ストロング・ザ・Fate "完結"   作:マッキンリー颪

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第11話

「武道以外のサーヴァント六騎、全部倒しちゃったわね」

「ふーん、じゃあ聖杯戦争終わったんだ。で、聖杯ってのは?」

「遠坂に勝ちを拾われるのは業腹だけど、ここまで圧倒されたんじゃアインツベルンも認めない方が逆に家格を疑われるわね。仕方ない、凛を此度の聖杯戦争の勝者と認め」

「まだだ! グロロー!」

 

 七人の英霊が相争い合う聖杯戦争。

 勝者は一人、逆を言えば六人の敗者が出ればそこで終了の争いである。

 そして、凛ちゃんのサーヴァントである、ストロング・ザ・武道は見事に勝利した。

 ゆえに凛ちゃん達はもう打ち上げムードだったのだがそこで待ったがかかる。

 待ったをかけるのは、お馴染みのストロング・ザ・武道。

 ヘラクレスの一撃で陥没した胸や、アサシンとの戦いで切り込まれた手足の傷が痛々しいが、本人至って元気でまだまだあと1~2試合できるぞ、と言わんがばかりの態度。

 

 だけどもう戦いは終わったじゃない?

 凛ちゃんはそう思っているのだが。

 

「グロロー。まだ此度の聖杯戦争は終わっておらぬ~」

「なぁに言ってんのよ。もう六騎サーヴァントは倒したじゃない」

「そうね、私はそれがよくわかるわ」

 

 武道は聖杯戦争が終わっていないという。

 しかし凛ちゃんは倒れたサーヴァントを6人見たのだ。

 イリヤに至っては、自分の体の中にサーヴァントの魂が溜まっている。

 ちなみにキャスターは死なずに人間になっていたものの、どうやら「サーヴァントのキャスター」は死んだらしくその魂はイリヤの中に補充されているらしい。

 零の悲劇で生身の人間になったキャスターはスキップしながらお寺の方に行ったがもはや聖杯戦争とは無関係のはずだ。

 キャスターを今から追いかけて殺すというわけでもないのなら、一体何がどう終わっていないのか?

 

「グロロロー。ランサーのサーヴァント、クー・フーリン。セイバーのサーヴァント、アルトリア・ペンドラゴン。バーサーカーのサーヴァント、ヘラクレス。アーチャーのサーヴァントギルガメッシュ。アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎。キャスターのサーヴァント、メディア。確かに今日これだけのサーヴァントが敗北し聖杯戦争からリタイアした」

「あ、ランサーってクー・フーリンだったんだ」

「へえ、ギルガメッシュはアーチャーか。確かに飛び道具すごかったしな」

 

 改めて聞くだけですごいメンバーである。

 凛ちゃんも、よく一晩でこれだけの面子に勝てたものだ、と思う。

 しかし武道の言いたいことはそうではない。

 

「えーと、武道はライダーの代わりのエクストラクラスのサーヴァントだったのね。本来は強力な宝具が強みと言われるライダーの代わりに、宝具より肉弾戦が強い武道が呼ばれるなんてなかなかヒニクじゃない」

「グロロー! それが違うと言っておるのだ~!」

「ヒッ、す、すみません!」

 

 イリヤは武道がライダーの代わりのサーヴァントと思ってそのことを口に出したら怒って否定する武道。

 怖い。

 しかし武道の真意とは一体……?

 

「グロロー。見るがいい」

 

 言って武道が指をさすのは、衛宮くんの家からここまで飛んでくるのに使った超巨大機関銃……その銃口の先だ。

 

「あ、あの機関銃ついて来てたんだ」

「でかい機関銃が空を飛んでる絵ヅラはシュールね」

「そ、そんな事よりあれを見て!」

 

 機関銃の銃口の先にはゲートが6つ、存在していた。

 そのゲートの上部にはそれぞれ「剣」「槍」「騎」「狂」「魔」「暗」の文字が貼られていた。

 6つのゲートのうちの「騎」のゲートを除いた5つのゲートは木を×字に打ち立てられてしまっているのはどういうことか?

 

「グロロー。あのゲートは戦う超人のもとへと向かうための道しるべだが……倒した超人へのゲートは閉ざされるもの。逆を言えばゲートが閉ざされていないということはその先に倒すべき超人がいるということよ~」

 

 武道の言うことには、まだ「騎」の門に該当するサーヴァントを倒していないという事である。

 

「え? どういうこと? じゃあ今回の聖杯戦争は武道を含めて8人いたの?」

「うーん「弓」の門がないって事はアーチャーが何か怪しい気がするわ」

「どうでも良いけど俺もう完全に部外者だし帰っていいか?」

 

 本来は7人の英霊の争いである聖杯戦争になぜ8人目のサーヴァントが存在するのか?

 その謎は解き明かされるのだろうか?

 

「グロロー! 御託はいい! 敵が残っているのなら我々がやることはひとつしかあるまい! トタァー!」

 

 謎解きなんぞどうでもいい、武道はそう言って超巨大機関銃に飛び乗った。

 

「あ? あれ!?」

「またこれなの!?」

「いつになったら帰れるんだろう」

「グロロー! 発射ー!」

 

 ドン! ドン! ドン! ドン!

 超巨大機関銃から発射された4発の弾丸は全てが「騎」の門の中へと飛び込み消え、ついでに機関銃もそのあとを追うように飛んでいくのであった。

 凛ちゃんたちがこの光景を見ればこう思うだろう。

 

「私たちを発射せずに乗せたまま目的地まで飛んでいけばいいじゃない」

 

 と。

 

 

 

 一方ここは夜中の公園。

 いくら日本の治安が良くても、冬であることとやその他の要因から、あまり一般人の夜間外出は推奨されていないのだけど……夜中に出歩く人が0になることはない。

 彼も夜間外出をしている人間のひとりである。

 

「へへっ、こんな夜中に出歩くなんて危機感ってものがないね」

 

 公園の街路樹の元、学生服の少年がワカメみたいな髪型を揺らしながらヘラヘラと笑う。

 その足元には倒れた成人女性の姿が。

 よく見れば首筋に血が滲んでいるのが見えるだろう。

 彼女が倒れた理由は血を抜かれたからである。

 小さな傷跡の割にかなりの量を出血しているのだが、それはどういう傷によるものかというと。

 

「おいライダー。魔力の補充はどうなんだ」

 

 少年のそばに控える背の高い女性。

 黒いボンテージ風の衣装に目隠し、長い髪、額には何らかの文字か記号に見える赤いラインという、この上なく目立つファッションのサーヴァント、ライダー。

 彼女が血をチューチュー吸ったので、成人女性は倒れているらしいのだ。

 

 彼女こそが冬木の町に残る最後のサーヴァントである。

 そして彼女に命令しているワカメはマスター……ではないのだけど、命令する権利を借りているワカメである。

 

「シンジ。血液からの魔力の補充は効率が悪いとは言いませんが、やはり大っぴらにやるような事ではないと思います」

 

 とはいえ彼女も一応聖杯戦争に参加するサーヴァント。

 神秘の秘匿、騒ぎをおこさないようにと気を遣うくらいの事はするのだが。

 

「うるさいな! 学校の結界を完成させるまでの間、ちょっとでも魔力を補充しておいてやろうって言ってんだよ! お前は感謝してればいいんだ!」

「……魔力の消耗を考えれば現界せずに私の召喚された場所の魔法陣で待機するのが一番効率がいいのではないでしょうか」

「はっ、バカかお前。僕らは聖杯戦争やってんだよ! 勝つためにはアクティブに動いてこそだろ!」

「でしたらもう少し索敵範囲を広めたほうが良いのでは?」

「な、何言ってんだよ。今は……おっ、お前が魔力がなくて弱いって言うんだろ? だから戦うべきじゃないんだよ! 学校の結界で大きく魔力を補充してから戦うんだよ! お前みたいなバカは僕に口答えせず従ってればいいんだよ!」

 

 どうもワカメの方は神秘の秘跡、などについて無頓着なようである。

 それもそのはず、ワカメ少年は魔術師ではないのだから。

 

 ただほんのちょっぴり、魔術と聖杯戦争に関する知識を持っていて、ついでにやや高めの自己顕示欲と劣等感など、様々な要素が合わさって、今の彼が出来上がってしまった。

 

 彼は、超常の力に憧れながらもそれを使う才能がない。しかし、その超常の力を奮う存在に命令する権利が転がり込んできたことで、その力を自分のものだと勘違いし気が大きくなりながらも、所詮は自分が無力であると本能で知っている。

 だからこそ「行動は起こしたいが危険は犯したくない」という考えのもと、夜の街を歩いている無力な一般人を襲いはするがサーヴァントとの接触はしないよう、彼にとっての安全地点である実家からそれほど離れていない場所でサーヴァントを連れ、人目につかないようにその力を奮わせているのだ。

 

「……」

 

 ライダーはそんなワカメみたいな少年を呆れたものだと思いながらも、なるべく表情に出さずに従っている。

 

「はっ、わかったら口答えするなっての。ま、聖杯戦争ってやつも始まってほかのサーヴァントがもうこの街に揃ってるはずなのに全然噂にもならないあたり、みんなビビって隠れてるのかな。情けない話だよ。僕だって目の前にサーヴァントが出てくればひと捻りにしてやろうとは思ってるん」

 

 スドーン!

 

「だぜ……?」

 

 ワカメ少年はライダーが口をつぐんだ事で調子に乗ったのか、随分と気のいいことを言っていたりするが、その直後に背後で何かが落下した音を聞いてしまう。

 

「……へ?」

 

 驚きのあまり声も出ないが、そろーりと後ろを振り向くワカメ。

 彼の背後には。

 

 身長290センチ、体重320キロ、超人強度は9999万パワーの完璧超人、ストロング・ザ・武道が……

 

「呼んだか?」

 

 いた。


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