魔法少女リリカルなのはstrikers 蒼炎の剣士   作:京勇樹

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開眼

白い帽子を被った少女は、その手に禍々しい雰囲気を放つ杖を持っていた

 

その雰囲気に感化されて、フォワード陣は身構えた

 

次の瞬間、その少女の周囲に巨大な犬が三体現れた

 

「召喚!? でも、魔法陣が展開されてなかったのに!?」

 

「なんで!?」

 

召喚術者であるキャロは驚愕し、キャロの召喚魔法を知っているエリオも驚いた

 

声には出していなかったものの、スバルとティアナも驚いていた

 

ほとんどの魔法では兆候として、足下に魔法陣が展開される

 

それは、キャロのような召喚魔法もそうである

 

例外としては、長時間発動する飛行魔法や一部砲撃魔法くらいだ

 

だが、白い帽子を被った少女はそういった兆候も無く、三体の巨大な犬を召喚した

 

そして、相手の雰囲気から敵だと認識して、フォワード陣は身構えた

 

次の瞬間

 

「皆、離れて!」

 

と上から声が聞こえて、フォワード陣は反射的に大きく後ろに距離を取った

 

その直後

 

雷帝招来(ランセオル・ルフ)!」

 

と詠唱らしき言葉が聞こえて、三体の巨大な犬と少女に対して数十本もの雷が降り注いだ

 

犬は消えたものの、少女は無傷だった

 

先ほど降り注いだ雷からは、膨大な魔力を感じた

 

一発一発が、とてつもない威力を有しているのは容易に分かった

 

だが、それを少女は容易く受けきった

 

それだけでも、フォワード陣にとっては恐怖だった

 

すると、フォワード陣の前に明久が降り立って

 

「皆は下がって!!」

 

と言いながら、双剣を抜いて少女に切りかかった

 

「はあっ!」

 

気合い一閃

 

明久は素早く連撃を叩き込むが、少女は全て杖で防ぎきった

 

それでも明久は連撃を繰り出すが、少女は全て防御

 

そして、一瞬の隙を突いて杖で明久を突き飛ばした

 

明久が飛ばした直後、少女は杖で地面をトンっと叩いた

 

その数瞬後、明久の居た地点に十数個の岩が殺到

 

土煙が舞い上がった

 

「明久兄さん!?」

 

エリオとキャロが驚いて叫ぶが、その直後に土煙は強風によって晴れた

 

そして、明久はその身に蒼炎を纏っていた

 

その姿は、あのリニアトレインで自分達を襲撃してきた敵と瓜二つだった

 

「なっ!?」

 

「明久兄さんが、蒼炎!?」

 

エリオとキャロが叫び、ティアナが絶句していると

 

「あー!!」

 

とスバルが叫んだ

 

「うっさいわよ、バカスバル! いきなりなによ!?」

 

ティアナが驚きながらも問い掛けると、スバルは

 

「思い出した! 吉井明久上等空士って、昔命令違反をして降格処分を受けた局員だよ!!」

 

と語り出した

 

「えぇっ!? それ本当なの?」

 

今居る場所が戦場だということも忘れて、ティアナはスバルに問い掛けた

 

「うん! かなり前だけど、雑誌にも載ってた! 確かその時に、なのはさんも怪我を負って、吉井明久上等空士はMIAになったって書いてあった!」

 

「MIAになった吉井明久上等空士が、帰ってきただけでなく、六課に配属された……?」

 

スバルの説明を聞いてティアナが黙考していると、フォワード陣の横に明久が転がるように現れて

 

「何喋ってるの! 早く下がって!!」

 

と怒鳴って、エリオに直撃しそうだった攻撃を弾いた

 

その命令に従っていいのか迷っていると、なのはが着地してきて

 

「皆、アキ君の言うことを聞いて!!」

 

と言いながら、砲撃を放った

 

「で、ですが……」

 

ティアナが言いよどんでいると、続いてフェイトが現れて

 

「あれは、多分古代魔法に関係してる! 明久の判断に従って!!」

 

と告げた

 

フェイトの言葉を聞いて、フォワード陣は納得した

 

古代魔法は、今となっては失われた魔法だ

 

そして、管理局に多く所属している局員の中でも、使い手は明久だけだろう

 

ならば、その明久の言葉に従うのは通りだ

 

フォワード陣はそう判断すると、一斉に下がって物陰に隠れた

 

なのはとフェイトはフォワード陣が下がったのを確認すると、顔を見合わせてから

 

「スバルが知ってたなんて、予想外だったなぁ……」

 

「もう、何年も前だからね……覚えてる人の方が少ない筈だけど……」

 

と呟いてから、明久と少女の戦いに視線を向けた

 

明久と少女の戦いは、傍目には五分のように見える

 

しかし、明久の攻撃は有効打にならず、少女はあの召喚魔法で次々と新しい召喚獣を呼び出しては明久にけしかけている

 

明久はその召喚獣を倒そうとするが、その隙を突いて少女が魔法を繰り出している

 

手数が足りないのだ

 

もちろん、なのはとフェイトは手助けするが、それは召喚獣によって防がれている

 

しかも、二人の攻撃が直撃してようやく一体倒せる位だ

 

相性が悪いのか、理由は二人にも分からない

 

だが、このままでは明久が倒されるのも時間の問題だということは分かる

 

「っ……一体、どうすれば……!!」

 

フェイトがそう歯噛みした時だった

 

〈呼べ、我を……〉

 

と頭の中で声が聞こえた

 

その声を聞いて、フェイトは思わず

 

「バルディッシュ、何か言った?」

 

と愛機に問い掛けた

 

だが、愛機バルディッシュから返ってきたのは

 

〈いえ、何も言ってません。主〉

 

という、否定の言葉だった

 

気のせいだったのか、とフェイトが首を傾げていると

 

「フェイトちゃん、どうしたの?」

 

となのはが砲撃しながら、フェイトに問い掛けた

 

「ううん、なんでも……」

 

とフェイトが言いかけた、その時

 

〈呼べ、我を……!〉

 

という、あの声が再び聞こえた

 

訳が分からず、フェイトは固まった

 

そして、ある一つの存在が脳裏に浮かんだ

 

あのリニアトレインの時、自分の中に入ってきた一つの存在

 

その名は、確か……

 

「……スケィス?」

 

とその名前を呟いた直後、ドクンッと鼓動が跳ねて、フェイトは胸元を押さえながら体を曲げた

 

「かっ……はっ!?」

 

フェイトのその姿を見て、なのはは目を見開いて

 

「フェイトちゃん!? 大丈夫?! しっかりして!!」

 

と体を揺すりながら問い掛けるが、フェイトには答える余裕はなかった

 

体が熱くなり、体の中から強い衝動がほとばしった

 

闘争本能と破壊衝動

 

何よりも、自分が支配されるという恐怖が襲ってきた

 

必死にそれを抑え込もうとしたら、三度

 

〈呼べ、我を……!!〉

 

と催促する声が聞こえた

 

フェイトは直感に従って、姿勢を正しながら

 

「おいで……私は……ここに居る!」

 

と言いながら、バルディッシュを収納して右手を掲げて

 

「……スケィス!!」

 

と呼んだ

 

すると、その右手に一本の長い鎌が現れた

 

 

 

これが、フェイトの初めての開眼だった

 

そして、黄昏の碑文を巡る戦いは加速を始める


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