魔法少女リリカルなのはstrikers 蒼炎の剣士   作:京勇樹

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欲求

「メイガス……」

 

「ど、どうなって……」

 

どうやら、なのはは何故ティアナの姿が変わったのか分からないらしい

すると、明久が

 

「何時かは分からないけど、彼女は適合してたんだね」

 

と言った

 

「でも、フェイトちゃんやキャロと違うよ?」

 

「あれは、アバター……メイガスの意識体に、ティアナちゃんの体が奪われたんだ」

 

明久の説明を聞いて、なのはは目を見開いた

まだ開眼していないなのはは、黄昏因子の強さを知らない

 

「適合者の精神力が弱り、更に気絶した。最悪の条件だよ」

 

明久が説明している間、メイガスはニコニコと笑っていた

そこからは、戦闘の意志は感じられなかった

しかし、明久となのは

更に、スバルに凄まじいプレッシャーがのし掛かった

スバルは、ティアナが追い詰められていることに気付かなかったことに対する自責の念もあった

なのはも構えていたが、攻撃しづらそうだった

やはり、相手がティアナの体だからだろうか

その時、メイガスは自然な動作で右手の拳銃を構えて撃った

狙いは

 

「え?」

 

スバルだった

発射された弾丸は、スバルにも反応しきれなかった

あっという間に迫った弾丸は、スバルの眉間を撃ち抜くはずだった

しかしその弾丸は、明久が弾いた

そして明久は、一瞬にしてメイガスに肉薄

双剣と蹴撃を繰り出した

しかしメイガスは、双剣を避けた後に明久の蹴りを利用して距離を取った

しかし、その距離も明久は一気に詰めた

相手たるメイガスの戦闘レンジは、中距離から遠距離だ

密着距離から近距離は、不得手なのだ

そして逆に、明久の戦闘レンジは密着距離から近距離

そして何よりも、短時間でメイガスを倒す必要があった

何故ならば、長時間適合者が因子に体を支配されていると、体の所有権が変わるのだ

目安は、一時間

それ以上は、戻れなくなるようだ

明久もカイトから聞いただけだから本当かは分からないが、カイトの声音から本当だと判断した

更にカイトから聞いた話では、一時間以内でも解放されるまでに掛かった時間によっては、体にとてつもない負担が掛かり、下手したら半身不随になってしまうらしい

そうなったら、ティアナは魔導師としては半ば引退するしかない

そんなこと、明久は容認する気はない

そして、ティアナを解放する方法は二つ

ティアナが目を覚まし、自身の精神力で支配権を取り戻す

そしてもう一つは、今までと同じようにデータドレインを放つこと

しかしそれは、余りにもリスクが大きかった

 

(出来るなら、ティアナちゃんに起きて欲しいけどっ!)

 

明久はそう思いながらも、次々と連撃を繰り出した

しかし、どれも避けられる

その光景に、なのはは無力感を覚えていた

それはまるで、幼い頃のようだった

幼い頃、なのはの家は大変だった

父親の高町士郎は、ある事件に巻き込まれて重傷を負い、もしかしたら、二度と目覚めないかもしれないと言われた

その時期は、母親の桃子が夢だった喫茶店

喫茶翠屋を開いたばかりで、経営に走り回っていた

そして姉の美由希と兄の恭也は、そんな母親を支えるのに精一杯で、幼かったなのはと満足に遊べなかった

しかしなのはは、幼いながらに、迷惑を掛けちゃいけないと思い、我儘を言わなかった

その光景は正しく、絵に描いたような理想の子供だろう

しかし、殆どを一人で過ごしたなのはは、孤独感と無力感に苛まれていた

だから途中からは、家のことをするようになった

疲れていた母親の代わりに料理や洗濯をこなすようになり、気付けば家事の殆どを引き受けていた

必要とされたくて

高町家一同がそれを異常と感じるようになったのは、奇跡的に意識が戻った父親が家に戻り、喫茶店の経営が安定した小学生の頃だった

友達と遊ばずに、家のことを率先して手伝うなのは

それを見て、ようやく高町家一同はなのはがおかしくなっていることに気づいた

普通だったら、友達と遊ぶべき小学生時代

そもそも、一年生の時には友達と呼べる存在が居なかった

友達

アリサ・バニングスと月村すずかに出会ったのは、小学三年生の時だった

アリサがすずかに意地悪していたのを見て、なのはがアリサに注意し、そこから喧嘩に発展

それを、すずかが止めたことから、三人の付き合いは始まった

尚、この時のことをアリサに聞くと

 

『あの時の二人、暗くて放っておけなかったのよ』

 

とのことだった

つまりは、アリサのお節介から始まったのだ

そのお陰で、なのはは友達が出来た

しかしそれでも、なのはの中には

 

《誰かに、必要とされたい》

 

という欲求が渦巻いていた

そしてなのはが魔法とユーノ、明久、フェイト達と出会ったのは小学五年生の時だった

始まりは、ユーノが見つけたロストロギア

ジュエルシードだった

それを運んでいる最中に、プレシアが放った魔法により搬送していた船が破損

21個のジュエルシードが、地球の海鳴市に落ちたのだ

ユーノは魔法の素質を持っていたなのはに、協力を要請

それを巡り、フェイトと出会い

そこに、隠れて海鳴を守っていた明久が介入

更に、時空管理局が介入してきた

そして主犯だったプレシアの目的は、死んだ娘

アリシア・テスタロッサを甦らせることだった

しかし、死んだ人間は普通の技術では甦らない

だからプレシアは、奇跡に頼った

願いを歪な形にだが叶える宝石

ジュエルシード

それを意図的に暴走させることで、遥か昔に滅んで次元の狭間に消えた世界

アルハザード

そこに向かい、あると言われていた技術

死人を甦らせる技術で、甦らせようとした

その計画に使ったのが、アリシアのクローン

フェイトだった

当時のプレシアにとって、フェイトはアリシアの偽者の人形に過ぎなかった

だからプレシアは、フェイトを使い捨てにするつもりで苛酷に接した

しかしそのフェイトは、誰かに必要とされたかったなのはの不屈の精神で組み立てた戦術と技に敗北

その後プレシアも、フェイトと明久の言葉を聞いて、投降した

それから半年後、今度ははやてと八神家一同が中心の事件

闇の書事件が勃発

そこでもなのはは、負けたら必要とされなくなるかもしれないという恐怖心から、苛酷な練習と負荷の強かった魔法で戦い続けた

そして、明久とフェイトの助力

そして、一筋の奇跡で犠牲者無しという結果で、闇の書事件は幕を下ろした

この事件を境に、全員は時空管理局に協力するようになった

特になのはは、必要とされたいという欲求から、過剰な任務をこなし続けた

それに危機感を覚えた明久達が、なのはを止めようとしていた

その矢先に、あの雪の世界での事件が起きてしまった

それが理由で、明久は行方不明になってしまった

数年に渡って

それからなのはは、深く後悔した

自分が無茶をしたせいで、明久が行方不明になってしまったと

だからなのはは、誰かに無茶をして後悔してほしくないからと、教官になった

だが、今の状況はどうだ?

まるで、過去の過ちの焼き直しのようだった

それが、なのはには許せなかった

だからか、なのはは無力感に襲われた

だからかは、なのはにも分からない

なのはは、激しく連撃を繰り出している明久を見て

 

「お願い……力を貸して」

 

頭に浮かんだその名前を、口にした

 

「フィドヘル!!」


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