デュエル塾でのデフォルメ姿に笑い転げたレモンジュースです。
皆様いかがお過ごしでしょうか。
前回の最後に、今回にことのデュエルを開始すると書きましたが、
実際に書いてみて16000字超えという予想以上の文字数となってしまったため、
分割での投稿となります。
一応、後半部分もあまり時間を空けずに投稿できる予定です。
それでは、どうぞ。
●『アイドル研究部』の真実
穂乃果たちが『アイドル研究部』を追い出され、『ロボット研究部』へと帰還してから15分後。
現在、この部室内には白パカを除いた
「なんで貴女がいるのよ、東條さん」
「カードが告げたんよ、この時間に『ロボット研究部』に来るべきやって」
既に白パカは、『我が残っていては狭くて話ができないだろう』と言って戻っていったのだが、それと入れ替わるように希はやって来た。まるで、穂乃果たちが『アイドル研究部』へ赴き、追い出されることを知っていたかのように。
なお、最初に『詰め込まれている』と表現したのは、全員が窮屈そうにしているからだ。元々この部室は機械類が溢れかえっているせいで5人程度しか入らない。そこへ9人も入室しているのだから、窮屈なのは当然だ。
白パカが常々指摘しているように、本格的に片付けをした方が良いのかもしれない。
「……そろそろ大丈夫かしらね」
唐沢は隣の部室、そして廊下から人の気配が無くなったことを確認すると、ようやく口を開いた。
にこのことを勝手に語る以上、本人が近くにいる時に話を始めるのは良くないだろう、という判断だ。
そうして語られるにこの過去。これには穂乃果たちも驚きを隠せなかった。
「にこ先輩が、スクールアイドル?」
「ええ。もっとも、既に他のメンバーがいない『元』スクールアイドル、だけどね」
穂乃果たちも『アイドル研究部』の中に入った際、アイドルグッズが所狭しと並んでいたことが大きく印象に残っている。
具体的には――、
『A-RISE』を始めとしたスクールアイドルのCD(通常版+限定版)やポスター、ストラップなどのグッズ。
花陽曰く「販売開始から即完売のため、プレミア価格がついている」というDVD-BOX『伝説のアイドル伝説』。
また、正確にはアイドルではないものの、秋葉原で圧倒的な人気を誇るカリスマメイド・ミナリンスキー及びカリスマ執事・プラシドのサイン。
どれも生半可な熱意では集められないものばかり。余程アイドルが好きだということはすぐに理解できたが、まさかにこ自身がスクールアイドルだったとは。
「ですが唐沢先輩、音ノ木坂学院にスクールアイドルがいたのなら、何故今まで話題に挙がらなかったのでしょうか」
「良い質問ね、園田さん」
海未言う通りである。もしも穂乃果たちが入学する前から音ノ木坂学院にスクールアイドルがあったのならば、どこかに情報が残っているはずだ。それがないということは、にこの代で始まり、1年も経たずに潰えてしまったことになる。
「始まりは2年前。矢澤さんは音ノ木坂学院に入学してからすぐに『アイドル研究部』を作るために行動を開始したわ。
当時からスクールアイドルは一定の人気を誇っていたし、部員はすぐに5人集まった。
ここまでは良かったんだけどね……」
部室が隣同士である以上、お互いの部の変化がよく分かる。当時の辛さを思い出すかのように、唐沢は続きを語った。
「あのアイドルグッズの数々を見ればわかったと思うけど、彼女のアイドルへの想いはとても強い。憧れることはもちろん、ランキング上位に食い込もうと、努力も怠らなかった。
小泉さんならわかるわよね。結成したばかりのスクールアイドルがランキング上位を目指すことの難しさが」
「……はい。現在ランキング1位の『A-RISE』も、その練習量はプロのアイドルに負けず劣らずだという話を聞いたことがあります」
『μ’s』もランキング上位に入ることで音ノ木坂学院に興味を持ってもらうために、毎日の練習をほぼ欠かしていない。きっとにこも自分たちと同じ……いや、もしかしたらそれ以上の練習をしていたのかもしれない。
「でも、ある日部員の1人が言ったの。『アタシは別に頂点を目指す気なんてない。もう矢澤さんには付いていけない』って」
「何それ、ふざけた人たちね。アイドルが好きで、矢澤先輩の想いに賛同してスクールアイドルになったんじゃなかったの?」
スクールアイドルへの想いに、ズレがあったのだろう。その少女の退部を皮切りに、残りの部員も辞めていき、にこ以外の部員は全員いなくなってしまったのだそうだ。
もしも音ノ木坂学院に『部員が5人以下になった場合は即刻廃部』という校則があったのならば、その時点で『アイドル研究部』は廃部になっていたに違いない。
「『ロボット研究部』は上級生の引退がきっかけで私1人になったから何も言われなかったけど……、この辺りの話は、東條さんが詳しいわね」
唐沢がチラリと目配せをすると、希は『ようやくウチの出番か』と言わんばかりの表情を浮かべ、話し始めた。
「リコちゃんと違って、にこっちの場合は部員同士の不和。
部員が自主的に辞めていって1人になった部を存続させるよりも、廃部にして他の部に予算を回すべきではないかという意見は、何度も部の予算会議でも取り上げられた。
先生からも廃部にしてはどうかと提案されたことが何度かあったそうやで」
1人しかおらず、実績もない部に学校の予算を費やすよりも、人数が揃っている部に費やすべきという考えは、当然のこと。他の部が良い思いをしていなかっただろうということは想像に難くない。
「……だが、矢澤はそれを拒否した」
「ええ、その通りよ」
自分のことのように辛そうなアテムの声に、唐沢が答えた。
「矢澤さんは、頭を下げてまで部の存続を認めて貰った。その代わりとして、部費は『ロボット研究部』と違って一切なし。つまり、あの部屋中に詰め込まれたアイドルグッズは全て彼女の自費ということになるわね。
どう? これだけで矢澤さんがアイドルを心の底から好きだっていうことがわかるでしょう?」
「それだけやないで。今更の話やけど、にこっちは『μ’s』のファーストライブを隅っこで見ていたんよ。ビラ配りの時も遠くから眺めていたくらいやし、これって貴女たちに興味を持っていたからじゃないかな」
そう言えば、と穂乃果たちは思い出す。ファーストライブの動画が投稿された『μ’s』のページに、やたらダメ出ししてくるコメントが数日前に書き込まれていたことを。ついさっきも、にこは『アンタたちはキャラ作りができていない!』とケチをつけていた。
もしかしたら、あれはにこが書き込んだものだったのかもしれない。
降り続いた雨は、いつの間にか止んでいた。
それでも、少女たちの心は曇ったままだった――。
◆
翌朝。朝練を行なう『μ’s』の動きには普段通りのキレが無かった。
今日もいつものようにアテムがことりに吹き飛ばされていたのだが、大気圏外から放たれた砲撃を受けたにも関わらず、飛距離は2871m。近頃は3500mを超えていたため、あまり調子が出ていなかったことが伺える。
要するに、誰もが昨日希と唐沢から聞いた、にこの過去が気になっていたのだ。
「中々難しそうだね、にこ先輩」
「そう、ですね。アイドルへの熱意を私たちよりも強く持っている先輩にとって、私たちのパフォーマンスは納得できないみたいですし……」
独り言のように呟いたことりの言葉に、海未が答えた。
妥協を許さないとあっては、実力で認めさせるには一苦労である。
「やっぱり、真姫ちゃんが『普通』って言っちゃったのがまずかったんじゃないかにゃー」
「うっ……。でも、それは凛たちだって同じでしょ? アテム先輩たちと比べてしまったのは問題かもしれないけど」
今思えば、頑張って考えたのであろうポーズに対して『普通』という評価をしてしまったのも良くなかった。
無関心は、悪評価よりも人のプライドを傷つけるものである。
「それに、センパイと白パカさんの奇行のせいで警戒心を一層強くしているって話だし……」
ファーストライブの翌日に、既にアテムと白パカはアイドル研究部を訪れたことがあるそうだ。詳細ははぐらかされたものの、それで失敗したことが『μ’s』をより警戒するきっかけになったに違いない。
「う~ん、そんなに難しく考えなくていいんじゃないかな?」
『え?』
珍しく会話に参加せず、考え込んでいるかと思っていた穂乃果は、そんなことを言い出した。
「だって、にこ先輩はアイドルが大好きで、私たちにも興味を持っているんだよね?
それなら、何かきっかけがあれば上手くいくような気がするんだけどなぁ」
「具体性に乏しいですね。まぁ、穂乃果にとっていつものことですが」
「むぅ、海未ちゃんひどい」
「……でも、穂乃果ちゃんの言う通り、難しく考えたところで妙案が出るわけでもないよね」
そろそろ、彼の意見も聞いてみようか。誰かがそう思った時――
「くっ……! まさか落ちた先が水溜まりになっているとはな。おかげで泥水も滴るかっこいいアテムさんだぜ!」
当の本人は泥水まみれになって戻ってきた。汚れ具合を見る限り、下着も濡れているのだろう。だが、大量の水分を含んでいるはずの頭髪は原型を保っており、彼の謎がまた1つ増えてしまった。
(どうしよう、センパイの奇行に驚かなくなってきてる)
(もう、凛たちはあの頃に戻れないんだね)
自らに小さなショックを受けている花陽と凛のことにも気づかず、アテムたちは会話を続けていた。
「……皆、どうしてそんなに離れているんだ。話しにくくないか?」
2m以上の距離をとっている状態で、だが。
いくら仲間だからといって、穂乃果たちは普通の女子高生。泥水まみれの男子へと積極的に近付こうと思うはずがない。
水溜まりがある場所へと吹き飛ばしてしまったことりは苦笑いを浮かべているが、彼女を怒らせたのはアテムなのだから、結局のところどっちもどっちである。
「あ、そういえば!」
アテムが泣き出しそうになったところで、穂乃果は何かを思い出したかのように声を上げた。
聞けば、今の状況は穂乃果とことりが海未と知り合った時と似ているらしい。
それは、今から10年前。
近所の友達同士で公園に集まって、デュエルをしていた時のこと。
――バトルだよ! ことりは《RR-サテライト・キャノン・ファルコン》で《ジェムナイトマスター・ダイヤ》を攻撃!
エターナル・アベンジッ!!
――うわ~ん! また負けたぁ~!
――おお~! またみなみが勝ったぜ! さっすが
――その一方で、こうさかは5連敗、随分と差がついちゃって悔しいだろうねぇ。
穂乃果たちが仲良くデュエルをしている姿を、海未は遠くからじっと見つめ続けていたらしい。
『一緒にデュエルがしたい』という想いを持っていたものの、『恥ずかしさ』と『負けてバカにされたらどうしようという恐怖』が入り混じり、彼女はその場に立ち尽くしていた。
そんなある日、海未に気付いた穂乃果が、半ば強引に彼女をデュエルに参加させたのだそうだ。
――わ、わたしは《
――ま、負けちゃった……。うみちゃん、強いんだね!
――おぉ~。うみちゃん凄い! 1番強いことりちゃんに勝っちゃった!
――『じょてい』を倒すだなんて、えらいハリキリガールがやって来たぜ!
「……なるほどね。つまり、矢澤先輩は恥ずかしがっているだけで、『真正面から仲間になって欲しいと伝えればなんとかなるかもしれない』って認識でいいの?」
「うん、そんな感じかな」
余程心に残っていたのだろう、穂乃果は当時の様子を一連の会話からデュエルの流れまで、全てを赤裸々に語り尽くした。
なお、恥ずかしい記憶を暴露された海未は、遠くで膝を抱えてしまっていた。
「奴は恐れているはずだ。かつての仲間が矢澤から離れていったように、同じことがまた起こってしまうのではないかと。
だが、俺は知っている。穂乃果たちは『音ノ木坂学院を守りたい』という強い決意を抱いて集まったことを。そして、仲間を決して見捨てることのない『絆』で結ばれていることを。
奴に見せてやろうじゃないか」
――俺たちの本気をッ!!
「それはさておき、アテムさん。その服は授業前に必ず着替えてくださいね」
「…………はい」
(センパイって、たまにかっこいいことを言うのに……)
(どうしてこうなのかなぁ)
結局、その日は体育の授業があったことから、アテムは体操服姿で授業を受けることになる。
昼休みが終わる頃にはなんとか乾ききったのだが、午前中に行なわれた体育を除く3つの授業を『半袖半ズボン+ヒトデ頭』で受ける光景は、教師とクラスメイトから集中力を奪うには十分すぎる
●矢澤にこと唐沢久里子
(あいつら、今日も来たりしないわよね……)
突如部室に乗り込んできた『μ’s』を追い返してから翌日の朝。矢澤にこは、教室で昨日のやり取りを思い出す。
――普通。
弟妹も絶賛してくれる『キャラ作り』を普通とか地味とかいう評価を下した6人の後輩、やはり解散させておくべきだったかと今更ながらに後悔していた。
実を言うと、『μ’s』のファーストライブが行なわれた当初は、様々な手段を用いて解散させてやろうと考えていたのだ。しかし、翌日に乗り込んできたヒトデ頭と喋るアルパカのせいで、不測の事態でもない限りは関わらないようにしようと心に決めていた。
出合い頭に『合体しようぜ!!』などというセクハラ発言をしてきた男に近寄ろうと考える女子がどこにいるだろうか。
その決意から約2週間。何の接点もなかったはずの『μ’s』は、『アイドル研究部』が抱えている事情を知ったうえで乗り込んできた。
『μ’s』は正式な部として認めて貰うために。『アイドル研究部』は人数を確保して廃部を免れるため、どうにか合併できないかと言っていたのだが、一般生徒が部員の人数や廃部寸前であることを知る機会など無いはずだ。
それが意味することはつまり、『アイドル研究部』の実情を知る誰かが彼女たちに伝えたということ。
(怪しいのは、唐沢よね)
練習場所を提供しているという希もそうだが、より怪しいのは隣の『ロボット研究部』部長である唐沢だ。
よくよく思い返してみれば、近頃は唐沢と『μ’s』のメンバーが仲良く飼育委員の手伝いをしているという話を小耳に挟んだような気がする。
希以上に『μ’s』と関わっていることが確認できる以上、これはもう唐沢がけしかけたと考えて間違いない。
(放課後にでも、問いただしてやるわ……!)
◆
そして放課後。にこは、飼育小屋へと向かおうとしていた唐沢を自分の部室へと連行していた。
「矢澤さん、どうして私は『アイドル研究部』に連れ込まれているのかしら?」
「ふん、とぼけたって無駄よ。2週間前と昨日、あいつらをけしかけたのはアンタなんでしょ? この上なく迷惑だったんだけど。
特に、あのセクハラヒトデ頭。奴のせいで私は苦労してるの。
こころからも『お姉さま、最近何かあったのですか』って心配されるくらいにね」
苛立ちが籠められた表情から、かなりの迷惑を被ったことが伺える。ある程度の一般常識を持っているにこにとって、奇行が目立つアテムや、それに毒された穂乃果たちの行動・言動は理解できないのだろう。
「し、小学生の妹さんに心配されるってのは相当ね。
でも、確かに私は『アイドル研究部』の存在を教えたけど、高坂さんたちがここを訪れるのは時間の問題だったと思うわよ。
私が教えなくても東條さんあたりが口を出していたはずだし。ほら、彼女がアルバイトをしている神社で『μ’s』が練習をしていることは貴女も知っているでしょ?」
「それはまぁ…………あっ!」
うっかり口を滑らせたにこだが、もう遅い。神田明神が朝練の場所となっているのは、『μ’s』の関係者しか知らない。それを知っているということは、何度か練習を覗いたことがあると言っているようなもの。
「私のところもそうだけど、廃部を免れるためには早いとこ部員を4人以上集めないと危ないわよ。朝練を覗くくらい興味があるのなら、仲間になってしまえばいいんじゃない?」
「……うるさいわね。あいつらは、アイドルのことを丸っきりわかっていない。そんな輩と肩を並べるなんて、できるはずが――」
――コンコン
「早速来たみたいよ、矢澤さん」
「ちっ。性懲りもなく……!」
噂をすればなんとやら。にこの言葉を遮るように、ドアがノックされた。
追い返してから1日しか経っていないにも関わらず、よく飽きないものだ。
「はいはい、何度来たってお断りよー」
仏の顔も三度までという諺もあることだし、今度は怒鳴りつけてでも追い返してやろう。投げやりな口調でドアを開け――
「我が名は――」
――バタンッッッ!!
……。
「ねぇ、矢澤さん。今のってアテムくんじゃなかった?」
「いいのよ別に。あんなヒトデ頭のセクハラ男」
微妙に予想外の人物、アテムであった。
他のメンバーだったら多少の文句を言って追い返していたところだが、彼に対して会話は不要。関わるだけ時間の無駄である。
(仕方ない、今日も窓から脱出を――)
――話も聞かずに閉めるだなんて……。お姉さま、いったいどうしたのでしょうか?
「…………は?」
聞き慣れた声がドアの向こうから聞こえた瞬間、にこの意識は一瞬だけ飛んでいた。
それは幼い少女の声であり、決して男性が出せるものではない。
もしやと思い、ドアノブを握る。疲れから出る幻聴であったなら、また閉めれば良いのだ。
ドアノブを回し、再びドアを開けた先。正確には視線を少し下げたところに――
「遊びにきたよ、お姉ちゃん!」
「ここあ、私たちは遊びに来たのではありません。お姉さまを励ましに来たのですよ?」
「きたー」
「こころ、ここあ、虎太郎まで!? どうして音ノ木坂に!?」
聞き慣れた、なんていうものではない。にこの妹、こころとここあ。そして弟の虎太郎が仲良く並んでいた。
「まさか、アンタが攫ってきたんじゃないでしょうね!?」
「ふっ、何を勘違いしているんだ。このかしこいかっこいいアテムさんが、警察の世話になることをするはずがないじゃないか」
「矢澤さん、そもそもアテムくんが貴女の家を知っているはずがないでしょう?」
「……それも、そうね」
唐沢の言う通り、にこは他人に自分の家を教えたことなど無い。こころたちも嫌がっていないのだから、2人の言葉は真実なのだろう。
しかし、実際のところアテムはこの世界に来てすぐに1度だけ警察のお世話になったことがあるのだが、それを彼女たちが知ることはない。
「突然すみません。でも、最近は何をするにも上の空になっているお姉さまが、私たちは心配だったのです」
「こころ……」
まさか、学院にやって来る程に心配をかけているとは思わなかった。自分は素晴らしい弟妹を持ったと感動すると同時に、
「そして校門の前で立っていたところを俺が案内したのさ。わざわざ学校まで来るなんて、いい妹たちじゃないか、矢澤」
(原因はアンタよ……!)
空気の読めないセクハラヒトデ頭にイラッとした。
とにかく、学校行事が無いのに弟妹を家に帰さなくてはならない。にこがそう考えたところで、突如巨大な爆弾が投下された。
「というわけで、今日はお姉さまのアイドル活動を近くで応援させてください!」
「……え?」
背筋が、凍りつく。
スクールアイドルは2年前に瓦解しているのだから、アイドル活動なんてしているはずがない。
やっていることと言えば、せいぜい1人カラオケと、ゲームセンターのダンスゲームに興じている程度。
今すぐダンスを見せて欲しいと言われたところで、こころたちが期待するようなものは見せられない。だから――
「ご、ごめんね? 他の部員は家の用事で集まらなくて、今日の部活動は無しにする予定だったの」
このような酷い嘘をついてしまった。
2年間、スクールアイドルとして活躍していると言って騙してきたのに、更なる嘘をつく自分に嫌気が差す。
「そう、なのですか……」
ダンスが見られないことに、こころは小さなショックを受けているようだが、『2年前に部員はいなくなった』などと言って失望させてしまうよりずっと良い。…………そのはずだ。
しかし、落ち込んでもいられない。セクハラヒトデ頭が再びやって来た以上、この後もすぐに他のメンバーが乗り込んできてもおかしくない。ならば、その前にこころたちを連れて帰宅しよう。
そんな考えが頭を過ぎった時――
――矢澤にこ、俺とデュエルだ。
再び、爆弾が投下された。
「なっ!? アンタ、何を勝手に……!」
「いいんじゃない、矢澤さん。だって、妹さんたちは貴女のアイドル活動を見学するために音ノ木坂まで来たのでしょう? だったら、何もなしで帰らせるのはもったいないと思わない?
こころちゃんたちも、お姉さんのデュエルを見てみたいよね」
唐沢に話を振られたこころたち3人は、全員が喜んで賛成した。デュエルモンスターズについての知識は浅くとも、デュエルを愛する心に年齢は関係ない。
しかも、にこは『自分は学院No.1の実力』だと常々語ってしまっていた。その実力を見てみたいと感じるのは当然のことであり、3人とも目を輝かせていた。
そんな期待に満ちた目で見られてしまっては――
「わ、わかったわ。『音ノ木坂学院No.1』のスーパーアイドル、矢澤にこちゃんがかっこ良く勝利を収めてみせるから、期待してなさいっ!」
拒否など、できるはずがない。
「音ノ木坂学院で1番強いお姉さまなら、絶対に勝てますよねっ!」
「こんな変な髪の人、けちょんけちょんにしちゃって!」
「がんばれー」
そもそも、デュエルの申し出を断ることは、デュエルモンスターズを嗜む者として最も恥ずべきこと。
最初から、選択権は無いに等しい。
(仕方ない。『A-RISE』の綺羅ツバサと互角のデュエルを繰り広げたって噂もあるけど、日常的に南ことりに吹っ飛ばされているって話が出ている以上、そんなものは嘘っぱち。
瞬殺してやろうじゃない……!)
弟妹が憧れるスーパーアイドルとして、にこは笑顔を絶やさない。しかし、その胸中には眼前の敵を倒すため、激しく熱い闘志が燃え滾っていた――。
デュエルが始まる後半部分は、今日明日中には投稿させていただきます。
もう少々お待ちください。