聖杯戦争。
超常の力を持つ英霊、そしてそれを召喚し使役する魔術師のペア7組による14人で行われる争いである。
その勝利によって得られる報酬は万能の願望機とも呼ばれる聖杯。
7人の英霊も7人の魔術師もその聖杯を求めて戦うことになる。
しかし、人間の魔術師程度ではそもそもの前提条件となる「英霊召喚」などという奇跡は本来起こせない。
それを可能とするのは聖杯戦争の儀式の舞台となる冬木の土地の龍脈を使い長い年月をかけて溜め込まれた大量の魔力、そして儀式の根幹を成す術式によるサポートが大きい。
聖杯戦争の儀式に選ばれた魔術師にはその証となる令呪という外付けの魔術回路とも言うべきものが目印として刻みつけられる。
その令呪が目印となり、魔術師たちは「英霊召喚」という奇跡をなすことができる。
すなわち「英霊を呼ぶ」という行いに関しては参加者の魔術師個人は、それほどの労力を果たさずに成功させることができる。
しかし、彼らにとっては英霊召喚は前提条件であり、召喚さえできればなんでもいい、などという事はない。
召喚した英霊と共に他の参加者である英霊や魔術師を倒す必要があるのだ。
と、なれば。
誰もが思うだろう。
「強力な英霊がほしい」
と。
望んだだけで強力な英霊の召喚ができれば苦労はしない、と思いたくもなるが冬木の土地において行われる聖杯戦争ではそれを可能とする方法がある。
英霊召喚の際に英霊に縁のある聖遺物を用意するのだ。
そうすればその聖遺物に由来のある英霊が高い確率で召喚されることとなる。
2004年、冬木の土地で行われる聖杯戦争の参加者たる凛ちゃん。
彼女ままた、強力な英霊を呼ぶために何らかの聖遺物を用意することを怠らない。
「くふふ、よもや「エアの欠片」なんて神代の聖遺物が格安で手に入るなんてね……こりゃ勝ち確定でしょ」
顔がにやけるのを止められない凛ちゃんだが、それもその筈。
彼女は学校のクラスメイトが持っていた雑誌の通販ページに目を通していたら、偶然ではあるが「エアの欠片(本物)」というものがカタログに載っているのを発見してしまった。
エアといえば、古代バビロニアの神の一柱として有名である。
そんなものの欠片が雑誌広告の通販で? と思わなくもないが(本物)と書いてるのなら本物に違いない。
エア。
神である。
いくら英霊を召喚する聖杯戦争でも、神の召喚は不可能だが、神の欠片なんてものを触媒とすれば、その神に関係のある英霊の召喚ができるはずだ。
型月世界においては「古い=すごい」は誰もが知っていること。
古代バビロニアの神話に登場するエアに関係のある英霊であれば、それはもう凄まじく古い存在であろう。
古いはすごい、すごいは強い、強いは偉い。
そんな英霊を召喚するチャンスが得られる事に凛ちゃんはこの上ない幸運を感じていた。
今日はまさしく、その聖遺物であるエアの欠片が郵便で届いた日なのだ。
凛ちゃんの顔がだらしなくニヤけるのもこの日ばかりは見逃してあげようではないか。
「さ~てエアの欠片ちゃん、ごたいめーん」
ニヤけ凛ちゃん、満を持して郵便物の箱を開けた。
「……石、よね。まぁ、欠片ってくらいだし……にしても全然魔力らしい魔力を感じないわね」
その箱の中に入っていたのは赤茶けた石である。
サイズは手のひらに握って少し余るくらいか?
つんつんと触ってみても、とくに何も感じない。
「うーん、神といっても欠片になればこんなものなのかしら? しかし……あれ? なんでエアーズロックの写真が……あ、裏に字が書いてるわね」
エアの欠片ってこんなものなの? と訝しみながら弄る凛ちゃんは、箱の中にエアの欠片と一緒に入っていた写真に気づく。
エアーズロックの写真である。
その裏にはこう書いてあった。
「この度はエアーズロックの欠片をご購入いただき有難うございました。エアーズロックは現地住民であるアポリジニからはウルルとも呼ばれています。まぁこんなの買うくらいエアーズロックが好きなあなたには言うまでもないことでしたね」
と。
その手紙を読み切り数秒間、意識が遠くなった凛ちゃんだけど、気を取り直したその時、言った。
「エアじゃなくてウルルじゃない!」
しかし凛ちゃんは知らない。
それはウルルではなく、グロロであったということを。
そして思いっきり床に叩きつけてそのまま存在を忘れて放置していたグロロの欠片が、凛ちゃんを聖杯戦争の勝者へと導く最上の聖遺物であるということを!
ストロング・ザ・Fateに続く。