ラブライブ!DM   作:レモンジュース

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 今回はデュエル無し、タイトル通りの内容です。ついでにオリキャラ無双。
 アテムさんが、本当に『誰だお前』状態になっているけど、もう今更である。
 にこのデュエルは次回の後半以降になるかと思います。
 早いとこ『μ's』に加入させて、アテムたちが繰り広げるカオスに染めてあげたいものです。

 それはそうと、《バスター・ブレイダー》の強化が来ましたね。
 融合体もサポートカードも中々優秀で満足です。
 ☆1のチューナーが来たってことは☆8シンクロも出るということですよね?
 効果判明が今から楽しみで仕方ありません。

 それでは、本編をどうぞ。



キャラ作りなど必要ない

●新たな日常

 

 

 

 小泉花陽、そして星空凛。新たに2人の1年生が『μ’s』に加わって翌朝。飼育委員である花陽は、1週間ぶりに飼育小屋へと向かっていた。

 

 土日を挟んだとはいえ、委員の業務を放棄するというのは、本来ならばよろしくないことである。図書委員や放送委員などと違い、動物の命に関わる飼育委員であるならば尚更。

 そのため鍵を借りるために職員室に立ち寄った際、顧問の先生に謝罪をしたのだが、特にお咎めもなく、むしろ気にしないで良いとまで言われた。

 なぜ、と疑問に思って詳しく聞いてみたところ、話が進むうちに『それも仕方がないのかもしれない』と納得してしまった。

 

 5日前、つまり新入生歓迎会が行なわれた日。『ロボット研究部』の部長が、白いアルパカにとある装置を取り付けてしまったことが原因らしい。

 

 渋い声で人語を介するばかりか、デュエルを行なうアルパカを前にして、進んで世話をしようと考える女子生徒がどれだけいるだろうか。

 花陽以外の飼育委員は、ショックで授業を休む程の被害こそ受けなかったが、『金輪際アルパカに近寄りたくない!』と言った者が3分の2。

 残りは『渋い声が素敵! デュエルして!』と言ってこれまでよりも積極的に世話をするようになったという。

 

 花陽自身、あのショッキングな光景から完全に立ち直れたというわけではない。

 だが、彼女は昨日のデュエルで自らを変えたいと願い、『μ’s』に入ったのだ。ならば、これは成長するための第1歩。

 それに、放課後には自分にとって初めての練習が始まるのだ。迷ったり、暗くなったりしてはいられない。

 

「……大丈夫、頑張れ私!」

 

 拳を強く握り、覚悟を決めた花陽は、いよいよ飼育小屋へと辿り着く。そこで待っていたのは――

 

 

 

 

 

【高坂穂乃果よ、貴様から借りた漫画を5巻まで読み終えたが、非常に楽しめたぞ。続きも是非借りたいのだが】

「任せておいて、白パカさん! 今日は15巻まで持って来たよ! いやぁ、面白いって言ってくれる同士が増えて良かったよ。アテムくんもそう思うよねっ?」

「ああ、流石は20年以上連載した作品なだけはある。この面白さは種族を超えるぜ!」

 

 

 

 

 

 漫画を読むアルパカ、それと談笑する2人の上級生だった。

 

 

 

「……」

 

 特に何もなく小屋の中にいるか、もしくはデュエルをしているか。

 そのどちらかだと思っていたのだが、これは予想できなかった。むしろ予想できる人などいるはずがない。

 

「あ、おはよう花陽ちゃん! そんなところに立ってどうしたの?」

【ふむ、貴様は確か常日頃から我らに食事を提供してくれた新入生ではないか。1週間ぶりだな】

 

 向こうもこちらに気付き、穂乃果は大きな声を出して手を振っている。

 白パカの方は花陽のことを覚えているらしく、1週間前まで頻繁に訪れていたことに対して恩義を感じているようだ。

 そしてアテムは涙を流しながら漫画のページをめくっていた。

 

「お、おはようございます……。み、皆さんは何をしていたんですか?」

 

 ここで逃げることなく、近付いて挨拶を返すことができたのは大きな成長といえるのではないだろうか。本人にとっては不本意かもしれないが。

 

「この漫画を白パカさんに貸してたんだよっ!」

「全50巻という長期連載、更にはドラマ化もされてる超人気漫画だぜ!」

 

 穂乃果とアテムが喜々として突き出してきた漫画。そのタイトルは――

 

 

 

「……ま、『万年筆 (ジン)さん』?」

 

 

 

 どこぞの国民的漫画とそっくりなタイトルだが、表紙を見る限り全くの別物のようだ。

 穂乃果が持っている第1巻には20代程のスーツ姿の男性が、アテムが持っている第10巻には同じくスーツ姿の、今度は30代の男性が描かれている。

 

「これはね、去年まで『週刊ヤングステップ』で連載されていた、とある商社で働く野川(のがわ)(ジン)さんの入社から退職までを描く漫画なんだよっ!」

「上司からのパワハラ、不況の煽りを受けた倒産の危機。そして迫り来るライバル会社による乗っ取り計画。他にも色々な困難を乗り越え、幸せを掴みとっていく(ジン)さんの姿は何度見ても感動するぜ!」

【我はまだ5巻までしか読んでいないが、第34話で『俺は、部下を誰1人見捨てねぇ! 来いよ、俺の本当の力を見せてやる!!』と叫ぶ(ジン)殿の勇姿には思わず涙を流したものだ】

「そ、そうなんですか……」

 

 普通の女子高生ならまず読まないであろうタイトルの漫画をなぜ穂乃果が人に勧めているのか、とか。

 アルパカが漫画を読んで感動できるものなのか、とか。

 なぜアルパカが紙を汚さずに漫画を読めるのか、とか。

 主人公の台詞(セリフ)がどう考えても少年漫画じゃないか、とか。

 

 突っ込みどころは幾つもあるが、そんなことよりも彼女たちの背後、つまり飼育小屋の中で繰り広げられている光景が最も気になっていた。

 

 

 

 

 

「ちょっ! やめなさい黒パカ! 唾吐くなぁ!! なんでロボ研の私が世話しなきゃなんないのよぉおおお!!」

 

 

 

 

 

 干草まみれになった白衣の女生徒が、茶色のアルパカにじゃれつかれている。

 いや、干草だけでなく唾液も浴びているのだろう。このまま授業を受けてはいけないと言われる程の凄惨たる格好だ。

 

 確か、減ってしまった飼育委員の代わりに『ロボット研究部』の部長が飼育委員も兼任することになったという話を、つい先程先生から聞いたような気がする。

 

(…………助けてあげた方がいいのかなぁ)

 

 

 

 自由奔放(フリーダム)な人たちに囲まれたスクールアイドル活動、これが小泉花陽の新たな日常であった。

 

 

 

●今日のエリーチカ その2

 

 

 

 地域でも有名になっていることだが、音ノ木坂学院は今、『廃校寸前』という危機に瀕している。

 『廃校』という言葉を聞いた者は、誰しも『これも時代の流れか』とか、『仕方がない』と諦めてしまうことだろう。

 だが、この学院に通う生徒会長・絢瀬絵里は違う。生徒会長としての人一倍強い責任感、そして祖母も母も通った学院を守らなくてはならないという自負から、日夜廃校を阻止するための案を出し続けているのだ。

 そのため、絵里は他の学校の生徒会長よりも多忙な生活を送っている。

 そして今日もまた、早朝から理事長室へと赴いて廃校を阻止するための活動を認めて欲しいと頼んだのだが――

 

 

 

「どうして、理事長は認めてくれないのよ! 高坂さんたちの活動は黙認しているのに……!」

 

 

 

 この一言からも察することができるように、結果は『NO』である。

 どれだけ頼んでも、理事長は『生徒会として活動することは認められない』の一点張り。そのくせ、『μ’s』の活動には何も言わない。それどころか、『けっこう人気があるみたいじゃない』と褒めるような言葉まで出る始末。

 スクールアイドルなどというお遊びとしか思えない彼女たちの活動が認められて、生徒会が認められないというのはおかしいではないか。

 

「エリち、そんなイライラしてたら授業にも集中出来ないんとちゃう? もっとリラックスせなあかんよ」

「……ええ、そうね」

 

 いつも通りの表情と口調で茶化している親友、東條希。

 彼女がいなければ、絵里は日々の不満を周りにぶつけてしまっていたかもしれない。生徒会の会長と副会長という役職に関係なく支えてくれる希には、感謝してもしきれない。

 

「でも、まずはその卑猥な動きをしている両手を下ろして貰えないかしら」

 

 隙あらば胸を揉みしだこうとすることを除けば、だが。

 

 ともあれ、希の言う通りあと数分で朝のHR、そして1限目が始まる。

 廃校のことはひとまず置いておき、授業に集中しなければいけない。生徒会長がしかめっ面で授業を受けるというのは、あってはならないのだから。

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

「何よ、何見てんのよ……」

 

 そうして2人が雑談を交わし、生徒会室でカバンを回収して教室まで向かう途中。特別棟と本棟を結ぶ渡り廊下に差し掛かったところで彼女は現れた。

 『ロボット研究部』の唯一の部員にして部長、唐沢久里子。なぜか飼育委員も兼任することになったという彼女が、呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

 普段からボサボサの髪を更に乱し、制服の上から羽織った白衣を干草と唾液と泥まみれにして。

 

 

 

「ク……リコちゃん、それってもしかして白パカくんにやられたん?」

 

 唐沢に睨まれつつ、彼女への呼称を改めながら希は問いかけた。なぜ言い直したのか、その理由を絵里が知ることになるのはまだまだ先の話である。

 

「違うわよ。貴女も知っての通り、私はよくあのアルパカにワンキルされてるけど、デュエルモンスターズで唾液まみれになるわけないでしょ」

「せやな、確かに。となると、もう片方にじゃれつかれたってことかいな」

 

(え、アルパカがデュエルモンスターズ? なんで?)

 

 廃校を阻止するための案を模索しつつ、胃痛に悩まされている絵里は、つい最近この学院で飼育されているアルパカのうち片方がデュエルを始めたことを知らない。そのため、2人の間で交わされる会話に困惑してしまっていた。

 

「……ええ、正解。そういうわけだから、授業の前に運動部で使っているシャワーを借りたいのだけど、大丈夫かしら。

 絢瀬さん、聞いてる?」

「エリち、ぼーっとしてどないしたん?」

「えっ? ああ、ごめんなさい。そうね……」

 

 本来ならば、原則として、部室棟に備え付けられているシャワーは運動部以外の生徒が無断で使用することは禁じられている。しかし、朝からかなり汚れてしまった彼女を着替えただけで授業に出席させるのは憚られた。

 

「本当はいけないのだけど、仕方がないわね。先生には唐沢さんが授業に遅れるということを伝えておくわ」

「ありがとう、絢瀬さん」

 

 絵里からの許しを得たことに安堵した唐沢は、少し覚束ない足取りでシャワー室へと向かっていった。その背中から負のオーラが漂っていたのは、汚れとニオイのせいだけではないだろう。

 

 

 

「ねぇ、希。今この学院に何が起こっているのかしら?」

「多分、今はまだエリちが知る時ではないと思うよ?」

 

 

 

 完全にはぐらかされたが、希の言う通り本当に今はまだ知らないほうがいいのだろう。朝からこれ以上心身に負担をかけるのはよろしくない。

 一先ず、今日の昼休みは第2回『自分の胃痛をなんとかする会議』を開催しようと絵里は堅く心に誓うのだった。

 

 

 

●練習開始の宣言をしろ、穂乃果!

 

 

 

 そんなこんなで、放課後の屋上。

 雲1つない青空の下、『μ’s』のリーダー(仮)である穂乃果の前に、5人の少女と1人の少年が1列に並んでいる。

 

「それでは、新たに花陽ちゃんと凛ちゃんが加わった、新生スクールアイドル『μ’s』の練習を始めます!」

 

 たったの4人から始まったスクールアイドルも、今では7人。楽しいこと、賑やかなことが大好きな穂乃果にとって、仲間が増えるというのはこの上なく幸せなことである。

 

「ということで、点呼を取りたいと思います!」

「あの、穂乃果。ファーストライブの時もやったこととはいえ、それって必要なのでしょうか?」

「海未先輩に賛成ね。普通の練習をした方が有意義だと思うのだけど」

「何言ってるの海未ちゃん、真姫ちゃん! 皆が結束するために、必要なことだよっ!」

 

 少し頬を紅く染めて恥ずかしがる海未と真姫に対して、穂乃果は譲る気は一切ないらしい。

 こうなった穂乃果は梃子(てこ)でも動かないということは、長年の付き合いである海未とことりだけでなく、1ヶ月以上行動を共にしてきた真姫も良くわかっていた。

 

「ふぅ、わかりました」

「面倒だけど、仕方ないわね」

 

 渋々、といった感じで海未と真姫は了承。だが、その表情の中には若干の嬉しさが見え隠れしている。『結束』という単語に惹かれたのだろうか。

 ちなみに、他のメンバーは異論なしのようだ。

 

「じゃあ、行くよ! せーの――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「アテム!」「1!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………。

 

『ゑ?』

 

「まったく、アテムくんは仕方ないなぁ」

 

 穂乃果の号令に被さるように、自らの名前を叫んだアテム。相変わらず空気が読めない彼に対して、ブレイブクロー・レヴォリューション(物理)をお見舞いしなくてはならないと、ことりは1秒で戦闘態勢に移った。

 だがしかし、その考えは――

 

 

 

 

 

【15巻まで読み終えたぞ、高坂穂乃果……どうした貴様ら、何を固まっているのだ】

 

 

 

 

 

 紙袋(白パカ曰く漫画が満載)を首にかけ、扉を開け放った生命体によって霧散した。

 

「……白パカさん、貴方はなぜ屋上まで来たのですか?」

【高坂穂乃果に借りた漫画を返そうと思ってな。ああ、もちろん正面から入ったぞ。扉も我の口を用いれば簡単に開けられる】

 

 海未の質問に対して、白パカは平然と返答する。まるで、『貴様は何を言っているのだ』と言わんばかりだ。

 

 

 

 ――もう、アテムくん! 号令は私が『1!』って言ってから次は海未ちゃん! アテムくんは最後に『7!』って言うんだよ!

 

 ――それはすまない、穂乃果。次からは気を付けるぜ。とりあえず練習を……南、どうした?

 

 ――気にしないでいいよ、アテムくん。ちょっとタイミングを逃しただけだから。

 

 ――ふぅん。そうか、『タイミングを逃す』はデュエルモンスターズにおいて難解なルールの1つだからな。改めて復習しておくに越したことはないぜ!

 

 

 

「かよちん、この混沌(カオス)に慣れることが、スクールアイドルが通るべき試練なんだね……!」

「違うと思うよ、凛ちゃん」

 

 

 

 今日もまた、まともな練習はできそうもないのだろうなと予感する花陽であった。。

 

 

 

●今日の唐沢さん その2

 

 

 

 音ノ木坂学院は生徒数の減少により、廃校の危機に瀕している。それはつまり、各部活の所属人数も少なくなるということに繋がる。

 

 例えば、『ロボット研究部』。

 

 唐沢久里子が部長を務める、というよりも彼女1人しか所属していないこの部室では、基本的に機械類の動作音と、唐沢の動きに伴う音しか聞こえない。

 たまに聞こえるとしても、週に1度くらいのペースで訪れる、隣の『アイドル研究部』の部長や、生徒会副会長の声のみ。

 新年度になってからは人数不足のせいで『廃部』になるかもしれないと度々生徒会から通告を受けているが、唐沢にとってはいい迷惑である。

 2つ上の上級生が引退してからはずっと後輩が入らなかったからといって、3年生である唐沢が卒業するまであと半年以上残されているのだ。

 大して部費も貰っていないのだし、その日が来るまでは廃部は勘弁して欲しい。

 

(あの日まではそう思っていたんだけどなぁ……)

 

 しかし、約2週間前に音ノ木坂学院のスクールアイドル『μ’s』のファーストライブが行なわれた日。

 自分で撒いた種とはいえ、唐沢久里子の日常は大きく変化していた。

 

 

 

【まったく、相変わらず散らかった部屋だな。整理整頓をしておくべきだと言った我の言葉を忘れたのか?】

「人の部室で大量の漫画を積み上げているアンタにだけは言われたくないわよ。デュエルも終わったんだし、さっさと小屋に戻りなさいよ」

【ふん。外は雨が降っているのだから、その頼みは聞けんな。小屋で読もうものなら、高坂穂乃果から借りた漫画を濡らしてしまうではないか】

「だったら漫画を読むという選択肢を除外しなさいよ」

 

 

 

 主に、今現在『ロボット研究部』で平然と漫画を読みふけるアルパカ、通称・白パカのせいで。

 

 白パカに装置を取り付けてしまったことで飼育委員は半数以上が業務を放棄。その責任を取らされる形で彼女は飼育委員にも籍をおくことになったのだが、これが中々大変なのだ。

 餌やり、掃除、動物の健康状態の記録、他にも色々。インドア派のロボ研部長にとっては非常にキツい仕事ばかり。

 それでも現在まで続けていられるのは、白パカの友人である『μ’s』のメンバーがなんだかんだで手伝ってくれているからであろう。特に小泉花陽は元から飼育委員だったこともあり何かとアドバイスをしてくれる。彼女には感謝してもしきれない。

 

 また、唐沢は装置の動作チェックという名目で白パカと毎日のようにデュエルをするのだが、これが非常に強いのである。

 初デュエルではアテムに敗北したものの、自称デュエルキングをギリギリまで追い詰めたその実力は本物。校内でもあまり高い実力を持っていない唐沢は、一方的に蹂躙され続けていた。

 

 閑話休題。

 

 そして、たった今も1ショットキルをお見舞いした彼(?)は、高坂穂乃果から借りたという漫画を読みふけっている。

 笑ったり泣いたりする声がうるさいのでさっさと戻って欲しいのだが、このアルパカは全く聞く耳を持とうとしない。本当に困ったものである。

 

【ふぅ……。『万年筆 (ジン)さん』もあと5冊で最後か。どの物語にも必ず終わりがあるというが、それがいざ近づいてくると、寂しいものだな。

 きっと、連載当初から読み始めた者は我以上の寂しさを覚えたのだろうな……】

「ねぇ、白パカ。1週間前から聞こうと思っていたのだけど、アルパカが社会人のサクセス・ストーリーを読んで楽しめるものなの?」

 

 唐沢は、自らが開発した装置により、白パカに人間との意思疎通と、デュエルができるようにした。だが、漫画を読んで楽しんでいるというのは想定外。70巻以上もの量を読んでいる以上、内容も理解しているのだろうが、あくまで『普通の女子高生』である唐沢も敬遠しそうなタイトルの漫画のどの辺りに、このアルパカは面白みを感じているのだろうか。

 

【楽しいに決まっているだろう。そうでなければとうの昔に返却している。

 『万年筆 (ジン)さん』はどのエピソードもそれだけで漫画賞を取れるレベルの名作だ。特に第42巻から第47巻まで続く『異次元会社との契約編』の中で、命を懸けて契約を結ぼうと奔走する(ジン)殿を励まし続ける妻の献身的な姿には、思わず我も惚れるところだった……!】

「ごめんちょっと意味がわからない」

 

 社会人のサクセス・ストーリーで、『異次元』とはどういうことか。加えて、次々と漫画の魅力を語る白パカの言葉の中には、『覚醒』『宇宙人』『最期の力』といったどう考えてもファンタジーな単語が散りばめられていた。

 それだけで、自分には理解のできない内容なのだと唐沢は悟った。そして、そのような漫画を勧める高坂穂乃果とアテムもちょっとおかしいと改めて評価を下す。

 

「と、ところで!」

 

 これ以上熱弁を振るわれるのは、精神的にちょっとキツい。彼(?)の気を逸らそうと、10分程に部室を出て行った後輩たちについての話題を振ることにした。

 

「高坂さんたちは矢澤さんを説得できたかしら?」

【露骨な話題転換だな、唐沢】

「うっ……。悪かったわね、口下手で」

 

 

 

 『μ’s』のメンバー6人は今、隣の『アイドル研究部』に赴いている。その目的は、『μ’s』と『アイドル研究部』の合併だ。

 

 『μ’s』は真姫が加わった時点で5人揃っていたのだが、既に『アイドル研究部』がある以上、活動内容が似ている部を新しく作ることは不可能。その一方で、『アイドル研究部』の方も『ロボット研究部』と同じく部員が1人しかおらず、廃部寸前という状態だ。

 ならば、2つの団体が1つになることで『μ’s』が正式な団体として認めて貰い、『アイドル研究部』は人数不足から脱却してしまえば良い。

 

 その旨を先程までこの部室で暇を持て余していた『μ’s』のメンバーに伝えると、彼女たちは一目散に『アイドル研究部』へと乗り込んでいった。

 

 ちなみに、この話は1週間以上前にアテムへと伝えていたはずである。しかし、彼は穂乃果たちに伝えることを綺麗さっぱり完全に忘れていたのだ。

 大事な要件を伝え忘れるという大失態に、当然穂乃果たちはご立腹。ことりのブレイブクロー・レヴォリューション(物理)を受け、

 

 

 

「ぐ、おぉ……」

 

 

 

 今は床にうずくまっている。

 普段なら遥か彼方まで吹き飛ばされているところだが、機械だらけの狭い部屋ではソリッド・ヴィジョンの規模は縮小し、威力は半減。加えて、窓の外まで吹き飛ばそうものなら、機械の破壊は必至。よって、衝撃を横ではなく下に向けることで床へとめり込ませたのだ。

 どれだけ物理ダメージを受けても即座に立ち上がるアテムが未だに倒れているのも、そのためである。

 

 

 

【まぁいい。我は以前に貴様から矢澤にこという女子生徒の事情を教えて貰ったが、そこから考えればすぐに奴を仲間にするということは難しいはずだ。

 貴様とて、それくらいわかっているのだろう?】

「……ええ、そうね」

 

 唐沢久里子と矢澤にこは、1年生の頃から同じクラスで、部室も隣同士。『アイドル研究部』の部員がにこ1人になった経緯もある程度は知っている。

 だから、穂乃果たちの提案にあっさりと頷くとは考え難い。

 

【だとしても、奴らがスクールアイドルに懸ける想い、そして絆の強さは紛れも無く本物だ。今日がダメでも明日明後日なら、必ずや孤独に苦しむ矢澤を救うことができるはずだ】

 

 人間に比べれば、表情の差は少ない白パカ。だが、声の響きから『μ’s』の可能性を心から信じていることが伺えた。

 

「白パカの言う通りだぜ、唐沢」

【ふっ。やっと立ち上がったか、アテムよ】

 

 ふらつきながらも、アテムは立ち上がる。床にヒビが入る程の衝撃を受けたら普通は命がないにも関わらず血を一滴も流さないのは異常なのだが、そこはもう気にしても仕方がない。無視することにした。

 それに今の彼の表情は、常時のふざけたものではない。デュエルをする時、そして友や仲間のことを想う時のものだ。

 

「友や仲間がいない孤独という辛さを、俺は痛い程に知っている。

 この世界に来て、穂乃果たちと学校生活を謳歌するようになってからは尚更だ。

 それはお前も同じはずだぜ、唐沢」

「……」

 

 返答することが、出来ない。それはつまり、アテムの言葉を肯定するということ。部室に居座ることが多い白パカやアテムを追い出さないのも、時折感じることがあった孤独感から解放されて、多少なりとも嬉しかったからなのかもしれない。

 

「ならば、やることは1つしかない。俺たち『μ’s』が、奴を救い出す。そのためにも教えてくれ、唐沢。矢澤の過去に、何があったのかを」

 

 まったく。普段はどうしようもない問題児だというのに、なぜこういう時だけ真面目になるのだろうか。

 

「ええ、わかったわ。でもそれは、高坂さんたちが戻って来てからにしましょうか」

 

 

 

 出会ってから1ヶ月にも満たない関係。だが、彼ら『μ’s』ならば彼女を救い出してくれるかもしれない。

 何の根拠もないにも関わらず、唐沢はアテムたちのことを心から信頼し始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【ところでアテムよ。高坂穂乃果たちが戻ってくるまでの間、他にオススメの漫画を教えてくれ】

「ああ、いいぜ。それなら『それいけ! 腹パンマン』がオススメだ!

 正義の味方・腹パンマンが、悪の秘密結社『Last(ラスト) Destiny(デスティニー) Slayers(スレイヤーズ)』、通称『LDS』の野望を打ち砕くために戦い続ける、熱血バトル漫画さ!

 第1部最終話『腹パンで笑顔を』は涙なしでは見られないぜ!」

 

 

 

 訂正、やっぱり不安だった。

 

 

 

●オマケ

 

 

 

 一方その頃、隣の『アイドル研究部』では。

 

 

 

「にっこにっこに~♪ あなたのハートに、にこにこに~♪ 笑顔届ける矢澤にこにこっ♪ にこにーって覚えてらぶにこ♪」

 

『…………』

 

「どう? これがお客様のために、キャラを作るということよ!」

 

 清々しい程のドヤ顔で、自らの持ちネタを披露する『アイドル研究部』部長、矢澤にこ。

 『アンタたち、ちゃんとキャラ作りしてるの?』というにこの問いかけから始まり、彼女自ら穂乃果たちに手本を見せたのだが……。

 

「な、何よ。黙ってないで何か言いなさいよ」

 

 1人だけは、参考にするためか一心不乱にメモを取っている。しかし、他の5人は無言でにこを凝視していた。

 

「えっと、それだけなのかなぁって」

「は?」

 

 山吹色のサイドポニー、高坂穂乃果からの予想外のリアクションに、間の抜けた声が漏れてしまった。

 

「いや、ほぼ毎日アテムくんを吹っ飛ばすことりちゃんに比べたら……」

「意味不明の行動を繰り返すアテムさんに比べたら……」

「機械を使って喋る白パカさんに比べたら……」

「普通よね」

「なんか安心したにゃ」

 

 

 

(なんなの、こいつら……)

 

 

 

 必死で考えたポーズに対する反応が、『普通』。ある意味、ドン引きされるよりもダメージが大きい。

 

「アンタたち、今日はもう出てって……」

 

 にこはあまりのショックに、俯きながら退出を命じることしかできなかった。

 

『……す、すみませんでした』

 

 後輩たちもにこが発する巨大な負のオーラに飲まれてしまったのか、スゴスゴと退散していった。

 




 早いとこデュエルを始めさせてあげたいのですが、デュエル開始前の部分を考えるのはいつも悩みます。
 今回も日常フェイズで10000字近く使ってしまいましたが、次回もデュエル開始前に数千字は使うかと思われます。

 また、穂乃果たちが『アイドル研究部』を訪れた際の会話をほぼ全てカットしましたが、概ね原作通りの会話をしたのだとお考えください。

 作中に出てきた2つの漫画ですが、その場のノリで考えたタイトルと内容なので、詳しく聞かれてもお答えできません、というか自分でもよくわかっていません。
 あんな意味不明の内容で20年以上の連載ってなんやねん。


 次回の後半あたりからデュエル開始です。
 話が進む度にやりたい放題(フリーダム)になっていく本作ですが、
 今後ともよろしくお願いします。

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