比企谷八幡の異世界漂流記。   作:Lチキ

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彼らの火ぶたは切って落とされた。

空を駆ける白銀に、舞うように追う蒼。模擬戦は、ある意味予想道理で、予想外な展開へとなっていた。

フィッティングを終え、時間が押している事情もあり白式に乗った一夏はすぐにアリーナに飛び立つ。一瞬こけそうになりそうなおぼつかない足取りだがどうにか無事に飛ぶことはできた。

普通の事に聞こえるが、実際にIS操縦がそれほどない人間では空を飛ぶことはおろか、歩く事すらままならない場合もある。

 

そう考えれば初めての機体に、3度目の起動。これで落ちなかっただけでも上出来と言えるだろう。

ガン○ムにしろ、エ○ァンゲリオンにしろ伝説級のパイロットですら初めての起動で大体こけたり躓いたりしている。それを考慮すれば一夏はむしろ、天才に近しいレベルと言える。

 

 

「逃げずによく来ましたわね。その意気込みに免じて最後のチャンスを差し上げますわ」

 

 

「…チャンスって?」

 

 

機体を制御するのにいささか手間取っている一夏に対し、セシリアは文字通りの上から目線で語りかける。

 

 

「わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。今ここであの男共々(・・・・・)謝るのでしたら許してあげない事もなくってよ」

 

 

上空に陣取るセシリアの表情は自信満々と言った風であり一夏を見下している。その自信に見合うだけの才能、実績、努力を積み重ねてきたエリートの驕りであり余裕だ。

 

一方それを言われた本人は、苦虫をかみつぶしたように眉を寄せ、余裕のない睨みを効かせる。人の好意に(主に女子からの)鈍感であると定評のある一夏でもここまで露骨では勘違いのしようもない。

 

 

「そういうのは許すとは言わないんじゃないのか」

 

 

「そう・・・。残念ですわ、それなら――――」

 

 

その時、白式のハイパーセンサーが起動し『警告』の2文字が表示される。

 

 

「お別れですわね!」

 

 

射撃体勢に移行してからの発射までの時間は1秒に満たない。ISの高次元のサポートとセシリア本人の技量が成せる高等技術の結晶。

 

初見でこれを躱せる者はなく、イギリスの候補生最速の精密射撃が一夏を襲う。

 

 

「ぐわぁぁぁ!!」

 

 

とっさに両腕を使いガードを作るが、ほんの数秒遅かった。主砲から打ち出されレーザーは、甘いガードを突き破り右肩に直撃する。

2度、3度と地面を転がり衝撃を受ける。絶対防御が発動したため生命維持に対した問題もなく、地面にクレーターを作るほどの勢いにも関わらず、白式の専用機としてのスペックにより見た目ほどのダメージは受けていない。

 

ただ、直撃した右肩のダメージだけは数値に現れていた。どうにか体制を整え2射目以降の追撃は紙一重で躱すあたりに非凡さが垣間見れる。

 

 

(くっ、機体に俺の反応速度が付いて行ってない!)

 

 

一方向からやってくるビームに対し、オーバーとも取れる回避行動を上下左右にする一夏の姿は、機体に振り回されているの典型的な姿だった。

 

が、それが逆に一夏の身を救う事となっている。

本来エリートと呼べる実力を持つセシリアにとって素人相手の戦闘は一方的な蹂躙で終わる。しかし、本人もついていけないレベルの起動を持つISに素人特有のテキストを無視した出鱈目な動きが、正確無比な射撃を狂わす要因となる。

 

と言っても、そんなものがいつまでも続くほど代表候補生は甘くはない。

 

2撃、3撃と繰り出される攻撃。攻撃が増すにつれ一夏の被弾回数も着実に増えてきていた。例え、相手の動きが普段戦う相手と違い予想しにくい物でも戦う内にデータを取り、当てに来る。

 

努力を積み重ねた、純粋な技術。

 

すでに一夏の動きは捉えられ、避けることも出来ず、シールドと腕を前に突き出すことでどうにかしている有様。

 

 

「さぁ、踊りなさい。わたくしセシリア・オルコットとブルーティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で」

 

 

「ッ、シールドが削られていく!」

 

 

じり貧の現状を打開するため、白式の装備を確認する一夏。願わくば起死回生・・・とまでは言わないが有効な攻撃手段(遠距離)を望んでいたが、そこに表示されたのはブレード一本のみ。

 

 

「これだけか!?‥‥仕方ない、無いよりはましだッ」

 

 

右手に粒子の塊が形成され剣の形に変化する。

これがISの持つハイパーセンサー、絶対防御に続く量子変換能力である。

名前の通り、あらかじめIS内部に量子変換した武装を収納するシステムだ。基本的には1~5個ほど収納するのが一般的だが、中には数十個単位で武装を仕舞っている機体もある。

 

 

「遠距離型のわたくしに近距離格闘型の武装で向かってくるなんて…笑止ですわ」

 

 

一夏がブレードを展開したのを確認したセシリアは、不快感を露わにした顔をする。

セオリー上、完全な遠距離タイプのブルーティアーズに有効な距離とは、中距離に遠距離で最も不利なのは近接である。

中には千冬のような近接でどんな距離に対しても平然と同じ結果を作り出す化け物もいるが、基本的な戦術論の中で近接を選択するのは愚策だ。

 

セシリアは自分に勝負を吹っかけた相手がそんな事も理解できないのだと今更ながらに失望した。

 

まぁ、普通…というか一般的に考えればISにブレード一本しか武器がないという方が特殊であり、完全遠距離型のブルーティアーズでも予備のナイフが存在する。

そういった先入観から、仕方なく、選択の余地がない一夏の行動を勘違いしてもそれは仕方がないだろう。

 

むしろ、これは白式を作り出したとある科学者が普通でも一般的でもないのが原因であり諸悪の根源と言える。

 

 

ブレードを展開し、距離を詰めようとする一夏。しかし、それを許すはずもなく幾度にも渡るビーム攻撃の雨で接近することができず、攻めあぐねっていた。

その上、燃費の悪い起動を続け所々機体をかすめるビーム。減り続けるシールドエネルギー。

 

形勢は明らかに一夏の不利だった。

 

観戦する1組の生徒は、まだ入学して日が浅く、形勢を正確に判断する事はできず一夏を応援する声は衰えない。

 

けれど、観戦室の教師達に幼馴染である箒は試合の形成を思い表情を硬くする。

 

 

「わたくしとブルーティアーズを前にして初見でここまで耐えた事褒めて差し上げますわ」

 

 

「そりゃどうも」

 

 

軽い挑発だ。そんな挑発に皮肉めいた返事をする一夏。

 

 

「でも、そろそろフィナーレとまいりましょう!」

 

 

その時、ブルーティアーズが4つに分裂する。

 

本体から離れた4機のビットはそれぞれが高速で動き、一夏に向け更なる攻撃を繰り出す。

 

 

「これが資料にあった、ブルーティアーズか!ぐぁぁ―――ッ」

 

 

事前八幡から渡された資料にあった、遠隔操作のできるビットであり、機体の由来にもなった装備『ブルーティアーズ』

 

 

「ある事が分かっていても、こんなの対処のしようがねぇだろ・・・」

 

 

「さぁ、これで終わりですわ!」

 

 

四方からの波状攻撃。

軽く絶望的な状況だが、あらかじめ用意していた作戦の1つを思いだし、実行する。

 

ビームの弾幕が押し寄せる中、一夏は高度を下げ地上に降りた。これが、資料を読み考え抜いた一様の対策である。

 

空中にいれば360°全方位からの攻撃にさらされるが、地上に降りれば単純な話半減する。ISが高性能を誇っていても地下からの攻撃は想定されておらず、さらにブルーティアーズはセシリアが指示をするという工程を挟む遠隔兵器。

上空にいるセシリアは一夏からして上と斜めからの攻撃しかできない。

 

下、真正面、右、左からの攻撃を封じたのだ。

 

 

「いちかばちかだ!」

 

 

そこから白式の起動を無理矢理ひきだし特攻をかける。

 

 

「なっ、無茶苦茶しますわね!」

 

 

シールドエネルギーを大幅に犠牲にしての機動力のアップ。いきなり早くなった動きに弾幕の隙を作ってしまったセシリアは驚愕の声を出す。

 

意表を突き、あと一歩で初撃が命中しそうになるも躱される。

 

ブルーティアーズに指示をだし距離を離そうとするが、このチャンスを逃すまいと食らいつく一夏から中々離れる事ができない。

 

その焦りが冷静な判断を一瞬狂わせた。

 

牽制を続けるティアーズの1機が一夏に接近しすぎてしまう両断される。

 

 

「はっ…!」

 

 

斬られたティアーズは爆発し、もうこの試合では使用不可能だ。さらに、猛攻が続きもう1機破壊されるティアーズ。

 

 

「どうだセシリア、俺のワルツもそれなりだろ?」

 

 

「‥‥貴方のそれはワルツと言うよりも盆踊りが良い所ですわ!」

 

 

皮肉に対する皮肉の応酬。兄の影響かいささか口が悪くなっている一夏。初めの余裕はなくなりつつあるも負けじと皮肉を言えるオルコット。

 

試合は初めにされたセシリアの圧勝とは異なる、両者実力の拮抗する戦いが繰り広げられた。

 

 


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