性を象徴する色。
「デッキから地・水・炎・風属性のモンスターを1体ずつ選んで、好きな順番でデッキトップに置くことができます!
亜里沙が選ぶのは、
地属性《チューン・ウォリアー》
水属性《弾圧される民》
炎属性《逃げまどう民》
風属性《団結するレジスタンス》
この4体です!」
『ッ!?』
空中に投影された4種のモンスター。カード名・イラスト共に女子中学生が扱うにはアンバランスなもの。
だが、しかし。
「生徒会長、貴女が言っていた『このターンで勝負が決する』というのは……!」
「ええ、園田さんが想像している通りよ」
彼らの脳内に浮かぶのは、とある1枚のカード。もしも使用されれば、ほぼ全てのデッキに打ち克つ可能性を秘めている。
「さぁ、2枚目行きますよ! 亜里沙は手札から魔法カード《魔の試着部屋》を発動! ライフポイントを800支払うことで、デッキトップのカードを4枚めくります!」
「その中からレベル3以下の通常モンスターを全て特殊召喚し、残りをデッキに戻す。だが……!」
亜里沙 LP3450 → LP2650
出現したカーテンの中から姿を表すカードは、当然《ダーク・ドリアード》の効果によって移動した4体のモンスター。そして、全てが『レベル3以下の通常モンスター』で統一されていた。
本来ならば不確定の未来に賭ける《魔の試着部屋》も、今この場においては確定した未来を引きずり出すカードへと変貌する。
「出ておいで、亜里沙のモンスターたち!」
《チューン・ウォリアー》(チューナー)
☆3 地属性 戦士族 ATK1600
《弾圧される民》
☆1 水属性 水族 ATK400
《逃げまどう民》
☆2 炎属性 炎族 ATK600
《団結するレジスタンス》
☆3 風属性 雷族 ATK1000
「一瞬で、5体のモンスターを……!」
真紅の装甲を纏う戦士の後ろに、3人の中年男性が付き従う。邪悪に染まった術師と合わせた5人がフィールドを埋め尽くし、反撃の時を今か今かと待ち望む。
「これで、3枚目です! 4体のモンスターが特殊召喚に成功した瞬間、
――《大革命》!!
「この罠は、自分のメインフェイズに《弾圧される民》、《逃げまどう民》、《団結するレジスタンス》の3人が自分フィールド上に揃っている場合のみ発動できるカード。
相手の手札を全て墓地に送り、同時に相手フィールド上のカードを全て破壊します!」
例え頼りないモンスターであろうと、時に逆境を跳ね除ける力を生み出すことがある。弾圧され、逃げ惑う国民が団結し、今ここに反旗を翻す。
鍬や鎌といった農具を掲げて怒りに燃える中年男性の叫び声に、海未の身体が小さく跳ねた。
「本来ならば非常に厳しい発動条件を持つ《大革命》を、こんなにもあっさりと発動させるなんて……!」
「亜里沙のフィールドに並ぶモンスターの総攻撃力は5400ポイント。これで終わりね」
無垢な笑顔からは、想像もつかない一撃必殺のコンボ。絵里の言う通り、これが決まればアテムのライフポイントは簡単に消失する。
だが、彼は仮にも
大小問わず、革命を安々と通すはずがない。
「素晴らしいコンボだと言いたいが、そうはさせない! カウンター罠発動、《盗賊の七つ道具》!
ライフを1000支払うことで、罠カードの発動を無効にして破壊するぜ!」
「えぇっ!?」
アテム LP4000 → LP3000
レジスタンスたちが振りかざしていた農具の数々が、七つ道具によってみるみるうちに砕けていく。反逆の意思があったところで、武器が無ければどうにもならない。彼らの革命は失敗に終わり、各々が亜里沙の元へと帰投する。
たった今『これで終わり』と宣言した絵里は、僅かに感心しつつも即座に表情を引き締めた。
「《大革命》を躱したか……。でも、この程度で亜里沙のコンボは終わらないわよ」
「亜里沙さんが《魔の試着部屋》で呼び出した最後の1体、《チューン・ウォリアー》はチューナーモンスター。しかも、フィールド上のモンスターのレベルは……!」
あらゆるものをチューニングしてしまう能力を持つ電波系戦士。その役目は、仲間の絆を繋ぐこと。最初の革命が失敗しても、更なる革命を引き起こすための力を与える。
「コンボはまだ、これからですっ! レベル1の《弾圧される民》、レベル2の《逃げまどう民》、レベル3の《団結するレジスタンス》に、レベル3の《チューン・ウォリアー》をチューニング!」
「合計レベル、9……!」
両腕の端子を発光させつつ、電波系戦士の姿は3つの光輪へと変化する。それは合計6つの光球となった
「封印されし
――降誕せよ、レベル9! 《氷結界の龍 トリシューラ》!!
絶対零度の冷気を纏う、青白き三つ首の龍。
かつて暴虐の限りを尽くし、数多の決闘者の闘志を奪い去ったという絶対的な力。
神聖なる咆哮が、夕暮れの公園内に轟いた――。
●次回予告という名のネタバレ
亜里沙ちゃんが繰り出す怒涛のコンボ攻撃を前に、早くも追いつめられてしまうアテム。
可愛らしい見た目から繰り出されるモンスターたちの力は、まったく正反対!
強力なドラゴンを相手に、どうやって立ち向かうの!?
そして、期末テストの行方は!?
次回、『穢れ無き猛攻』
デュエルスタンバイ!
Q.アテムさん、いくら何でもアホすぎやしませんかね。
A.このアテムさんはフィクションです。実際のアテムさんはもっと賢いはず。
今回書いていて、改めて《予想GUY》の便利さを実感しました。《エルフの聖剣士》という良カードも登場したことですし、そのうち《エルフの剣士》を呼び出す機会もあるかもしれません。
亜里沙が《弾圧される民》などのイメージに合わなそうなカードを使っていますが、詳しいデッキ内容はデュエルが終わった後に改めて解説を行なう予定です。
それでは、次回もよろしくお願いします。