ラブライブ!DM   作:レモンジュース

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 ついに決着!!

 そう叫びたくなるほどにちょっとテンション上がってます。
 デュエル自体が3話+α分、それどころかアテムVS凛の回も含めれば、
 アニメ4話の部分に現在投稿分のうち半分を占めているという事実。
 配分、おかしくないかな?

 そんなこんなで、りんぱな加入編もいよいよ終盤。
 熱血キャラと化しつつある真姫ちゃんをご覧ください。

 書いてて、何このデュエルカップルとか思ったのは内緒です。



結束する歌姫

●アテム&真姫VS花陽&凛 ④

 

 

 

 魔術師を上空から見下ろす《閃珖竜 スターダスト》の威光に、海未とことりは額から一筋の汗を流していた。

 花陽のカードで攻撃力4400まで強化された、凛のエースモンスター。まさに2人の絆の結晶とも言うべき竜であり、破壊無効効果と合わさって倒すことは非常に困難に違いない。

 加えて、花陽たちのフィールドには正体不明の伏せ(リバース)カードも存在する。《闇の誘惑》のデメリットを軽減するために伏せただけのブラフとも考えられるが、2人の自信に満ちた表情からスターダストを守るためのカードではないかと察せられた。

 ライフポイントもまだ3000。彼女たちには、ある程度の余裕はあるはずだ。

 

 対するアテムと真姫のフィールドは、

 

 フィールド魔法《真帝王領域》

 ドローをサポートする《補給部隊》と《真源の帝王》

 アテムのエースモンスター《ブラック・マジシャン》と、サポートカード《永遠の魂》

 

 このデュエルで彼らを支えてきたカードばかりだが、今のこの状況では《閃珖竜 スターダスト》を倒すには至らない。

 しかも残りのライフポイントは僅か300。弱小モンスターの一撃でも致命傷となる。

 

「アテムさんが残した最後の伏せ(リバース)カードと、真姫が《補給部隊》でドローした1枚、そして――」

「次のドローで全てが決まる……!」

 

 不安が募る、海未とことりの心。しかし――

 

 

 

 

 

「大丈夫、真姫ちゃんたちは絶対に勝つよ」

 

 

 

 

 

「穂乃果?」

「穂乃果ちゃん?」

 

 ただ1人、穂乃果だけは曇りのない瞳で真姫を見つめていた。

 アテムと真姫の勝利を、ほんの少しの疑いもなく信じているかのように。

 

「《ブラック・マジシャン》は、アテムくんが最も信頼するエースモンスター。それを託すってことは、真姫ちゃんなら《ブラック・マジシャン》を使いこなした上で必ず勝てるって信じている証拠じゃないかな」

「それは……」

 

 確かに、そうかもしれない。

 決闘者全員が持つ、相棒とも言うべきエースモンスターの価値は、各々にとっては単なるレアカードよりも上。

 ましてや《ブラック・マジシャン》はアテムのみが所持しているカード。普通の決闘者なら、世界で1枚しかないカードを他人に使わせようとは思わないだろう。

 だが、アテムは最も信頼する下僕(エースモンスター)を躊躇なく真姫へと託した。きっと、『使ってもらわなければ負けるから』などという陳腐な理由などではないはずだ。

 エースモンスターを託すに相応しい決闘者であると、真姫を認めていることに他ならない。

 

「それに、真姫ちゃんを見てよ。『負けちゃいそう』なんて顔、してないでしょ?」

 

 穂乃果の言う通り、真姫の表情からは敗北への不安は一切感じられない。デッキトップの1枚に指をかけるその仕草は、必ず逆転のカードを引き当ててみせるという強い意志が篭められていた。

 

「……ふふっ。アテムさんと穂乃果がそこまで信頼しているのなら、私たちも信じるしかないですね」

「そうだねっ。絶体絶命の状況でも逆転のカードを引き当ててきたアテムくんと同じ顔をしてる今の真姫ちゃんなら、絶対できるよねっ!」

「頑張って、真姫ちゃん!」

 

 

 

 穂乃果、海未、ことり、そしてアテム。

 4人の思いは今、真姫へと託された。

 

 

 

●信頼

 

 

 

(思えば、『μ’s』に入ってからかもしれないわね。本当の意味で誰かと向き合って、心から信頼されるようになったのは)

 

 

 

 ――西木野さんって将来は医者になるんでしょ? 頭もいいし、エリート街道まっしぐらって感じだよねー。

 

 ――医学部志望なだけあって今回の試験も学年トップよ、西木野さん。これなら高校でも問題ないわね。先生も鼻が高いわ。

 

 ――流石は西木野先生の娘さんだ、入試ではトップの成績で合格したようだね。僕もキミと同じ職場で働けることを楽しみにしているよ。

 

 

 

 昔から高校卒業後は医学部に入り、最終的には親が経営する病院を継いで成果を挙げるだろうと周りから信じられてきた。だが、それはただ『医者の娘だから』という理由であり、西木野真姫という少女本人を見てはいなかった。

 だから彼女にとって人付き合いはいつも上辺だけのもので、これからも変わらない。

 

 

 

 彼らと出会うまで、そう思っていた。

 

 

 

 ――西木野のプレイングとデッキ構築能力は相変わらずの強さだな。もう少しで負けるとこだったぜ。

 

 ――それ、嫌味? メインデッキ60枚で同名カード1枚ずつ(ハイランダー)、挙句の果てにはシナジー皆無のカードがごちゃまぜ。そんなデッキに負けた後じゃ褒められても嬉しくないわよ。

 

 ――真姫ちゃんってばそんなこと言ってホントは嬉しいくせに~。穂乃果知ってるよ? アテムくんや私の真似してハイランダーのデッキを組もうとしてるんだよね?

 

 ――な、なんで知ってるのよ! ことり先輩、バラしたわね!? 秘密にしてって言ったのに!

 

 ――ゴメンね。面白そうだったから♪

 

 ――こ、この人たちは……!

 

 ――恥じることはないさ、西木野。仲間のデッキを研究することも決闘者にとって大切なことだ。俺でよければいつでもいつでも相談に乗るぜ?

 

 ――先輩……。

 

 ――皆さん! そろそろ練習を再開しますよ! 真姫たちもイチャつくのは後にしてください!

 

 ――なっ!? 別にイチャついてないわよ!

 

 

 

(…………嫌なことを思い出したわね)

 

 そんなこともあったが、彼らは真姫のことを『医者の娘』とか『エリート』などという偏見の目で見てきたことは1度も無い。

 『μ’s』の仲間として、1人の決闘者として、何より西木野真姫として見てくれた。

 だからこそ、上辺だけじゃない本当の自分を曝け出すことができる。諦めていた音楽も続けている。

 

 

 

 そして今、相棒(タッグパートナー)のアテムは自分にエースモンスター《ブラック・マジシャン》を託した。

 命よりも大切なデッキ、その中でも更に大切なエースモンスターを他人に使わせて、勝ってくれと彼は言った。

 これまでの自分なら『負けたら自分に責任を押し付ける気だな』と邪推していただろうが、今はその言葉と行動を心から信じられる。

 

(星空さん、アテム先輩、小泉さん。皆がそれぞれの本気を出しきった。だったら今度は私の番!

 応えてみせようじゃない、この普段はバカな先輩の信頼に!)

 

 おそらくこれが最後のターン。このドローで、全てが決まる。

 

(だから、私のデッキも応えなさい! ここでしょうもないカードだったら承知しないわよ!)

 

「私のラストターン…………」

 

 右手に想いを乗せて、叫ぶ。

 

 

 

 

 

 ――ドローッ!!

 

 

 

 

 

 その声は、天高く響き渡ったことだろう。

 

 

 

(……本当に来てくれるとはね。ありがとう、私のデッキ)

 

 空へと掲げた右手。真姫はその手に握られたドローカードを、迷いなく発動した。

 

「私は魔法(マジック)カード――」

 

 

 

 ――《死者蘇生》を発動!!

 

 

 

 

 

 

 渾身の叫びによって引き当てられた《死者蘇生》。

 決闘者の誰もが認める名実ともに最高峰のカードを前に、花陽は驚きつつも平静を保っていた。

 

(この局面で《死者蘇生》を引き当てるなんて、西木野さんは凄いな。狙いはおそらく、《聖戦士カオス・ソルジャー》の特殊召喚。

 センパイが除外した《超電磁タートル》を墓地に戻しつつ、スターダストを除外するつもりなのだろうけど、無駄です!)

 

「私が復活させるのは――」

 

(私が伏せたカードは、私たちのフィールド上のカードを対象として発動したモンスター効果を無効にする罠カード《スキル・プリズナー》。

 これを使って無力となったカオス・ソルジャーを次のターンで倒せば、私たちの――)

 

 

 

 ――《幻奏の歌姫ソプラノ》!

 

 

 

「なっ!?」

 

 しかし、花陽の予想は外れた。

 真姫が2人の墓地から選択したモンスターは、聖戦士ではなく可憐な歌姫。

 

 《幻奏の歌姫ソプラノ》

 ☆4 光属性 天使族 ATK1400

 

「ソプラノの効果発動! このモンスターが特殊召喚に成功した時、墓地の「幻奏」モンスターを手札に戻す! 私が呼び戻すのは、《幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト》よ!」

「最初のターンに《トレード・イン》で墓地に送っていたカード……! もしかして、手札に《オネスト》が!?」

 

 《オネスト》は、光属性モンスターが相手モンスターと戦闘を行なうダメージステップ時、自身を手札から墓地へ送ることで相手モンスターの攻撃力分、戦闘を行なう自分モンスターの攻撃力を上げるモンスター。

 この効果はモンスターを対象に取る効果ではないため、《スキル・プリズナー》で無効にすることは不可能。

 

「残念だけど、私の手札に《オネスト》は存在しない。でも、このターンで勝利するためのカードは全て揃った!

 私は、速攻魔法《光神化》を発動! 手札の天使族モンスター、プロディジー・モーツァルトを攻撃力を半分にして特殊召喚する!」

 

 《幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト》

 ☆8 光属性 天使族 ATK2600 → ATK1300

 

 実在する天才音楽家と同じ名前を持つ、最上級の天使族。たとえ攻撃力が並の下級モンスター程度になろうとも、その威光は失われていない。

 

「わ、わざわざ攻撃力を下げてまで最上級モンスターを特殊召喚? いったい何を――」

「勉強不足ね、小泉さん。見せてあげるわ、私の切り札を!

 ソプラノの更なる効果発動! 1ターンに1度、自身を含むフィールド上のモンスターを素材として、「幻奏」と名のついた融合モンスターを融合召喚する!」

 

 真姫の宣言とともに、2体のモンスターが天空へと飛翔する。その歌声が響き渡り、仄暗い空間は再び光に照らされた。

 

「天使のさえずりよ! 至高の天才よ! タクトの導きにより力重ねよ! 融合召喚!」

 

 神秘の渦に吸い込まれてゆく2体のモンスター。そのエネルギーは、彼女たちを勝利へ導くための歌姫(ディーヴァ)を呼び醒ます。

 

 

 

 ――今こそ舞台に勝利の歌を! レベル6! 《幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ》!!

 

 

 

 

 

 

「真姫ちゃんのブルーム・ディーヴァと、」

「アテムさんの《ブラック・マジシャン》……」

「2人のエースモンスターが、揃った……!」

 

 3人にとって、夢のような光景だった。

 黒衣の魔術師と、可憐な歌姫。一見アンバランスな2体であったが、それはどちらも2人の決闘者にとってのエースモンスター。

 たとえタッグデュエルであっても、互いのエースが並び立つ布陣を見られることなど、そうそうないだろう。

 

 2体の攻撃力は、合計3500ポイント。合わせたところで《閃珖竜 スターダスト》には及ばない。

 しかし、攻撃力の差を覆す力を見せてくれるのではないか。2人の決闘者の瞳に宿る強い決意が、彼女たちにそんな期待を感じさせていた――。

 

 

 

 

 

 

「これが西木野さんのエースモンスター、ブルーム・ディーヴァ……!」

 

《幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ》

 ☆6 光属性 天使族 ATK1000

 

 咲き誇る花の中から現れた、可憐な少女。最上級モンスターを融合素材としたにも関わらず、レベルも攻撃力も下がってしまっている。

 それに、これで真姫の手札は0。花陽は念のためデュエルディスクの機能を使って墓地を確認してみたものの、やはり《オネスト》はない。

 

(もしかして、ブルーム・ディーヴァに何かしらの効果が?)

 

 総攻撃力を下げてまでの融合召喚をしたのだ、あの融合モンスターは強力な効果を秘めているのではないか。そう考えてフィールド上のカードのテキストを確認してみたが、案の定だった。

 

「……なるほど。戦闘破壊とダメージを無効にし、元々の攻撃力の差分のダメージを相手に与えてモンスターを破壊する反射効果。これなら低い攻撃力でも問題はない、ね。

 だけど西木野さん、スターダストは波動音壁(ソニック・バリア)で1度だけ破壊から免れる!」

「かよちんの言う通りだよ! ブルーム・ディーヴァの効果で発生する反射ダメージは『元々の攻撃力の差分』だから1500!

 《ブラック・マジシャン》でスターダストを倒せない以上、これで――」

 

 

 

 

 

  ――そいつはどうかな?

 

 

 

 

 

『え?』

 

 凛たちの言葉を遮った者。それは、ターンプレイヤーの真姫ではなく、アテム。

 彼の表情からは、敗北を覚悟した決闘者の『悔しさ』『悲しさ』は感じられない。あの笑みは、勝利を確信したものだ。いや、アテムだけでなく真姫も同じ表情を浮かべている。

 自分たちの勝ちは揺るがないはずなのに、なぜ彼らはあのような顔をできるのだろう。

 

「お前たちは1つ大事なことを忘れているぜ。俺が西木野に託した最後のカードの存在を!」

「最後のカード…………あっ!」

 

 そうだ、彼らのフィールドにはまだ伏せられたままのカードがある。

 

(でも、センパイは一体何を伏せたの? あのカードは召喚にも攻撃にも、ましてやカードの発動にも反応しなかった)

(かよちんのカードをカウンターするカードじゃないなら、まだ発動条件を満たしていなかった…………ッ!

 発動、条件?)

 

「も、もしかして……」

「その伏せ(リバース)カードは……!?」

 

 2人は気付く。今、彼らのフィールドに立つ魔術師の存在に。

 そして、このデュエル中に使われた未知のサポートカードの数々に。

 

 

 

「気づいたようだな。だが、もう遅い!」

「私のブルーム・ディーヴァだけじゃスターダストは倒せない。だけど、このカードが勝利への道を切り拓く!

 伏せ(リバース)カード、オープン!」

 

 

 

 

 

 ――魔法(マジック)カード《千本(サウザンド)ナイフ》!!

 

 

 

 

 

 真姫が最後の伏せ(リバース)カードを発動した瞬間、《ブラック・マジシャン》の周りに無数の短剣が出現する。それが意味するところは1つ。

 

「こいつは、俺たちのフィールドに《ブラック・マジシャン》がいる場合のみ発動できる魔法(マジック)カード!」

「その効果により、相手フィールドのモンスター1体を破壊する! やりなさい、《ブラック・マジシャン》!」

 

 スターダストに向けて、千本の短剣が次々と放たれる。

 花陽が伏せた罠カード《スキル・プリズナー》は、彼女たちのフィールドに存在するカードを対象にする『モンスター効果』を無効にするものであり、『魔法カード』には対応していない。

 真姫たちも、この伏せ(リバース)カードで止められないことに気付いている。だからこそ、勝利を確信しているのだろう。

 

「ゴメンね、凛ちゃん。せっかくスターダストを託してくれたのに、勝てなかったよ……」

「かよちん……」

 

 持てる力を全て出しきったにも関わらず、彼らはそれを上回った。

 互いを信じる強い気持ち、『結束の力』が、奇跡を引き寄せたのだ。

 

 敗北が確定した今、この期に及んで何をしても結果は変わらない。

 

「でも! 私は最後まで足掻きます! 《閃珖竜 スターダスト》の効果発動!」

 

 

 

 ――波動音壁(ソニック・バリア)

 

 

 

 叫びとともに展開される不可視の盾が、全ての短剣を弾き飛ばす。

 『何を無駄なことを』と不躾な発言をする者は、この場に誰一人としていない。いや、もしそのような考えを持つ者がいたとしても、口を閉ざしていたに違いない。

 

 花陽の瞳は、未だ強く光り輝いていたのだから――。

 

 

 

 

 

 

「小泉さん……。その表情、決意したみたいね」

 

 波動音壁(ソニック・バリア)に弾かれ、落下しながら消滅していく幾つもの短剣。淡い光を放つそれは、まるで雨のよう。

 その空間にいて尚、一際輝く花陽の微笑みに、真姫は目を離せないでいた。

 

「はい、西木野さん。

 

 たとえ自分には無理かもしれないことでも、一握りの可能性を信じて進み続ける。そうすれば、奇跡は起こる。何かを成し遂げられる。

 

 これが西木野さんたちとのデュエルを通して見つけた、私の答えです!」

 

 新たな一歩を踏み出すことを決めた表情、そしてプレイング。

 ならば、自分たちも最後まで応えなければならない。

 

 

 

「行くわよ、小泉さん! これが私たちの勝利へのラストアタック!

 《幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ》で、《閃珖竜 スターダスト》を攻撃!!」

「私も、最後まで戦います! お願い、スターダスト!」

 

 

 

 ――流星閃撃(シューティング・ブラスト)!!

 

 

 

 ブルーム・ディーヴァの歌声により発生する衝撃波を、スターダストから放たれる光の奔流が迎え撃つ。

 その力は一瞬だけ拮抗する。だが――

 

「ブルーム・ディーヴァの効果発動! このカードは戦闘では破壊されず、私たちが受ける戦闘ダメージも0になる! 更にダメージ計算後、ブルーム・ディーヴァとスターダストの元々の攻撃力の差分のダメージを相手に与え、スターダストを破壊する!」

 

 

 

 ――リフレクト・シャウト!!

 

 

 

 やがて均衡は崩れ去り、スターダストが放つ光は押し返されていく。

 スターダストは既に波動音壁(ソニック・バリア)を使用している。よって、この破壊を無効にする術はない。

 美しき歌声を乗せた光の反射に飲み込まれ、今度こそスターダストはその姿を消し去った。

 

『きゃあっ!?』

 

花陽&凛 LP3000 → LP1500

 

 

 

 後に残るのは、黒衣の魔術師《ブラック・マジシャン》1体のみ。

 この長きに渡る戦いに決着をつけるため、2人(・・)は最後の命令を下した。

 

「これで最後だ! 行け、《ブラック・マジシャン》!」

「小泉さんと星空さんに直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

 

 魔術師が天空へと掲げた杖に、力が集う。最上級魔術師ゆえに、溜めの時間は一瞬。

 にも関わらず、今この場にいる者たちには、その時間が何倍にも感じられた。

 

 

 

 

 

 ――黒・魔・導(ブラック・マジック)!!

 

 

 

 

 

 最上級魔術師が放つ、漆黒の魔力球の直撃。

 その威力に耐え切れなかったためか、2人の身体は崩れ落ちていく。

 

花陽&凛 LP1500 → LP 0

 

 

 

 ――ありがとう。センパイ、西木野さん。

 

 

 

 微かに紡がれた言葉は、確かに全員の耳に響いた――。

 

 

 

●まきりんぱな

 

 

 

(負けちゃった……。でも、気持ちがいいな)

 

 デュエルが終わり、発生していたフィールド魔法が消え去ると、既に日は沈みかけていた。

 どうやら、時間が経つのも気にならないくらいに夢中になっていたようだ。

 

 少しひんやりとしたコンクリートに寝そべっている花陽であったが、不思議と嫌な気持ちはない。隣で同じ格好をしている凛も似た心境なのだろう。顔を見合わせると、お互いに笑い合っていた。

 悔しいという思いは、当然ある。しかしそれ以上に、自分たちを縛っていたものが無くなったかのように身体が軽い。

 

「大丈夫、2人とも」

 

 見上げた先で、アテムと真姫が自分たちを心配そうに見下ろし、手を差し伸べてきた。花陽はアテムの手を、凛は真姫の手をとって立ち上がる。男性、特にテンションの高い人が苦手な花陽であったが、なぜか今はすんなりと受け入れることができた。

 

「ふふっ。真姫ちゃん、あの時と一緒だね」

「ええ、確かにそうですね」

「アテムくんとのコンビネーションもバッチリ決まってたし、ホントいいコンビだよね~」

「う、うるさいわね!」

 

 気が付けば、デュエルを観戦していた3人もすぐ近くにやってきて真姫をからかっている。

 真姫の方も文句を言ってはいるものの、どことなく嬉しそうに見える。先輩・後輩の垣根無しに笑い合う姿は、改めて羨ましいと思えた。

 

 

 

「さて、小泉。お前はこれからどうしたい?」

「え?」

 

 真姫たちのやり取りを見ながら呆けてしまっていたせいか、かけられた声に対して反応が遅れてしまった。

 気が付けば、アテムの瞳がじっと自分たちを見つめていた。

 彼だけではない。他の4人も『答えを聞かせてくれないか』と言わんばかりの視線を向けていた。

 

「小泉さん。今のデュエルで改めて思ったのだけど、アナタはキレイな声をしているし、本気になれば声量も大きくできる」

「花陽ちゃん、デュエルが進めば進むほど笑顔になってたし、負けちゃったけど楽しかったんじゃないかな?」

 

 真姫と穂乃果の言う通りだった。今までは凛以外とのデュエルで敗北してしまうことを恐れ、このデュエル前も不安が大きかった。しかし、パートナー同士で息を合わせ、お互いのペアが大型モンスターを次々と召喚していく度にどんどん楽しくなっていった。

 

「……はいっ! とても楽しかったです!」

 

 だから、笑顔で肯定していた。

 デュエルの最後でも、あのような宣言をしたのだ。

 これからどうするかという『答え』など、もう決まっていた。

 

 

 

「私、アイドルへの思いは誰にも負けません!!

 今までは背も声も小さくて、人見知りで、アイドルになんてなれっこないと思っていました。

 だけどもう迷いません! 逃げません!

 皆さんと一緒に強くなりたい! だから――」

 

 

 

 ――『μ’s』のメンバーにしてください!!

 

 

 

 思いっきり頭を下げて、言い切った。

 双眸から溢れだす涙がメガネを濡らし、ほぼ何も見えない。

 顔が見えない以上、あとはもう返答の言葉を待つしか、自分にはできない。

 

 やがて誰かが『クスッ』と笑うのと同時に、その言葉は一斉に返ってきた。

 

 

 

『もちろん! 大歓迎!』

 

 

 

 涙を拭って顔を上げた先には、微笑みを浮かべて手を差し伸べる4人の先輩と、1人の同級生。

 5人の瞳からは、冗談や方便といった感情は感じられない。誰もが心から歓迎していた。

 

「よろしくね、花陽ちゃん!」

 

 穂乃果によって包まれる右手。そこから彼女の温かで優しい感情が入り込んでくる気がして――

 

(どうしよう、もう堪えきれないよ……!)

 

 もう止まったと思った涙が、再び溢れだしていた。

 

 

 

「ぐすっ……。よかったね、かよちん……!」

 

 後ろから聞こえる親友の声は震えていて、涙を流しているようだ。心から喜んでくれているのであろう言葉に、自分は素晴らしい友人に恵まれていたのだと実感する。

 

「小泉は新たな一歩を踏み出したぜ。星空、お前はどうだ?」

 

 続いてアテムは、凛に言葉をかけていた。

 何を、とは聞かずともわかる。スクールアイドルになってみないか、ということだろう。

 一方で問われた凛の方は、全く予想していなかったのか、一瞬ポカンと口を開けると大きく首を横に振った。

 

「な、何言ってるの、アテムせんぱい! 凛はかよちんみたいに女の娘らしくないし、髪も短すぎるし!アイドルなんて絶対に無理だよっ!」

 

 

 

 いや、口では否定しているが、花陽は知っている。凛が可愛らしい格好をすることに大きな憧れを抱いていることを。

 

 小学生の頃、凛は周囲の男子顔向けなほどに身体を動かすことが得意で、普段は動きやすい短パンで過ごすことが多かった。

 そんなある日、彼女がスカートを穿いて登校しようとした時のことだ。クラスの男子から『スカートなんて持ってたんだ~』などとからかわれ、着替えに戻ってしまったのだ。あの時の悲しみに満ちた表情は、今でも心に残っている。

 

 自分はこのデュエルを通して、新たな一歩を踏み出した。そのきっかけを作ってくれたのは、『μ’s』のメンバーだけでなく、一緒に戦ってくれた凛も入っている。

 だから――

 

「凛ちゃんも、スクールアイドルやってみようよっ。一緒にいてくれると心強いし、もっと楽しくなると思うんだけど、どうかな?」

 

 振り向いて、自分もそう提案していた。

 これはきっとわがままだと思う。しかし、長年一緒に過ごしてきた幼なじみとともにこれからも歩んでいきたいという考えは、紛れも無い本当の気持ち。

 

「小泉さんの言う通りです。『μ’s』はまだまだメンバー募集中ですよっ!」

 

 花陽へとしたものと同じように、海未は凛へと手を差し伸べる。

 海未だけではない。穂乃果も、ことりも、真姫も、アテムも。小さく縦に首を振っていた。

 その仕草に、凛は――

 

「……うんっ! よろしくお願いします! それに、『μ’s』に入ればアテムせんぱいのデュエルを近くで研究できるし、いつか必ずギャフンと言わせてみせるよっ!」

 

 紡いだその言葉は、本音であり建前でもあるのだろう。彼女の双眸に溜まった温かな涙が、それを物語っている。

 凛もまた、このデュエルを通して新たな一歩を踏み出した。

 

 そしてこの瞬間が、『μ’s』の新しい始まりとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしっ!」

 

 しかし、既存の『μ’s』メンバーは忘れていた。

 

「小泉と星空がメンバーに入った記念に、かしこいかっこいいアテム先輩から、ありがたいプレゼントを進呈するぜ!」

 

 素晴らしい雰囲気も完膚なきまでに破壊する残念王(アテム)という男の存在を。

 

『え?』

 

 呆気にとられる新メンバー2人を無視し、彼は自分のカバンを漁って何かを探している。

 一瞬だけ期待してしまう花陽と凛だが、それは間違いだ。デュエル以外でテンションが上がっているこの男がまともな言動・行動を取ることはまずないのだから。

 

「こいつを受け取るがいいぜ!」

 

 やがて彼は嬉々として『銀色のジャラジャラとしたもの』を取り出し、広げた。

 

 

 

「このシルバーを巻いて踊ろうぜ!」

 

 

 

『……』

 

 なんて言葉を返せばいいのだろう。

 幼子のように輝いた笑顔を見る限り、心からの善意でやっていることはわかる。

 ただ、女の娘に初めて渡すものとして、あまりにも不相応ではないだろうか。

 

「そうか! 受け取ってくれるか!」

 

 無言を肯定と受け取ったのか、アテムは2人に歩み寄り、シルバーを手渡そうとしてくる。

 まずい。このままでは、シルバーをつけて踊らされる羽目になる。

 小泉花陽は今日のデュエルで強くなったのだ。ならば、嫌なことは嫌だとはっきり言わなくてはいけない。

 

「あの、センパイ! 私たちは…………ヒィッ!?」

 

 しかし、その言葉は途中で遮られる。

 

 

 

 

 

「せっかくのいい雰囲気だったのに……。アテムくんも、本当に懲りないよねぇ……」

 

 

 

 

 

 アテムの背後にたつ4人のうちの1人。南ことりが発する怨嗟の声と、ドス黒い気迫(フィール)を前に、先の言葉を紡げないほどの恐怖を感じてしまったためだ。

 

「2人とも、離れててね。今のことりちゃんは、私たちが束になっても敵わないから」

「ことりは、もう老年世代という意味の『シルバー』ですら過剰に反応してしまいます。口にする際は気を付けたほうがいいですよ」

「今朝は2961m飛んだし、今回は3000mを超えるかもね」

 

『……』

 

 色々とツッコみたい衝動に駆られたが、あのファーストライブ前日のように短時間で色々なことが起こりすぎて言葉を発することができない。

 それでも、2人は幼なじみ故か同じ考えに至っていた。

 

 

 

 ――なんなの、この人たち……。

 

 

 

 視線の先では、1人の男が空高く飛翔していた。

 

「2730m……おかしいわね、飛距離が落ちてる」

「お腹空いてるんじゃないかな? もう夕方だし」

「そうかもしれませんね。そろそろ下校時刻ですし、帰りましょうか」

 

 どこかすっきりした笑顔を浮かべることりと、冷静(?)に分析する3人。

 そこでようやく、花陽は1つだけツッコミをすることができた。

 

 

 

「あの……。さっきまでデュエルしていた私が言えることではないかもしれませんが、練習はしないんですか……?」

 

 

 

『あっ』

 

 このような光景に毎日出くわし、慣れてしまう日が来てしまうのであろうか。

 花陽と凛は、『μ’s』に入ったことをほんのちょっとだけ後悔していた。

 

 

 

●オマケ

 

 

 

 結局、最終下校時刻を告げるチャイムが鳴ったことで今日はもう帰路に着くことになった。そして今はちょうど校門を出たところである。

 

(あ、そう言えば……)

 

 今日の練習は無くなったものの、明日は朝から練習のはずだ。服装や荷物はどうすれば良いだろう。そんな質問をしようとした花陽よりも先に、穂乃果が口を開いた。

 

「ところで凛ちゃん、1つ質問してもいいかな?」

「うん、何かにゃ?」

 

 穂乃果たち4人が着替えをする際、『全員名前で呼ぶようにしよう』と穂乃果が提案したことで、今は全員が下の名前で呼び合っている。

 しかし、ことりに対してはまだ気楽に接することが難しいかもしれない。それ程までにさっきの『ブレイブクロー・レヴォリューション(物理)』は衝撃的だった。

 

「さっき凛ちゃんが使ったアクセルシンクロ、だっけ? あれかっこいいよねっ! どこで勉強したの?」

「確かにあれは凄かったですね。嵐を巻き起こすほどのシンクロ召喚、とても普通の高校生が修得できるものではありません」

 

(センパイ方も普通じゃないと思います……)

 

 口には出さないが、実際は花陽も同じことを考えていた。

 凛は昔から《閃珖竜 スターダスト》をエースとしてきたが、それを進化させたことは今まで無く、今日のデュエルで見たのが初めてのこと。

 いったい、いつの間に『シンクロチューナー』と『アクセルシンクロモンスター』を手に入れたのだろう。

 

「えっと……。先生たちにはあまり言えないんだけど、知らないおじいさんに教えてもらったんだにゃ」

 

『おじいさん?』

 

「うん、あれは3日前。アテムせんぱいに負けた日の放課後――」

 

 

 

 凛の話を要約するとこうだ。

 

 アテムにリベンジするためにはデッキの強化が必要。そう決意した凛は秋葉原にカードを買いに行ったそうだ。

 とはいえ、そう簡単に良いカードは見つからず、いざ見つけたとしてもその時の所持金では手が届かない。

 その日は諦め、適当な誰かとフリーデュエルでもして帰ろうかと思い、とあるカードショップにて蟹頭で見た目20代の男性とデュエルを始めたのだが――

 

 ――これがシンクロ召喚の先にある力、アクセルシンクロです。

 

 見たことも聞いたこともないシンクロ召喚を操る彼に全く歯が立たず、惨敗したのだそうだ。

 デュエルの後で、彼は言った。

 

 ――貴女が持つスターダストは、進化の可能性を秘めている。もちろん、貴女自身も。どうでしょう、強くなりたいのなら私と特訓してみませんか?

 

 凛はその男性の言葉に頷き土日をフルに使って特訓を重ね、アクセルシンクロをできるようになったのだとか。

 

 

 

(そっか。だから今朝まで連絡がとれなかったんだ……)

 

「あれ? 凛ちゃん、今の話に出てきた蟹頭の男の人って20歳(はたち)くらいだったんだよね? なのにおじいさんってどういうこと?」

「うん、凛も最初は『お兄さん』って呼ぼうとしたんだけど――」

 

 

 

 ――こう見えて私は100歳を超えたお年寄りです。『おじいさん』と呼んでください。

 

 

 

「そう言われちゃったんだ」

「へぇ~。面白い人だねぇ。その特訓の話、もっと教えてっ!」

 

 凛はおじいさんとの特訓について、楽しそうに話していた。

 どう見ても青年なのに高齢者と自称するのは怪しいが、親友が新たな切り札を手に入れるきっかけを与えてくれた決闘者なら、きっと悪い人ではないはずだ。

 

(今度、時間を作って会いに行ってみようかな)

 

 小泉花陽、1年生。友人の新たな交友関係を知ることができた放課後であり――

 

 

 

「よう、皆! なんの話をしていたんだ?」

「おかえり、先輩。今は凛が出会った変なおじいさんについての話をしていたところよ」

 

(あと、これからはもっと心を鍛えるようにしよう)

 

 更なる成長を決意した放課後でもあった。

 

 

 

 

 

 そして皆、凛の話に夢中になっていたからだろう。

 

 

 

 ――そっかぁ。あの人、仕事サボってそんなことしてたんだ。これはお説教が必要かもしれないねぇ。

 

 

 

 ことりの呟きは、誰の耳にも届かなかった――。

 




蛇足のNG ~真姫の手札に《邪帝ガイウス》が握られていて、ドローカードが《帝王の烈旋》だったら~

真姫「烈旋使ってスタダをリリース、ガイウス召喚。効果でブラマジ除外1000ダメージ、ガイウスのダイレクトで私たちの勝ち。これが結束の力よ!」
一同「何それ酷い」

 50000字くらいに渡ったタッグデュエル、非常に長くなりましたが読んでくださって本当にありがとうございます。
 ブラマジとブルーム・ディーヴァを並べて勝利する布陣はアルパカ回のあたりからずっと考えていて、ようやくここまで書ききることができて一安心といった心境です。
 途中で何度も効果の把握ミスや手札・フィールド枚数のミスが見つかり修正を重ね、
 決着までの構成を作り終えた時は思わずガッツポーズをしたものです。
 アイテールと汎神の情報を見るのが半月遅かったら危なかった……。

 今後の予定ですが、まずはアテムが穂乃果の家に居候を始める日に穂乃果とデュエルをする、というエピソードを挿入します。
 家族への挨拶、アテムが新たなカードを手に入れるきっかけ、出番が少ない穂乃果の救済、やることが目白押しです。
 デュエルの内容自体は、ギャグを挟みながらのほのぼのとしたものにする予定。

 その後は判明しているキャラ&デッキ紹介をして『VSにこ』に入りたいと思います。


 それでは、次回もよろしくお願いします。

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