ストロング・ザ・Fate "完結"   作:マッキンリー颪

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第15話

「で、凛は聖杯に何を願うのかしら?」

 

 ワカメ少年をいびり倒し間桐臓硯も死んで、桜ちゃんの身柄はこれからどうしたものか……と、思いながらも戦いは終わったし撤収しようというムードが漂っていたその時、イリヤは凛ちゃんに問いかける。

 

「なによ薮から棒に……ていうかあんた大丈夫? 顔色悪いわよ」

 

 イリヤなりに気丈に振舞っているつもりだろうけど、どうにも顔色が悪く見えた凛ちゃんはそっちの方を気にしてしまう。

 

「顔色が悪いのは仕方ないことなの……私は聖杯だからね」

「はぁ? そういや何度かそんな事言ってたっけ。心臓が聖杯とか。意味わかんね」

「……遠坂はそんなことも伝えてないんだ……ふっ、無知なものが完全無欠の勝者になる、っていうのはなんとも皮肉な話だわ。アインツベルンもマキリも……それにきっと先代の遠坂も、外様の魔術師の知らない情報を知り、自分たちに有利なルールを組み立てる事で勝利を目指していたというのに……ね」

 

 あまりにモノを知らない凛ちゃんに対し、イリヤはどこか遠いものを見るような目になってしまう。

 

 冬木の聖杯戦争。その表向きのルールは「七騎のサーヴァントで戦いあい、最後に残った勝者が聖杯を使い願いを叶える」であるが、これは真実ではない。

 

 サーヴァント六騎分の魂、魔力が貯められた聖杯でも「この世界の内側」で叶えたい願いというものなら叶えることは不可能ではない。外様のマスターやサーヴァントが聖杯戦争に勝利した場合は、その六騎分の魂がくべられた聖杯で自分の願いを叶える事ができる。基本的に彼らの欲する聖杯とは、それのことを言う。

 

 対して御三家の最初の望みは根源への到達。この世界からの脱却、と言い換えてもいい。

 しかし世界の「内側」ではなく「外側」への干渉を望むのであれば、サーヴァント六騎でも足りない。

 サーヴァント七騎分の魂を使い、聖杯の力をフルに使いようやく世界に孔を穿つ事ができるようになる。そして世界の外側へ、根源へと至る道が開かれるのだが……そのことを、外様のマスターやサーヴァント自身は知らない。

 ゆえに本来「サーヴァント七騎の魂が入った聖杯」を欲するのなら、他の六騎を倒した後に、マスターが己の令呪を使いサーヴァントを自害させる必要がある。

 

 だけど此度の聖杯戦争において……なぜか参加サーヴァントが八騎いたがゆえ、今、聖杯にはサーヴァント七騎分の魂が充填されている。

 そう、サーヴァントが一騎残った今の時点ですら御三家……アインツベルンの悲願は叶えられそうなのだ。

 もっとも、正当な手段で勝者となった凛を相手に、横から宝を盗むような恥知らずな真似をイリヤはしないけれど。

 が、凛ちゃんが聖杯戦争の真の勝者となり、聖杯の真の使い方をするというのであれば……ひょっとしたら、アインツベルンの1000年とやらも多少は報われた形になるかもしれない。

 そうしんみりと思う情緒もあった。

 

「そんな感じで聖杯を使えば全魔術師の夢、根源へと到れるって寸法なのよ。それを知った凛はどうするの?」

 

 そんなイリヤに対する凛ちゃんの答えやいかに!?

 

「別に聖杯に望む願いなんてないわよ? 自分の力で叶えてこそでしょ、願いなんて」

 

 シンプルだった。

 

「お父さんが遠坂の悲願だから~、って言ってたから聖杯は手に入れたかったのよ。だから聖杯はもらうけど、聖杯の使い道には興味ないわ」

「ええ~……」

 

 これにはイリヤもドン引きである。

 

「そ、そう来たか~……じゃあ、武道は? 武道の願いは何?」

「グロロー。凛にも言ったことだが……私に聖杯に託す望みなどない! ないのだ~! 完璧超人たる我々は望みがあるなら己の力で手に入れるべきなのだ~! だというのに他人の願いを叶えるなどという驕る聖杯があるというのが私には気に食わん! だからこそ、聖杯なんぞというものは完膚なきまでに破壊し二度とこの地で聖杯戦争などできぬようにしてくれるわ~!」

「ア、ハイ」

 

 武道の答えはもっと酷いものだった。

 きっとアハト翁が聞いたら卒倒して死ぬんじゃないだろうか。

 

 とはいえ。

 

「聖杯を壊すって事は……私を殺すって事かしら」

「グロロー。たかが人間一人など相手にするか。そもそも貴様を殺したとて次の聖杯戦争が始まるだけではないか~」

 

 そうである。

 冬木の聖杯戦争とは、5~60年にわたって霊地に貯められた魔力によって行われるのだから、ここでイリヤを殺したところでなんともならないのだ。

 ではどうするというのか?

 

「いくぞ!」

「どこに?」

「大聖杯の元へだ! グロロー!」

 

 言うが早いか、武道はシュバッと飛び立ちガトリングガンの弾丸となる。

 そしていつも通り。

 

「あっ! また!」

「ちょっ、俺もう帰りたいんだけど?」

「シロウ。サクラを手放して落としたら許しませんよ?」

「今回は人口密度高いわね」

「ゴバッゴバッ!」

「モガッモガッ!」

「テハハハ!」

「ハワー」

「ジャババ!」

「ギラギラ!」

「カラカラ!」

「ニャガニャガ」

「グロロー! 発射ー!」

 

 その場にいた全員まとめて発射するのだった。

 

 その先に一体何が待ち受けることになるというのか……?




イリヤはたぶんサーヴァント七騎が入っても、ZEROのアイリスフィールほど不調になることはないかと思いますが
今回の聖杯戦争ではヘラクレスとかギルガメッシュという規格外のサーヴァント込みの七騎だったので、ちょっときつかった……と、いう事にしてます

武道が入ってたら一騎でパンパンになってたのかどうかはわかりませんが

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