なので、ちゃっちゃと次のくだりに進みます!
人、それも、女というものの適応能力は凄まじい物がある。
その力は個よりも集団である時の方が感化され、効果を増す。
例えば、一人の女子が「これ可愛くなーい?」なんて言ってどこが可愛いいのか分からん不思議マスコットを差し出す。
始めは可愛くないと思う者が大半だったが、一人、また一人と「あー本当だ可愛い」「いいなー私もほしい」「マジうけるんだけどw」なんて言って行けば段々と波紋は広がり、終いには可愛くないと言っていた連中も可愛いと言ってしまうほどだ。
これは一種の集団催眠と同じで、周りから孤立しないようにと思う気持ちが強いほど多数の意見に流され自身の意見をなくしてしまう。
そして、他人の自意識を、意見を、あたかも自分自身のものと錯覚し思い込む。
これが「女子の持ってるマスコットって可愛くないのになんかみんな持ってる」現象だ。
「いやーうん、一夏君が無理しないか心配してたんだよね」
「そうそう、私もそうだよ~」
「なんたって世界で2人しかいない男性操縦者なんだし、色々大変そうだもんねー!」
「一夏君、何か困ったことがあったらいつでも相談していいんだよ!」
「むしろ、積極的に相談してよ!あと電話番号とメアド交換しようよー」
「あ、ずるい!私も私も一夏君と交換したい!」
ついさっきまでたどたどしかった女子達は既に、自分たちの意見を180°変え一夏擁護派に姿を変えていた。
なんか一気に名前呼び出し、連絡先の交換とか申しだすしでなんだかすごい。白々しいとか思う前に手のひら返しが凄すぎて、感嘆するまである。
人を小馬鹿にし、心底見下していたような笑い声は、少女達の黄色い笑い声に変わった。
段々とテンションが上がり、声のボリュームも上がり、千冬の怒りゲージも上がっていく。
その中で一夏だけがどんどんと下がっていった。
鈍感、朴念仁、天然のィラッとくるイケメンが持つ3大要素を持ち合わせるこの男に取り、女子達のこういう光景は聊か刺激が強すぎたようだ。
何かとは言わないが少女達の黄色い声が上がるほど一夏の何かが下がっている。夢とか幻想とかな。
ここは、一つ人生の先輩としてこの青少年にアドバイスでもくれてやろう。
「人の夢と書いて儚、まぼろしの想いと書いて幻想。つまり、お前が女に抱いてた夢も幻想も初めから存在しない物なんだ。
早いうちから目覚めてラッキーだったな。ようこそ悪夢の世界へ」
「それ覚めてないよね、目覚めるどころか最悪の方向に向かってるよね!?」
「よく言うだろ、夢だったらよかったのにとか、悪夢なら覚めてくれとか。つまり『現実=悪夢』なんだよ」
俺のアドバイスを聞いた一夏は俯き両手で顔を覆う。さながら、考える人ならぬ、絶望する少年だな。
地獄も門にいても問題ないレベル。
「ちょ、ちょっと皆さん何を言ってますの!?」
場の急激な変化に適応できず動揺を隠せないオルコット。むしろ今まで動揺を隠した試がなかったな。
「何って私達は別に、ありのままの事を言っただけだよ?」
「うんうん、本当に私達は一夏君の事を心配してたもんねー」
「「「「ね~」」」」
クラスに広がる謎の一体感。
仲がいい事でいらっしゃて良い事です(棒)
「あ、貴方がた先ほどは!」
「え?さっきてなんの事?私達分からないよ」
「な!?何を言ってるんですの!先ほどあの身の程知らずを皆さんで笑っていたじゃありませんか!!」
俺作、絶望する少年指さしながら抗議する。
身の程知らずとかさっきまでの一夏なら、カチンと来て悪態の一つでもついたのだろうけど、糸色さん家の3男坊並みに打ちひしがられてるのでそれもない。というより話を聞いてない。
こんなに落ち込むなんて、女にどこまで幻想を抱いていたんだろうな。
同じ男として心中を察する。後でエロ本でも買ってやろう。
「私達そんなことしてないしーセシリアさんの勘違いじゃない?」
「ていうか、セシリアさんさっきからちょっと酷くなーい」
「なんですってッ!」
「あー私も思ってたー代表候補生って言うのは凄いけど、だからって日本の事や一夏君達の事を馬鹿にするとか、どうなの?」
「そうだよね!技術が遅れてるとか誹謗中傷もいいとこじゃん」
「わたくしの言ってることに間違いがあるとでも言うんですか!」
「だって、ISだって元は日本人が日本で作った物なんだし、遅れてるどころか最先端って言ってもいいんじゃないのー?」
「ぐぅっ・・・そ、それは・・・」
「それにさー代表候補生で専用機も持ってるセシリアさんが、ほとんど素人の一夏君達と勝負するのってちょっと、卑怯じゃない?」
「な、ななな・・・」
状況変化は進んでいき、ついにはオルコット批判の声も出始めた。
これは、彼女が散々日本をディスってきた事による影響が大きいし、自業自得なのだし仕方がないともいえる。あと、彼女のような横柄な態度はあまり好かれない物だしな。
この時点で、クラス内で軽はずみに男を批判する事はできなくなった。
だが、それでもまだ、対等という関係には遠い。
これでは、横柄な女に絡まれ、それを女子に擁護されるみたいな保護対象でしかない。
なら、後は男にも力があるという事をしめす。
「なぁ、オルコット」
「なんですの!」
相当動揺していたのか、すごい剣幕で怒鳴られた。話しかけただけなのに。
「そういうわけだからこっちはハンデをもらう事にするが、かまわないよな?」
「それは・・・」
「もちろんただって訳じゃない。こっちは一夏が出て、俺は出ない。ちょうど専用機も一機だけだし、俺と一夏2人を相手にするより手っ取り早いだろ?」
「‥‥」
「それに、ハンデと言っても試合を装備なしでやれとかISを使わずに戦えなんて言う無理難題は言わない。こっちがほしいのは情報だ」
「・・・情報ですって?」
「お前が今まで公式に戦ってきた試合の映像、武装やISの特徴。無論、国の事情で開示できない物はいい」
どうだ?問いかけるとオルコットは、考える素振りをしながら俺の顔を覗き込む。
このまま行っても彼女が俺の提案を受ける可能性は高い。だが、念のためにもう一声かけておくか。
「俺達は限られた時間を有意義に使えるし、ハンデを俺達に渡した上で戦うのならクラスのみんなも納得できるだろ?」
クラスの納得、それは現在オルコットが喉から手が出るほど欲しい言葉。
すでにセシリア・オルコットがこのクラスで自分の立場を確立させるためには、模擬戦の勝利、男に勝った、なんていう物だけでは足りない所まで追いつめられている。
まわりの大半が自分を責める現状で、ハンデなしに
例え勝っても、それは当り前。初めから分かっていた結果を突き出されようが、すでに彼女達はセシリア・オルコットを認めない。
今の彼女はハンデを相手に渡した上で、模擬戦に勝たなくては当初の目的であるクラスでの自己アピールが達成できない。
それに、この提案を断る事も出来ない。世の中というのは向けられた勝負を受けない事を敗北と捉える。
もしも、断った上で勝っても、正々堂々の勝負から逃げた卑怯者の烙印を押されかねないだろう。
つまるところ、すでに彼女に残された選択肢なんてほとんど一つだけ。故に、彼女の答えは決まっている。
「・・・いいでしょう!その勝負受けて立ちますわ!!」