ストロング・ザ・Fate "完結"   作:マッキンリー颪

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第6話

「サーヴァント、セイバー。聖杯からの招き、マスターの召喚に応じて参りました」

「そうか、セイバー。……俺が君のマスターの衛宮士郎だ」

「衛宮? それにここは……いえ、ところでマスター。そこにいるのは?」

 

 衛宮くんの家にやって来た凛ちゃん一行。

 さっそく衛宮くんの工房……モドキ。魔術の練習場所、程度の土蔵でサーヴァントの召喚と相成った。

 いろいろお粗末な点は数あれど、この土蔵の地面に描かれた魔法陣は古いのに未だそれなりの効力を持つほどにしっかりとした作りで、凛ちゃんもちょっとだけ感心するレベル。

 

 聖杯戦争を勝ち抜くサーヴァントを呼ぶのなら、もっとしっかり準備して魔法陣も強化してこの家も魔術的に強化し魔力が貯まりやすいようにしたり、とすべきなのだろうが、今日の召喚はそれが目的ではないので、衛宮くんの工房にはほぼ手を加えずに召喚することになった。

 これからやる事を考えるとちょっとだけ心が痛む凛ちゃんだ。

 

「セイバー……衛宮くんが、ねぇ」

 

 さらに言えば呼び出されたサーヴァントを見て、内心複雑な感情が渦巻く凛ちゃん。

 

 聖杯戦争必勝マニュアルなんてものはないのだが、それでも聖杯戦争の参加者の共通認識として、聖杯戦争を優位に進めるのならば戦いの主役となるサーヴァントのクラスは重要な関心事となる。

 その中でも、セイバーは聖杯戦争のルール内においてかなり優遇されたクラスであり、そのマスターになればそれだけで勝利が近くなるとも言われるほどだ。

 

 だから、凛ちゃん自身はセイバーが欲しいと思っていた頃もあった。武道を知った今となれば、武道より強いサーヴァントを想像できないのでセイバーに対する未練はない。

 それでも目の前で他人がセイバーを召喚するのを見たらなんとなくカチンと来るのは仕方がないのだ。

 

 あと、礼儀正しそうだというのもポイントは高い。

 私の武道にも半分くらいその礼儀を分けてよ、と思うくらい。

 

「で、衛宮くん。わかってると思うけど」

「ああ、そうだな」

 

 

 

 一方の呼び出されたセイバー。

 彼女は召喚されたばかりだというのに、油断を見せずに気を引き締めている。

 見た目は小柄な女の子が鎧を纏っているコスプレ金髪美少女だが、当然ただの女の子ではない。

 実は10年前の聖杯戦争に呼ばれていたとか、その時のマスターは衛宮性の人物だとか、そしてこの場所に対する記憶もあるとか、色々と曰くつきの少女だったりする。

 

 そのセイバーの直感が、何らかの危険を察知する。

 自分の記憶のある場所、以前のマスターと同じ性の少年、何よりもマスター以外の魔術師とサーヴァントまでいるという状況に混乱しつつも、彼女の直感が「命の危険」を訴えている以上、彼女に油断はない。

 マスターはそばにいる魔術師とサーヴァントのペアと何らかの友好関係に有り、お互いで協力し合い聖杯戦争を勝ち抜く予定なのだろうか?

 そうだとしたら、ここでなぜ危機を感じるのか。

 

 マスターのとなりの魔術師はマスターを殺害し自分の支配権を手に入れる予定なのか、この場で同盟を捨てて自分のサーヴァントに私を殺させる気なのか?

 油断をしないセイバーは、いろいろな疑問を抱えつつも、まずは自分とマスターの安全確保を第一とせねば、と決意する。

 何らかの危機が訪れるなら、まずは問答無用でマスターを抱え離脱。その後詳しい話を聞くべきかと思案している。

 

 するとマスター……衛宮士郎と名乗った少年が一歩踏み出し左手、令呪を掲げながら、言った。

 

「セイバーよ、令呪を持って命ずる……自害しろ」

「は?」

「重ねて命ずる、自決せよ」

「な」

「もういっちょ命ずる。死ね」

「なにを……!」

 

 マスターの言ったことを頭で理解できないセイバー。

 しかしサーヴァントの体は令呪の命令を完璧に実行する。

 

 こうして、セイバーの聖杯戦争は終わった。

 まったくもって意味不明でわけのわからない、セイバーにとっては悪夢のような第五次聖杯戦争だった。

 

 

 

 

 

「いやー、あの子……かわいかったのに、かわいそうだなぁ」

「よく言えるわねそういうこと」

「グロロー。作戦を立てたのは凛ではないか~」

「そうだよ、遠坂の指示に従っただけだぜ」

「くっ、確かにそうなんだけど何か私が責められてる空気は釈然としないわ」

 

 セイバーのサーヴァントの死後、凛ちゃん一行は次に教会に向かう。

 必要ないかとも思うのだが、凛ちゃんが念の為に聖杯戦争の監視役の言峰綺礼に挨拶の一つでもしていこう、と思い立ったのだ。

 本当なら武道を召喚したその日に行くべきだったかもしれないが、あいにくその日は凛ちゃんは気絶していたので。

 で、有耶無耶になっていたが別にいいかな、とも思っていた。

 

 しかし今日、衛宮くんという新米マスターが生まれ脱落したのだし、せっかくだからいい機会だと思って教会に赴く。

 一応負けマスターは教会で保護を受ける権利を持っているし、衛宮くんが教会に保護されたいのなら面通しだけでもしておいたほうがいいという、凛ちゃんなりの気遣いだ。

 

 

 

 そして到着である。

 

「綺礼ー、いるー?」

 

 凛ちゃん、他人の家……どころか神の家たる教会でも遠慮なし。

 精神的に無敵である。

 

 もっともこれは、武道が閻魔大王だから神に対する畏敬の念が完璧になくなってしまったのも原因の一部であるが。

 

 その結果、行儀の悪さを神父に窘められながらも聖杯戦争の説明が始まった。

 凛ちゃんは既に知ってる内容だったので途中で鼾をかいていたりする。

 まぁ設定説明はやたらと長いので仕方がない。

 

「で、説明を聞いたものの、衛宮くんは教会に保護されずに普段通り生活する、と」

「そりゃそうだろ。テストで1位取らなきゃ死ぬんだから」

 

 教会に来たのは衛宮くんの挨拶が目的の大部分だったので、衛宮くんが教会に保護されようがされまいがどちらでもいいと思ってた凛ちゃん。

 それが終われば用はないのだし帰ろうとするのだが。

 

「待て。衛宮士郎よ」

 

 ここで待ったがかかる。

 珍しいこともあるものだ、と凛ちゃんは思った。

 言峰綺礼という男は基本的に長時間顔を突き合わせていたい相手ではないのだが、妙なところで他人の意思を尊重する男でもある。

 だから一度衛宮くんが教会の保護を不要だといえばそれで話は終わると思っていたのだ。

 そんな綺礼が待ったをかけるとは、一体何ごとだろうか?

 

「お前はこの聖杯戦争をなんとも思わないのか? これから、サーヴァントの戦いで冬木の町の人々が危険に晒されるのかも知れないのだぞ?」

「そりゃまぁ気の毒とは思うけど……だから俺にどうしろってんだか。俺はもうサーヴァントのマスターでもない部外者だしさ」

「力がないからと言い訳をするのか? お前はそれを良しとするのか?」

「良くはないけど悪くもないだろ。誰だって自分の身が大事、俺も自分の身が大事、だ。そりゃ事態の真相を知ってるんだからこれから知らずに被害が合う人がいたら気の毒だとは思うけどさ」

「お前はそれを本気で言っているのか? 10年前の災害、その被害者であるお前が」

「うん。昨日までの俺なら皆の安全を守らなければ! なんて思ってたかも知れないけど、その「みんな」の中に俺が入ってないのはなんか違うだろ」

「馬鹿な。一体、どういうことだ……?」

 

 この会話、まるで衛宮くんが聖杯戦争に参加しないのはおかしい事だ、というのを前提で綺礼が喋っているように感じる。

 

「ねえ綺礼。あなた衛宮くんと知り合いなの? 衛宮くんが聖杯戦争に参加しないのがおかしい事みたいに言ってるけど」

「む……いや。直接の面識はない。というか私は、衛宮士郎という存在を知ったのは今日が初めてのことだが?」

 

 不思議なことだ。

 言峰綺礼という男は嘘をつかない、と、凛ちゃんは思っている。

 信頼に近い形で、だ。

 ただ嘘は言わなくても本当のことを言わなかったり誤魔化したりすることはあるかも、という総合的な理由から人間的に信頼できるかといえばNoだけど。

 

 そんな綺礼が衛宮くんの事を知らない、と言い切っているのに衛宮くんが聖杯戦争に参加しない事を不思議がるとは一体?

 

「私はな。衛宮士郎のことは知らないが衛宮切嗣の事は知っているのだ」

「誰よそれ」

「あ、俺の養父だ。そうなんですか、生前は養父がお世話になりました?」

「いや、別に仲良しこよしというわけではない。敵対関係だったのだからな」

 

 そして始まる綺礼の自分語り。

 今度は知らない内容もあったので凛ちゃんは寝ないで聞いた。えらい。

 

「へー、綺礼って前の聖杯戦争で最初の脱落者だったんだ……ヘボっ」

「そんなのとライバルって事はオヤジもあんまり勝ち抜けなかったのかな」

「いや、衛宮切嗣は最終的に聖杯に最も近づいていたはずだ。だがそんな事はどうでもよくて、だ。そんな衛宮切嗣に育てられたお前だ。ましてや最後の大災害に巻き込まれながらも奇跡的に助けられたお前だ。何か思うところはないのか?」

「え? ……まぁそりゃ、すごい縁だとは思うけど。でもまぁ、せっかく助けてもらった命だから「いのちだいじに」で行くべきだろ?」

「むう……」

 

 言峰綺礼はただでさえ愛想のない仏頂面を、さらに険しくする。

 衛宮くんが聖杯戦争に参加しないのがよほど面白くないらしい。

 

「グロロー」

 

 そこで、今まで黙っていた武道が口を挟む。

 今までも時々グロローグロロローという声は聞こえていたが、凛ちゃんはいびきなんじゃないの? と思っていたので起きていた事にちょっとびっくりだ。

 

「ピーク……いや、完偽・衛宮士郎は一度私の技で精神をリセットしてしまったからな。凛との戦いで再び知識、記憶が戻ったとは言えそれは体験を伴わない記憶。だから「素のままの衛宮士郎」が成長したような形になったと言えよう。神父の疑問に答えるのなら、だ。衛宮士郎は10年前に一度生死の境を彷徨いそこでそれまで培っていた価値観、人格が破壊され、その上で衛宮切嗣とやらに育てられ、言い方は悪いが歪んでいたのだろう。しかし、一度赤子までリセットされた事で、正しい衛宮士郎としての人格を持ったまま成長し、それまでの体験はただの記憶となったのではないか、と私は思うのだ。グロロー」

「つまり……どういう事?」

 

 武道の発言を砕いて言うと、こうだ。

 言峰綺礼の期待していた衛宮士郎。それは10年前の災害をトラウマとして抱えながらも衛宮切嗣の子供として人格を受け継ぎ立ち上がる少年だった。

 実際に昨日までの衛宮士郎はそういう人間だった。

 

 しかし、武道が衛宮くんを赤ん坊にしたことで、その人格はリセットされた。

 人間の人格の形成とは、人から話を聞いたり、色々なものを見たりしてモノを覚えて行くよりも、実際に体験したことのほうが大きく影響される。

 その人格に影響を及ぼす「体験」がリセットで「ただの記憶」に成り下がったことで、衛宮士郎の人格に影響が出たのだろう。

 

 言うなれば、いまの衛宮くんは「10年前の災害でトラウマを受けなかった衛宮士郎」なのだ。

 

 そんな不思議なことがあるのだろうかといえば、疑問を持ちたくもなるのだが現に今こうやって形になっているのだ。

 納得するしかない。

 

「グロロー。昨日までの衛宮士郎が下等魔術師だとすれば、今日の衛宮士郎は下等を脱却した完璧魔術師、完偽・衛宮士郎と言えよう。もはや別人なのだ~」

「別人って事はないだろう。そりゃ確かに昨日までのことを思い出して……なんで俺は他人の言いなりだったんだ? もっと自分の時間を優先しろよ、って客観的に思うけどさ。それでもオヤジに助けられて育ててもらったことは感謝してるんだぜ? 親に対する愛情までリセットされちゃいない」

「グロロー。そこまで細かいことは知らん! 私の管轄外だ」

 

 武道の言い方にちょっと腹を立てる衛宮くん。

 父親との記憶が無かったことのように言われてちょっと不機嫌だが、武道は全く気にしちゃいない。

 何言っても効きそうにない相手なのでもう諦めることにするのだった。

 

「つまり……お前は衛宮士郎であって、衛宮切嗣の息子ではない。そういうことか」

「なんでさ。だからオヤジの記憶がなくなった訳じゃないって言ってんだろ。それはそれとして、俺は俺だっていうだけの話だ」

「いや……もう、いい。違うのだということがわかったので、もう構わん。気をつけて帰るといい。というか帰れ。シッシ」

 

 こうして教会での説明も終わり、あとは帰るだけである。

 

 一応サーヴァントがいない衛宮くんを安全のために先に家に送ることになった。

 凛ちゃんとしては疲れているのでもうここで解散にしたかったのだけど、衛宮くんが念の為に送ってくれよ、と言ったのだ。

 昨日までの衛宮くんならむしろ「女の子のほうが危険だろ、俺が送っていってそのあと一人で帰るよ」くらい言ってくれたはずなのだが、現実は非情である。

 衛宮くんはすっかり一般人の小市民に成り果てていた。

 

 ま、どうせ今日は危険なんてないんでしょうけど。

 と凛ちゃんは気が抜けていたのだけど。

 

「あーあ。お兄ちゃん、まだ召喚してなかったの?」

 

 教会から衛宮くんの家に帰るまでの道すがらで、現れるもの有り。

 どこか人間離れした整った容姿の、肌も髪も白い少女と……その後ろに鋼のような質感の肌の、上半身裸の巨人が現れた!

 

「大きい……と思ったけどそうでもないかしら?」

 

 とはいえ、その巨人より体の大きさも存在感もある武道が凛ちゃんにはついていたりするので、威圧感はそれほど感じなかったりするのだが。


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