いつの間にか8月になってしまいましたが、ようやく投稿できました。
遅くとも月1ペースは守っていきたいですね。
しかし、アニメ本編に無理矢理デュエルを組み込む都合上、デュエルに持っていくための会話が中々難しい。
あと、9月発売の帝デッキのリメイクに収録されるカードが少しですが紹介されましたね。私は虹クリボーを持っていなかったので、再録は朗報でした。
これでやっとレベル1デッキが組める……。
真姫のデッキも強化できるし、このストラクは本当に嬉しいです。最後の帝がどのような効果になるか、今から楽しみ。
●勧誘
現在時刻は午後4時。小泉花陽は自宅のベッドで横になりながら、スマートフォンでとある動画を見ていた。
それは、昨日音ノ木坂学院で行なわれた『μ’s』ファーストライブの映像。
画面の中で歌い、踊る4人のスクールアイドル。
彼女たちのダンスは、まだ結成から一ヶ月しか経っていないからか、本職のアイドルや『A-RISE』と比べればミスやぎこちなさがいくつか見受けられた。いくつか打ち込まれているコメントにもそのことが指摘されている。
だが、なぜか花陽には彼女たち4人の姿が、今まで見たどのアイドルよりも強い輝きを放っていたように見えた。
『音ノ木坂学院の廃校を阻止したい』という大きな目標を持っているからだとか、そんな単純な理由ではない。言葉では言い表せない『未来への可能性』を感じたからだ。
あの興奮は、まる1日経った今でもはっきりと思い出せる。いや、おそらくいつまでも心に残っているだろう。
動画の再生を終えると、花陽の視線は壁に貼ってあるA4の紙…………『μ’s』のメンバー募集のポスターへと向けられた。
「スクールアイドル、か……」
小泉花陽は小さな頃からアイドルが好きで、将来はアイドルになりたいと考えたこともある。また、昨日のライブを見ている時も『西木野さんたちのようになりたい』という考えが頭を
しかし、声が小さく、自己主張もできない自分なんかがアイドルなれるはずがないのだと、結局は気持ちを押し殺してしまっていた。
「それに……」
花陽が懸念していることはそれだけではない。ポスターの隅に描かれている男子生徒のイラストに目を移した瞬間、憂鬱そうに溜息をついた。
――アテム。
音ノ木坂学院唯一の男子生徒であり、同時に『μ’s』のメンバー。
もしも、万が一自分が『μ’s』のメンバーになったとしたら、あの奇人と関わることになってしまうのだ。
あの強すぎる個性の塊とほぼ毎日顔を合わせるなんて、果たして自分に耐えられるだろうか。
「……無理かも」
別に『嫌い』だとか『憎い』だとか、黒い感情を抱いてはいない。だが、転入初日の自己紹介に始まり、一昨日の無傷&壁登り。挙句の果てには今朝のアルパカとのデュエル。あのような光景を目の当たりにして、平常心を保っていられる自信は無い。
実際問題、今朝のデュエルを見たショックで授業を休んでしまっているという以上、他の人はともかく自分には無理だと思う。
「私、どうすればいいんだろう……」
こんな時に相談したいと思える唯一の友人である星空凛も、今日に限っては一切連絡が無い。大した用が無くともメッセージを飛ばしてくる彼女にしては珍しいことだ。
教室での別れ際、『かよちんの仇は凛が必ずとってみせる!』と息巻いていたことに何か関係があるのだろうか。
「体調も良くなってきたし、こっちから電話してみようかな」
そう思い、スマートフォンの通話ボタンを押そうとしたところで――
――ピンポーン
チャイムの音が響いた。
一瞬、凛が来たのかと考えたが、その考えは10秒と経たずに否定できた。もしも凛ならばチャイムを鳴らした直後に『かよちーん! お見舞いに来たよー!』と言って家に入ってくるはずだ。
それが無いということは、凛意外の誰かということになる。何か荷物でも届いたのだろうか。
人付き合いが苦手な花陽にとって、知らない人との郵便の受け取りや電話応対はできる限り避けたい部類に入る。だが、今は両親が留守にしているため、家にいるのは花陽だけ。よって、自分が行かなければならない。
「はい、どなたでしょうか……」
意を決してドアを開けると、そこには――
「こんにちは、小泉さん。体調は大丈夫?」
「これ、お見舞いに持って来たほむまんだよっ」
クラスメイトの西木野真姫、そして高坂穂乃果が立っていた。
◆
「これ、どうぞ。麦茶しか出せなくてごめんなさい……」
「気にしないでいいわよ。むしろいきなり押しかけたこっちに非があるんだし」
なぜ2人がお見舞いに来てくれたのかはわからないが、流石にお菓子まで持って来て貰って何のもてなしもしないのは良くない。そう考えた花陽は、ひとまず麦茶を出すことにした。
真姫から体調の心配をされたが、風邪をひいたわけでもないし、半日も寝ていたのだから特に苦ではない。強いて言えば、パジャマ姿で応対してしまっていることへの申し訳無さくらいか。
「高坂先輩と西木野さんは、どうして私のお見舞いに……?」
「同じクラスだから……というのもあるけど、それは理由としてはあまり大きな理由じゃないわね」
お見舞いに来た理由を語ろうとする真姫は、本当の理由を言い辛そうにしていた。隣に座る穂乃果も、苦笑いを浮かべている。
「星空さんが言ってたのよ。あなたが今日の授業を休んだ理由を」
「アテムくんも白パカくんも悪気は無かったはずなんだけど、花陽ちゃんに迷惑をかけちゃったのは確かだから。私と真姫ちゃんが『μ’s』の代表として、ね。
本当はアテムくんも連れて来たかったんだけど……」
まともに会話したこともない異性を他人の家に上げるのは流石にまずいだろうという真姫の指摘により、今日のところは2人で来たとのことだ。花陽にとってもこれで良かったと思う。一昨日、そして朝といい、あのような奇行を繰り返す上級生…………しかも男子と自宅で会話するだなんて想像もできない。いや、むしろすることさえ憚られた。
「本当にゴメンね、花陽ちゃん。アテムくんには週明けに学校でちゃんと謝るよう言っておくから」
「あのアルパカにもね。まったく、喋れるとはいえ人間の常識についてしっかり教えこませないといけないわね」
(…………やっぱりアレは夢じゃなかったんだね)
改めて他人から語られたことで、少し気が重くなってしまった。そんな空気を察してくれたのかは定かではないが、「そういえば……」と穂乃果が声を発してくれた。
「花陽ちゃん、昨日のライブ見に来てくれたよね。真ん中に座ってたからよくわかったよ!」
いや、この先輩の場合は無意識でやっているのかもしれない。なぜなら、自分で持って来たお見舞いの品に手を出そうとして、それを真姫に咎められているくらいなのだから。
だが、2人のやり取りを見ている内に、少し気が軽くなった気がした。
「やっぱりアイドルに興味を持ってくれているんだよね。どうかな、この際だからアイドルやってみない!?」
「え? え?」
目を爛々と輝かせながら、両手を握ってくる上級生。正直ちょっと怖い。思わず「ヒィッ」と声を出してしまうくらいに。
そんな自分を助けようと、真姫が首根っこを掴んで引き離してくれた。どちらが上級生なのかわからなくなる光景である。
「……まあ、私も先輩ほど強く勧誘する気はないけど、興味があるのならやってみるのもいいんじゃない? 私のことを食い入る様に見ていたくらいだしね」
「ご、ごめんなさい……」
「別に謝らなくてもいいんだけど……」
さっきも考えていたことではあるが、アイドルが大好きで、自分もなってみたいと思っていたことは確かだ。
しかし――
「私には、向いてないと……思います。声も小さいし、地味だし……」
「そうかな? 花陽ちゃんかわいいし、向いてると思うんだけどなぁ」
穂乃果は励ましてくれるが、それでも花陽は首を横に振り、俯いてしまう。
「そんなこと、ないです。昨日のライブを何回も見ましたけど、先輩方も、西木野さんも凄く輝いていて、私なんかが同じ舞台に立てるとは思えないんです」
……いけない。
思わず、いつもの癖で
2人を不快にさせてしまったかもしれない。恐る恐る顔を上げてみる。
だが、2人の表情は「呆れ」とか「不満」というものではない。
「花陽ちゃん、『何回も』って言うけど、ライブは1回しかやってないよね?」
「カメラを回している様子もなかったし、どういうこと?」
穂乃果も真姫も、なんのことだかわかっていない様子だ。もしかして、あの映像のことを知らないのだろうか。
「えっと、これで見たんですけど……」
スマートフォンから、例のライブ映像を表示して、再生する。
すると――
「す、凄いよ真姫ちゃん! 動画にコメントがたくさん! ランクアップもしてるよ!」
「……確かに嬉しいけど、これ誰がアップロードしたのよ。私、何も聞いてないんだけど」
案の定動画の存在を知らなかったらしく、声を出して驚いていた。
動画を見ながら「ここバッチリ決まってるね」とか「ここ間違えてるわね」とか、2人の世界に入ってしまっている様子を見ていると、花陽は「羨望」と「諦念」という2つの気持ちがどちらも大きくなっているのを感じていた。
「あっ。ごめんね花陽ちゃん。2人だけで話しちゃって」
「人の部屋で良くなかったわね」
アイドル活動について生き生きと話し合う姿は素直に憧れた。だが、自分ではこんな表情を出す自信が持てないと、諦めてしまうのだ。
やはり、自分は「自ら光り輝く」よりも、「輝く人を見ている」のがお似合いなのだろう。
「ねぇ、花陽ちゃん。やっぱりアイドルやってみない?」
「え?」
再びの勧誘。だが、今度は先程のようにやや強引なものではなく、こちらの目をじっと見つめていた。その瞳に、思わず吸い込まれそうになる。言い方は悪いが少し天然っぽい印象を持っていたので、このような表情もできるのか。
「花陽ちゃん言ってたよね。このライブ映像を何回も見たって。それって、私たちのような始めたばかりのスクールアイドルに興味を持つくらい、アイドルが好きってことでしょ?」
「…………はい、大好きです。でも――」
「それにね、小泉さん。アナタは『自分はアイドルに向いてない』って言うけど、そんなこと私だって同じよ」
「西木野さんが?」
そうだろうか。真姫は歌が上手く、作曲だってできる天才だ。声が小さく、体力もあまり無い自分なんかより優れた才能を持ち合わせている彼女が『自分には向いてない』だなんて、とてもじゃないが信じられない。
隣の先輩も「私だって同じだよ」と言うが、穂乃果こそ初めて会った時から素敵な笑顔を浮かべる人だったし、ライブの時だって1番いい笑顔を浮かべていたではないか。
「私おっちょこちょいだから歌詞を忘れちゃうこと多いんだ。海未ちゃんに何度も怒られちゃうし」
「確かに何度も間違えてたわね。アテム先輩がことり先輩に吹き飛ばされているのと同じくらい」
(それ、多いのかな……)
吹き飛ばされる回数を知らないから詳細な数はわからないが、一昨日の会話を思い返してみると、相当な回数に上るのかもしれない。
「あと、私だって本当は休み時間にピアノを弾いてるだけのはずだった。私の親が医者だってことは一昨日言ったわよね?」
「えっと、うん……」
確か、あの先輩が屋上から落下していった時に『医者の娘』だと言っていたような気がする。
「私、音ノ木坂学院を卒業したら医学部に入って、将来は病院を継ぐことになっているの。だから、私はそのために勉強をしなければいけなかったし、音楽もデュエルも諦めるつもりだった。でも、やっぱり心の何処かで諦めきれなくて、休み時間に音楽室に通ってはピアノを弾いて、自宅でたまにデッキをいじっていた。中途半端よね」
医学部に合格するのは難しいと聞くし、なおかつ医者になるとすれば、非常に困難な道のりだろう。将来に対して具体的なビジョンを持っていない花陽でさえ、その辛さはわかる。もしも自分が同じ立場なら、寝る間も惜しんで勉強に時間を費やす羽目になるはずだ。それこそ、アイドルのライブに行き、CDを買うこともできなくなるくらいに。
だが、今の真姫は?
スクールアイドルとしての活動をしているし、デュエルモンスターズをしているという話も聞く。また、他のクラスメイトと会話をする姿もよく見かける。あの日、穂乃果たちが自分のクラスを訪れた日を境にして、雰囲気が柔らかくなったのだ。
「……アテム先輩が気付かせてくれた。私が『音楽とデュエルが心の底から大好き』だっていう自分の気持ちから目をそむけていたことに。
将来、医者になるという目標はもう変わらない。だけど、かつて抱いていた『音楽とデュエルの両方でプロになる』という夢を完全に捨て去るっていうのは辞めたわ。
本当に諦めなくちゃいけない時が来るまでやりたいことに全力で取り組んで、楽しみ抜くって決めたの」
デュエルモンスターズをしながら、スクールアイドル。そればかりか、医学部に合格するための勉強。
普通に考えれば不可能かもしれない。全てを極めようとするのは、真姫が才能に恵まれているからだろうか。
……いや、違う。花陽を見つめている彼女の瞳は、語っている。「恵まれた才能」に頼るわけでもなく、「常人にはできない不断の努力」を重ねることができるわけでもない。
――ただ、やりたい。
その強い心を持っているだけなのだ。
「先輩たちに出会わなかったら、今の私は無かった。
小泉さん、もしも貴女がスクールアイドルになってみたいと思っているのなら、その気持ちを誤魔化さないで。やりたいことに目を背けて諦めてしまったら、きっと後悔すると思うから…………な、何をニヤニヤしてるのよ穂乃果先輩」
「いやぁ~。真姫ちゃんが私たちのことをそんな風に思ってくれていたとはねぇ。アテムくんのことも随分と慕っているみたいだしぃ~。ニヤニヤ」
――う、うるさいわね! ガイウスで除外するわよ!
――除外!? それだけは勘弁して~!
(……やりたいことから目を背けちゃいけない、か)
じゃれ合う2人を眺めながら、ボンヤリと考える。
真姫の変化を見る限り、それはきっと正しいことなのだろう。
それでもまだ、すぐに答えは出せそうもない。
●答えを求めて
「ふっふっふ。今度はこのデッキでアテムせんぱいをボコボコにしてやるにゃ!」
「悪い顔になってるよ、凛ちゃん……」
週が明けて、月曜日の放課後。
花陽は凛と一緒に屋上へ向かうため、廊下を歩いていた。
新しく組み直したというデッキを握りしめる凛の顔は、花陽が指摘しているように、復讐に燃える悪役のようになっていて、すれ違う生徒が少々怯えていた。
ここが学院内ではなく街中であったなら通報されていたかもしれない。
放課後の屋上。そこでは、体育館や校庭を使えない『μ’s』が練習を行なっているらしい。そのような場所を花陽たちが訪れる理由は、
――花陽ちゃん、答えはすぐに出せないかもしれない。でも、一度でいいから練習を見に来てみない?
――朝は早いから、放課後がいいかもね。屋上でやってるから、星空さんと一緒に、ね。
穂乃果と真姫が花陽の家を訪れた日の帰り際。練習見学の誘いを受けたからである。
あれから2日以上経過しているのに答えを出せていないのは些か情けないが、練習を見学すれば何かが掴めるかもしれない。そう考えて、凛とともに屋上へと向かう決心をしたのだ。
だが、彼女は気付いているだろうか。
「練習を見学しに行く」という決意をしたことが、『μ’s』の仲間に入りたいという気持ちが少しでもあるということに。
「頼もー! アテムせんぱいにリベンジしに参ったにゃー!!」
「り、凛ちゃん! いきなりドアを開けちゃだめだよ!」
練習をしている最中に、様子を伺わずノックも無しにドアを勢い良く開けたりしたら、どう考えても迷惑に――
「行くよ、アテムくん! 《RR-レヴォリューション・ファルコン》で3体の「ナイトメア・デーモン・トークン」全てに攻撃ッ!」
――レヴォリューショナル・エアレイドッ!!
《RR-レヴォリューション・ファルコン》
ATK2000
「ナイトメア・デーモン・トークン」×3
ATK2000 → ATK 0
「出た! ことりちゃんの『ナイトメア・レヴォリューション・コンボ』! これでことりちゃんの勝ちだ!」
「1ショットキル狙いとはいえ、相変わらずのオーバーキルですね」
「あれ?」
2人の目に飛び込んで来た光景は、ダンスをしているわけでも、ミーティングをしているわけでもない。
絶賛デュエル中のアテムとことりであった。
「来てくれたのね2人とも」
より高く飛び上がった機械の
「そうはさせない!
次々と落下する無数の爆弾を、光の壁が跳ね返す。
真姫はこのデュエルを最後まで見ていたいのだろう。
「先輩たちのデュエルが終わったら、ちゃんと話しましょう」
とだけ言って2人のデュエルへと目を向けてしまった。
(『μ’s』の練習を見に来たと思ったら、デュエルの鑑賞になっていました。まるで意味がわかりません!)
「読んでたよ! 私は手札から速攻魔法《禁じられた聖槍》を発動! ターンの終わりまでレヴォリューション・ファルコンはあらゆる魔法・罠の効果を受け付けない! 攻撃力は800下がって1200になるけど、攻撃力0のトークン3体を破壊して、アテムくんのライフを削り切るには十分! これで終わりだよっ!」
「ねぇ西木野さん。もしかしてアテムせんぱいって1番強いわけじゃないの? この前もあの【
花陽が隣を見ると、凛は残念そうな表情を浮かべていた。
アテムにリベンジをするためにやって来たのに、当の本人が目の前で敗北する姿を目の当たりにしては、少々失望の念を抱く彼女の気持ちは理解できた。
「そうね。アテム先輩はことり先輩を怒らせて、何kmも吹き飛ばされるほどの敗北をすることが何度もある」
「そう、なんだ」
「でも――」
「俺の狙いは、レヴォリューション・ファルコンの破壊じゃない! 更なる
永続罠発動! 《洗脳解除》!!」
「なっ!?」
「――総合的な勝率は、アテム先輩の方が大きい」
アテムのフィールドで発動された永続罠。文字通り「洗脳を解除する」能力を持つカードの効果により、『ことりが発動したカードの効果でアテムのフィールドに特殊召喚された』3体のトークンのコントロールが、『元々の持ち主である』ことりのフィールドへと移った。
そして、《聖なるバリア -ミラーフォース-》は、相手の攻撃宣言時に発動され、効果解決時に相手フィールドに『表側攻撃表示』で存在する全モンスターを破壊する。
つまり――
「本来、《洗脳解除》は相手に奪われたモンスターを取り戻すために使うカード。だが、このタイミングで発動することで、南に『攻撃表示で』送りつけられた3体のトークンはお前のフィールドに戻り、ミラーフォースの効果により破壊される!
更に、「ナイトメア・デーモン・トークン」は破壊された時にコントローラーへ800ポイントのダメージを与える!」
「私の残りライフは1500……!」
「そうだ! 3体分、2400のダメージにより俺の勝ちだ!!」
ミラーフォースで反射された爆撃が、ことりのフィールドを蹂躙する。
機械の隼は聖なる槍の効果で破壊を免れたが、3体のトークンは別。断末魔の叫びを上げ、本来の主へと牙をむけながらその身を焼き尽くされていった。
「きゃああああ!」
ことり LP1500 → LP 0
「す、凄いにゃ……」
「《洗脳解除》にこんな使い方があったなんて……」
花陽や凛はもちろんのこと、この場にいる誰もが目を見開き驚いていた。
「これがアテム先輩の実力よ。どんな状況でも決して諦めず、一見使い難いカードも力を十二分に引き出して使いこなす。
だからこそ、先輩は強い。…………どうしてその実力を、ことり先輩を怒らせた時に発揮できないのかとも思うけどね」
最後の一言はともかく、逆転勝利を収めたアテムの姿は、不覚にも格好良く見えた。
今まで奇行ばかりが目立っていたが、もしかしたら今の姿こそが彼の本来の姿なのではないだろうか。
「花陽ちゃん、来てくれたんだ! 小泉さんも!」
「こ、こんにちは……」
デュエルが終わり、ようやくこちらに気付いた穂乃果が、ライブで浮かべていたような笑顔で寄ってきた。その隣には、落ち着いた雰囲気を持った先輩、園田海未。そして、激戦を繰り広げていたことりとアテム。
「私とアテムくんのデュエル、見てたんだよね。どうだったかな?」
「えっと、その……。レヴォリューション・ファルコンが攻撃宣言したところからしか見てないですけど、相手のコンボを逆手に取った、センパイのミラーフォースと《洗脳解除》のコンボ。凄く、感動し――」
「Yeah! 流石はこの俺KKA! また1人、ファンを増やしてしまったぜ!」
バク宙しながら奇声を上げるヒトデ頭。…………どちらが本当の彼なのだろう。
「こらぁっ! かよちんを怯えさせるような変なことをしないでほしいにゃ! 今度こそアテムせんぱいをやっつけてやる!」
「ちょ、ちょっと凛ちゃんストップ!」
デュエルディスクを構え、デュエルを挑もうとする凛を必死で止める。守ろうとしてくれるのは嬉しいが、上級生に対して喧嘩腰になるのはやめるべきだ。
「はなせー! じゆうにしろー!」という凛の声を受け流しながら後ろへと下がる。
今はデュエルをしていたが、今から練習を始めるのだから、自分たちは後ろで大人しくしていなければならない。
音ノ木坂学院のスクールアイドル。その練習風景を目に焼き付けようと思ったところで、
――皆、少し話をさせてくれないか。
『え?』
「小泉といったな。話は穂乃果たちから聞いたぜ。3日前の朝、俺と白パカのデュエルを見たことでお前はショックを受け、授業を休んだことを。その復讐のために星空が俺にデュエルを挑んできたこともな。
知らなかったとはいえ、すまなかった。今この場で謝らせてくれ」
「いえ、それはもう大丈夫、です……」
真剣な表情で言葉を発するアテムの声に、全員が動きを止める。
頭を下げているわけではないが、声音から十分に反省していることは伺えた。
「更にもう1つ。お前はスクールアイドルになることを迷っているということも聞いた。俺はお前のことをよく知らないが、これだけは言える。
『自信が持てない』なんて理由で縮こまっていたら何もできないし、絶対に後悔する。何かを掴みたいなら、少しでいい。勇気を出して前に出るんだ」
3日前にも、真姫たちに言われた言葉。同じ言葉を他の人から改めて言われることで、一歩を踏み出さないままの自分は間違っているのではないかと思えてくる。
「だから――」
――俺と、デュエルをしよう。
「…………はい?」
なぜこの流れでデュエル? まさか、デュエルに負けたら『μ’s』に入らなければならないということか。
「別に、俺が勝ったら『μ’s』に入れだなんて言うつもりはない。だが、俺はデュエルを通じて知りたいんだ、お前の本当の心を」
アテムは、一度しまったはずのデッキとデュエルディスクを取り出し、歩み寄ってくる。
断れそうな雰囲気ではない。だが、勝敗を気にしなくて良いとはいっても、今行なわれたデュエルを見る限り、彼の実力は相当なもの。果たして、自分なんかがまともに渡り合うことができるのか。
そんな不安に駆られる花陽とアテムの前に――
「せんぱいの相手は凛だよ! かよちんとデュエルがしたいなら、まずは凛を倒してからにするにゃ! この前は負けたけど、この新しいデッキでせんぱいを倒す!」
新たなデッキを手にした凛が躍り出た。
「なるほど、リターンマッチということか」
ああ、まただ。
この親友は、いつも引っ込み思案な自分を助けてくれる。
5日前もそうだ。真姫との間に立って、言いたいことを代弁してくれた。
あの時に感じたではないか。助けて貰っているばかりの自分に対する不甲斐なさを。
(そうだ、このままじゃいけない……!)
アイドルができるかどうかは、まだわからない。
でも――
「大丈夫だよ、凛ちゃん」
「かよちん……?」
このデュエルだけは、逃げちゃいけない!
「小泉花陽、このデュエル受けさせていただきます!」
親友と一緒に組み上げた、自慢の
全ての決闘者が持つ武器を手に、凛の横に並んで眼前の強敵に対峙する。
「戦う気になってくれたようだな、小泉。……いや、星空もか」
既にデッキをデュエルディスクに差し込み、臨戦態勢に入っている凛。
無理もない、彼女は元々アテムにリベンジするために屋上へやって来たのだから。
戦おうという意気込みと気迫は、花陽に勝るとも劣らない。
「しかし、このままだと2対1になってしまいますね。アテムさんの実力は誰もが認めるところですが、流石に2人同時に相手をするのは大変ではないですか? ジャンケンでもして、順番を決めていただきますか?」
「……いや、それならここはタッグデュエルといこうじゃないか」
なるほど、タッグデュエルなら2人が同時にアテムとデュエルをしても、数の差で不利になることはない。
アテムの提案に、花陽も凛も同意する。ならば、アテムのタッグパートナーは?
「俺は誰でも構わない。穂乃果たちが決めてくれ」
「だったら、真姫ちゃんお願い!」
「な、なんで私なのよ! 穂乃果先輩がやればいいじゃない!」
「本当は私がやりたいんだけどね。でも、同じ1年生の真姫ちゃんが参加した方がいいと思って。皆はどうかな?」
当事者であるアテムはもちろん、海未もことりも首を縦に振り、同意する。アテムも、きっと誰がパートナーになろうともその実力を十二分に発揮することだろう。
「仕方ないわね、やってあげる」
「感謝するぜ、西木野。……デュエルの前に、こいつを受け取ってくれ」
やや渋々といった様子で、真姫はデッキとデュエルディスクを取り出す。そんな彼女に、アテムは1枚のカードを投げ渡した。
「タッグデュエルは、個々の実力だけでは勝てない。どちらがより強い結束で結ばれているかが鍵となる。だから俺はこのデュエルの間、そのカードをお前に託す」
「……わかった。じゃあ、私はこのカードを先輩に渡しておくわ。先輩の60枚デッキと違って、私のデッキはピッタリ40枚にしておきたいもの」
お互いにカードを交換し、それをデッキに投入する。
真姫の発言からして、アテムはメインデッキ構築を構築する際、常に限界枚数である60枚にしているのだろう。言われてみれば、彼のデュエルディスクのオートシャッフル機能は、デッキ枚数が多すぎるせいで、真姫や自分たちのそれよりも若干だが遅い。
通常、デッキ枚数は下限の40枚にするべきというのが一般的だ。特定のカードをドローしたい場合、デッキの残り枚数が少ない方が引き当てる確率が高くなるからだ。デッキから特定のカードをサーチするカードが多く入っている場合、デッキ枚数が45枚ほどになるという話は聞くものの、それでも60枚は多すぎる。引きたいカードを引けないという結果に陥るのがオチのはず。
だが、アテムは3日前には優れたカウンター能力を持つ【BK】を操る凛を倒し、たった今も高速展開を得意とする【RR】を使用したことりに打ち勝ったばかり。デッキ枚数が多すぎるという欠点をカバーする実力を持っている以上、油断は禁物。
「かよちん、絶対に勝とうね!」
「うん、凛ちゃん!」
「皆さん、準備はできたみたいですね。審判は私、園田海未が務めさせていただきます。
ルールは『タッグフォースルール』を採用としますが、よろしいですか?」
審判の海未の言葉に、4人は同意する。
タッグフォースルールとは――
・プレイヤーは、タッグパートナーとフィールド・墓地・除外ゾーンを共有する。
・手札及びデッキは共有しない。
・自分と相手に効果が及ぶ効果は、ターンプレイヤーと直前のプレイヤーに適用される。
・手札やデッキにカードが戻る場合、元々の持ち主がタッグパートナーのカードであっても、ターンプレイヤー(相手ターンなら直前のプレイヤー)の手札やデッキに戻す。
・先攻1ターン目のみ通常のドロー不可。以降のプレイヤーはドローが可能。
・攻撃は後攻ターン目から可能。
この6つを基本とするルール。
自分のカードをパートナーに託すことができ、手札を確認して相談することができないルールであるため、どれだけ互いを信頼した戦術を繰り出すかが重視されるのである。
「せんぱいへのリベンジ、今こそ果たしてみせるにゃ!」
「やれるものならやってみな。俺と西木野の『結束の力』で、お前たちに勝つ!」
「私の力がどれだけ通用するかわかりません。ですが、精一杯やらせていただきます!」
「海未先輩、デュエル開始の合図をお願い!」
今、2組の魂がぶつかり合う。
「はい! アテム&西木野ペア VS 星空&小泉ペア、デュエル開始!!」
『デュエル!!』
アテム&真姫:LP4000
花陽&凛:LP4000
●星屑のきらめき
「先攻は凛が貰うよ! 凛は手札から魔法カード《増援》を発動! デッキからレベル4以下の戦士族モンスターを手札に加える! サーチするのは、レベル4の《ゴブリンドバーグ》!!」
このデュエルに参加している4人の中で、最も戦意を燃やしているのは間違いなく凛だろう。その心を示すかのように、手札1枚分のアドバンテージを捨ててでも少女は先手を取った。
「続いて、今手札に加えた《ゴブリンドバーグ》を召喚して、効果発動! このモンスターが召喚に成功した時、手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚できる!
これにより、レベル4のチューナーモンスター《ヴァイロン・プリズム》を特殊召喚!」
一体のゴブリンが、小型のプロペラ機に登場しながら現れる。そこに吊り下げられたやや大型のコンテナを落下させると、中から更なるモンスターが出現した。
また、一仕事終えて疲れてしまったのか、《ゴブリンドバーグ》は自身の効果により守備表示へと変更された。
《ゴブリンドバーグ》
☆4 地属性 戦士族 ATK1400 → DEF 0
《ヴァイロン・プリズム》(チューナー)
☆4 光属性 雷族 ATK1500
「チューナーモンスターと非チューナー、合計レベル8……!」
「来るのか、あの召喚法が!」
モンスターが並んだことでより強さを増した凛の
2人は瞬時に理解した。凛は一切の出し惜しみもせず、いきなり本気でかかって来るつもりなのだと。
「行くにゃ! 凛はレベル4の《ゴブリンドバーグ》に、同じくレベル4の《ヴァイロン・プリズム》をチューニング!」
掛け声とともに宙へと飛び上がる2体のモンスター。
4つの光輪へと姿を変えた《ヴァイロン・プリズム》野中をゴブリンが通過すると、たちまち4つの光球へと姿を変えていく。
「星海を切り裂く一筋の閃光よ! 魂を震わし世界に轟け!」
文字通り、眩き閃光が屋上を包み込む。思わず目を瞑りたくなるほどの光の中から現れるのは、
――シンクロ召喚!
「輝け、レベル8! 《閃珖竜 スターダスト》!!」
《閃珖竜 スターダスト》
☆8 光属性 ドラゴン族 ATK2500
「スターダスト、だと……!?」
星々の輝きを纏う、真白き閃珖の竜。
その姿は、かつて1度だけ共に戦った決闘者のエースモンスターに瓜二つ。
白銀の光を放つ咆哮が世界に轟いた。
●次回予告という名のネタバレ
ついに始まったタッグデュエル!
アテムも真姫もお互いを支え合って抜群のコンビネーションを繰り出すけど、花陽ちゃんたちも強い!
やっとの思いでモンスターを倒しても、次々と高レベルのモンスターを展開する2人の実力はまさしく本物!
頑張って、アテム! 真姫! アナタたちの絆はもっともっと強くなるはずでしょ!
次回、『アテムと真姫 魂のタッグデュエル!』
デュエルスタンバイ!
作中でも触れましたが、アテムはことりに常に負けているわけではないです。
あくまで、ファッション関連で怒らせた際になぜかボロ負けしているだけで、普段はだいたい勝ってます。
デュエルキングのKKAが負けるなんて、ありえないんだぜ!(←無言のブレイブクロー・レヴォリューション)
さて、タッグデュエルが始まりましたが、今回は導入のみ。
タッグデュエル故にターン数がかなり長くなってしまったので、文字数がどうなってしまうのか不安でたまりません(汗)
既に書き終えているデュエル構成にミスがなければ、8月中には決着まで持っていける……はず。
次回もよろしくお願いします。