ストロング・ザ・Fate "完結"   作:マッキンリー颪

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最終話

「グロロロ……きさま……何者だ?」

 

 武道の誰何の声。

 普段と同じ、もはや聴き慣れた武道の声であり、激している訳でもなければ自分に向けられた声ですらないのに、凛ちゃんの背筋に氷の冷たさが走る。

 いいや、凛ちゃんだけではない。

 衛宮くんやイリヤ、さらにメドゥーサまでもが、言いようの無い寒気に見舞われてしまった。

 それ程の怒気を武道が放っているのか。

 

 アヴェンジャー……それ程の存在なのか!?

 凛ちゃんたちは最初そう思った。

 

 しかし違う。

 違うのだ。

 

「ゲギョゲギャ~。ストロング・ザ・武道、いいや超人閻魔……いやいや、完璧(パーフェクト)零式(ゼロ)ザ・マンよ。お前なら既に気づいておるはずだがな~」

 

 黒いサーヴァント。

 悪魔将軍の姿のアヴェンジャー……のはずの存在は武道に対し笑いを含んだ、余裕を持って応える。

 もっともその返答の言葉に、答えの言葉はないのだが。

 

 しかし、武道は知っている。

 答えを聞くまでもなく、そいつの正体を知っているのだ。

 

「グロロ。その影、その気配……貴様がそうか」

「ギレラレラレ~! その通り、オレこそが悪魔の領袖、あのサタンさまよ~!」

 

 そう、その存在こそ、すべての悪魔超人の頂点とも黒幕とも言われるもの。

 

 名をサタンという。

 

「さ、さ、さ……サタンですってぇ~!?」

「ちょ、イリヤ!? アンリ・マユみたいな日本じゃ知名度低いやつどころかとんでもないの出てきたんだけど!?」

「そんなの言われても私だってわからないわよ! さっきまでのアヴェンジャーとなんか気配からして違うし……もうこんなの解説できないわ!」

 

 サタンの名を聞いて凛ちゃんとイリヤ、焦る。

 それもその筈、キリスト教圏においてはサタンといえば存在の大きさ、ネームバリュー、ともに凄まじいものがあるのだから。

 

 サタンなんて大物が聖杯戦争に関わってきていいのか?

 もうアインツベルンの聖杯戦争という範疇をとっくに超えてるんじゃないか?

 凛ちゃんもイリヤも混乱してしまうが、意外や意外、それに答えてくれる律儀さがあるサタンである

 

「キュギュゲ~! 本来ならこのサタン様がこんな辺鄙な田舎の人間によるセコい儀式で呼ばれるわけがない! だがアヴェンジャーとやらが作り出したこの悪魔将軍の肉体という供物は中々の出来だ! ゴールドマンを知る武道の記憶を元に作り上げられただけのことはある……このオレさまの寄り代としての資格十分なのだ!」

 

 要約すると、だいたいアヴェンジャーが悪い、だ。

 もっと遡ればアインツベルンのせい、になるのだが。

 

「グロロ。よもやこのような場で貴様と相対することになろうとはな」

「ギレラレ~ッ! 相対だと? 生身の状態であればまだしも、サーヴァントなどという劣化した体でこのサタンさまと戦うつもりだというのか?」

 

 サーヴァントの身体能力……これが、本来のものと劣化しているのか? 強化されているのか? というのは難しいところがある。

 が、型月世界の基本は「神秘は古いもの勝ち」であり、聖杯戦争のルールにおいては「知名度補正と、聖杯の器しだい」である。

 例えるなら、バーサーカーとして呼び出されたヘラクレス。

 神話の時代の英雄であり、あれは本来「聖杯戦争のサーヴァント」などという小さな枠に当てはめて呼び出せる存在ではないのだが、本来の能力より劣化された上にバーサーカーという縛りを入れることで召喚に成功している。

 アーチャーとして呼び出された、聖杯より古い歴史を持つギルガメッシュも然り。

 本来は山をパンチでぶっ飛ばし神牛と引っ張り合いっこしたりするパワーファイターだが、そのままでは呼び出せないので劣化させ、その上であらゆる宝具を使えるというキャラ付けをなす事で、どうにか召喚に成功されている状態だ。

 

 と、なれば武道が、あんな理不尽な強さだけど弱体化している……というのも、あながち嘘ではないのだろう。

 だがサタンはどうか?

 彼は確か「武道の記憶の中のゴールドマンの再現」として体を作ったアヴェンジャーに乗り移ったとか。

 という事は、かなり本来の能力に近い体でこの世に顕現しているのではないだろうか?

 そんなやつを相手に、武道と言えど勝てるのだろうか?

 

「黙れ、この宿無しのグウタラ悪魔が。きさまなど所詮他人を介してしかこの世に顕現すらできぬ影に過ぎぬわ」

「グムムギギ~ッ! きさまー!」

 

 口喧嘩では圧勝しているように見えるのだが……果たして?

 

「グロロー。きさまも超人としてリングに立つのならここでやる事は一つであろうが」

「ギレラレ~ッ! よかろう、まずは貴様を殺し、そして世界を闇に包み込み、再び地球を悪魔超人の支配下に置いてくれるわ~!」

 

 バチバチ!

 二人の視線、闘気は目に見える空間を歪ませスパークが走っているかのよう。

 

 これから行われる戦い、もはや聖杯戦争という枠内に収まるものではないだろう。

 一体どうなってしまうというのか……

 

「グロロロー。凛よ」

「は、はい!」

 

 武道から声がかかり、ゴングを鳴らさねばと凛ちゃんが構えるが……

 

「もはや我らの戦いにゴングは不要!」

 

 とのこと。

 では一体何なのか?

 

「凛よ、これから行われる私とこやつの戦い。それはもはや聖杯戦争ではない。それゆえに……去れい!」

「えー!?」

 

 これには凛ちゃん大びっくり。

 武道は一体なに言ってんの?

 

「ギレラレラレ~! 何だかんだと上手いことを言っているが敗北するのを人に見られるのが怖いだけではないのか~?」

「グロロロ。敗北? 私が? きさま如きにか。グロロロー! ありえん話よ」

 

 サタンの挑発などどこ吹く風。

 武道は語る。

 

「グロロ。私が聖杯戦争などという下衆な戦いに参加してやった理由は大聖杯の破壊。他者の願いを叶えるなどという思い上がりを完膚なきまでに打ち砕くためよ。そしてそれは成った。ならばもはやこれ以降の戦いに魔術師などの介在する必要はないのだと言うことがわからぬか」

 

 と。

 

「ちょっと武道! あんた何言って」

「グロロロ。凛よ、きさまも言っていたではないか。きさま自身、聖杯に望む願いなど無く、戦いの場があるならば完璧魔術師として勝利するのみだと」

「完璧魔術師なんてのは言ってないわよ!」

「黙って聞け。今重要なのはきさまの目的はとうに果たされたという事だ。そして私の目的も果たされた。ならば我々の関係は終わりで、その後に何をしようと文句を言われる筋合いはないということだ~」

 

 それが武道の主張である。

 言うが早いか、超人発射ガトリングガンに凛ちゃんたちを装填する手際の良さ。

 凛ちゃん、衛宮くん、イリヤ、メドゥーサ+桜ちゃん、言峰を装填したガトリングはその銃口を「遠坂邸」と書かれたゲートに向けている。

 あとは発射するのみ。

 

「グロロー! 発」

「させるかー!」

 

 しかし、発射寸前に凛ちゃんはガトリングガンに自分のニーソを片方突っ込んで詰まらせてしまう。

 精密機械なので何かひとつ詰まっただけで大問題だ。

 そのせいで発射しそこねた機関銃の弾からヒラリと舞い降り凛ちゃんは叫ぶ。

 

「武道! この私を舐めんじゃないわよ!」

「グロロー」

「たしかに私とアンタの聖杯戦争は終わったかも知れないけどね! あんたはまだ私のサーヴァントなのよ! サーヴァントの戦いを見届けないマスターなんているもんですか!」

「グロロロ」

「それにねぇ! この冬木は遠坂の管轄! つまり私の土地よ! その土地の中で人類の未来に関わるかも知れない戦いがあるっていうのに、見届けずにいて、なんの管理者よ!」

 

 聖杯戦争なんて関係ねえ! 武道のマスターであり、冬木の管理者だからこそこの戦いを見届ける義務がある! というのが凛ちゃんの主張のようである。

 

 バチバチと火花を散らせ睨み合う両雄。

 折れそうにない武道は一息つき、仕方がない、と認めるのであった。

 

「グロロロ。どのみち聖杯の消滅から私の現界時間は短い。戦う前に終わってしまっては目も当てられん……仕方あるまい。凛よ、貴様にはこの戦いの目撃者となることを許そう」

「だからなんであんたはそんな偉そうなのよ!」

 

 戦いのギャラリーとなることを認めつつも偉そうな武道。

 そして悪態を付く凛ちゃん。

 

 この二人の態度は聖杯戦争を通して何も変わっていないと言える。

 

「え? 俺らも結局残らなきゃダメなの?」

「みたいね」

「サクラを安全な布団で寝かせたいので私は帰りたいです」

 

 結局、凛ちゃんが残るために衛宮くん達も残って観戦する事になったのは語るまでもないことである。

 

「グロロロ。ならば試合開始……の前に。始祖(オリジン)たちよ!」

 

 そしていよいよ試合開始か、という所で武道は始祖たちに呼びかけをする。

 しかしこれはリングに上がれ、という意味ではない。

 超人の試合は基本的に1対1。大勢で一人をボコるべきではない。

 ならば武道はなぜ彼らを呼びかけたのか?

 その理由は簡単である。

 

 武道の呼びかけに応じ始祖たちは体が解け魔力の塊となり、武道の元へと還っていく。

 彼らは武道が召喚した存在であるがゆえ。

 

「グロロロ。いくら三下ゴミの下等が相手といえどその体がゴールドマンの模倣である以上は私とて万全の態勢で挑まねばならんからな~」

「ギレラレラレ~。万全であろうとなかろうと勝敗は見えておるわ~。いいや、むしろ言い訳がなくなったのではないか~」

 

 そしてついに、怪物二人がリング上で向き合った。

 

「ゴングを鳴らせい!」

「ギレラレ~!」

「は、はい!」

 

 かぁーん!

 

 武道の呼びかけに応じ凛ちゃんがゴングを鳴らし、ついに最後の戦いが始まる。

 次にゴングが鳴るのはこの戦いが終わったとき……つまり聖杯戦争の完全な終幕の時である。

 果たして決着のゴングをリング上で聞くのは武道かサタンか……?

 

「グロロロー!」

「ギレラー!」

 

 ゴングと同時に両雄、リング中央でがっぷり手四つ!

 

「グロロー! 武道・岩砕クロー!」

「ゲムムギー! 魔の将軍クロー!」

 

 ギチギチミシィ!

 二人の組んだ手の握力、その威力はどれほどのものか。

 武道とサタン、二人の組み合った手の周囲の空間まで歪み引き寄せられるほどの引力が発生しているではないか。

 

「ギレラ~!」

 

 組合では埒があかぬと思ったか、サタンはお互いの手を組みあったまま、両腕を頭上に振り上げ仰け反る。

 これにより接触点は組み合った手のみ、という状態でありながらも強烈なスープレックスが完成する。

 描く曲線の半径が大きいために威力も抜群だ。

 

「グロッ!」

 

 凄まじい勢いでマットに叩きつけられる武道だが、見た目に反した身のこなしで受身をとり直ぐに体勢を立て直すべく立ち上がろうとする。

 だが、攻撃を仕掛けた側の有利というべきか、サタンの方が一手速い。

 

「ゲギョギャー!」

 

 立ち上がる直前に武道の顔面にサタンのローキックが直撃。

 巨漢の武道が仰け反り後ろにぶっ飛ぶほどの威力だ。

 

「グロア!」

「まだまだいくぜ~!」

 

 ロープまでぶっ飛び片腕がロープに引っかかってしまい、倒れることも前に進むこともできない武道にサタンが迫る!

 

「グギョゲラ~!!」

 

 奇声とともに、両の手で素早く交互に張り手の連打!

 バシバシと凄まじい音を立てての連打は確実に武道の体力を削るか。

 しかし、その威力が故に武道の腕に絡まったロープが解けフリーになる。

 

「グロロー!」

 

 そしてフリーになった腕を使ってのパンチ!

 体制の伴わぬ手打ちのパンチだがカウンターであったのが功を成したか、これにはサタンもよろける程。

 よろけた隙を見逃さずに武道のショルダータックルが炸裂し、リングの逆サイドのロープまでサタンは吹っ飛んだ。

 しかしサタンは体の一部がロープに絡まることはなく、バウンドする。

 ただし地面と平行に、だ。

 これは超人プロレスにおいて珍しい現象ではない。

 となればその際の対処法も確立されているものだ。

 

「武道爆裂キック!」

 

 ロープの反射から突っ込んでくるサタンの胸板に武道の強烈なドロップキックが叩き込まれた。

 これは効いたか!?

 

「やったぁ!」

「さすが武道だぜ!」

「でも正直普通に超人プロレスやり出されたらこれはこれでコメントに困るわね」

 

 武道の優勢に沸く凛ちゃんや衛宮くんたち。

 しかし?

 

「グロロ」

 

 ガクリ、と武道が膝をついた。

 一体何ごとか?

 

「グギョゲラ~。忘れたわけではあるまい。このゴールドマン……いや、悪魔将軍の肉体の硬度調節機能の存在を! 私の体は超人界最強の硬度10・ダイヤモンドパワーなのだ~!」

「グロロー」

 

 ギレラレ~! と高笑いするサタン。

 その体は本人の主張を象徴するかのように、複雑な光の反射を生んでいるではないか。

 

「だ、ダイヤモンドだってー!?」

「宝石なら遠坂でしょ、凛、なにか解説しなさいよ」

「えぇ!? 私に振るの!? いや、でも……えーっと、ダイヤモンドは硬いけど衝撃に弱いはずよー!」

 

 しかしサタンの肉体のダイヤモンドパワーは常識ダイヤではなく、あくまで漫画ダイヤモンド。

 衝撃に弱いというデメリットを排した都合のいい最強の盾なのだ。

 

「だから打撃は効かんのだ~!」

 

 言うやいなや、サタンの両腕から一本ずつ、諸刃の剣が生えだした。

 

「そしてこのダイヤモンドパワーは防御だけのものにあらず! 最強の攻撃力を再現する剣となるのだ~! ギレラレラレ~!」

 

 両腕から生えた剣で武道を切りつけるサタン!

 その剣の威力、今までのどのサーヴァントよりも強力だったのか、あの武道の体から夥しい出血が!

 

「ちょ、ちょっと! 剣とか卑怯じゃないの!? プロレスしなさいよ!」

「そうよ! 凶器攻撃は3秒以内じゃなかったのかしら!」

「グムムギギー! 何を言うか! これは私の腕から生えた体の一部! コスチュームの一部! 武器ではないのだ~!」

 

 凶器攻撃に対しブーイングの凛ちゃんとイリヤだが、サタンには通じない。

 そして余計に武道への攻撃が激しくなる。

 

「ぶ、武道ー! こうなったらあなたも竹刀を使うのよー!」

「グロロー! 舐めるでないわ! 超人レスリングは一度リングに上がればお互いの肉体と肉体のみを使って戦うのだ! ましてや完璧超人たる私が凶器を使う事などないのだ~!」

 

 相手は使ってんだからいいじゃない! と思う凛ちゃんだが思った所でどうしようもなかった。

 完璧超人だって時と場合によっては凶器を使うことくらいあるわい! とでも言えばいいのに……と、思わざるを得ない。

 

「ゲギョゲギャ~! 実に愚かな矜持よ! 悪魔の戦いにルールなんてないんだぜ~!」

 

 相手が正々堂々だろうとサタンがそれで変わることはない。

 むしろ好都合だとばかりに攻撃が激しくなる。

 

「くらえ! 地獄のメリーゴーランドー!」

 

 そしてサタンは飛び上がり丸まりながら激しく回転し武道を斬りつけようとする。

 この攻撃、今までの斬撃の比ではない威力を感じる!

 

「ぶ、武道ー!」

 

 どう~~~ん!

 

 凛ちゃんの悲鳴もなんの静止力にならず、サタンは武道を斬りつけた。

 斬り付けたのだが……?

 

「グ、グムムギギ~……なんだ今の感触は?」

「グロロ……気になるのならもう一度やってみてはどうだ?」

「のぞむところー!」

 

 武道の体に新しい傷が刻まれることはなく、平然と立っていた。

 さらに武道はサタンを挑発する始末。

 

 一度はやり過ごせたといえどこれは危険なのでは? 誰もがそう思ったが……ばい~~ん! と、音を立て再びサタンが弾かれてしまうではないか。

 

「グ、グギョ~……これは一体?」

「グロロロ。この世で最強の物質はダイヤモンドではない、そう言った超人が居たのを知っているか?」

「なに抜かす~! ダイヤモンドより硬い物質などあるものか~!」

 

 余裕の武道に対し更なるサタンの追撃、しかし三度、吹っ飛んだのはサタンである。

 何が起きたのか?

 

「グロロ。たしかに硬さにおいてダイヤモンドは最硬の一角かもしれん。しかし、柔軟な強さも世の中にはあるということよ……そう、この空気緩衝材(クッショニング・マテリアル)のようにな~!」

 

 見ると、武道の体が膨らんでいるではないか。

 いつも以上に。

 その膨らみの正体とは……空気!

 

「そ、それは~!?」

「グロロロ。これぞ完璧(パーフェクト)伍式(フィフス)ペインマンの特性! いかなる衝撃をも通さない最強の防御だ!」

 

 膨らんだ空気はどんな強力な衝撃をも柔らかく包み込み跳ね返してしまう!

 その力を武道は身にまとったのだー!

 

「ゲ、ゲギョゲ~! 調子に乗りおって~……ならば背中から攻撃してくれるわ! 貴様も背中は膨らんでいないから無防備であろうが~!」

 

 サタンは武道に気圧されながらも、武道の空気緩衝材防御は前面に配置されており、後ろへの防御は無いと思った。

 だが、背後から近づいたサタンは逆に跳ね返されてしまう。

 武道の背中から現れたバリアによって。

 

「グロロ。いついかなる時も全方位に集中し背後からの攻撃を完全にシャットアウトする。これぞ完璧(パーフェクト)肆式(フォース)アビスマンの奥義、アビスガーディアン。この技を持ってアビスマンはこう呼ばれている……パーフェクト・ザ・ルールとな!」

 

 バリアに跳ね返されたたらを踏むサタンに対しゆっくり振り向いた武道。

 その佇まいはまさに王者のそれ。

 完全にサタンを圧倒している。

 

「ば、馬鹿な~、きさまにそんな能力があるわけが~」

「うむ、無い」

 

 あやつにそんな能力があるなんて聞いてねぇ、そんな態度のサタンだが、その言葉を武道は肯定する。

 

「ふざけんじゃねぇ~! 使ってるじゃねえか~!」

 

 しかしそれが逆にサタンの逆鱗に触れたらしい。

 当然だ。

 そんな能力は無いと言っている張本人は現在進行形で能力を使っているのだから。

 到底、納得のいく理屈が見つからないではないか~。

 

「グロロロ。忘れたか、私の身はサーヴァントであるという事を!」

「なに抜かしよる~!」

 

 わけのわからぬ事を言う武道にキレたサタンが襲いかかるが。

 

「タービンストーム!」

 

 体を捻り勢いをつけて両腕を振り回す武道の腕から発せられた竜巻に巻き上げられて宙を舞う。

 浮いたサタンに追いついた武道はサタンの喉元に両の拳を押し当てて逆さまになって落下。

 この技こそ、あのアビスマンの必殺技。

 

「肆式奥義! 奈落斬首刑!」

 

 ズギャ~~~ン!

 

 凄まじい音を立ててリングを揺らす大技の炸裂。

 

「ぐ、グムムギギ~」

 

 しかしフラつきながらもさすがはダイヤモンドパワー。

 なんとKOされずに立ち上がってきた。

 

「グロロー。やはり厄介よのう、ダイヤモンドパワー」

「ギレラレラレ~。そ、そうよ、その通り。このダイヤモンドパワーこそ攻守ともに最強の」

「だからその硬度調節機能を破壊させてもらった」

「なに!?」

 

 武道が言うと、サタンの体からボロボロと黒く輝くダイヤモンドが剥がれ落ちた。

 硬度調節機能の破壊のお知らせだ。

 

「馬鹿な~、なぜこんな~! 貴様に何故そんな能力があるのだ~!」

「グロロ……愚か者め! 私の身が今はサーヴァントであるという事を忘れたか!」

 

 クワッ!

 武道が血走って怖い目を見開いての一括。

 

 この言葉でイリヤは悟った。

 

「そ、そういう事だったのねー!」

「知っているのかー! イリヤ!」

「教えてイリヤ! どういうことなの!?」

「ウム!」

 

 聖杯戦争におけるイリヤ最後の解説が始まる。

 

「サーヴァントとは人の意思、夢、理想が形を持った存在! 本物じゃないのよ! 武道や私のバーサーカーみたいに本物の時よりも戦闘力が落ちる者もいるけど……本当は生身での戦闘力が弱い、だけど人々が最強であると願った存在は強化されるの!」

「うん知ってる」

「そして、人々が「この英雄はこんな逸話があるからこれができる」と思ったことはサーヴァントの能力として付与されるわ! 仮に、人生にたった一度のまぐれで成功した行いも、サーヴァントとして呼ばれたのならスキルとして任意で使用可能な技術となるのよ!」

「へー、それで?」

「そこで武道の宝具よ! 武道の宝具は10人の同士、完璧(パーフェクト)始祖(オリジン)だったわ! かつての仲間との絆! そして武道は常にその同士たちと共にある……つまり、武道の中には彼ら始祖たちが今も生きているということになるのよー!」

「そ、そうなの?」

「そうなの! そして自分の中にあるものなら武道が使えても何の不思議もない……これが武道の数々の能力の秘密だったのね! 通りで強すぎると思ったのよ!」

 

 へのつっぱりはいらないイリヤの解説であった。

 

「グロロ。まぁ大体合っているが……私が自分以外の能力を使ったのはこの試合が初めてのことだぞ?」

「え~」

 

 そして武道はイリヤの解説について、最後の一言にだけダメ出しをした。

 最後の最後で格好のつかないイリヤであった。

 

「ま、そういうわけだ。サタンよ、サーヴァントという貧弱な身ではあるが、私の体に10人の同士が宿る以上、貴様に勝ち目はないぞ?」

「ギ、ギレラレ~ッ!」

 

 ズシリと一歩を踏み出す武道。

 その姿に不利を感じたかサタンは撤退を選ぶ。

 悪魔に正々堂々なんてないのだ! という態度で。

 

 しかしその撤退、叶わなかった。

 

「マグネットパワー!」

 

 サイコマンの能力でサタンを引き寄せられ、さらに。

 

「カレイドスコープドリラー!」

 

 武道の左腕にドリルの幻影を纏い、そのドリルでもってサタンの胸板を貫いた。

 

「グ、グ、グ~! き、貴様~」

 

 貫かれた胸板から大量の魔力が漏れるサタン。

 所詮彼の体も魔力で構成されているのだ、大きなダメージを受ければ魔力を消費し、その存在は希薄となる。

 

「グロロロ。サタンよ。どうせ貴様自身は死ぬことはないのだろうが……それでもかつての我らが同士、ゴールドマンの写し身を使ったその罪は重い! この技で完膚なきまでに粛清してくれるわ!」

 

 そんな存在感が薄くなりつつあるサタンに、武道はとどめの一撃を放たんとする。

 サタンをロープに振って、反射。

 

「タトゥ~! トゥーター!」

 

 そしてそのサタンに後ろから走って追いつき、ひっ掴み。

 

「完武・兜砕き!」

 

 サタンの頭を己の膝に叩きつけ、砕きわる武道の、武道自身の必殺技(フェイバリット・ホールド)が発動!

 

「ギ、ギレラレ~ッ!」

 

 これにより、さすがのサタンも完璧に砕け散った。

 

「やったぁ! 武道の勝利よ!」

「遠坂、ゴングだ!」

「ええ!」

 

 カンカンカァーン!

 

 地下大洞窟に勝利のゴングが響き渡る。

 ここに、聖杯戦争すべての戦いが決着したのであった。

 

 

「ぎ、ギレラレラレ~」

 

 しかし、肉体が滅んだもののサタンの魂は不滅!

 コウモリを思わせる黒い影に恐ろしい形相の顔が浮かんだサタンの魂が睨みをきかせ全てを睥睨する。 

 

「おのれキサマら~、よ、よくもこのサタンさまを~ こうなったら」

「黙って消えろ!」

 

 そしてサタン、何やら不穏な言葉を発しようとしたが、武道は聞き入れずに竹刀でサタンの魂を一刀両断。

 滅びる事こそないが、現世での顕現する体を失ったこともあり、この場からは完全に消え去るのであった。

 

 凛ちゃんはそんな武道を見て思った。

 

 試合でも竹刀使えや、と。

 

 

 

 「ふー、朝日が眩しいわ」

 

 戦いを終えて。

 凛ちゃんたちが大洞窟から出た頃には、時間はすっかり明け方であった。

 

 あれだけ濃かった武道だが、戦いが終われば「これで私の戦いも終わりよ、グロローさらばだ」と何の感慨も残さず消えてしまった。

 元々大聖杯が消滅したあとにすら残っていたこと自体がハチャメチャなので、消えるのは当然だったと言えるのだが、せめてその前にガトリングガンで家まで飛ばして欲しいと思ってもバチは当たらないだろう。

 

 言峰の奴はギアスに従ってこれから警察に自主しなければならなくなり、今までやってた後暗いことの資料集めに忙しいらしい。

 だからさっさと教会に引き上げてしまった。

 

 

 まぁ言峰の事などどうでもいい。

 

「あー、しんどー。でもこれからも大変なのよねー」

 

 凛ちゃんは思わずそうボヤく。

 なにしろ、聖杯戦争とは極東のショボい一儀式に過ぎないのだが、魔術師的な視点で見れば1000年続いた魔術の大家、アインツベルンも一枚噛んだ大儀式でもある。

 そんな儀式が1夜で完全決着、そして未来永劫おじゃんになってしまったというのだから……魔術協会、聖堂教会、その他関係各所から痛くもない腹をつつかれるのは目に見えている。

 一応は凛ちゃんとしても「取るに足らないくだらない儀式だと思った、だからぶっ壊した、反省してない」と言うつもりであるが、どこまで聞いてもらえるか。

 この土地は先祖代々、正当な手段で継いできた土地である以上、自分の家で起きたことを赤の他人がつつくんじゃねえ! というのが正論だが、得てして、声だけ大きい凡愚とやらはそういう正論を無視して声高に自身の正当性を叫ぶものだ。

 非常にウザい。

 

 しかし、今はそれより何より、疲れて眠いのでとっとと家に帰ってひと眠りして、それから考えたいと思うのも仕方がないことである。

 

 そして。

 

「そういや俺んちってキャスターのキン骨兵がウジャウジャいたっけ……あれどうなってるんだ?」

 

 凛ちゃんも面倒な状況だが、そういえば衛宮くんもいろいろ大変だったっけ、他人事のように思いながら聞く凛ちゃん。

 実際に他人事だけど。

 

「キャスターが消滅したから消えてるんじゃ……って消滅はしてなかったわね」

「あ、それもそうか。だったらキャスター本人に聞きに行くか。流石に徹夜でしんどいから今日は寺に泊めてもらうのも良いかもな」

「おおー、テラ! ジャパニーズ、テンプル! 士郎の家もそれなりだったけど和風っぽさでは寺には負けるものね。床に敷いただけの布団で寝るのも楽しみだわ」

「あ、イリヤも泊まるの?」

「そりゃそうでしょ、士郎の家に厄介になるつもりだって言ってたじゃない」

「では私も暫くそうさせてもらいましょう。サクラをあの蟲ハウスと関わらせるのは絶対ダメですから」

「はいはい。遠坂ー、俺らは柳洞寺で一休みしていくけどお前はどうすんの?」

 

 しかし、その会話を聞いて凛ちゃんに電流走る。

 

 これだ!

 

「私も行くわ! キャスターに会いにね!」

「キャスターじゃなくて今はメディアじゃなかったかしら? 武道が真名言ってたでしょ」

「良いのよ細かいことは!」

 

 凛ちゃんは考えた。

 これから魔術協会を始め色々なやっかみが襲いかかってくるだろう。

 いくら地元の理があっても自分ひとりで耐えれるかというと、正直なところ自信はない。

 だからどこかで相手の要求を譲渡して、本来はその義務もないのに自分の土地を調査という名目で荒らされることも覚悟していたが……こっちには大きな戦力がいる。

 神城の時代の魔術師であるメディアがいる。そして元女神で今は人間になってはいるが、それでも神代の時代の存在であり今の時代の魔術師よりも深く濃い魔術を知るメドゥーサがいる。

 

 この二人はこれからこの時代、この街で生きていくのなら色々と入用になってくるだろうから、それらの負担をこちらから提供することで自分の戦力として使えるのでは?

 別に他人の物を欲しがるような下品なことはしない、優雅じゃないから。

 ただ、自分を守るために力をちょっぴり借りたいだけだ。

 きっと受け入れてもらえるだろう。

 

 そうと決まれば交渉あるのみ!

 

「ボサっとしてんじゃないわよ、衛宮くん! 柳洞寺、いくわよ!」

「ま、まぁ良いけどさ。そんなテンション高くなくてもいいんじゃないか?」

「うっさいわね! 寝てないとテンション高くなるでしょうが!」

「俺はテンション落ちるタイプなんだよ」

「私も~」

「私はどちらとも言えませんが……サクラが目を覚ますので静かにして欲しいです」

 

 凛ちゃん以外テンションは低いが、そんなことは対して気にもならない。

 これからの苦難、試練を考えれば小さいことだろうから。

 

 しかし凛ちゃんはその全てを乗り越えるだろう。

 自分に自信を持ち、言葉として自分に言い聞かせる。

 

「へのつっぱりはいらんですよ!」

「おお~、言葉の意味はよくわからないけどすごい自信ね」

 

 聖杯戦争は終わったが、凛ちゃんの本当の戦いは始まったばかりである。




あとはちょっぴりエピローグ的なのを書いて、おまけを少し書いたら完結です。

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