「随分偉そうなサーヴァントねぇ」
「グロロー。サーヴァントなぞ所詮は生前に英雄だなんだと持ち上げられ自意識が肥大化した存在にすぎん。奴らは他人から特別視されることで本当に自分が特別な存在になったと勘違いしたいだけの人間に過ぎぬわ~」
金ピカの鎧に身をまとい高いところに立つ新たなサーヴァント。
この世の全てを見下すような態度を隠すこともなく偉そうな態度をとっているのだけど、もっと偉そうなサーヴァントが存在する。
その名も、ストロング・ザ・武道!
金ピカの鎧など不要。
やたらとでかい体と態度が揃えば金色の鎧などという装飾品はなくとも偉そうに見えるのだ。
あとわざわざ高いところに立つまでもなく自然と他人を見下すことになるのだから。
そんな武道の相手がすっかり慣れた凛ちゃんは、もはやサーヴァントの一人や二人とエンカウントしたくらいではビクともしない精神の持ち主となってしまっている。
「また戦うのか。俺は早く帰りたいんだけどなぁ」
「そうね。私も初めて泊まる家になるから早めに行っておきたいんだけど」
「わかってるわよ。私だって疲れてるからとっとと帰って寝たいのよ。わかったわね武道。ささっと手早くたたんじゃいなさい」
「グロロー。そういう事だ。下等サーヴァントよ、御託はいいのでかかってこい」
凛ちゃんだけでなく、衛宮くんたちもだいぶ図太くなっているようだが。
さて、一方そんなぞんざいな対応をされたサーヴァントの方は自分の扱いをどう思うか?
「この……雑種どもがぁ……!」
すごく怒っていた。
果てしなく怒っている。
引きつった顔面のシワはもはやヒビに見えるほど固く刻まれている。
「うわっ、あいつすごく怒ってないか?」
「うんうん、狂化したバーサーカーみたーい。遠坂のサーヴァントの態度悪いのが原因だよね」
衛宮くんとイリヤはすっかり部外者気分である。
自分を前にしていながらそんな態度をとる部外者がいることすら、黄金のサーヴァントには許しがたいこと。
さらに怒りのボルテージが上がる。
が、次の瞬間には大気を震わすほどの怒りの気配が消え去る。
完全に凪いだ湖面のごとく、一切のブレがなくなったかのような。
そんな静けさ。
黄金のサーヴァントの怒りが消え去ったのか?。
答えは否。
度を越えた怒りは静かな殺意を生んだ。
「死ね」
その言葉は命令。
違えることなど許さんという、確固たる意をもっての命令は、相手の都合など一切を無視する。
その命令に従い、金色のサーヴァントの背後でいくつもの光が生まれ、放たれた。
自分の出した命令を形にさせるために。
「グロロー!」
瞬間、武道は凛ちゃんたち3人の前に立ち素早く竹刀を振るう。
がきんがきん、ばきんばきん!
何枚ものガラスが割れ散らかったような、Fateのゲームをやってたらお馴染みのあの音が鳴り響く。
ボリュームを下げていないとびっくりするほどの音でもある。
何が起こったのかというと、黄金のサーヴァントの背後の空間から生まれたたくさんの光が、凄まじい数の武具となり飛来し、それを武道がグロローと竹刀で弾き返したのだ。
いや、竹刀だけではなく足元で踏み潰された刀剣類を見るに、四肢の全てを使って抑えたようである。
「誰の許しを得て存命している?
そんな武道に対し、金のサーヴァント。
怒りも憤りも見せず、再び背後の空間を光らせたかと思うと、先程と同じ……いや、比較にならないほど大量の武器を飛ばしてきたではないか。
「グロロロー!」
それを再び捌く武道。
武器の数が増えたところで凛ちゃん達を守るのにいささかの不都合はない、とでも言うかのような防御はまさに完武。
だがしかし、攻めきれない。
武道がいかに強いといえど、その戦闘スタイルは圧倒的なフィジカルによる近接格闘だ。
飛び道具を使う相手には相性が悪かったというところか。
「ま、まさか武道が押されているというの!?」
「いやー……押されてはないだろ? 互角かなぁ」
「私たちを守りながらでなければもっと楽に戦えてるかも知れないけどね」
「グロロー。その通り。お前たちを守りながらでなければ今頃やつの頭はスイカ割りのスイカのごとくよ」
しかし、なんだかんだで余裕があるのが武道である。
凛ちゃんたちを守るためにせわしなく動いているが、その動きに陰りは見られない。
「にしても相手は一体何ものかしら? こんなにたくさんの武器を放出する英雄の逸話なんて聞いたことがないわ」
「ああ、それにこの武器の数々はナマクラじゃないぜ。宝具じゃないか?」
「グロロー。やつは古代のどこぞの田舎の王、ギルガメッシュとか言うやつだろう」
「あ、そういえば閻魔大王がどうとか言ってたっけ。ギルガメッシュと言えば人類最古の王なのにそんな王の名前を知ってるなんて、本当に閻魔大王なのかしら」
そんな感じだから、一撃当たれば死にかねない武器の放出の射程内にいながらも凛ちゃんたちはすっかり態度が余裕になってしまった。
「人類最古の英雄王ギルガメッシュ……! で、なんでギルガメッシュがこんな武器を放出するのよ。むしろ牛と綱引きしたり山をパンチで吹っ飛ばしたりする人じゃなかったかしら?」
「現実と物語は違うってことじゃないのかしら」
「多分ギルガメッシュは最古の王様でこの世の全てを手に入れたとか言うから、後の世で有名になってる英雄の宝具とかは「ギルガメッシュの持ち物でしたー」とか言いたい感じじゃないか?」
「グロロー。何が最古の英雄王だ、バカバカしい。たかが田舎のお山の大将ではないか~。下衆人間どもの歴史に古さなど存在しない。奴ら人間の歴史など所詮は我ら超人の歴史の模倣でしかないのだ~」
戦いながら相手の真名看破、さらになんでああいうファイトスタイルになったのか? などの考察をする余裕っぷり。
確かに武道の守りはすごいのだが、別に戦いが有利になったわけでもないというのに。
人間、下手に状況になれると危機察知能力が落ちてしまうのかもしれない。
と、その時。
「あれ? なんか音が……」
「攻撃が弱くなった?」
「飛んできてる武器がなんだかショボくなってるよね?」
「グロロー」
がきんがきんぱりーん。
武道は相変わらず飛来する武器の数々を弾きまくるのだが、凛ちゃんたちの言うとり飛んできた武器が明らかに粗悪品になってきている。
一応人間の身で当たれば痛いどころどの話ではない武器だけど。
「弾切れかしら?」
しばらくして、刀剣の嵐が止んだ。
最初の方と違い、後半の刀剣類はえらい見栄えも悪く、魔術師的な目で見ても魔力が少ない粗悪品となっていたので、凛ちゃんの弾切れかという発言は間違ってないものに思える。
そうしてようやく敵の姿が見えそうだ……と、武道の影からひょっこり顔を乗り出して敵サーヴァントを覗き見る三人。
その目に映ったのは、先程までと同じサーヴァントと思えない存在である。
自己主張の大きい金ピカアーマーが、なんとも鈍い鉄色の鎧になっている。
頑張って磨いてみた青銅といった感じの鎧だ。
「き、貴様……っ」
魔力切れなどで色が落ちたのか? とも思いかけたが……相手の表情が「ありえない」と言っているように見えるので、別に疲れたら色落ちするような機能を持っていたとは思えない。
一体彼の身に何が起こったのか?
「グロロロー。なるほどなるほど。そういう事か」
凛ちゃんたちは当然として、当事者である敵本人ですら理解していない現象を武道は理解しているみたい。
一体何であろうか?
「武道、一体全体、なにがそういう事なの?」
「グロロー。簡単なことよ。やつはギルガメッシュ……人類最古の英雄王だとお前たちが言っていたではないか~」
それが一体なんだというのか?
答えは簡単。
「グロロー。奴の能力は所詮はその「人類最古の王」であるというネームバリューあってこそ。だが、その歴史が嘘っぱちであるという事が私によって判明してしまったのだ~。それにより、やつの身に纏う神秘が無価値のものとなり、戦闘力が大幅にダウンしたのだ~」
「馬鹿な……ありえん! この、
「グロロー。本当のことだ。何億年も前からこの星の歴史の全てを知る私が言うのだ。間違いない。そして……貴様は公式な試合をするつもりがないようだったので、私もその流儀に合わせてやらせてもらおう!」
そして武道。
突然のパワーダウンにうろたえる敵に武道は一切の遠慮なく、竹刀を投げつけた。
その竹刀は敵の胴体のど真ん中を貫く。
サーヴァントといえど所詮は人間、胴体に穴が開けば致命傷だ。
ましてや奴を支える力の大部分が失われてからの致命傷となればダメージはひと押し。
結果、敵サーヴァントは大して間を置かずに消滅する。
完全決着。
「グロロー。実にくだらん戦いであった」
「ゴングも鳴ってなかったしね」
なんとも虚しさを感じる決着だった。
「やっと帰ってこれた」
「へー、ここがシロウの家なんだー」
「はぁ、一日でサーヴァント四人も倒す羽目になるとは思わなくて私も疲れたわ。衛宮くん、ちょっとお茶くらい出しなさいよ」
「グロロー」
その後は特に問題なく衛宮くんの家まで付いた凛ちゃん一行。
しかし、扉を開けると……
「なんでさ」
衛宮邸の中にぎっしりと、謎の骸骨人間が詰まっていた。
「自立式の兵隊? シロウって初めて見たときは三流以下のゴミ魔術師と思ってたけどこんなのを作れるなんてすごいじゃない」
「ほんとね。セイバーを召喚したときはいなかったのにいつの間にこんなの作ったの?」
「いや……どう考えても俺と無関係だろこいつら」
「グロロー!」
衛宮邸にすし詰めになっていた骸骨軍団が凛ちゃん一向に襲いかかる。
これは一体!?
「どう考えても敵サーヴァントでしょこれ!」
「新手の敵サーヴァントか!」
「凛かシロウってよっぽど日頃の行いが悪いのね。一日の間でこんなに何度も襲われるなんて」