ラブライブ!DM   作:レモンジュース

27 / 58
 「VSあんじゅ」第2回です。
 地の文でモンスターや攻撃を表現するのは本当に苦労します。
 ツバサやあんじゅのような、エンタメを心がける人たちのデュエルだと特に。

 それでは、どうぞ。



A-RISE再び! 鉄壁の《トゥーン・キングダム》(後編)

●邂逅

 

 

 

「……妙ね」

「? どうしたの、真姫ちゃん」

 

 優木あんじゅが作り上げたコンボに対して誰もが絶賛する中、遠くから眺めていた真姫は訝しむ。

 アテムが不利な状況であることは理解しているのだが、腑に落ちない点があるからだ。

 

「《トゥーン・キングダム》でトゥーンモンスターを守り、《Em トラピーズ・マジシャン》でダメージを打ち消す鉄壁の布陣。

 でも、一見完璧に見える防御を崩す方法はいくつもある」

「え、そうなの!?」

 

 『考えもしなかった』と驚愕する穂乃果は、真姫に対して続きを促した。

 

「《トゥーン・キングダム》と《ガガガシールド》が防いでいるのは、あくまで『破壊』のみ。『除外』や『バウンス』といった方法でどちらかを除去すれば、簡単に破壊可能になる。さらに言えば、トラピーズ・マジシャンで防ぐダメージは『2500以下』ではなく『攻撃力以下』」

「そっか! トラピーズ・マジシャンの攻撃力を下げれば、ダメージを与えられるんだ!」

 

 彼のデッキにも条件を満たすカードは数枚入っているし、『μ’s』メンバーが使うデッキの中からも具体例を挙げていけばキリがない。

 にこが神を打ち倒した時のように、デュエルモンスターズには完璧な戦術などあり得ない。

 実行できるかどうかは別として、どのような戦術も突破する(すべ)は無数に存在するのだ。

 

「デュエルディスクにはデッキ枚数も表示されているけど、彼女のエクストラデッキは既に0枚。つまり、トラピーズ・マジシャン1枚しか入っていないことになる。

 他にカードを持っていないなんてことはあり得ないし、こんな見え透いた弱点を晒すなんて――」

 

 

 

 

 

 ――流石だ、よく見ているな。

 

 

 

 

 

『ッ!?』

 

 いつの間にか自分たちの隣から、会話に割り込んできた女性の声。

 そちらへ顔を向けると、そこに立っていたのは何度も映像で見たことのある人物であった。

 

 

 

 艶やかな黒い長髪は靡かせる長身。

 『可愛い』と言うよりも、『綺麗』という賛辞が似会う凛々しさ。

 そして何より、UTX学院の制服。

 

 

 

「ふふっ。初めまして、高坂穂乃果さん。そして、西木野真姫さん」

 

 『A-RISE』の最後の1人、統堂英玲奈。

 

「な、な、なんで……?」

 

 何の前触れもなく有名人が現れたことに、穂乃果はパニック寸前。

 そんな彼女のおかげで逆に冷静になれた真姫は、静かに問う。

 

「あの、向こうに行かなくていいんですか? 『A-RISE』のメンバーがこんな人混みの中にいたらマズいかと。

 それに、『流石』っていうのは……」

「質問が多いな。まぁ、全て答えよう」

 

 少し失礼だったか、と思う真姫であったが、問われた英玲奈は苦笑しつつも嫌な顔せずに答えていく。

 

「まず1つ目だが、これは純粋な興味だ。あのツバサが興味を持った決闘者の仲間である君たちに会ってみたいと思ってね。

 2つ目の指摘については、現状では問題ない。周りのお客さんは皆あんじゅたちのデュエルに夢中だ。少し話をする程度なら気付かれはしないさ。それに、君たち以外にわからないよう、気配は消している」

 

 さらっと凄いことを言った気がするが、真姫は無視することにした。

 

「……3つ目は?」

「君が疑問に感じているように、あのコンボは一見完璧に見えるが穴は多い。必要なパーツも多く、公式戦で使うには少々安定感に欠けるだろう。ついでに言えば、エクストラデッキのカードはトラピーズ・マジシャン1枚のみ。

 しかし今日のデュエルイベントの最大の目的は、あくまで『勝利』ではなく『娯楽』だ。使用するモンスターも、「トゥーン」と「Em」のみという縛りを設けている。

 大会に出場する時のようにデュエル中は一切手を抜いていないが、コンボの完成によって会場が大いに沸いていることがわかるだろう?」

 

 確かに、元々盛り上がっていた会場は、今では更なる熱気を放っている。特に、漫画の世界(トゥーン・ワールド)を陽気に飛び跳ねる《トゥーン・仮面魔道士》、そして天空を舞うトラピーズ・マジシャンはソリッド・ヴィジョンによく映える。

 

「君たちも覚えがあるのではないか? 手間隙かけてコンボを作り出し、披露する楽しさを」

「それは……」

 

 2人は、押し黙って記憶を辿る。いや、遡る必要もない。

 穂乃果のデッキは全てのカードが1枚ずつしか入っていない【ジェムナイト】だ。絶対に安定しないと周囲から言われているが、なるべく多くのカードを使いたいという思いで作ったデッキは大切な宝物。

 真姫も「幻奏」と「帝」というほぼシナジーのないカテゴリを共存させた珍しいデッキを使っているし、普通は投入しないであろうカードで戦うこともある。

 

「コンボを完成させ、勝利を掴めば当然盛り上がるだろう。しかし、突破口を見出され敗北しても、挑戦者の強さを見れば『次は自分も!』と考える者が続々と現れる。

 戦績で気が付いているとは思うが、あのコンボは既に2人の決闘者が破った。どちらも『これから用事がある』と言って名乗りもせずに去っていったが、見たことのないモンスターや戦術には、私たちも驚かされたよ」

 

 楽しげに語る英玲奈に対して、2人は意外だと感じていた。スクールアイドルの頂点に立つ『A-RISE』の口から、勝敗に拘らないという旨の言葉が出てくるとは思わなかったのだ。

 

(いや、違うわ。『絶対的な勝利を目指すデュエル』と『楽しませるデュエル』、異なる2つの理念を共有し、なおかつ最後には勝利する。

 だからこそ、『A-RISE』は強い……!)

 

「今のところ、ライフコストを除いてあんじゅのライフポイントが減少したデュエルは、敗北した2試合のみ。

 さて、アテムくんはどちらに転ぶのだろうな。あっと驚く方法でコンボを崩すのか、はたまた何もできずに終わるのか」

 

 微笑を浮かべる英玲奈と、険しい顔をする真姫。そして穂乃果は、

 

 

 

 

 

 ――アテムくんは、絶対に勝ちます。

 

 

 

 

 

 迷いなく、仲間の勝利を信じる。

 

「アテムくんは、何があっても絶対に諦めないことの大切さを知っている。だから、相手がどれだけ強くても最後には勝ってくれるって私は信じます!」

 

(ほぅ……)

 

 ツバサが興味を抱いたこともあり、音ノ木坂学院と『μ’s』については英玲奈もある程度調査済み。結成から日も浅く、アップロードされていた動画を見る限り、歌もダンスも下位ランクのスクールアイドルとしてはマシという程度。

 はっきり言って、『アテムという腕の立つ決闘者が存在する』団体でしかないと思っていた。

 

 だが、一点の曇りもない穂乃果の瞳に、英玲奈は少しだけ身体を震わせた。

 

 何事も努力を重ねていけば、いつか必ず強者を超える可能性を秘めているのが、世の常だ。

 アイドルの世界でも、無名だったグループがふとしたきっかけで一躍有名になるというのはよくある話。

 デュエルモンスターズにおいても、弱小と言われていたカードが他のカードとの組み合わせで強力なコンボを生み出し、強者を打ち負かすことも数多い。

 

 今はまだ取るに足らない実力の『μ’s』というスクールアイドル。だが、いつか自分たちと肩を並べる存在となる日が来るのではないだろうか。

 百聞は一見に如かず、とはよく言ったものである。

 

(ツバサはたった1回のデュエルで感じ取っていた読めないな。まったく、味方ながら恐ろしいな。

 …………ふむ、これまでか)

 

「そろそろ私は戻るとしよう。彼が本当にあんじゅに勝てるかどうか、後はステージ袖から見させて貰うとするよ」

 

 言い終わると、英玲奈は身を翻してその場を後にした。

 他の観客は『今、統堂英玲奈がいたような……』としか言っておらず、どうやら本当に気が付いていたのは穂乃果たちだけだったようだ。

 

 未だ戦況はアテムの圧倒的不利。

 それでも、彼女たちは信じ続ける。

 

(頑張って、アテムくん……!)

 

 

 

●奪われる力

 

 

 

「私のターン、優木あんじゅの第3幕、始まりです! ドローっ♪」

 

 鉄壁の王国の下で、あんじゅは舞うようにカードをドローする。心底楽しそうにプレイする彼女は、ドローカードを確認すると、その笑みをより強くした。

 

「これは面白いカードを引きましたっ! 今まで見たこともなかった、可憐な魔法少女さん!

 トゥーンのイリュージョンで、より一層可愛い姿にしてあげます。

 装備魔法《コミックハンド》を発動っ!」

 

 《トゥーン・キングダム》の中から、パンタグラフを用いた腕が現れ、《ブラック・マジシャン・ガール》を捕獲する。彼女を引きずり込んだ絵本は、パタリと閉じられた。

 

「なっ!? 《ブラック・マジシャン・ガール》!」

「《コミックハンド》は、自分フィールドに《トゥーン・ワールド》が存在する場合、相手モンスターを対象として発動できる装備魔法。

 このカードを装備したモンスターは私のモンスターになるのです!

 出ておいで、《トゥーン・ブラック・マジシャン・ガール》!」

 

 再度開かれた《トゥーン・キングダム》の中から、取り込まれた魔法少女が飛び出してくる。だが、それはアテムが知っているものとは異なり、等身が低い幼い姿へと姿を変えていた。

 

 《トゥーン・ブラック・マジシャン・ガール》(トゥーン)

 ☆6 闇属性 魔法使い族 ATK2600

 

「《ブラック・マジシャン・ガール》が、トゥーンモンスターになっただと!?」

 

《おおっ! 大人らしい姿も素敵でしたが、小さくなった姿もとってもキュート! こっちの方が好きな人もいるのではないでしょうかっ!》

 

 ツバサの実況に、一部の観客が首肯する。しかも、《トゥーン・仮面魔道士》と一緒になって手を大きく振る仕草に、更に多くの者が虜になったようだ。

 

「ふふっ。皆様のお気に召したようで何よりです。

 挑戦者さんも勘付いているとは思いますが、《コミックハンド》の効果でコントロールしているモンスターは、トゥーンモンスターとして扱われます。

 更に、他のトゥーンモンスターと同じように、私のみがトゥーンモンスターをコントロールしている場合、直接攻撃(ダイレクトアタック)ができるのです!」

「【トゥーン】専用の、禁止カード《強奪》を超える効果……!」

 

 現在アテムのフィールドには伏せモンスターが存在するが、直接攻撃能力を持つトゥーンモンスターに対しては全くの無意味。

 そして、残りのライフポイントは1800。

 

「さぁ、このままバトルフェイズに移ります。せっかくですから、可愛い魔法少女さんの攻撃でフィナーレといきましょう。

 私は《トゥーン・ブラック・マジシャン・ガール》で――」

「そうはさせない! バトルフェイズに入った瞬間、永続罠《一族の掟》を発動ッ! 指定した種族のモンスターの攻撃宣言を封じる! 俺が宣言するのは、当然『魔法使い族』!」

 

 今、あんじゅのフィールドに存在するモンスターは3体。そのいずれも魔法使い族。

 突如現れた老人が何らかの号令を発すると、小さな魔法少女たちは《トゥーン・キングダム》の前で揃って正座していた。

 観客は皆、あまり見覚えのないカードの登場に困惑すると同時に、並んで正座するモンスターたちを見て微かな笑い声を上げる。

 

《こ、これは珍しい防御カード! あんじゅのフィールドに並んだモンスター全ての攻撃を封じたー!》

 

(《和睦の使者》や《威嚇する咆哮》でもなく、《一族の掟》か。私も使っている人を見るのは初めてよ)

 

 マイナーカードを使ったことにも驚いたが、圧倒的不利な状況に立つアテムが観客を沸かせたのだ。スクールアイドルとしてだけでなく、デュエルでもエンターテインメントを提供するツバサは、ほんの少しだけ嫉妬していた。

 

「お前の手札に《サイクロン》のような魔法・罠を破壊する速攻魔法がないなら、このターンの攻撃は封じた。さぁ、どうする?」

「う~ん、残念ですがバトルフェイズを終了せざるを得ないようですね」

 

 あんじゅは手を広げておどけているが、対するアテムとしては『命拾いした』といった心境である。

 

(攻撃可能な魔法使い族以外のモンスターや、魔法・罠を破壊するカードを引かれていたら、その時点で俺は負けていた。

 それに――)

 

 攻撃の要であった《ブラック・マジシャン・ガール》が、今は相手の支配下に置かれ、あまつさえトゥーンモンスターに姿を変えているのだ。過去にペガサスとデュエルをした時も似たようなことをされていたため、悔しさもひとしおだ。

 

「バトルフェイズは終わりですが、まだ私のターンは終わりではありません。

 メインフェイズ2で、このカードを発動させていただきましょう。出ておいで、ラブリーでファンキーな仔猫さん!」

 

 

 

 

 

 ――《コピーキャット》!

 

 

 

 

 

「なっ!? そいつは……!」

 

 《トゥーン・キングダム》の中から飛び出す、胴長の猫。それは甲高い声で鳴きながら、あんじゅの周りをグルグルと回る。

 

「このカードは、自分フィールドに《トゥーン・ワールド》とトゥーンモンスターが存在する場合のみ発動できるカード。

 相手の墓地に存在するカードを対象として、モンスターなら特殊召喚。魔法・罠ならセットすることができるのです。

 いたずら好きな仔猫さん、今度はどんな姿になりたいのかな?」

 

 彼女の耳元で、何かを囁くいたずら猫。あんじゅは数回頷くと、楽しげに笑みを浮かべた。

 

「ふむふむ、それはGood Idea(良い考え)ですね! 挑戦者さん、仔猫さんは《命削りの宝札》になりたいそうです!」

「ッ! しまった……ッ!」

 

 いたずら猫は一直線にアテムのデュエルディスクへと迫り、墓地の中へと入り込むと1枚のカードを抜き出した。

 あんじゅの宣言通り、《命削りの宝札》を。

 

「そして、セットした《命削りの宝札》をそのまま発動! 今、私の手札にカードはありません。よって3枚のカードをドローっ!」

 

 アテムから奪取した《命削りの宝札》は、『発動後』に相手へと与える全てのダメージが0になる誓約を持つ。だが、バトルフェイズ終了後に発動することでデメリットはほぼ無くなる。

 

「《命削りの宝札》を発動するターン、特殊召喚を行なうことは不可能。しかし、挑戦者さんと同じく私が引いたカードの中にモンスターカードはありません。

 まずは2枚目の《マジック・ガードナー》を発動です。今度は《コミックハンド》を1度だけ破壊から守らせて頂きましょう」

 

 《コミックハンド》が淡い光に包まれ、《トゥーン・キングダム》と同様に破壊は困難となる。

 せっかく手に入れたモンスターを意地でも返したくない、ということだろうか。

 

「続いて、伏せ(リバース)カードを2枚セット。これで私の手札からカードはなくなり、《命削りの宝札》のデメリットで手札を捨てる必要はありません。

 最後に《トゥーン・仮面魔道士》を守備表示に変更することで、第3幕は終了でございます」

 

 《トゥーン・仮面魔道士》

 ATK900 → DEF1400

 

「くっ……!」

 

 攻撃を防ぎ、多少は安心できたかと思いきや、状況は更に悪化していた。

 《一族の掟》で攻撃を封じているが、あくまで封じているのは魔法使い族モンスターの攻撃のみ。他の種族のモンスターを召喚されればその時点で防御は突破される。それ以前に、《サイクロン》のようなカードで破壊されればお終いだ。

 しかも、万が一に備えて《トゥーン・仮面魔道士》を守備表示に変更するという抜け目の無さ。

 

(だが、まだ手はある!)

 

「このエンドフェイズに、俺は罠カード《苦紋様の土像》を発動!

 こいつは、発動後にモンスターカードとなる永続罠。守備表示で特殊召喚だ!」

 

 《苦紋様の土像》(罠モンスター)

 ☆7 地属性 岩石族 DEF2500

 

 6本脚ではあるものの、蜘蛛に似た土製の像。その高い守備力は並大抵のモンスターの攻撃を防げるだろうが、あんじゅが操るトゥーンモンスターは直接攻撃能力を持つため、意味を成さないはずである。

 

「そして、俺のターン! このスタンバイフェイズ、俺のフィールドに存在する裏守備モンスター1体を生け贄に捧げることで、《一族の掟》を維持する!」

 

 『リリース』ではなく『生け贄』という古い用語を使用したアテムに対して観客はおろか、あんじゅが疑問符を浮かべるが、彼はそのままプレイを続行する。

 裏守備表示で召喚されていたモンスターが糧となり、あんじゅのモンスターたちの動きを再び封じ込める。

 

「この瞬間、生け贄となった《サクリボー》のモンスター効果発動! このモンスターがあらゆる方法で生け贄となった場合、カードを1枚ドローする!」

 

 背中に大きな眼がついた、短く鋭い手足を持った小さな悪魔。可愛らしい鳴き声を上げると同時、アテムは新たにカードをドローした。

 

《なんということでしょう! マイナーな攻撃抑制カードである《一族の掟》! その維持コストをドローに繋げた! あんじゅの鉄壁コンボに負けず劣らずのコンボだー!》

 

 汎用性はほぼ皆無に等しいコンボ。しかし、非常に珍しいコンボを披露した彼に対して、僅かながらの感嘆の声と拍手が響く。

 

「まだだ! 俺はフィールド上のレベル7モンスター、《苦紋様の土像》を除外することで、伏せていた魔法カード《七星の宝刀》を発動するぜ!」

 

 次元の彼方へと飛ばされていく土像。

 あんじゅはその姿を見つつ、『なるほど』と心中で呟いた。

 

(壁モンスターとしても強力な《苦紋様の土像》を、《七星の宝刀》の発動コストにしたのね。

 いえ、それだけじゃない。あの罠モンスターが存在する限り、魔法・罠ゾーンのカードがモンスターゾーンに特殊召喚された時、フィールド上のカード1枚を破壊できる。

 最初のターンに墓地に送ったチューナーモンスター《破壊剣-ドラゴンバスターブレード》は魔法・罠ゾーンからモンスターゾーンに特殊召喚できるから相性が良いし、レベル8のシンクロ召喚にも繋げられる。

 ふふっ。他にもコンボを考えているのかしら?)

 

 思考を続ける彼女の方から、伏せ(リバース)カードが発動されることはない。それを確認したアテムの瞳に光が宿った。

 

「チェーンするカードがないなら、俺は手札から速攻魔法《非常食》をチェーン発動させて貰う!」

 

 発動された《七星の宝刀》共々、装備魔法《バウンド・ワンド》の合計2枚が墓地へ送られていく。

 《非常食》は、発動コストとして墓地に送った魔法・罠1枚につきプレイヤーのライフポイントを1000回復させる速攻魔法。

 2枚のカードを墓地に送ったことにより、アテムのライフは2000ポイント回復する。

 

アテム LP1800 → LP3800

 

 《トゥーン・ブラック・マジシャン・ガール》

 ATK2600 → ATK2000

 

 半分を切っていたライフポイントが、初期値近くまで一気に回復。

 熱狂する者、残念そうにする者、安堵する者。観客の反応は様々だ。

 

「最後に、《七星の宝刀》の効果で新たに2枚のカードをドローするぜ!」

 

 フィールドに残り続けるカードでなければ、カードの発動から効果解決するまでに墓地へ送られても、効果は有効。更に、コントロールを奪われたモンスターを強化していた装備魔法も処理。

 お手本のような《非常食》の活用法に、感嘆の声が辺りから漏れ出ていた。

 

《これは上手い! ライフポイントはほぼ元通り、手札も3枚! 見事なコンボです!》

 

 ツバサの実況と共に盛り上がる観客の声を聞きつつ、アテムは3枚の手札のうち1枚に手をかける。

 

(このカードで、活路を開く!)

 

「俺は、墓地から光属性モンスター《ワタポン》と、闇属性モンスター《破壊剣-ドラゴンバスターブレード》をゲームから除外する!」

 

『ッ!』

 

 光と闇を糧とする特殊な召喚方法を持つモンスターは、数える程しか存在しない。

 周囲の人々がざわめく中、混沌の戦士が降臨する。

 

 

 

 ――来い、レベル8! 《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》!!

 

 

 

 《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》

 ☆8 光属性 戦士族 ATK3000

 

 蒼と金の鎧を纏う屈強な戦士に睨めつけられたトラピーズ・マジシャンが、一瞬怯む。

 装備カードによって『破壊』されない彼を打ち倒す方法を開闢の使者は有しているからだ。

 

 

 

 既にステージ袖へと戻っていた英玲奈は、よくぞ現状打破を可能とするカードを引き当てたものだと感心していた。

 

(なるほど。開闢の使者は1ターンに1度、攻撃を放棄することでフィールド上のモンスター1体を除外する効果を持っている。

 《ガガガシールド》の効果で守られているトラピーズ・マジシャンも、『除外』の前では無力。これで時間を稼ごうという腹積もり、か。

 だが甘いな。この程度であんじゅの防御は崩せない)

 

 

 

「ふふ、手札1枚から出てくるモンスターとしては相変わらず規格外の強さですね。

 ならば、効果を使われる前にご退場願いましょう。

 伏せ(リバース)カード、発動♪

 

 

 

 

 

 ――罠カード《トゥーンのかばん》!

 

 

 

 

 

 開闢の使者が、その剣を構えようとした瞬間。彼の目の前に、突如トランクケースの怪物が姿を現した。

 

「《トゥーンのかばん》は、私のフィールドにトゥーンモンスターが存在する場合に、相手がモンスターを呼び出した時に姿を現すかばんのお化け。

 舞台を彩る奇術師にイタズラをする意地悪な騎士(ナイト)様には、『デッキ』に戻って頂きましょう♪」

「デッキに戻すだと!?」

 

 『破壊』や『除外』、『手札に戻す』など、モンスターを除去する方法は無数に存在する。しかし、その中でも『デッキに戻す』という除去方法は特に強力だと言われている。

 狙った構築をしない限りデッキの中から特定のモンスターを呼び出す方法はほぼ存在せず、再召喚にはかなりの手間がかかるからだ。

 

(しかも、奴の口ぶりから察するにこの罠カードはモンスターを対象に取っていない。

 間違いなく、最強クラスのモンスター除去カード!)

 

 やがて、トランクケースに飲み込まれた開闢の使者は、ただのカードへと姿を変える。悔しげに顔を歪めるアテムは、手に取ったカードをデッキに戻し、オートシャッフル機能を作動させた。

 

「くっ……! 俺は伏せ(リバース)カードを2枚セットして、ターンエンドだ!」

 

(後は、この2枚に懸けるしか――)

 

 

 

 ――エンドフェイズに、永続罠《リビングデッドの呼び声》を発動っ!

 

 

 

「ッ!?」

 

 だが、彼の希望を奪うかのように、あんじゅは新たなカードを発動する。

 

「ふふっ。せっかくですので、挑戦者さんと同じことをさせて頂きましょう。言わずと知れたその効果により、私の墓地に存在するモンスター1体を対象として特殊召喚します。

 選択するのは、トゥーンモンスターの中で最も高い攻守を持つ機械の巨人、《トゥーン・アンティーク・ギアゴーレム》!」

 

 《トゥーン・アンティーク・ギアゴーレム》(トゥーン)

 ☆8 地属性 機械族 ATK3000

 

「攻撃力、3000……!」

 

 大きな瞳を爛々と輝かせ、エンジン音を自らの口から発する機械の巨人。

 他のトゥーンモンスターと同様コミカルな姿だが、攻守ともに3000という脅威はアテムを戦慄させる。

 

《あんじゅ、ここで【トゥーン】最強の切り札を召喚したーっ! 相手ターンに特殊召喚したため、《トゥーン・アンティーク・ギアゴーレム》は次のターンで攻撃が可能!

 挑戦者、万事休すか!?》

 

 

 

 そして、あんじゅはステージ上にのみ聞こえる程度の声でアテムへと話しかける。

 

「とっても可愛くて珍しいモンスターと、面白いコンボを見せてくれてありがとう、アテムくん。

 だけど、楽しい舞台ももうお終い――」

 

 

 

 ――さぁ、舞台の幕を下ろしましょう。

 

 

 

●次回予告という名のネタバレ

 

 

 

 《ブラック・マジシャン・ガール》を奪われ、カオス・ソルジャーもデッキに戻した【トゥーン】の力を前に、絶体絶命のアテム。

 なんとか《一族の掟》で攻撃を防いでいたのに、あんじゅが召喚したのは攻撃力3000の機械族モンスター! 全ての攻撃が通らないのに、あんな強力なモンスターにどうやって立ち向かえばいいの!?

 だけど諦めちゃダメ! 相手がどれだけ強くても、可能性はデッキの中に眠ってる! にことお婆さん、2人から貰ったカードの力を今こそ使う時よ!

 

 次回、『蘇りし絆』

 

 デュエルスタンバイ!

 




【現在の戦況】
《アテム》
LP :3800
手札:なし
場 :《一族の掟》(魔法使い族を宣言)
   《伏せ》
   《伏せ》

《あんじゅ》
LP :4000
手札:なし
場 :《トゥーン・仮面魔道士》守
   《Emトラピーズ・マジシャン》攻(ORU 1)
   《ブラック・マジシャン・ガール》攻(トゥーン扱い)
   《トゥーン・アンティーク・ギアゴーレム》攻

   《ガガガシールド》(トラピーズ・マジシャンに装備)
   《コミックハンド》(BMGに装備、カウンター 1)
   《リビングデッドの呼び声》(ギアゴーレムを対象)

   《トゥーン・キングダム》(カウンター 1)

要するにあんじゅは、

・現在ノーダメージ
・トゥーンモンスターは相手の効果対象にならず、破壊されない
・2500以下のダメージは一切通らない
・トラピーズ・マジシャンは2回まで破壊されない
・仮にトラピーズ・マジシャンを破壊しても後続の「Em」が出てくる
・《トゥーン・キングダム》は1度だけ破壊されない
・アテムからBMGを奪ってトゥーン扱いにする(New)
・《コミックハンド》は1度だけ破壊されない(New)
・仮面魔道士とBMG、トラピーズ・マジシャンは攻撃できない(New)
・ギアゴーレム(ATK3000)が直接攻撃できる(New)
・リビデが場を離れてもキングダムの効果でギアゴーレムは破壊されない(New)

こんな感じとなっています。あんじゅさん超怖い。
アニメでこれやったら大抵の人が間違いなく何もできずに負けると思う。

ブラマジガールが召喚された瞬間に、《コミックハンド》で奪われる展開を予想できた人もいるのではないでしょうか。

あんじゅのEXデッキがトラピーズ・マジシャン1枚だけになっている理由は、
『「トゥーン」と「Em」を使うイベントやるよ!』って言いながら汎用ランク4で蹂躙しないためだったりします。
ライトニングとかカステルとかダイヤウルフとか……。
やっぱりランク4は頭おかしい。


「VS花陽&凛」や「VSにこ」よりも短いデュエルとなりますが、次回決着です。
原作・アニメ以上に強力な【Emトゥーン】をどのようにして倒すのか、ご期待ください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。