「ねえねえ、あれが・・・?」
「え、でも2人いるんじゃないの」
「ていうか、なんか目が・・・」
HRが終わり、教師2人が教室を出るとクラスの前は多くの女子でごったがえした。
その理由は世にも珍しい男性操縦者を見に来たという、ようはただの野次馬だ。
一夏の野郎は、知らんポニーテールの奴とどっか行ったので必然的に俺に注目が集まり、居心地の悪さを感じる。
こういう手合いは何処の世界でもいるが、迷惑以外のなにものでもない。
いうなれば、火事現場とかで野次馬に来る奴らと同じだと俺は思っている。
家主の顔が絶望に染まり消防士たちが必死に消化活動する中、面白半分で、協力する気もなく、道を塞ぎ騒ぎはやし立てる。
想像することが容易だ。むしろ火事と聞いたら燃える光景とワンセットに思い浮かぶレベル。
自分に関係なく、自分に被害が出ないから目の前で起きる悲劇もただの喜劇として笑い合える。
そんな迷惑な、行動をとっても誰も注意しないというから尚質が悪い。
いや、仮に注意したとしてもしたがわが、空気の読めない変な奴、偽善者などと言われるのがオチだろう。
うっわ何この人・・・空気読めよな、ッチみたいな感じで罵詈雑言の嵐。
何とも嘆かわしいが、それが人の本質と言ってもいいので仕方がない。人は誰しも他人の不幸を喜ぶ生き物で、面白半分でネットに上げたり友達との会話のネタにする。それが人だ。
タイトルは『マジで激モエ~www』とかだろう
性善説というのがあるだろ。
人は誰しも善として生まれてきたという考えだ。
よく、そんな事はない。人の本質は悪にあるとか、そんなのただの偽善でしょ。みたいな意見があるが、俺はそうとは思わない。
考えてもみろ、そもそもこの世界の善とはなんだ?
答えは金だ。
罰を決める法律も作るのには金が要るし、罰の内容の8割以上は金が絡む。
警察官や軍人も金をもらい市民を、国を守っている。
犯罪を犯しても金を払えば釈放されるし、貧乏人の犯罪者を捕まえるのは簡単だが、金持ちの犯罪者を捕まえるのは難しい。
安全、平和、平穏、快楽、人権、命、
金で買えない物はこの世の中にあるだろうけど金がなくては手に入らない物の方が断然多い。ちなみに先にあげた物は全部金で買う事が可能だ。
世界は金こそが正義であり善だ。
俺は人は信用していない、でも金の事は信用してる。
金は人を幸せにする幸福の象徴だ、幸せを求める事は決して悪という事ではないだろ?
逆説的に金を求めない人生は幸福の放棄と同義。金の為に人を貶めあまつさえ命をも奪う行為ですら幸せを求める故の行いと言える。
ならやはり人は生まれながらにして善という考えは間違っていない。
どんな悪事も善行も辿っていけば元は皆等しく善なのだ。
だが、この考えを持つ人間が善人とは限らない。
ソースは俺な。
「そこの貴方、ちょっとよろしくて?」
軽い現実逃避気味に思考に没頭していた俺に向かい話しかける声が聞こえる。
目の前を見ると金髪碧眼でお嬢様みたいな雰囲気の金の臭いがする女が現れた。
心なしか高圧的に見えるが誰だこいつ?
この現代社会にドリルヘヤーというのも珍しい。いや、それともこの世界の外国人ではこれが普通なのか?
どっちにしても理解できんが、誰だこいつ?
「聞いてますの!返事ぐらいしたらどうですの!」
「誰だが知らないが、そこの貴方さん呼ばれてるぞ」
「貴方の事です!」
良くあるネタをぶっこんでみたが、どうやらお気に召さなかったらしい。
いや、よく考えるとこのネタは大抵の場合怒られるネタだったな。
こりゃうっかりしていた。
もちろんわざとだがな。
「生憎俺はそこの貴方なんていう名前じゃないんでな。呼ばれたことに気が付かなかったよ」
「まあ、なんですのそのお返事は!」
そこまで可笑しな事を言った覚えはないが、このドリルはオーバーにもほどがあるリアクションをとる。
演劇とかで見る腕を大きく広げたり一々大振りで芝居かかったあれだ。
そもそも皮肉を言ってるんだから返事がアレになるのも仕方ないだろ。察しろよ。
というよりうるさい。
この近さで話しているのに声の設定ボリュームが2つくらい多いんじゃないか?
「このイギリスの代表候補生にして、入試主席合格者セシリア・オルコットがわ・ざ・わ・ざ!
貴方のような人間に話しかけているのですからそれ相応の対応をするのがしかるべきではなくて!」
そんな事知るか。
少なくとも一方的に話しかけられた方が取る対応ではないだろ。
・・・めんどくさい奴に目をつけられたようだな。
自己紹介の時にあんなに話しかけるな、お前らとよろしくするつもりはないぞというオーラを出していたのに全くのスルーか。
人の迷惑考えずに話しかけてくるとかどんだけ図々しいんだ。
それか俺の言った言葉の意味とか分からないのかよ。
流暢な日本語話してるのに意思疎通がここまで行かないとは・・・これが国境の差という奴か。
だが、そこでふと思う。
別に国境を越えてなくとも同じ国の中ですらまともなコミュニケーションが取れてなかったな俺。
とにかく、同郷の者ですら話が通じない時があるのに外国人との交流なんて無謀だな。
「それはすまない。まさか人の名前も碌に言えない程度の人間がそれ相応の対応を求めるとは、考えもしなかった。
素直に謝ろう、
お前の程度を見極めきれずすまなかった、申し訳ないからこれからさきは話しかけないように心掛けるよ。
それじゃあな」
無謀に挑戦するほど俺は馬鹿でもチャレンジャーでもない。
これでも堅実に確実に不誠実に生きる事を目標にしてるのでな、オルコットとの話を早々に切り上げようとする。
が
「貴方ッわたくしのことを馬鹿にしてますの!」
なおも突っかかってくる。
なぜだ?
今さっきもうお前には話しかけないからどっか行けと遠回しに言ってやっただろ。あまつさえ何が悪いのか分からんが謝罪もつけてやったのにどうして会話を続けようとするのか。
まったく外国人との価値観の違いはどうしようもないな。
そもそも馬鹿にするも何もお前は端から俺と会話してすらいないだろ。
それこそ馬鹿にしてると言える。
相手の事を気にもかけずに、自分の事を一方的に話す。それも代表候補生だとか主席合格だとか自分を優位に見せる言葉で。
これは、ただの演目で茶番劇だ。
会話とはコミュニケーションであり、相手と対話する事だ。
こいつのしてるのは会話じゃなくただのデカイ独り言。
そんな物に付き合わなければいけない道理もない。独り言は一人でしてろ。
「何を怒っているのか知らないが、俺が悪かった。以後気負つける。それじゃあな」
「フン、少し引っかかりますが・・・まあいいですわ」
どうやら満足いったらしい。このままさっさと退散してくれ。
俺はこれから寝たふりを始めるので忙しいんだ。
「わたくしは寛大ですから、貴方の粗暴なふるまいにも特別に許して差し上げます」
そうかい、そうかい。そりゃよかったな。
じゃあ、さっさと目の前からいなくなれ。
その無駄に大きな動作のまま兵隊みたいに周れ右してどっかいけよ。
「本当なら、わたくしに話しかけられただけでも泣いて喜ぶのが礼儀ですが・・・庶民の貴方には無理な話でしたわね。
紅茶の味が分からない人に最高級の茶葉を渡しても宝の持ち腐れもいいところですし」
豚に真珠、猫に小判、馬の耳に念仏的な事を言いたいのだろうか。
一周周ってその例えはいまいちよくわからんがニュアンスで予測できる。
それにしても、世間一般では貴族と話すだけで庶民は泣かなくてはいけない物なのか?
貴族でそれじゃあ、王子や王女にあったら心臓発作で倒れるくらいしなくてはいけないだろう。
もはやそれただの兵器じゃん。
デ○ノート並みに危険だから、焼ききるか隔離しとけよ。
「まあ、それでもわたくしは優しいので、そんな貴方でも泣きながら精神誠意お願いすれば分からない事を教えて差し上げてもよろしくてよ!」
と、オルコットはドヤ顔で言い切る。
‥‥‥‥過去これほどまでに守らなくてもいいと思える笑顔にあったことがあっただろうか?
むしろ、壊したいこの笑顔。
というよりいい加減しつこい上に一向にどこうとしない。本格的な独り言を永遠と言い続けてる。
はぁー・・・良いだろう
本来なら、こんな三文芝居に付き合ってやる必要もないが今回に限り特別に、普通ならありえない事に、ほんの気まぐれに、この演劇に付き合ってやる。
このまま付け上がらせておく方が後々めんどくさそうだし、
何より俺も芝居とかは存外嫌いではない。
演目によってはむしろ好ましくすら思っているほどだ。
特にプ○キュアの特撮ショーとか最高だと思っている。
表情も変わらず、ずっと笑顔のデカイ顔(マスク)とか
関節部分や腰回りの肌色部分が皺になるチープ感とか
子供に混じって大きなお友達が大多数を占めてる会場とか色々最高だろ。
期待に満ちていた子供の顔が何か残念な物を見たみたいに暗くなり、子供よりも真剣にショーを見ている大人の姿とか見ていると笑えてくる。
無論、微笑ましいという意味での笑いな。本当だぞ、ハチマンウソツカナイ。
「生憎と間に合っている。それにどこの馬の骨とも分からない奴に教えてもらうほど困ってはいない。
俺の事は心配せずに自分の事でも心配していたらどうだ」
「クッ・・・日本の男性という物はこうも失礼で不愉快なものなのかしらッ信じられませんわ!」
「信じられない?
それは当り前だ。世の中なんて大抵が嘘か欺瞞でできてるんだ。
人の言葉を平気で信じる奴は碌な目に合わない。
良かったなセシリア・オルコット。
これでお前は一つ、世界の真実に近づいた。喜んでいいんだぞ、ついでに俺に感謝の言葉をかけても問題はない」
「どこまでも減らず口をッ!」
「口は減る物じゃないからな。もしも、俺の口が減ってるように見えるなら悪い事はいわん、医者に行け、眼科・・・いや脳外科を紹介してやろう」
「屁理屈を言わないでください。
それに脳外科ってどういう事ですか!?
わたくしの頭がおかしいとでも言うんですのッ」
「別に俺にそんなつもりはないが、お前がそう思ったなら、そういうことなんだろうぜ。
お前の事なんてお前しかしらないんだ、お前の頭がおかしくなったとしても、お前しか分からない。
世間はそこまでお前の事を意識も注目もしてないんだし当たり前だろ。
それとも、自分の身の程を考えずに自分が特別な存在だとでも錯覚してたのか?」
「~~~~~ッッ」
オルコットの顔は気が付けば、トマトや林檎を連想させるくらいに赤く染まっている。
感情表現が豊かな奴だ。
役者としてそれはいい傾向なのだろう。
まあ、どうあがいても大根役者くらいにしかならなそうだけど。
「こ、このイギリスの代表候補生たるわたくしを!ここまで侮辱するとは・・・!」
「おいおい、勘違いするなよ。俺は一度もお前を侮辱したつまりはないぜ」
「何を今更!」
「侮辱っていうのは相手を貶めたりある事ない事言ったりすることだろ。
俺は今まで、お前を貶めるような発言をしていない」
大体真実をもとにしている。
「くっ、この――――――――」
と、その時
オルコットの言葉を遮るように始業のチャイムが鳴る。
本当はまだ言いたい事があるようだが、流石に授業の始まりとなっては致し方ないという様子で、
怒りで顔を赤めながらも自身の席に戻る。
その時、お決まりの如く捨て台詞も言っていたようだが、チャイムの音が大きく聞こえなかった。
まあ、どうせ「次は覚悟しなヒャッハ―――!」みたいな事だろう。