身長2メートル90センチ。
体重320キロ。
超人強度9999万パワー。
剣道の防具のような物に身を纏いながらも、はち切れんばかりの筋肉の分厚さが見るものに威圧感を与える巨人。
それこそが凛ちゃんの召喚したサーヴァント。
その名も
「ストロング・ザ・武道」
である。
「グロロロー。教会で見た時から貴様には不穏な気配を感じていたが……場所がここだからか、より貴様の気配がはっきり見えるぞ~」
言峰は人間にしてはでかいし、筋肉量もかなりのものなのだが……武道の前に立てばなんとも小さく細く見えるもの。
その威圧感は人間を超えた存在のサーヴァントとして発せられているというよりは、ストロング・ザ・武道という男のそのままの威圧感にさえ思える。
その武道が言峰を問い詰めんとする。
「くっ」
この時、言峰は高速で頭を回転させる。
狂人だがアホではない、むしろ賢い部類に入る言峰だ。
今までの人生でも絶体絶命の機会なんていうものはいくらでもあった。
しかし常にその危機を乗り越えたからこそ今生きている。
その彼が、必死に考えを巡らせるものの……やはり、絶体絶命である。
目の前にサーヴァント。
周囲を囲むのも謎の軍団。
一人一人がサーヴァントに近い存在とすれば、一人いるだけで言峰の手に余る存在。
それが、武道を入れて10人。
ぐるりと周囲を囲み上すらもカバーしているというのだから。
「綺礼、あなた」
そんな中で凛ちゃんが一歩前に出る。
だが言峰に凛ちゃんを害することは出来そうにない。
誰かが余裕でインターセプトするだろうから。
ある意味安全地帯の凛ちゃんだが、その目は険しい。
当然であろう。誰が父の仇であるかがついに判明してしまったのだから。
いいや、それだけではない。
それ以外にも凛の人生では色々と愉しませてもらったものだ。
……ならば、最後はこいつでいいか。
言峰はそう考えた。
この場を出し抜く方法が思い浮かばないのなら、凛ちゃんに多少なりとも言葉の毒を浸透させてしまえと。
それを持って人生最後の愉悦とするか、と。
死を感じ、極限の状態に至ってなお、他人に迷惑をかけることしか頭にない男である。言峰綺礼。
「ふっ。凛よ。ついに知ってしまったようだな」
「あんた……!」
凛ちゃんは、この10年間の付き合いもあり、言峰の裏切りによってさまざまな感情に支配されてしまっている。
怒りという感情一つをとっても、さまざまなものに対する怒りがうずまき、処理しきれないほどだ。
そのために何を言おうか、何から言おうかと自分の中で整理がついていない状況で、先に口火を切ったのは言峰であり、出足をくじかれた気分になる。
「どうした? 私に何か言いたいことがあるのだろう? 考えがまとまらないのなら先に私から」
「黙れこのド下等が!」
「ド……ド下等!?」
言峰は凛ちゃんより先に言葉を紡ぐことで場の流れの空気を持っていき、なんだかみんなが話を聞いてしまう譲治ワールドを展開しようとしていたのだが……その流れはぶった切られた。
ぶった切ったのは単眼の巨漢超人、ガンマンだ。
「私はな~、貴様のような嘘つきが大嫌いなのだ~! だから貴様の語る嘘なんぞ聞きたくもないわ!」
「ふっ、嘘だと? お前が一体私の何を知っているというのか知らんが、私は今まで嘘なぞ」
「黙れこのド下等が!」
「ド……ド下等!?」
ループかよ。
「グロロー。ガンマンよ、下がれ」
「シャババ」
このままでは言峰の口答え、そしてガンマンの黙れド下等! の無限ループコンボが発動するかに思われたが……それを武道が止めた。
「グロロロー。言峰綺礼よ。貴様は嘘など付いていないというが……聖杯戦争のマスターであることを隠し監督役などをやっていたではないか~」
「何を言うかと思えば。聞かれなかったから答えなかっただけだ」
「それが嘘だと言っておるのだー!」
クワッ!
武道の血走った目が開かれる。
「聞かれなかったから言わなかった? 相手が勝手にそう思っていた? 愚か者め~、それは騙しているのと何ら変わらんわ! 相手が勘違いしているのを知っていて訂正しない時点で貴様は大法螺吹きなのだ~!」
「ぐわ~」
武道は言峰の頭を掴んでブンブン振り回す。
キャスターもやられてたアレだがキャスターと違ってフードを被っていないので頭を直掴みである。
これはさすがの言峰もたまらない。
本気でないといえど武道の超握力で頭を鷲掴みされながらシェイクされているようなものなのだから。
数秒間振り回して満足したのか武道は言峰を放り捨てる。
これで自由になったとは言え、ダメージは大きいのか言峰はふらついているが、逆に凛ちゃんは何を言うべきか決まったのか、一歩前に出る。
「綺礼……」
「ぐ、り、凛……?」
「無様ね」
「ぐぬっ!」
ぷーっ、と笑いを吹き出しながら言う凛ちゃん。
確かに無様である。未だに頭がふらついてる言峰の姿は。
それでも言葉のやりとりは出来るのは確認したので続ける。
「ま、それは置いといて……あんた。私のお父さんを殺したのがあんたってのは」
「ふ、ふ、ふ……それは……本当の事だ。くくく、お前の父を刺殺した凶器を抱いて涙するお前の姿、実に私の心に潤いを与えてくれたぞ」
「そんな変態性癖は知らないわよ」
吐き捨てた言葉と同時に顔面パンチ。
普段の言峰なら避ける……あるいは額で受けて逆に凛ちゃんの拳を砕いてニヤニヤしていただろうが、今は出来なかった。
だから鼻血ブー。
むしろ倒れなかったことを褒めてあげて。
「で……あんたが衛宮くんに言ってたこと。お父さんと間桐雁夜とやらとの会話について聞きたいんだけど」
「ぬ、う。あぁ、あれも本当のことだよ。君は……いや、遠坂葵も含めた君たちは、時臣師の美しい面しか見ていなかったのだから信じられないだろうがね」
「じゃあ父さんは蟲ハウスで桜に何をされるか知っていて?」
「いいや? それはあるまい。魔術の修行……もっとも間桐家の術を修行というべきか知らんが、その奥義は他者に知らしめるものではないからね。だが、知っていても時臣師が娘の桜を間桐の養子に出していたのは確定だろうよ」
凛ちゃんのパンチが気付になったのか、言峰はだいぶ足元が安定したらしく、言葉もしっかりしだしたようだ。
だから続けて言う。
「彼は魔術師としては何一つ落ち度のない、完璧な魔術師だった」
「完璧~?」
「その通りだ。魔術師として、完璧な人物であった。ただそれは人の親としてどうか? となると」
「黙りなさいこのド下等が!」
「ド……ド下等!?」
ループではない。
今度の発言者は凛ちゃんだから。
「魔術師として完璧だけど人間としては違う? その時点で、もうそれは完璧じゃないわよ。ガッカリだわ。お父さんがそんな中途半端な魔術師だったなんてね。あ~あ、そのガッカリ感で思い出したわ。さっきの臓なんたらとかいう蟲男。確かにお父さんのことをディスってたわね、そういえば」
などと、若干の投げやりさを感じる言いようである。
「凛……?」
「ま、ド下等の事なんてこの際いいわ。私が完璧であればいいのだから。……ただ間桐家にも「人間」が居たってのを知れただけでも良かったかしら? 既に故人らしいけど」
凛ちゃんの精神ダメージを受けているように見えない態度。
これに言峰は若干以上に気圧されてしまう。
言峰と凛ちゃんの付き合いは10年以上になる。
毎日のように顔を突き合わせての家族のような付き合いでこそないものの、けして顔見知りの他人程度の浅い付き合いではない。
ましてや言峰は自身の性癖に従って、凛ちゃんの困難苦痛に歪む顔を肴に美味しい酒を飲む、という趣味の兼ね合わせで深く観察し続けてきたのだ。
それだけに凛ちゃんの性格などは大部分を掌握し、何を汚いと感じ何を美しいと感じるか、というものは知っている。
仮に「尊敬する自分の父親が魔術師としては完璧でも、人間としては歪みを持ち、それでいながらも自分の歪みに気付くことも出来ない人間だった」という事実を知らしめた時に、どんな表情をするかは見てみるまで分からないが、それでも小さくないショックを与える事はできるだろうと思っていた。
だというのに……これはどういうことだ?
凛ちゃんはなぜ、父親の歪みという本人にとっての大事をこのように受け流すことができるのか?
こんな……わずか数日でここまで人が変わることが出来るというのか!?
言峰はこの事実に戦慄する。
今まで、凛ちゃんのサーヴァントに対しては「ギルガメッシュを倒すほどだから戦闘力は強いのだろう」とは思っていても、サーヴァント1騎程度の人格をさほど重要視していなかった。
所詮は道具、戦闘の駒に過ぎないのだと。
改めて武道を見る言峰。
こいつは一体凛ちゃんになにをしたのか!?
このように勝手に戦慄している言峰には気の毒な話だが、これまでの連載を読んでいる読者なら既に知っていることだろう。
武道が凛ちゃんに何をもたらしたか?
答えは「何もしていない」だ。
ただ単に強引かつ自分勝手、及び理不尽に振り回し好き放題やっていただけである。
別に凛ちゃん、成長したとかいうわけではない。
衛宮くんのように零の悲劇で人格リセットからの再構成コンボを受けたわけでもない。
ただほんのちょっぴり……寝不足と疲労とストレスでやさぐれているだけなのだ。
しかし遠坂の家訓は「いかなる時も優雅であれ」だ。
疲れていてもそんな顔は見せやしないので、凛ちゃんの精神状況がフラットなのにこの性格である……と、言うように言峰には見えてしまっているだけなのだ。
偶然の奇跡が生んだ勘違いである。
「グロロロー。さて凛よ。こいつをどうするのだ?」
言峰の視線なぞなにするものか、そよ風ほどにも意識せずに武道は凛ちゃんに問う。
そもそも超人である武道からすれば人間同士の諍いは割とどうでもいいのだ。
間桐臓硯のようないるだけで世の中の害になる存在でもなければ下衆人間の争いは下衆人間が決着をつけるべし。
はたして凛ちゃんの望む決着とは?
ただ怒りのままに誅殺するのか。
全てを受け入れ許しでもするのか。
「綺礼。あんたはこの件が終わったら自首しなさい」
「なんだと?」
「グロロー」
ただ殺すのでもなく、許すなどでもなく……裁きを他者に委ねること。
これが凛ちゃんの答えだと言うのか?
「どうせ父さん殺害の件については……アリバイは兎も角として、証拠はないでしょう。魔術師としての抗争だから。でも、どうせあんたは叩けば埃の出る体でしょ? いくらでも自首する材料なんてありそうだもの。残りの人生を刑務所ですごして、話はそれからよ。生きて出所できたなら私のところに来なさい。その時に決着をつけてあげるわ」
「正気か? 凛よ。お前は自分の手で父の仇を取らないというのか? それとも今更臆したか? だとすれば私はお前を買いかぶっていたと言わざるを得ないが?」
「はっ。あんたからの評価に価値があると思わないけど……何か勘違いしてるんじゃない? 私はお優しいから、あんたを殺さないと言ってるんじゃない。あんたはさっき言ってたわね、他人の不幸が楽しいと。でも残念。刑務所に入ってしまえば不幸なんて観察できないわよ。いるのはみんな罪人ばかり。そこにあるのは不幸ではなく、当然の帰結よ。そして新たな苦痛とやらを探したくとも……日本の刑務所でそんな事が許される訳もない、てのは日本で暮らしていればわかるわよね? つまり、あんたは残りの人生、聖職者でも異常者でもなく、ただの人間として、個性を潰されて番号として箱の中に入ってなきゃいけないのよ。ま、あんたが自分の全能力を持って力技で脱獄すればその限りではないけど……あんたはその時点で今までの人生の全ての意味を失い、それ以降残るのはただの木偶の坊よ。それで良いのなら好きにすればいいわ。その程度の存在、ド下等以下の、もはや決着をつける価値もない塵芥なんだから」
それが、凛ちゃんなりの答え、なのだろう。
別に寝不足と疲労でもう面倒だしさっさと済ませたいと思ってるわけじゃない……はずだ。
「仮にだが……ここで約束をしたとしても、お前は今「この件が終わったら」と言っていた。つまり聖杯戦争の後だが……その時に私が逃げた場合に私を従わせる強制力でもあるというのかね?」
実に愚かなことだ、と蔑みの笑いを凛ちゃんに向ける言峰。
だがしかし。
「ギアススクロールでの契約をするわよ。その約束の内容に従う限り、私はあなたの出所後まであなたに手を出さない。あなたは刑務所で刑期を終えるまで脱獄もせずに大人しく捕まっていること。これを破れば破ったほうが死ぬ。このくらいの条件でいいでしょう」
「な!? 凛よ、正気か?」
ギアススクロール……それは、Fate/Zeroを見た人なら知ってる通り……破ったら死ぬ、アレである。
小説の方でもそれなりに書かれていたが、今時の魔術師がそう軽々しくホイホイと書くようなものではない奴だ。
しかし言峰、一瞬は狼狽えこそしたがここで不敵にニヤリと笑う。
「いいや、違うか。なるほど、衛宮切嗣から全てを受け継いだ衛宮士郎の受け売りか。中々にえげつないことをする」
「はぁ?」
言峰の言葉に凛ちゃんは「何言ってんだこいつ?」という顔を見せるが、言峰の言うことには10年前の聖杯戦争でも、似たようなことをした者がいた。
お前たちにこれ以上の危害を及ばさない代わりに、自分の全部の令呪を消費しサーヴァントを自死させろ、と命令した。
そして相手がその取引に応じギアススクロールに名前を記入。これにより、もう安全は保証されたか……に見せかけて「第三者」を使い、契約相手を殺害。
そんな手段を持って聖杯戦争の競争相手の一人を完全に脱落させたマスターがいたという。
名前を衛宮切嗣。
衛宮くんの父親である。
「うわー、親父そんな事やってたんだ……引くわ」
「テハハ、実にセコい父親を持ったではないかキサマ」
父親の所業にドン引きの衛宮くん、そしてその耳に痛いセリフをためらわずに吐くペインマン。
そんなギャラリーは置いといて。
「はぁ、そんなセコい事はしないわよ。じゃあ文面に衛宮くんとイリヤの名前も入れておくわ。当然、破ったら二人共死ぬようにね」
「ゲー!? 遠坂! ちょっ、おまっ、人の生死に関わることを勝手に……!」
「黙れ」
「はい」
凛ちゃんは契約に衛宮くんとイリヤも巻き込むのであった。
衛宮くんは快く承諾してくれたが果たしてイリヤは?
「別にいいわよ? 聖杯戦争の後、の約束なんて……ね」
「モガッモガッ! ガキが随分と厭世気分じゃねぇか! ……でもまぁそれも仕方ねえわな」
どこか寂しげな表情で承諾する。
イリヤを肩に乗せるアビスマンはそのイリヤの事情に何やら思い当たりがあるようだが……特にそれを口にしないようだ。
「まぁこんな所よ。これでまだ文句ある? まさか……あんたともあろう人が、これだけお膳立てされてもなお怖くて信じらんな~い、なんて言わないわよね? まぁ言っても良いけど」
「正気とは思えんな。もしお前たちがその契約を破れば」
「破らないわよ、そのつもりもない。遠坂の人間はいついかなる時でも優雅であれ、よ。セコいルール破りに一喜一憂するド下等のあなたには一生理解できなくて構わないわ」
トントン拍子に自分の死の可能性を含めた契約を良しとする衛宮くんやイリヤ、そして凛ちゃんを相手に、如何に人格破綻者の異常性癖持ちである言峰も、驚きを隠せない。
隠せないのだが……それは凛ちゃんにとって大した問題ではないようだ。
話は決まったということでその場でスクロールを作成してしまう。
ちなみにスクロール用の羊皮紙は何故かジャスティスマンが持っていた。
裁きの超人だけにそういうルール的なものの持ち込みに縁があるのだろうか? 割とどうでもいい事である。
そうして素早く書き込んだ凛ちゃん。
流し見で見た限り問題なさそう、という判断でササッと自分の名を記入するイリヤ。
仮にも自分の人生がかかってるんだから……と、契約書のすみずみまで見渡し縦書き横書き、言葉の解釈の仕方などで思わぬ不利益がないかを探ろうとするが、特に見いだせず、それでもビビる衛宮くん。
そんな衛宮くんの後頭部を叩きとっとと書き込めと急かすメドゥーサ。
それらを見届け、自分に回ってきた契約書を見、特に問題ないだろうし……そもそも、
「はい、これであんたとの決着は付いたわね」
言峰の記入を持って契約がなされたこと、確認した凛ちゃんはスクロールを受け取り確認し、そう言った。
その発言を待ってましたと言峰が言う。
「さて凛よ。お前がせっかく頭をひねって考えたのであろうこの決着だがな……これには不備がある」
「へえ?」
「嘘ぉ!? ひょっとして俺が契約違反で死ぬ感じのか!? それは嫌だぞ!」
「あんまりちゃんと見なかったけど……別に契約に不備はないと思ったんだけどどんな抜け道があったのかしら?」
言峰の不穏な発言に焦る衛宮くん、凛ちゃんとイリヤは訝しみながらも深刻に捉えずに言峰を見る。
そして当の言峰はというと……上着を脱いで上半身裸になった。
別に露出狂でもなければ、腹にダイナマイトを巻いてて自爆するというわけでもない。
当然だが、武装解除して無害アピールでもない。
その言峰の上半身……というか、胸の中央やや左、心臓があるはずの場所がの色が違うのだ。
色がどうこうというより……人間の肌ではない、ように見える。
「グロロー。やはり、か」
「気付いていたというのか? まぁそれが本当かどうかはこの際関係ないな。凛よ。これがどういう事かわかるかね?」
「わかんないわよバカ。説明しなさい。はい、イリヤ」
「説明って……えーと、よくわかんないけど生身じゃないみたいね。魔力の塊にも見えるし違うようにも見える……そう、聖杯の私から見た感じで言うと……サーヴァント? なんなのかしら、その胸のやつ。わからないわ」
言峰の胸の黒い部分。
これの解説はイリヤにすらできないようだ。
一体何だというのだろうか?
「これはな、10年前の聖杯戦争の時。衛宮切嗣との最後の戦いに起因するものだ」
ここで言峰は語ろうとする。
スーパー譲治タイムの始まりか!?
「シャババ! 私の目は誤魔化せん! それは大聖杯の中身……この世全ての悪の一部の漏れ出したものだ! キサマ、既に生身の心臓を失っているな! そしてその心臓の代用品が聖杯の中身の一部というわけだ!」
始まらなかった。
ガンマンが答えを言ってしまうのだった。
「つまり貴様はこう言いたかったわけだ! たとえ次の聖杯戦争がどのような形で終わろうと、自分が生き残ることはありえないのだと! だからその後のことを取り決める契約書に一切の効力などないと! シャバババ!」
「え? な、なに? そういうものなの?」
「グロロー。そういうものなのだ。此度の聖杯戦争、決着は聖杯の中身の魔力が何らかの形で使われ昇華して終える事になるのだが……そうなると、その聖杯の中身の一部と連動した言峰綺礼の心臓の代用品。それの動力が切れ、言峰綺礼も死に絶える、と言いたいわけだ」
「……全てお見通しとはな」
普段通り、持って回った言い方でネットリと回り道した説明をしたかった言峰だが、空気を読まないガンマンと武道によってバッサリと切断されてしまうのであった。
超人相手に回りくどい説明など、させてもらえるわけがないのだ。
「グロロロー。私とて全能ではあっても全知ではない。この場に至るまで怪しいと思えど確定はしなかった。が、ガンマンは全てを見通す目を持っているのでな。さらに言うと私の召喚した彼らは「宝具」であって本物とは違う存在。私の内面から呼び出されたもの……ゆえに此度の聖杯戦争で私が見聴き知ったものの知識を蓄えた状態であったのだ。ならば分かって当然ではないか~」
当然……なのだろうか?
納得いくようで納得の行かない武道の説明。
しかしここで
「な、なるほどー。
ま、そんな所だろう。
「こ、言葉の意味はよくわからんが……とにかくすごい自信だな、アインツベルンの娘よ。くくっ、だがまあいい。ここで重要なのは、だ。凛よ、お前の決意が全くの無駄に終わったということだ。さあ、今の気分はどうかね?」
しかし気を取り直した言峰は凛ちゃんを煽る。
隙あらば他人を煽り嫌な気分にさせる男。それが言峰綺礼なのだ。
「武道、やって」
「グロロー」
ビババ。
しかし
もはやお馴染みとなった武道の零の悲劇。
これにて一件落着なのだから。
「な!? わ、私の心臓が!?」
元の形、人間そのものとして巻き戻されてしまったのである。
武道も衛宮くんや桜ちゃんと失敗を重ねて絶妙な力加減を手に入れたと言うわけである。
完璧超人の行いに失敗はないのだ。
「グロロロー。これで聖杯戦争が終わろうと死ぬこともできん。凛の裁きに従い人の寿命と人の定め、そして人の法の元に晒され罪を償うのだな~」
「残念ね? 綺礼。ねえどんな気持ち? 自分が死ぬことで相手を嫌な気持ちにさせることができると思ってドヤ顔で勝ち逃げを宣言したけど全くの無意味で、どんな気持ち?」
どんな気持ち?
どんな気持ち?
わ~。
と、凛ちゃん、衛宮くん、イリヤの三人は言峰の周りを踊りながら回って煽り倒す。
「ふんっ!」
「ぐえっ!」
ちょっとムカついた言峰は前方を通りかかった衛宮くんの顔面にパンチを打ち込む。
「きゃ~、なんか怒った~」
「逃げろ~、きゃははっ!」
そんなサマを見て凛ちゃんとイリヤはバカにしながらキャッキャと逃げる事で、余計に言峰をムカつかせるのであった。
言峰にかける容赦など必要なしと言うかのように。