魔法少女リリカルなのはstrikers 蒼炎の剣士   作:京勇樹

3 / 84
奪回戦

「っ……う……」

 

ティアナが目を覚ますと、視界に約30センチほどのリインフォースに似た女の子が見えた

 

「あ、ティアナ! 目を覚ましたですね!」

 

「リイン空曹長……っ!」

 

女の子、リインフォースⅡ空曹長が声を掛けると、ティアナは体を起こそうとしたが、すぐに苦痛で表情を歪めた

 

「あ、無理はしないでください! 今、傷を治癒してる最中です」

 

リインフォースⅡことリインがそう言うと、ティアナは思い出したのか

 

「あいつは……あの蒼炎はどこに!?」

 

とリインに問い掛けた

 

すると、リインは俯いて

 

「今は外で、なのはさん、フェイトさん、お姉ちゃんと交戦中ですが……」

 

と言った

 

それを聞いて、ティアナは歯噛みしてから

 

「このままヤられっぱなしで、終わってられない……!」

 

と言うと、近くにあった拳銃形態のクロスミラージュを握ると駆け出した

 

「あっ! 待つです、ティアナ!」

 

リインが止めるが、ティアナは聞かずに走り去った

 

その頃、外では……

 

「っ……相変わらず、デタラメだね……あの蒼い炎は……」

 

「だね……攻防共に優れて、しかも身に纏うことで、攻撃魔法は一切効かない……」

 

「だが、直接攻撃なら効くな……」

 

戦闘開始から、僅か十数分

 

三人は傷だらけで、荒く息を吐いていた

 

それに対して、明久は傷らしい傷は見あたらなかった

 

明久はリミッター付きとはいえ、三人を圧倒していた

 

だが、三人は突破口を見いだしていた

 

明久の纏っている蒼炎は、攻防共に優れており、一朝一夕ではダメージを与えるのは難しい

 

だが、無敵ではない

 

なのはは一回深呼吸すると、グッとレイジングハートを握り締めて

 

「フェイトちゃん、リインフォースさん」

 

「うん!」

 

「ああ!」

 

なのはが呼び掛けると、二人も構えた

 

その直後、なのははレイジングハートを明久に向けて

 

「アクセルシューター・マルチシフト!」

 

と魔法を発動した

 

計30発の魔力弾による、多方向同時攻撃である

 

「シュート!」

 

なのはが放つと、30発の魔力弾が複雑な三次元軌道を描きながら明久に殺到した

 

放たれた魔力弾は、明久にあらゆる方向から襲いかかった

 

避けきれないと判断したのか、明久は蒼炎を全身に纏って防御態勢を取った

 

そして、魔力弾が着弾する直前に

 

「バースト!」

 

となのはが叫んで、それと同時に全ての魔力弾が爆発し、明久の周囲を煙で覆った

 

明久は動きを止めて、次撃に備えた

 

その時

 

「疾風迅雷!」

 

という、フェイトの声が聞こえて、明久は上に見上げた

 

そこには、バルディッシュをプラズマザンバー形態にして振り上げたフェイトが、急降下してきていた

 

それを見て、明久は左手に持っていた赤い十字架を引いて迎撃態勢を取った

 

そして、明久が十字架を振り上げた直後、フェイトは一気に軌道を変更して攻撃せずに離れた

 

フェイトのその行動が予想外だったのか、明久は僅かに動きを止めた

 

その時だった

 

「もらった!」

 

リインフォースが爆煙を突き破って、下方から現れた

 

リインフォースの右腕には、下腕部を覆うほど大きな赤い杭付きの籠手があった

 

それが、彼女のデバイスたるナハトである

 

複数形態への変形機構を有しており、彼女しか扱えないデバイスである

 

しかし、近接格闘が得意な彼女が扱うことで、強力な一撃を相手に放つことが可能となっている

 

タイミングは完璧

 

しかも、明久は十字架を振り切った直後なので素早い行動は不可能

 

の筈だった

 

明久は左肩からまるで、ブースターのように蒼炎を吹き出して急速旋回

 

リインフォースの一撃を十字架で弾くと、右手でリインフォースの首を掴んだ

 

「ガッ……グッ!?」

 

明久の指がメリメリとリインフォースの首にめり込み、リインフォースは息を詰まらせた

 

「リインフォース!」

 

「リインフォースさん!」

 

なのはとフェイトがリインフォースを助けようと、それぞれの愛機を明久に向けた

 

だが、明久はリインフォースを盾にして、二人の行動を止めた

 

するとリインフォースは、顔を蒼白にしながらも

 

「私に構うな……撃て……っ!」

 

と懇願するが、二人には撃てなかった

 

その時だった

 

風切り音が聞こえてきて、明久は背後に振り向いた

 

その直後、明久の顔にオレンジ色の魔力弾が直撃した

 

「今のって……!?」

 

「ティアナ!?」

 

フェイトとなのはが魔力弾の来た方向に視線を向けると、止まっているリニア列車の側面の穴

 

恐らく、明久が破壊しただろう穴の部分にティアナが膝立ち状態でクロスミラージュを構えていた

 

そのティアナは荒く息をすると、険しい表情で

 

「これで……一矢報いたわ……」

 

と言うと、意識を失ったらしく倒れた

 

そして、リインフォースは明久が魔力弾を食らった際に腕を振り解いて脱出した

 

そして、リインフォースが体勢を立て直して明久に体を向けた時、明久は右手を額に当てて悶絶し始めた

 

「あっ……グッ……アアァ!」

 

「なに?」

 

「なんだ?」

 

「一体、何が……」

 

明久の様子に、三人は首を傾げた

 

その時、通信画面が開き

 

『なのはちゃん、フェイト、リインフォース! 今がチャンスよ!』

 

と紫混じりの長い髪が特徴の妙齢の美女が告げた

 

彼女の名前はプレシア・テスタロッサ

 

フェイトの母親の一人である

 

「プレシアさん!」

 

「プレシア母さん!」

 

「どういうことだ?」

 

リインフォースが問い掛けると、新しく小さい通信画面が開いて

 

『彼の顔に付けられている、あの仮面! 多分、あれは洗脳装置よ!』

 

と明久の顔部分が表示されていた

 

プレシアの説明を聞いて、三人は悶絶している明久に視線を向けた

 

そして、明久の顔に付けられている機械質な仮面に、大きなヒビが入っていた

 

どうやら、ティアナの魔力弾の直撃により、破損したらしい

 

『だから、あの仮面を破壊すれば、明久君を助けられるわ!』

 

プレシアがそう言うと、三人は顔を見合わせて頷いた

 

そして、フェイトとなのはが明久の側面に布陣すると

 

「アキ君、もう少しだけ待ってて!」

 

「今、助けるから!」

 

と言うと、明久の手足をバインドで拘束した

 

そして、リインフォースが明久の前に立って

 

「すまん……少し我慢してくれ!」

 

と、その右拳を仮面に叩き込んだ

 

その数瞬後、仮面のヒビが大きくなり、仮面は真っ二つに割れた

 

仮面の下から現れたのは、成長してはいるが正しく、明久の顔だった

 

「あっ……」

 

明久は小さく声を漏らすと、力無くリインフォースの方に倒れて、リインフォースもそんな明久を優しく受け止めた

 

「リインフォースさん!」

 

「明久は?」

 

なのはとフェイトが問い掛けると、リインフォースは自身の胸元で穏やかに寝息を立てている明久を優し気な表情で見ながら

 

「大丈夫だ……眠っているだけだ」

 

と告げた

 

リインフォースの説明を聞いて、二人が安堵していると、明久が持っていた十字架が発光し、光の球体になった

 

「なんだ!?」

 

「これは……」

 

「一体……」

 

三人が混乱していると、球体はフェイトの前に浮かんだ

 

その直後、フェイトは左手を頭に当てて

 

「死の恐怖……スケィス?」

 

と呟いた

 

すると、球体はフェイトの胸の中に消えていった

 

「なに……今の……?」

 

フェイトは混乱するが、何も起きなかった

 

そしてこの数十分後、地上本部から輸送用のヘリが到着

 

レリックケースは、地上本部へと運ばれた

 

そして明久は、気絶したフォワード陣と共に六課のヘリにて六課隊舎へと運ばれた

 

 

これが、黄昏の碑文を巡る戦いの始まりだった


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。