ストロング・ザ・Fate "完結"   作:マッキンリー颪

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以前の感想に書かれていた「この話の後のエミヤが召喚された場合」という話です。
エミヤはエミヤでも、赤アーチャーじゃない英雄になってしまった衛宮士郎のお話です。


おまけ
並行世界の聖杯戦争


 どれほど手を伸ばしても決して届かない程遠い、だけどすぐ隣にあるはずの世界。

 いわゆる「数多ある並行世界」の一つ。

 

 そこでも遠坂凛はサーヴァントの召喚準備に取り掛かった。

 

 彼女の狙うサーヴァントはセイバー。

 最良のサーヴァントである。

 

 此度の聖杯戦争において未だにセイバーが召喚されていないのは、自分がセイバーを呼ぶための前振りに違いない、などという自信を持って。

 

 そうして召喚したのだが……なんの間違いか、呼び出されたサーヴァントはセイバーではなかった。

 

「セイヴァーのサーヴァントとして呼び出された衛宮士郎だ、よろしくな。……って、遠坂か?」

「はあああああああ!?」

 

 呼び出されたサーヴァントはセイヴァーであった。

 

 

 

「えーと、衛宮くん……未来で英雄に?」

「うん。しかし俺の記憶にある遠坂からすれば若い遠坂は違和感バリバリだなぁ、無理すんな、って言いたくなる」

「ぶっ飛ばすわよアンタ」

 

 呼び出したサーヴァントが同じ学校のちょっと気になる生徒の面影がある……というか、そのものズバリであった事に驚いた凛だが、今は落ち着いたもの。

 

 そこで情報交換というわけだが……正直さらに驚くことになる。

 未来からも英雄を呼べるなんて、ということ。

 衛宮士郎がその英雄だなんて、ということ。

 そしてセイヴァーという特殊なクラスである、ということなど。

 

「色々言いたいことはあるけど……未来からのサーヴァントってことはこの聖杯戦争についての知識もあるのかしら?」

「ああ、聖杯から召喚された時にサーヴァントに付与される知識だけでなく、俺の生前の記憶がな。……まぁ、あんまり参考に出来る気がしないけどさ」

「? どういうこと?」

 

 凛から聞かれたのでセイヴァーは答える。

 

「俺の記憶では遠坂が召喚してたサーヴァントはストロング・ザ・武道というクラスで真名が閻魔大王だったか」

「はぁ!?」

「そんな規格外な存在だけあって、圧倒して圧勝してたよ。はっきり言って、知識があるからあの行動をトレースしろって言われても無理だ」

 

 自分から聞いた情報でさらに驚く凛。

 しかしこれは仕方のないことである。

 

 聖杯戦争で閻魔大王なんて大物が召喚されるなんて? と。

 

「他のサーヴァントについては……なんだかったかな。ランサーとセイバーは覚えてないけどライダーがメドゥーサ、キャスターがメディア、バーサーカーがヘラクレス、それとアーチャーがギルガメッシュ、だったかな」

「……さすが聖杯戦争ね。どれもこれも有名どころを……あれ? アサシンは? あぁ、ハサン・サッバーハだったかしら」

「いいや? そういえばアサシンは佐々木小次郎だな、マスターはメディアだ」

「なっ!?」

 

 そしてほかのサーヴァントについて聞けば、これだ。

 凛の驚きはひとつやふたつではない。

 

 ほかの呼び出された英霊たちのネームバリュー、さらにアサシンは本来ハサン専用なのに佐々木小次郎であり、さらにそのマスターがキャスター?

 

「俺の方の記憶じゃメドゥーサやメディアとはそれなりに仲良くやれたけど……武道なしだと無理だろうなぁ」

「ん? どういう事よ」

「いや、俺の世界で遠坂が召喚した武道はサーヴァントを人間にする能力があってさ。それでメドゥーサ、メディアのふたりは人間になって末永く幸せに暮らしてたよ」

「ごめん、ちょっと私急に耳が悪くなったみたい。もう一回言ってくれない?」

 

 セイヴァー、衛宮士郎から教えられる情報の数々は凛の常識を木っ端微塵に吹き飛ばすのに十分すぎるものであったという。

 

「あと、お前に言えば今すぐ飛んで行きかねない情報があるんだけど、こっちは明日言う。だからお前明日は学校を休め」

「なんでよ。ていうかどんな情報があるのか知らないけど隠さずに今、言いなさいよ」

「絶対にダメだ。お前とは生前長い付き合いだったからな。遠坂がこの情報を聞いて、どう動くのかは予想がつく。俺を召喚した直後はあんまり調子よくないんだから、最低でも一晩は休め」

 

 その後、未来から来たのなら聖杯戦争の流れを予習しておきたい凛に対し、セイヴァーは今は止めておけ、と言う。

 納得はできないのだが、未来から来た者の言うことである。無下にもできずに凛も一応は引き下がった。

 

「ま、何はともあれ行動は一晩休んでからのほうがいい」

「何であんたが仕切ってんのよ! 私がマスターであなたはサーヴァント、それをわかってんの?」

「わかってるって、遠坂の願いと命は優先するさ……と、もう一つ」

 

 翌日以降、明日から始まるであろう聖杯戦争に備え、まずは休もうと思った凛へのセイヴァーからの質問。

 

「お前の聖杯に託す望みはなんだ?」

 

 これは聖杯戦争において、サーヴァントとマスター、それぞれが絶対に確認しておかなければならない事。

 むしろ自分から聞かねばならないことを相手に先を越された、と凛はすこし敗北感を覚えるが、そんなものは表情に出さずに答える。

 

「そんなもの無いわよ。望みは自分で叶えるものなんだから」

「ん、了解。並行世界でもやっぱ遠坂は遠坂だ」

「私は置いといて、あんたの望みはなによ」

「俺か? 俺はセイヴァーだからな。俺が望んだ、というより俺は望まれた側だ。救済を」

「何言ってるのかサッパリなんだけど?」

「そのへんは別の機会……って言いたいが、それはフェアじゃないな。俺の目的である救済。今回の召喚に関して言えば、聖杯戦争の終結、大聖杯の破壊が俺に望まれた願いだ」

 

 セイヴァーの質問に答えた凛。

 次はお返しとばかりにセイヴァーの目的を聞いたが……これまた驚くしかない内容である。

 

「大聖杯の破壊ですって!?」

「そう。ちなみに俺の記憶の聖杯戦争の時も遠坂は納得してたぞ。そこら辺の説明も明日教えるさ」

 

 文句の一つを言ってやりたいところで霊体化するセイヴァーを相手に、凛は結局何も言えなかった。

 言葉をかければ聞こえるだろう、というのは分かっていても。

 

 気に入らないこと、気になること。

 様々な思いはあるが、何はなくとも凛の聖杯戦争は今始まった。

 

 10年前、父が参加し帰ってくることなく終わったという大儀式。

 きっとこれから自分も死ぬか生きるかの戦いに身を投じることになるのだろう、そういう高揚感を抱えて凛は眠る。

 

 明日から始まる戦いがどれほど凛の想像の斜め上かを、この時の凛は、まだ知らない。

 

 

 

 

 

 ~翌日~

 

「よし、間桐……なんだっけ? 忘れたけど蟲ジジイを殺しに行こうぜ」

「ちょ、なんで急に? それに御三家として、敵同士と言えども最低限の礼儀ってものが」

「その家では桜が10年間、性的および肉体、精神の全てにおいて虐待されていてもか?」

「!?」

 

 そういう事もあって、間桐臓硯は倒された。

 午前7時頃に。

 

「まぁ完全に殺すには桜の心臓の中の蟲をなんとかしなきゃならないらしいんで……柳洞寺に行こうぜ。今はキャスターだけどメディアとは交渉の余地がある」

「本当なんでしょうね……いや、間桐家や桜の扱い、それにライダーの正体は正解だったからもう疑う余地はないけど」

「サクラの助けになる、と言うのならば一応は信じましょう。もし裏切れば、許しませんが」

 

 そしてライダーを仲間に加え柳洞寺へ。

 

「こいつは佐々木小次郎じゃないんだぜ。対魔力は低いはずだからメドゥーサ、一発やっちゃって」

「はいはい、ゴルゴンゴルゴン」

「これはなんとも……無体な」

 

 そのライダーの能力を使いアサシンを圧倒しキャスターの元へ。

 

「聖杯戦争後、あんたが受肉して人間になったあとは遠坂が戸籍の問題とかクリアして葛木先生と結婚できるようにするからさ、桜を助けてやってくれ」

「信じられる話じゃないけど……昨日今日召喚されたサーヴァントがそこまで知ってる、ってことは本当に未来から来たんでしょうね。まぁ手は組んであげるわ。でも裏切ったら……」

 

 キャスターの協力を得て、桜の救済に成功。

 この時点で昼前だったこともあり柳洞寺で昼をご馳走になり、セイヴァー、ライダー、キャスターを伴って凛は学校へ。

 セイヴァーからの情報が確かなら「衛宮士郎」もマスターの一人だから。

 

「え? と、遠坂? 何をするんだ!」

「うるさい! さっさとアンタの家に行くわよ!」

 

 学校のみんなに暗示をかけまくり放課後にもなっていないのに学校を出て、衛宮士郎の家へ。

 そこでサーヴァントを強制的に召喚させ。

 

「セイバー、自害しろ」

「なっ!?」

 

 またもや、これである。

 セイヴァーの記憶でもセイバーの正体は不明であり、信用できるかどうかもわからないという警戒心から。

 衛宮士郎に対してはキャスターの暗示で命令に従うしかない状態だったので何一つ困ることはなかった。

 

「あとはランサー、バーサーカー、アーチャーだな」

「アーチャーはマスターが綺礼で、真名がギルガメッシュなんだっけ?」

「そう、俺の方の世界だと武道のせいで弱体化してたなぁ。まぁ俺も同じようにギルガメッシュの「古の神秘」が嘘だとわかってるから弱体化してんじゃないか? してなくても3対1だ、勝てるだろう」

 

 そうと決まれば聖堂教会へ。

 言峰が本当に不正をしているのなら許すまじ、と凛は思っていた。

 

 行ってみれば本当にそうだと判明。

 戦闘になるのだが……

 

「ギルガメッシュの歴史って超人の歴史のパクリであって、最古の英雄でもないし全英雄の元ネタってのも嘘なんだぜ」

「ば、馬鹿な!? この(オレ)の宝物庫が収縮されただと?」

「あ、弱そうになった」

 

 本当に弱そうになったギルガメッシュを3対1でリンチ。

 言峰の心臓は聖杯と繋がってるということを覚えていたセイヴァーはキャスターに頼み言峰の心臓手術、そして自首するようにと言い渡す。

 

「俺の知ってる記憶だと遠坂が言い渡してた決着だけどな」

「……まぁ、それ以外にないわね。そもそも綺礼をただ殺すってのも後味よくないし」

 

 言峰についてはこれで決着か? と思ったところでキャスターが気付く。

 

「あれ? この男……もう一体、サーヴァントと繋がってるわ。それに見なさいよこれ。令呪がたくさん」

「なんだよ、俺は知らなかったけどそんな不正までしてたのか。メディア、ヤッちまえ」

「そうね。あと聖杯戦争が終わるまではクラス名で呼びなさいよね」

 

 言峰が10年前から持っていた令呪の数々、普通はそう奪えるものではないがキャスターの腕ならそう難しいことでもなく奪取に成功。

 そして異変を察知してランサーが接近してきたのを察知したキャスターは令呪を一つ使い、命令する。

 

「ランサー、自害」

 

 これにてランサーとの戦いも決着。

 夕方の出来事である。

 

「あとはバーサーカーとイリヤだ。イリヤはホムンクルスで本来は寿命が短かったって話なんだよなぁ。キャスター、どうにかできるか?」

「見てみないとわからないけど、流石に難しいわね。体の一部くらいなら作れても人間の体そのものを作るっていうのは。まぁその子の寿命をのばすくらいの面倒は見てあげてもいいわよ。本当に聖杯で私があの人と結婚して幸せな夫婦生活を送れるのなら、ね」

 

 そういうこともあって深夜、イリヤ&バーサーカーとの戦い。

 まともに話をしても言うことを聞きそうにないイリヤを相手に、初めてまともに戦うことになったが……

 

「せ、セイヴァーって本当に強かったんだ。衛宮くんって将来こんな強くなるの?」

「違う、英雄補正だこれは。未来のこととは言え俺は英雄なんかになっちまったから人々から「このくらいはできるだろ」っていう信頼が大きすぎてステータスがとんでもなく強化されてるんだよ」

 

 思ったより強いセイヴァーを軸に、ライダーとキャスターのサポートも加わりなんとか勝利に成功。

 

「つ、疲れた……武道は楽に勝ってたように見えたが自分で戦うととんでもない強さだったな」

「まぁ生前のヘラクレスを知ってる私から見れば弱体化してたけどね」

 

 バーサーカーの撃破に成功後、ついに大聖杯へ。

 

「うわ、本当にひどい泥だわ」

「メディ……じゃなくてキャスター、なんとかなりそうか?」

「公式でも私が勝者になった場合は聖杯を有効に使えるって言われてるからね。それに言峰から奪った令呪もある事だし、上手くやるわ」

 

 こうして、聖杯戦争は完全に終わりを迎えた。

 セイヴァーから聞いていた、大聖杯を形成する魔術回路を人間に戻す、なんていう理不尽技はさすがのメディアもできないが、聖杯戦争が二度と起こせないように大聖杯の解体をするのはお手の物だったこともあり、聖杯戦争終了後の数年後には全部解決するだろう。

 

 朝焼けの中、霊体となり英霊の座へと還っていくセイヴァーを見て、凛は思う。

 

「セイヴァー……あなたもライダーやキャスターみたいに、肉体を持ってこの世界に残りたい、とか思わないの?」

「どうかな。流石にサーヴァント3体同時に残そうと思えばどこかで無茶が必要になると思うし、俺はいいよ。それに俺の召喚された目的も果たされたしな」

「目的?」

 

 セイヴァー召喚による救済の目的。

 しょせんは冬木の聖杯であり、人類全体の救済などではなく、小さな願いである。

 

「桜を間桐家から救った、10年前の犠牲者、ずっと教会の地下で言峰に養分にされてた子供たちの尊厳も……。それに、衛宮士郎の救済もな」

「衛宮君の救済?」

「そう。俺としては生前から、英雄なんてなりたくなかったのに……って思う部分はあったしな。あと、英霊になってわかったが、本来俺はもうちょっと下のランクの守護者になってたらしい。そうならないように、と思えば、今の時代の衛宮士郎を聖杯戦争にろくに関わらせないことが重要だったんだ」

 

 魔術が使えるけど腕はへっぽこ、そんな学生の衛宮士郎。

 彼は聖杯戦争に関わらなければ、大した力も持たず、せいぜいが自分の周りの人の生活の中での便利屋程度で終わっていたであろう。

 そうすることをこそ、望まれていた。

 エミヤという存在から、そしてセイヴァーとなる衛宮士郎本人も。

 

「そういうわけだから、俺はこれでいいのさ」

 

 セイヴァーはその言葉を残して去っていった。

 これにて聖杯戦争、完全決着である。

 

 

 

 

 この結末に対し、凛は思った。

 

「セイヴァーの話だと戦い始めて一晩、そしてセイヴァー自身の場合はほぼ1日かけて戦い続けて聖杯戦争を終わりに導いたわけだけど……今までこの程度の勝利もできなかった先達の魔術師たちってどれだけヘボいのかしら」

 

 と。

 

 

 この事でアインツベルンが怒って刺客を差し向けてきたり、魔術協会がせっかくの儀式を潰すなんてとんでもない! と言いがかりをかけてくるが、こちらの世界でもことごとく撃退に成功する遠坂凛。

 

 どこの世界においても、聖杯戦争は遠坂凛自身の戦いとしては、序章に過ぎないものであった。




セイヴァーのステータスは全体的に、人々の信頼補正のせいでものすごく高いです。
もし呼び出されたのが未来の聖杯戦争的なものであったら、もうできない事なんて何もないだろう、というくらいになってます。
本人にとってはその信頼も辛かったようですが。

これにてこのお話は完全に終わりです。
完読、ありがとうございました。

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