比企谷八幡の異世界漂流記。   作:Lチキ

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彼の長い1日はもう少しだけ続く

ひとしきり大笑いをした千冬は数日分の着替えが入った鞄を渡し寮生活をすることになった趣旨を話す。

 

しかも男同士であるはずの俺と一夏は別々の部屋で別々のルームメイト(女子)と一緒と言うありえない状況に置かれることになったらしい。

 

 

「いや、何でだ」

 

 

「政府からの急な通達で2人分の個室が用意できなかったんだ。仕方ないだろ」

 

 

「それでも、思春期の男女を同じ部屋で寝かせるとか教師が推奨する話ではないと思いますけど、道徳的に」

 

 

「お前に道徳を説かれる筋合いはない」

 

 

俺にしては酷く珍しい正論を言ったつもりだったのだがなぜか全否定された。

 

解せぬ。

 

 

「それにお前達のルームメイトとしっかりと選考した。間違っても問題が起こる相手じゃない」

 

 

「相手がどういう問題より思春期男子は基本的にエロと地球平和しか考えてないサルなんですが」

 

 

「なんだその2つは・・・とにかく、もう決まった事だ」

 

 

何よりお前達を信じていると言った風な目線を向ける千冬は山田先生を連れて教室を後にした。

 

信じるというのは怠慢だ、と言うのが俺の論だがその言葉をここまで噛みしめたのは一体いつ振りだろうか・・・・・・

 

とにかくここの教師たちに俺が向ける信頼度は-を通り越したとだけ言っておこう。

 

そもそも人を信じない俺だから大して変わりはないのだろうけどな。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

どこのホテルだよと言いたくなるよな外観の寮は中も見ても小奇麗に整頓されている。学生の住まう寮としてはいささか過ぎた物の様に思えるが。

 

まあ、俺もここに住むわけだし寝泊りする場所はボロく汚い場所より綺麗である事にこしたことはないので良しとしよう。

 

 

荷物と一緒に渡された部屋番号の書かれた紙を頼りに足を進める。

 

しばらく歩くと目的の部屋の前まで来たのだが、時間から考えても同居人は既に部屋の中にいると考えていいだろう。

 

 

 

 

女子高生と同じ部屋で生活できるというのは本来ならうれしハズカシで大人になれば金を出してまでコスプレをした女子高生もどきとお話をしようとする輩までいるほどの需要がある。

言ってしまえばなにそのエロゲ状態のイベントなのだろう。

 

最もそんな物は趣味の人間やマニアの人間しか喜びはしないだろう。見た目は子供、中身は30代のおじさんである俺にはそういう物の良さがいまいち分からない。

 

仮にそいつが10代とは思えないほどの巨乳を持っていたのだとしたら話は別だが、それ以外の奴らなど大抵は騒がしく自意識過剰のガキでしかない。

 

何を言いたいかというとそこはかとなくめんどくさい。

 

千冬曰く問題が起こらない相手と言うのが引っかかるが、めんどくさい事には変わりないのだろう。

 

はあ、本当にめんどくさい。めんどくさすぎてため息が出てしまうよ。

 

まあ、いつまでも廊下にいるのもあれなので仕方なく、ノックを2,3度おこない部屋に入る。

 

部屋の中は、これまた清潔感溢れる内装に飾り気はなくとも生活するのに必要な物は揃えられている機能性に優れた部屋だ。

 

決して広々としているという訳ではないが人が2人住まうのにはむしろ広すぎるくらいだろう。

 

モダンな作りの内装に規則正しく並べられた家具、上質で清潔感のあるベットが1つと、

 

 

そのベットを押しのけデカデカと場所を占領する天蓋付のベット。

 

 

・・・・・・

 

 

明らかに最後のだけおかしい。

 

 

アニメでしか見たことないようなまるで貴族のお嬢様が使うような仕様にジョブチェンジされてるベット。

 

さらに周りを観察してみれば、壁につるされたハンガーには女物の制服。それも普通よりスカートの丈が長く裾や手首の所にフリルがあしらわれたどこかで見た事のあるような改造制服が綺麗につるさっている。

 

ほぼ間違いない嫌な予感を頭に描きながら後ろからガチャリと扉の開く音が聞こえた。

 

後ろを振り向くと入口の近くにある扉が開き中からは予想道理の人物が予想に反した格好で現れる。

 

 

「同室の方ですの?失礼ながら初めにお風呂を‥‥」

 

 

そう、セシリア・オルコットがバスローブ姿で俺の目の前に現れた。

彼女は俺の姿を見ると、髪をふく手を止めこちらを凝視する。

 

バスローブ越しでも分かる決して小さくはない胸と腰から足にかけてのラインが彼女の色香を強調し、湿った長い長い黄金色の髪は日本人には出せない美しさを醸し出す。

 

このまま、凝視しているのも悪くはないが生憎そんな暇はないようだ。

 

この後に待ち受ける未来の自分の姿を予想し未だに思考意停止状態のオルコットを横目に動き出す。

 

 

「・・・まさかお前が同室とな。不服ではあるがなってしまったものはしょうがない、互いに不干渉でいれば不要ないざこざも起きないだろ。

それじゃあ、俺は少し用事を思い出したんで一旦失礼するぞ」

 

 

そういい俺は口を金魚の様にパクパクさせてるオルコットを横切り扉に向かって歩き出す。

 

隣りを通る時、風呂上りの独特な石鹸とフローラルな恵与しがたい甘い香りが鼻をかすめるが、俺は顔色一つ変えることなく通り過ぎ―――

 

 

「お待ちなさい」

 

 

る事は叶わなかった。

 

後ろから聞こえる彼女の声はどこか震えているがその震えが風呂上りを人に見られた(素肌は見ていない)事に対する羞恥ではなく、怒りからくる事に気が付かない俺ではない。

 

怒りと言う表現は色で合わらすなら赤だったり、炎のようだと恵与したりするが、彼女が今向けている怒りは酷く冷たく凍えるような怒りである。

 

ただ、その怒りは本来俺に向けるのはお門違いであり向けるとしたらこんな部屋割りにした千冬か、そもそも予定外の通達を行った日本政府に向けるのが筋という物だろう。

 

それに俺は、この部屋に入る前にしっかりとノックをしたし俺を責めるのは大きな間違いだ。

 

でも、顔は見えないが背後から感じる彼女の雰囲気はそんな真っ当な正論を言いだすことを良しとしない。

 

何より頭の真後ろから聞こえたカチャリという音と後頭部にさっきからあたってる固く冷たい何かが許しをしないだろう。

 

 

「あ、貴方は一体全体なぜわたくしの部屋にいるのでしょうか」

 

 

「さっきも言っただろ同室だと。つまり正確にはここは俺の部屋でもあるわけだ」

 

 

「そんな事わたくし聞いてませんわ!」

 

 

奇遇だな俺も今さっき知ったばかりだ。

 

と言うかあの教師相手側に了承も取らずに決めたのかよ。

もはや職務怠慢を通り越し職務放棄してると思われても仕方ないほどのずさんさだ。

 

 

「知らん、そんなものは寮長か担任に聞け。それといい加減俺は用事があると言ったはずだが」

 

 

「覗き魔の用事など知った事ではありません。下手な動きを取れば・・・・・・撃ちますわよ」

 

 

「おいおい、それは穏やかじゃないな。というより認識が間違っている。俺がいつ覗きなんてしたんだ。証拠を出してみろ証拠を」

 

 

「わたくしがお風呂から出たら濁った目の不審者が部屋にいた。だからわたくしは貴方の頭に風穴を開ける。これのどこに間違いがあるというんですの?

それに犯人は皆証拠を出せと言うものですわ。最後に遺言一つでも聴いて差し上げますわよ」

 

 

冷めた声で語りかけられるがその内容には間違いしかない。

 

それでも50歩譲り俺が目の濁った不審者だとしよう。さらに100歩譲り割り振られた部屋に入っただけで不法侵入と言われるのも良しとしよう。

 

だが、それだけの罪で極刑とか人権保護はどうなってやがんだよ。

と言っても今そんな事を言ったら冗談抜きに撃ってきそうだ。

 

こういう手合いは相手の優位性を証明するのではなく自身に降りかかるリスクを説明してやらなければ矛を収めない。

 

 

「今ここで俺を殺してもお前はすぐに捕まる。無駄な事はやめとけ」

 

 

ミジンコだってアメンボだってハチマンだってみんなみんな生きているんだ友達はいないけどな。

 

 

「‥‥この期に及んで命乞いすらしませんか。ご自分の命に執着がないのかしら?」

 

 

「そんなわけないだろ。俺は何より自分の命を大事にする人間だからな。死ぬのが怖くて仕方ない、だからさっさと銃口を下げてくれ。怖くて怖くてまともに話すことも出来ない」

 

 

「・・・・・・フン」

 

 

ゆっくりと後頭部に感じる感覚が消える。どうやら命の危機は去ったようだ。

 

 

「本来ならわたくしの肌を見た罪は万死に値しますが、今回は不問にして差し上げます寛大なるわたくしに感謝する事ですわね」

 

 

肌なんて見ていないし、自分の裸にどれほどの価値観を持っているんだよこの自意識過剰の御嬢さんは。

 

ここはひとつ人生の先輩として特別に現実と言うものを教えてやろう。

 

 

「・・・そいつはありがたい。別に欲情もしなければ何とも思わないお前の風呂上りを見ただけで死なずに済んで本当に良かったよ」

 

 

瞬間、夜の寮から蒼い光が唸りを上げた。

 


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