最近、【RR】を組むために同人のことりちゃんスリーブを買いました。
また公式からスリーブが発売されるのなら、
9人分のデッキをリアルで組みたいですね。
……羽根箒もっと再録してください、KONAMI様(懇願)
●今日のエリーチカ
時は少し遡る。
タッグデュエルが開始されるよりも数時間前の昼休み。
生徒会室は重苦しい空気に包まれていた。
「それでは、第1回『私の胃痛をなんとかする会議』を始めます! 何か意見がある人は?」
『…………』
バンッ! とホワイトボードに手を叩きつけながら会議の始まりを告げる絢瀬絵里と、露骨に目を逸らす役員たち。
会議中に飲食OKと言われていたが、この空気ではまともに喉を通りそうにない。
「あの、エリち。廃校を阻止するための意見を出しあうってのは――」
「何を言っているの、希。そっちは放課後にやるに決まっているでしょう。まずは私の胃痛を治すための会議が先よ! 彼が来てからというもの、私の平穏は崩されたの! このままでは廃校を阻止する前に私のライフが尽きてしまうじゃない!」
いや、病院行こうよ。とツッコみたかったが、一切のおふざけもない表情で強く語る様子を見るに、絵里は大真面目に言っているのだろう。
この状態の彼女を否定すると面倒くさいことになることは、生徒会役員として苦楽を共にしてきた希にはよくわかる。
ちなみに、『彼』とは音ノ木坂学院唯一の男子生徒、アテムのことだ。
アテムがこの学院に現れてからというもの、度々引き起こす騒ぎにより絵里を悩ませ続けている。
窃盗や恐喝、暴行といった露骨な犯罪をしているわけではない。だが、
――行くぜ白パカ! ライディングデュエル、アクセラレーションッ!!
――相手はいないがな!
外からアテムともう一人の男性の声が聞こえた瞬間、絵里の顔が歪んだ。
学院の敷地内を走り回ったり、叫び声を上げながら吹き飛ばされたりするアテムの奇行は既に多くの生徒が認知している。回数が多すぎるせいかほとんどの教師・生徒は半ば諦めてしまっているが、根が生真面目な絵里にとっては日々悩みのタネとなっているのだ。
カバンから胃薬を取り出す絵里を見ながら希は、
(エリちのライフが尽きる前に、『μ’s』が完成しますように!)
そう願わずにはいられなかった。
●アテム&真姫VS花陽&凛 ①
「スターダスト、だと……!?」
白銀の光を放つ竜。その名は《閃珖竜 スターダスト》――。
名前は異なるが、その姿はかつて一度だけ共に戦った決闘者「不動遊星」のエースモンスター、《スターダスト・ドラゴン》に瓜二つ。
力強くも神々しい輝きを前に、早くもアテムの額から一筋の汗が流れ落ちた。
「どうしたの、アテム先輩。スターダストがどうかしたの?」
「……いや、なんでもない。大丈夫だ」
そうだ、落ち着かなくてはいけない。まだデュエルは始まったばかり。たとえ相手のエースモンスターが彼のものと似ているからといって心を乱しては、勝てるデュエルも勝てなくなる。
「凛のエースに驚いているようだけど、まだ早いにゃ! このシンクロ召喚に成功した瞬間、《ヴァイロン・プリズム》の効果発動!
プリズムがフィールドから墓地に送られた場合、ライフを500支払うことで、自分フィールドのモンスターにこのカードを装備する! 装備対象は当然スターダストにゃ!」
花陽&凛 LP4000 → LP3500
プレイヤーのライフポイントという栄養を得た《ヴァイロン・プリズム》が分離する。各パーツはスターダストの頭部・腕・脚・翼・胴を包み込む鎧となる。
「プリズムを装備したモンスターが戦闘を行なう時、そのモンスターの攻撃力はダメージステップの間だけ1000ポイントアップ!
更にスターダストは1ターンに1度、フィールドのカード1枚の破壊を無効化できる!
凛はこれでターンエンドだよ!」
《閃珖竜 スターダスト》のレベル8シンクロモンスターとしては低めの攻撃力を《ヴァイロン・プリズム》が補い、逆に《ヴァイロン・プリズム》への破壊効果をスターダストが補う。
単純ながらも厄介なコンボを前に、アテムと真姫は改めて眼前の少女と強さを認識した。
「西木野、俺から行かせてくれ」
「いいけど、大丈夫? 先輩のデッキだとあのコンボを突破するのは難しいと思うわよ」
「わかっているさ。しかし、星空は俺とデュエルするためにここへ来た。ならば、まずは俺が相手になるべきだ」
「……何よその理屈。まあいいわ、やるからには絶対に突破しなさいよ」
だが、それでも彼は怯まない。
相手がどれ程強力な戦術を繰り出そうとも、持てる力を振り絞って突破口を切り拓く。
それに、これはタッグデュエル。もしも自分の力が足りないのなら、パートナーが補ってくれる。逆もまた然り。
「デュエルキングのアテムに任せておけ。
行くぜ、俺のターン! ドロー!」
◆
相手にとっては厄介極まりないコンボと威圧感。しかし、見ているものにとっては《閃珖竜 スターダスト》が放つ白銀の輝きは、さぞ美しく映ることだろう。
「『プリズム・スターダスト』かぁ。キラキラしていてかっこいいなぁ」
観戦している穂乃果も、そんな印象を抱く者の1人だ。
「呑気なことを言っている場合ではありませんよ、穂乃果。あのコンボは突破するのが難しく、仮に突破できたとしてもそれ以降のデュエルに影響が出てしまいます」
「海未ちゃんの言う通りだよ。確かに《閃珖竜 スターダスト》の破壊無効効果は『1ターンに1度』だけ。『永続的に破壊されない』効果に比べれば突破しやすい。でも、無理矢理に破壊しようとすれば――」
海未とことり。注意を促すかのような2人の言葉を受け、穂乃果はハッとする。最近になってデュエルの腕も思考力も向上してきたおかげか、ことりが求める答えへとすぐに辿り着くことができた。
「そっか! 少なくとも1枚分余計にカードを消費しなければならないってことだね!」
「正解です。加えて、アテムさんのデッキはコンボを重視する傾向にあります。スターダストを倒すために多くのカードを消費するでしょう」
「そうなると、次の花陽ちゃんの動きによってはハンド・アドバンテージに大きな差がついちゃうんだよ」
不安が募る3人の心を余所に、アテムは流れるような所作でカードをドローし、1枚のカードを繰り出した。
◆
「俺は魔法カード《七星の宝刀》を発動! 手札のレベル7モンスター《覚醒の暗黒騎士ガイア》をゲームから除外して、新たにカードを2枚ドローするぜ!」
アテムお得意の手札交換カードにより、彼の手札が入れ替わる。
現時点では活躍の場はないであろう最上級モンスターを引き換えにして加わった2枚。それを確認したアテムの口元が緩む。
引き当てたのだろう、凛のコンボを打ち破るためのカードを。
「来たぜ! 俺は手札から《ワタポン》のモンスター効果を発動! こいつはカード効果で手札に加えられた時、手札から特殊召喚することができる!」
《ワタポン》
☆1 光属性 天使族 DEF300
ポンッ! 可愛らしい音とともに、丸く小さなモンスターが顔を出す。だが、その愛くるしさを堪能する時間はない。
「更に《ワタポン》を生け贄に捧げ、このモンスターを召喚する!」
新たなモンスターを召喚するためにその身を捧げることになるのだから。もっとも、非常に低いステータス故に当然の結果とも言える。
「現れよ! 黒き魔術師の英知を受け継ぎし、たった1人の弟子!」
――《ブラック・マジシャン・ガール》!!
《ブラック・マジシャン・ガール》
☆6 闇属性 魔法使い族 ATK2000
光り輝く金の髪。ライトブルーとピンク、鮮やかな配色の衣装。透き通るような美しい肌。そして、あどけない翠の瞳。
手に持つ杖をクルクルと回しながら現れる、可憐で美しきモンスター。
……いや、この少女を『モンスター』などというカテゴリに分類してしまうのは失礼だ。ただ単に見たままの通り、『美少女』と呼称すべきであろう。
自らを呼び出した主と、周りの決闘者へと笑顔を振りまく《ブラック・マジシャン・ガール》を目の前にして、花陽と凛は――
『うわぁ……』
ドン引きしていた。
「Why!?」
既に花陽も凛も、デュエル開始位置から3m程後ろへ下がっていた。
表情は誰が見てもわかるくらい露骨に引きつっており、そんな2人の反応に、アテムは思わず英語で叫んでしまった。
「だって、せんぱい……。どう見てもオタクさんが好きそうな女の娘モンスターを嬉しそうに召喚するのは、流石に引くにゃ……」
「私、そういう衣装を着たアイドルも好きですけど、それを男性が嬉々として使うのはちょっと……」
それどころか、目も合わせてくれない。
「…………俺は悪くない! 元いた世界ではだいたいの奴が憧れの目でこいつを見てくれたぜ! 悪いのは《ブラック・マジシャン・ガール》を召喚しただけでドン引きする世の中――」
「アテム先輩どうでもいいから早くターンを進めて」
「アテムくんがブラマジガール大好きなのはわかったから」
「基本的にデュエルの時しか真面目にできないのに、デュエル中にふざけないでください」
「
「すみませんでした」
味方からもこの仕打ち。踏んだり蹴ったりである。
◆
「き、気を取り直して、俺は魔法カード《賢者の宝石》を発動!」
まだ若干引き気味の後輩2人をを気にせず、アテムは1枚の魔法カードをデュエルディスクに差し込んだ。すると《ブラック・マジシャン・ガール》の真横に、光り輝く宝石が出現した。
「こいつは、俺の場に《ブラック・マジシャン・ガール》がいる時のみ発動できる。その効果により、俺はデッキから『あるモンスター』を呼び出す!」
やがて、輝きと共に宝石は姿を変え、1人の魔術師となる。
その魔術師こそ、アテムが最も信頼を寄せる忠実な下僕。
――来い、《ブラック・マジシャン》!
《ブラック・マジシャン》
☆7 闇属性 魔法使い族 ATK2500
「これが、センパイのエースモンスター……」
黒衣を纏いし、切れ長の目の魔術師。
弟子である《ブラック・マジシャン・ガール》と一瞬のアイ・コンタクトを取り、眼前に君臨する星屑の竜と相対する、堂々とした佇まい。
ただの通常モンスターであるはずなのに、花陽はその姿に見惚れてしまっていた。
(それに、センパイも。なんて力強い目をしているんだろう)
凛のフィールドに存在する《閃珖竜 スターダスト》は、装備状態の《ヴァイロン・プリズム》と互いを支えあっている。そう簡単に倒されるはずがない。
そのはずなのに、《ブラック・マジシャン》を操るアテムの目は、魔術師に匹敵するほどの鋭い目をしていて、今しがた涙を浮かべていた人物とは思えない。
「2人の魔術師が揃ったことで、条件は整ったぜ!」
――速攻魔法発動! 《
「こいつは、俺の場に《ブラック・マジシャン》と《ブラック・マジシャン・ガール》が存在する時のみ使用が許される。2人の連携攻撃により、相手フィールドに存在するカードを全て破壊する!」
「なっ!? それって……!」
「《サンダー・ボルト》と《ハーピィの羽根帚》を同時に発動するってことかにゃ!?」
条件付きとはいえ、相手モンスターを全て破壊する禁止カード《サンダー・ボルト》に加え、禁止カードに近い力を持つレアカード《ハーピィの羽根帚》と全く同じ効果を持つカード。
《閃珖竜 スターダスト》が破壊から守ることができるのは1枚だけ。アテムのフィールドに存在する2体の魔術師の合計攻撃力が4500である以上、凛に残された手段は1つしかない。
「凛は《閃珖竜 スターダスト》の効果発動! 1ターンに1度、自分フィールドのカードを対象として、その破壊を無効にする!
凛が選ぶのは、スターダスト自身!」
――
2人の魔術師の連携から繰り出される極大の魔力球は、スターダスト自身を護るために展開された不可視の障壁により、全てを打ち砕くことはできない。
だが、守りきれなかった《ヴァイロン・プリズム》はスターダストから剥がれ落ち、消えていく。
「《ヴァイロン・プリズム》が消え、効果を使用したことで、お前のモンスターは単なる攻撃力2500のモンスターとなった!
ここで俺は永続魔法《補給部隊》を発動!」
かつて、アテムと互角のデュエルを繰り広げた決闘者も使用した手札増強カード。囮としても有用である強力なカードがアテムたちのフィールドに発動される。
(よしっ! アテム先輩の《ブラック・マジシャン》と星空さんのスターダストはどちらも攻撃力2500! これなら!)
「行け、《ブラック・マジシャン》! スターダストを攻撃!」
「くっ! 迎え討つにゃ、スターダスト!」
――
――
同じ攻撃力を持つモンスター同士の戦闘。
黒き魔術師から放たれる漆黒の奔流と、白き竜から放たれる閃珖が正面から激突し、互いにせめぎ合うが、それも一瞬だけ。
巻き起こる爆発が2体を包み込み、フィールドから消滅させてしまった。
「俺のモンスターが破壊されたことで、《補給部隊》の効果によりカードを1枚ドローする!」
《補給部隊》によるドローは1枚につき1度しか適用されない。しかし、自他問わずどのような方法で使用者のモンスターが破壊されても発動できることが最大の強み。
そして、アテムの攻撃はまだ続く。彼の場には攻撃可能なモンスターが残されているのだから。
「《ブラック・マジシャン・ガール》は墓地に《ブラック・マジシャン》が存在する時、攻撃力が300ポイントアップする!」
《ブラック・マジシャン・ガール》
ATK2000 → ATK2300
師の魂を受け継ぎ、力を蓄える愛弟子。
上昇したとはいえ未だ低めの攻撃力だが、花陽たちに大ダメージを与えるには十分な数値だ。
「行け、《ブラック・マジシャン・ガール》! プレイヤーに
――
師のものに比べれば小さいが、確かな威力を秘めた黒き爆炎。その一撃を正面から受けた凛の身体が大きく仰け反った。吹き飛ばずに済んだのは、彼女がこのデュエルにかける思いの強さによるものだろう。
花陽&凛 LP3500 → LP1200
「凛ちゃん!」
凛の身を案じる花陽の声が響く。大ダメージを受けた親友の元へ駆け寄ろうとするが、それを凛は手で制した。
心配はいらない、そう語っているかのようだ。
「戦闘ダメージを受けたこの瞬間、凛は手札から《
このモンスターを特殊召喚して、この戦闘で受けたダメージ分、ライフを回復するにゃ!」
《BK ベイル》
☆4 炎属性 戦士族 DEF1800
花陽&凛 LP1200 → LP3500
両手に盾のような大きなプロテクターを構えたボクサーが現れると同時に、大ダメージを受けたはずの彼女たちのライフポイントが元通りになってしまった。せっかくの攻撃が無駄に終わってしまったことに、アテムは表情を僅かに歪めた。
「くっ……!」
数日前、アテムと凛が行なったデュエルでも彼女は「BK」というカテゴリに属するモンスターを使用していた。前回のデュエルではこのモンスターは出てこなかったが、もしも使われていたら更なる苦戦を強いられていたに違いない。
「バトルを終了し、
「……はいっ! 私も出来る限り頑張ります! 私のターン、ドロー!」
アテムに比べればややぎこちない花陽のドロー。だが、彼女とて1人の決闘者。その内には戦うための決意が込められているように感じられた。
「私は手札から、
《薔薇恋人》
☆1 地属性 植物族 ATK800
薔薇の如き鮮やかな、真紅のドレスを身に纏う令嬢。腰元まで伸びる亜麻色の長髪も、太陽の光を浴びて輝き、その高貴さを際立たせている。
「更に《薔薇恋人》をリリースして、永続魔法《超栄養太陽》を発動です! このカードは、私のフィールドに存在するレベル2以下の植物族モンスター1体をリリースすることで、そのモンスターより3つまで高いレベルを持つ植物族モンスターを手札かデッキから特殊召喚します!」
一際大きな太陽の光を浴び、《薔薇恋人》は新たな植物への架け橋となる。レベル1のモンスターをリリースしたため、呼び出せるモンスターのレベルは4までだ。
「へぇ、俺の《賢者の宝石》のようにデッキからモンスターを呼び出すカードか。だが、レベル4までのモンスターなら大したことは――」
「違うわ、アテム先輩! あのカードで呼び出せる植物族は実質レベルの制限はない!」
「何っ!?」
「西木野さんの言う通りです! 私がデッキから特殊召喚するのはレベル3の《ローンファイア・ブロッサム》!」
《ローンファイア・ブロッサム》
☆3 炎属性 植物族 ATK500
花火の如き胞子を撒き散らしながら姿を現す小さな蕾。
まだ花が開いていないから脅威ではない……否。どのような花が開くのかわかっていないからこそ、未知の脅威を相手に示すのだ。
「《ローンファイア・ブロッサム》は、自分フィールドの植物族モンスターをリリースすることで、デッキから植物族モンスターを特殊召喚します。そして、この効果にレベル等の制限はありません!
私はブロッサム自身をリリースして、2体目を呼び出します!」
開いた蕾から現れるのは、同じ姿の新たな蕾。しかも、それは再び鳴動しているではないか。
「続いて2体目の効果も発動して、3体目! 最後に3体目もリリースすることで、レベル8の《
《椿姫ティタニアル》
☆8 風属性 植物族 ATK2800
「バカな!? 攻撃力2800の最上級モンスターを、デッキからデメリット無しで召喚しただと!?」
小さな蕾から現れたとは思えないほどの質量を持つ巨大な椿の姫。
引っ込み思案だと自己評価する使い手とは正反対の威圧感を眼前のアテムたちへと放っていた。
一方で、花陽のパートナーである凛は得意げだ。
「《ローンファイア・ブロッサム》を連続で召喚してデッキを圧縮しながら、状況に応じた植物族モンスターをリクルート! これこそが、かよちんのロンファ3連コンボにゃ!」
「そして、まだ終わりではありません! 続けて私は手札から《
「っ! マズい……!」
凛の言葉に重ねるように、花陽がモンスターの効果発動を宣言すると、真姫は顔を強張らせた。
手札・デッキ・墓地。ありとあらゆる場所から芋づる式に特殊召喚される展開力こそ、植物族の真骨頂。
たった今、花陽が見せたコンボでさえまだ序の口なのである。
「《薔薇の聖騎士》は、自身を手札から墓地に送ることで、デッキからレベル7以上の植物族モンスターを手札に加えます。
その効果でサーチするのは、レベル8の《
花陽の手に握られた新たな姫。召喚されずとも僅かな威圧感を放つ最上級モンスター。通常召喚は既に終えているので、このターン中にアドバンス召喚することは不可能。
一瞬だけ安堵するアテムだが、彼女がデュエルディスクに手をかけた瞬間、それは甘い考えであったと気付かされる。
「更に、墓地から《薔薇恋人》の効果発動です! このカードを除外することで、手札から植物族モンスターを特殊召喚します!
現れて、《桜姫タレイア》!」
《桜姫タレイア》
☆8 水属性 植物族 ATK2800
「タレイアは、自分フィールドの植物族モンスター1体につき、攻撃力が100ポイントアップします。今、私のフィールドに植物族は2体。よって、攻撃力は3000になります!」
桜の花びらに彩られた、2体目の植物姫。それどころか、今度は攻撃力3000ときている。
2人とも、心のどこかで花陽は凛のサポートを請け負うものだと思っていた。
しかし、それは大きな間違い。彼女たちはどちらも高速で高レベルのモンスターを展開する、まさしく攻撃重視のコンビ。
――アテムの額から一滴の汗が流れ落ちた瞬間、猛攻が始まった。
◆
「ね、ねぇ海未ちゃん。花陽ちゃんって何回特殊召喚したっけ……?」
「5回ですね、穂乃果。たった1ターンで2体の最上級モンスターを展開する小泉さんの実力。私たちは彼女を少し見くびっていたのかもしれません……」
花陽が見せた展開力に、穂乃果は顔をヒクヒクさせていた。先日あった時に自信が無さそうな雰囲気を醸し出していた彼女と同一人物だとは思えないほどの力を目の当たりにしたためだ。
「うん。花陽ちゃんがあんなソリティアができる決闘者だとは思わなかったよ」
「ことり、確かにその通りですが、その言葉をそっくり貴女に返しますよ」
1ターンで何回もの特殊召喚やサーチを繰り返す【
(私も、あのレベルの展開力がなければいけないのでしょうか……)
そして、自らの実力を高めなければいけないと、若干の焦りを抱き始める海未であった。
◆
「バトルフェイズに入ります! 私は《椿姫ティタニアル》で《ブラック・マジシャン・ガール》に攻撃!」
現在、《ブラック・マジシャン・ガール》の攻撃力は自身の効果で2300にまで上昇しているが、それでも攻撃力2800の《椿姫ティタニアル》には及ばない。
「先輩!」
しかも、ティタニアルの横には更に高い3000もの攻撃力を持つ《桜姫タレイア》が控えている。
総攻撃力は実に5800。この連続攻撃が決まれば、ひとたまりもないだろう。
「流石かよちんだにゃ! これで西木野さんたちのライフは一気に500に――」
――この瞬間、
『え!?』
「罠カード発動! 《ブラック・イリュージョン》!!」
ティタニアルの前に、『BM』と描かれた紫色の盾が立ち塞がる。
《ブラック・マジシャン・ガール》は無数の花吹雪による連撃を受けて苦悶の表情を浮かべるものの、その姿を維持し続けていた。
「そんな……! 破壊できない!?」
「俺の魔術師は、そう簡単に倒させない! このカードは、攻撃力2000以上の闇属性・魔法使い族モンスターは、ターンの終わりまで効果が無効となる代わりに、戦闘及び相手のあらゆる効果から守られる!」
そう、効果が無効となったことで攻撃力は元に戻ってしまったが、幻影の鉄壁により彼女は守られていたのである。
《ブラック・マジシャン・ガール》
ATK2300 → ATK2000
アテム&真姫 LP4000 → LP3200
「ですが、ダメージは通ります! タレイアで追撃!」
吹き荒れる桜吹雪が《ブラック・マジシャン・ガール》を襲う。破壊されないまでも、攻撃力が高いモンスターからの攻撃を受けたのだ。モンスターとプレイヤーへの衝撃は変わらずそのままだ。
「くっ……!」
アテム&真姫 LP3200 → LP2200
「これでバトルは終了です。私は、カードを2枚伏せて、ターンエンド!」
◆
「ダメージを軽減できたけど、花陽ちゃんたちのフィールドには最上級モンスターが2体もいる……。これってちょっとマズい状況だよね……?」
《ブラック・イリュージョン》の効果により、本来受けるはずだったダメージを大幅に軽減したアテムと真姫。
次は1巡目最後となる真姫のターンなのだが、花陽のフィールドに残された2体の植物姫はどちらも高い攻撃力を持つ。
不安げな表情を浮かべる穂乃果に対し、海未とことりも同意する。
「それだけではありません。まず、ティタニアルはフィールド上のカードを対象とするカード効果が発動した時、植物族モンスター1体をリリースすることで、それを無効にして破壊する効果を持っています」
「そして、タレイアがフィールドに存在する限り、タレイア以外のフィールドの植物族モンスターはカード効果で破壊されない」
ティタニアルの効果は自身をリリースすることでも発動が可能。実質、対象をとるカード効果で突破するのは難しく、戦闘破壊を狙おうにも高い攻撃力が邪魔をする。
更には正体不明の
凛が最初に繰り出した《閃珖竜 スターダスト》と《ヴァイロン・プリズム》のコンボと同等に厄介なフィールドであった。
「真姫ちゃん、頑張って……!」
◆
「対象に取る効果を無効にするティタニアルと、破壊耐性を付与するオレイア。そして2枚の
自分たちを見下ろす植物姫たちを前に、真姫は露骨にうんざりという表情を浮かべている。高い攻撃力と強力な効果を併せ持つモンスターが並んでいるのだ、無理もない。
「ふふん! これがかよちんの力だよ、西木野さん! この布陣をどうするのかにゃ?」
親友の活躍が嬉しいのだろう、2体の植物姫を召喚した花陽よりも得意げに凛は胸を張る。花陽本人は褒め倒されることが恥ずかしいのか、少しだけ視線が下がっていた。
「確かに厄介だけど、舐められたものね。どうやって突破するかなんて、そんなの決まっているじゃない」
――正面から打ち破るまでよ!
「私のターン、ドローッ!」
ニヤリと笑うやいなや、真姫は僅かな風を巻き起こしたかのような錯覚を思わせる勢いでドローを繰り出す。
普段、教室では見せないような声と仕草に、花陽も凛も目を丸くした。
「まずは手札から魔法カード《トレード・イン》を発動! 手札のレベル8モンスター《幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト》を墓地に送ることで、新たにカードを2枚ドローする!」
凛の《閃珖竜 スターダスト》や花陽が召喚した2体のモンスターのように、レベル8の最上級モンスターは確かに強力だ。しかし、それも手札やデッキに残ったままでは何の意味も為さない。
だからこそ、最上級モンスターを擁するデッキでは手札事故の危険性を少しでも軽減し、新たなカードを呼びこむカードは重宝される。
「……来たわね! 続けて、手札を1枚捨てることで、魔法カード《ブラック・コア》を発動! 《椿姫ティタニアル》を対象として、そのモンスターを『除外』するわ!」
破壊ではなく、除外。
いかに《桜姫タレイア》といえど、破壊を介さない除去の前では無意味。となれば、花陽がとる行動は1つしかない。
「……っ! ならば、ティタニアル自身をリリースして、効果発動です! ティタニアルを対象とした《ブラック・コア》を無効にして破壊します!」
「そう。貴女はそうするしかない!」
除外されるよりも前に墓地へと逃がす、いわゆるリリース・エスケープ。
自ら身を腐らせていくティタニアルの力により、次元の彼方へと吸い込まんとする漆黒の球体は効力を失い、霧散した。
「だが、これで今1番厄介なティタニアルは消えたぜ! 行け、西木野! 俺のモンスターを使え!」
「言われなくてもそのつもり! 私は、《ブラック・マジシャン・ガール》をリリース!」
リリースとは、新たなモンスターを呼び出すための言わば生け贄。
《ブラック・マジシャン・ガール》の魂が墓地へ送られた瞬間、フィールド全体が漆黒の闇に覆われた。
「見せてあげるわ! 私のエースモンスターの一角を!」
やがて闇は、真姫の手札に結集する。
世界を闇に包むために降臨するのは、邪悪なる魂を秘めし帝王。
「降臨せよ! 怨念宿りし邪悪なる帝王! アドバンス召喚!」
――レベル8! 《怨邪帝ガイウス》!!
《怨邪帝ガイウス》
☆8 闇属性 悪魔族 ATK2800
「レベル8の最上級モンスターを、1体のリリースで召喚した!?」
「ええ。確かに、レベル7以上のモンスターをアドバンス召喚するには、通常2体のリリースが必要。でも、この《怨邪帝ガイウス》はアドバンス召喚したモンスターをリリースしてアドバンス召喚する場合、1体で2体分の素材とできる!」
タレイアの倍近くはある巨躯が、鮮血の如き真紅の瞳を輝かせながら咆哮する。
全てを飲み込まんとする怨念が込められた威圧と迫力に、花陽と凛の身体はビリビリと震えた。
「さあ、行くわよ! 《怨邪帝ガイウス》の効果発動! このモンスターがアドバンス召喚に成功した時、フィールド上のカード1枚を除外して、1000ポイントのダメージを相手に与える!」
ガイウスの右手に精製される球体。それは、《ブラック・コア》と同じく全てを消滅させる漆黒の闇。
(除外効果!? でも、タレイアを狙われても1体だけなら――)
「まだよ! 《怨邪帝ガイウス》が闇属性モンスターをリリースしてアドバンス召喚したことで、更なる効果が適用されるわ!
これにより、除外枚数を2枚に増やすことができる!」
「1度に2体も!?」
除外球が、右手だけでなく左手にも現れる。狙いは当然、2体のモンスター。
「もしかして、せんぱいはそこまで見越して《ブラック・マジシャン・ガール》を守ったの!?」
「その通りだ、星空。西木野がどの最上級・
「ふ、ふん! 都合よく《ブラック・イリュージョン》を引いただけじゃない……」
顔を赤くしてそっぽを向く真姫。だが、その表情はどことなく嬉しそうに見える。
「とにかく! ガイウスの効果により、小泉さんたちのフィールドにいる2体のモンスターを除外する! やりなさい!」
――グラッジ・バニッシュメント!!
真姫の合図と同時、全てを飲み込む漆黒の闇が花陽たちのフィールドへと殺到する。
しかし――
「させません!
自分フィールドのモンスター1体をリリースすることで、フィールド上での攻撃力または守備力の数値分、私たちのライフを回復します!
私は、タレイアをリリースしてライフを2900回復!」
『なっ……!?』
巨大な中華なべに投入され、調理されていくタレイア。お世辞にも美味しそうとは思えないが、最上級モンスターを食材にした分、その回復量は絶大だ。
花陽&凛 LP3500 → LP6400
「なんて回復量よ……! でも、選択した2体のうち1体がいなくなっても、もう1体を除外してダメージを与える処理は行なわれるわ!
くらいなさい、1000のダメージを!」
右手より放たれる漆黒の闇は空を切ったが、左手より放たれるもう1つの球体は、残るベイルを飲み込み、消滅させた。
更に、その余波が花陽たちへと襲いかかる。
『きゃあっ!?』
花陽&凛 LP6400 → LP5400
アテムと見事に連携した真姫の除外コンボを受け、2人は態勢を崩す。これにはデュエルを観戦している穂乃果たちも感心の声を上げた。
「これで、花陽ちゃんたちのフィールドのモンスターはいなくなった!」
「ライフを回復されはしましたが、直接攻撃のチャンスです!」
「いっけー! 真姫ちゃん!」
「わかってるわよ! バトルフェイズに移り、ガイウスでプレイヤーに
振り上げられた拳が、花陽たちへと一気に落とされる。
《怨邪帝ガイウス》の攻撃力は2800。この一撃がまともに通れば、《神秘の中華なべ》で回復したライフポイントはほぼ無意味となる。
――そう、通るのならば。
「これ以上のダメージは、もう受けません! 永続罠《リビングデッドの呼び声》を発動! 墓地から《桜姫タレイア》を攻撃表示で特殊召喚します!」
「何ですって!?」
「《神秘の中華なべ》はこのためでもあったということか……!」
《リビングデッドの呼び声》は、墓地のモンスターを特殊召喚するカードの中でも特に有名なカードの1つ。
最もポピュラーな《死者蘇生》と比べて『罠カードゆえに即効性がない』『攻撃表示で特殊召喚しなければならない』『場を離れると特殊召喚したモンスターが破壊される』という欠点を持っているが、相手ターンに意表を突いて蘇生することができる利点を持っていることが特徴だ。
ライフポイントを回復する糧となり、除外を回避した植物姫が、再び真姫たちへと立ち塞がった。
《桜姫タレイア》
☆8 水属性 植物族 ATK2800 → ATK2900
「くっ……!」
《怨邪帝ガイウス》の攻撃力では、自身の効果によって攻撃力が上昇しているタレイアには僅かに及ばない。
対抗手段がない真姫は、バトルフェイズを終える他なかった。
「バトルフェイズは終了。
苦虫を噛み潰したような真姫の表情。いや、真姫だけではない。隣のアテムも同じような表情を浮かべている。
これで、真姫の手札は0枚。手札・フィールドのカード数はアテムたちの方が多いものの、ライフポイントに大きな差がつけられ、テンポ・アドバンテージを奪われてしまった。
1巡目を終えたタッグデュエル。
戦況は今、花陽&凛ペアの優位に傾いていた――。
●次回予告という名のネタバレ
強力なシンクロモンスター《閃珖竜 スターダスト》を駆使して戦う凛ちゃんと、驚異的な展開力で次々と大型モンスターを繰り出す花陽ちゃん。
2人のコンビネーションの前に、アテムたちは防戦一方。
負けないで、アテム! 真姫! 相手が長い間同じ時間を過ごしてきた幼なじみでも、1ヶ月絆を深めてきたアンタたちの結束はあの娘たちに匹敵するに決まってる!
真姫、今こそ見せてやりなさい! アナタの新しいエースモンスターを!
次回、『覚醒めよ! 始源の帝王』
デュエルスタンバイ!
1巡目だけで文字数約14000字、どうしてこうなった。
これ、次回でも終わらんぞ……。
それにしても、いつの間にか2年生がただの解説役になっている。
出番を増やさないと本格的に◯沢になりかねない。
このデュエルが終わったら出番を作ってあげないとなぁ。
次回もよろしくお願いします。